経鼻粘膜投与型インフルエンザワクチンの臨床応用に関する研究

文献情報

文献番号
200931015A
報告書区分
総括
研究課題名
経鼻粘膜投与型インフルエンザワクチンの臨床応用に関する研究
課題番号
H19-新興・一般-015
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
長谷川 秀樹(国立感染症研究所 インフルエンザウイルス研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 真鍋 貞夫(財団法人阪大微生物研究会観音寺研究所)
  • 喜田 宏(北海道大学大学院獣医学研究科)
  • 田代 眞人(国立感染症研究所 インフルエンザウイルス研究センター)
  • 清野 研一郎(聖マリアンナ医科大学 難病治療研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
90,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
インフルエンザウイルスの感染防御には感染の場である粘膜における分泌型IgA抗体に代表される粘膜免疫が重要な働きをする。臨床応用に向けた前臨床試験のための剤形を決定し前臨床試験を終了する事を目的とした。
研究方法
不活化全粒子ワクチン液に粘膜への付着性を高めるカルボキシビニルポリマー基剤(CVP)を増粘剤として用いた試作ワクチンを作製した。試作ワクチンの抗体誘導効果およびその効果の持続をマウス及びカニクイザルで検討した。また、上記試作ワクチンについて前臨床GLP試験を行った。ラットを用いた単回・反復(経鼻投与及び静脈内投与)毒性試験を行うとともに、経鼻投与による中枢神経系・呼吸器系に対する安全性薬理試験を実施した。さらに、サルを用いた反復経鼻投与毒性試験及び安全性薬理試験(経鼻投与による心血管系および呼吸器系に及ぼす影響)も行った。以上のことから、他のアジュバント候補としてNKT細胞を活性化するalpha-GalCerの検討も行った。またワクチン株の準備にあたりワクチン株に適したウイルス株を迅速に提供するため、リバースジェネティクス(RG)法により、新型ウイルスとPR8株間の遺伝子再集合ウイルスの作出を試みた。ヒトと動物のインフルエンザワクチンの開発に有用なウイルス株を収集するために、動物インフルエンザのグローバルサーベイランスを継続実施し82株のインフルエンザAウイルスを分離同定した。
結果と考察
アジュバントの増量及び付着性が粘膜免疫応答を増強する事が明らかとなった。マウスを用いた経鼻接種試験により抗体応答を確認したところ、Ampligen・CVP基剤併用ワクチン接種群では、Ampligenだけを添加したワクチンの接種群よりも高い免疫応答を得た。各試験で設定した用量は、体重あたりで換算するとヒトで想定される数十倍以上にあたるが、ラット単回静脈内投与試験・用量100μL群(体重あたりで換算するとヒトで想定される経鼻接種量の数百倍に相当する)以外に試作ワクチンに起因する毒性変化は見られず、安全性が高いことが確認された。ワクチン株の迅速な提供の為のリバースジェネティックス(RG)法によりワクチン候補株の作出が可能でありさらに動物インフルエンザウイルスのグローバルサーベイランスにより新たな株を保存できた。
結論
二本鎖RNAを粘膜アジュバントに用いた本試作ワクチンは経鼻投与による有効性・安全性が高く、次世代ワクチン候補として有望なものであると考えられた。

公開日・更新日

公開日
2010-07-14
更新日
-

文献情報

文献番号
200931015B
報告書区分
総合
研究課題名
経鼻粘膜投与型インフルエンザワクチンの臨床応用に関する研究
課題番号
H19-新興・一般-015
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
長谷川 秀樹(国立感染症研究所 インフルエンザウイルス研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 田代眞人(国立感染症研究所インフルエンザウイルス研究センター)
  • 喜田宏(北海道大学大学院獣医学研究科)
  • 真鍋貞夫 (財団法人阪大微生物研究会観音寺研究所)
  • 清野研一郎(聖マリアンナ医科大学難病治療研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
新型インフルエンザにも対応でき更に、変異ウイルスによって毎年繰り返される流行予防に寄与する広い交叉防御能をもつ経鼻粘膜投与型のインフルエンザワクチンの実用化に向け、製剤の決定、投与方法を決定する事を目的とする。
研究方法
二本鎖RNA(dsRNA)をアジュバントとした試作ワクチンを作製し、その有効性と安全性を検討した。有効性の検討では、マウスおよびカニクイザルを用いた経鼻接種試験において、dsRNAをアジュバントとし、粘膜での保持性を高めるカルボキシビニルポリマー(CVP)基剤を添加した試作ワクチンの免疫応答を調べた。安全性については、アジュバント単独、および試作ワクチンの両方での確認を実施した。ラット・ビーグル犬・カニクイザルを被験動物とし、毒性試験、および安全性薬理試験(呼吸・中枢神経などへの影響)を調べた。またワクチン株の準備にあたりワクチン株に適したウイルス株を迅速に提供するため、リバースジェネティクス(RG)法により、新型ウイルスとPR8株間の遺伝子再集合ウイルスの作出を試みた。ヒトと動物のインフルエンザワクチンの開発に有用なウイルス株を収集するために、動物インフルエンザのグローバルサーベイランスを継続実施し82株のインフルエンザAウイルスを分離同定した。
結果と考察
マウスでの試験では全粒子不活化ワクチン、二本鎖RNAアジュバント、更に基材としてカルボキシビニルポリマー(CVP)を添加したワクチンにおいて注射型ワクチンでは得られない鼻粘膜での強力な局所免疫応答の獲得とともに、注射型ワクチンと同等以上の血清中の液性免疫応答の獲得が確認された。カニクイザルを用いた試験では全粒子不活化ワクチンに20倍料の二本鎖RNAアジュバントを加えた試作ワクチンが最も粘膜、血中ともに免疫誘導において優れていた。また本法により得られた免疫は1年以上持続する事が示された。GLP施設における毒性験及び安全性薬理試験において、ヒトへの予定投与量の100倍を超えるまで投与しても毒性は確認されなかった。インフルエンザウイルスの系統保存については野生ウイルス株を日本、モンゴル、ベトナム、香港において採取した渡りガモ、ハクチョウおよび家禽の糞便およびぬぐい液からウイルス分離を試みた。分離されたウイルスは、そのHAおよびNAの亜型を同定し、系統保存ウイルス株に追加した。
結論
今回評価検討した試作経鼻粘膜投与型インフルエンザワクチンは、有効性・安全性の高い、次世代ワクチン候補として有望なものであると考えられた。

公開日・更新日

公開日
2010-07-14
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200931015C

成果

専門的・学術的観点からの成果
インフルエンザウイルスの感染自身を防御し更に変異ウイルスに対しても効果が高い次世代のワクチンとしての二本鎖RNAアジュバントを用いた経鼻粘膜投与型インフルエンザワクチンの有効性をマウス、カニクイザルを用いて証明した。高病原性鳥インフルエンザH5N1の経鼻ワクチンがワクチン株と相同ウイルスに対しては完全な感染阻止を示し、cladeの異なるH5N1ウイルスに対しても交叉防御効果を示した。また季節性インフルエンザワクチンの経鼻接種により高病原性鳥インフルエンザH5N1ウイルスによる死亡率を低下させた。
臨床的観点からの成果
臨床治験に入るためのGLP施設での毒性試験及び安全性試験を修了し安全性に問題が無い事が確認された。ラット・ビーグル犬・カニクイザルを被験動物とし、毒性試験、および安全性薬理試験(呼吸・中枢神経などへの影響)を調べたが、ヒトへの予定投与量の100倍を超えるまで投与しても毒性は確認されなかった。
ガイドライン等の開発
169-衆-厚生労働委員会-10号 平成20年04月23日
その他行政的観点からの成果
平成20年感染症の予防及び感染症の患者に対する法律及び検疫法の一部改正において、
本研究の研究成果に基づいて
附帯決議で国が講ずるべき事項として 三、新型インフルエンザの感染予防対策の重要性にかんがみ、ワクチンの経鼻粘膜投与技術及び細胞培養技術の開発等を推進すること。
が加えられた。
その他のインパクト
平成19年6月30日読売新聞夕刊「インフルエンザ 注射より効く「鼻」ワクチン」平成20年1月13日読売新聞朝刊「感染自体防ぐ粘膜ワクチン」平成20年3月12日朝日新聞朝刊1面「新型インフルエンザ鼻に一吹き新ワクチン 厚労省研究班動物で立証 即応型粘膜に免疫」平成20年3月16日日本経済新聞朝刊「厚労省「新型」対応ワクチン期待平成20年10月20日日本経済新聞朝刊「新型インフルワクチン」平成22年2月23日日経産業新聞 「未知のインフルにも備え」平成20年12月NHK教育テレビ サイエンスゼロ

発表件数

原著論文(和文)
9件
原著論文(英文等)
57件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
62件
学会発表(国際学会等)
6件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計2件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Hasegawa H, Ichinohe T, Tamura S. et.al.
Development of a mucosal vaccine for influenza viruses: preparation for a potential influenza pandemic.
Expert Review of Vaccines , 6 (2) , 193-201  (2007)
原著論文2
Ichinohe T, Nagata N, Strong P. et.al.
Prophylactic effects of chitin microparticles (CMP) on highly pathogenic H5N1 influenza virus
J Med Virol. , 79 (6) , 811-819  (2007)
原著論文3
Ichinohe T, Kawaguchi A, Tamura S. et.al.
Intranasal immunization with H5N1 vaccine plus Poly I:Poly C12U, a Toll-like receptor agonist, protects mice against homologous and heterologous virus challenge.
Microbes and Infection , 9 (11) , 1333-1340  (2007)
原著論文4
Ichinohe T, Tamura S, Kawaguchi A. et.al.
Cross-protection against H5N1 influenza virus infection afforded by intranasal administration of seasonal trivalent inactivated influenza vaccine.
J Infect Dis. , 196 (9) , 1313-1320  (2007)
原著論文5
Kamijuku H, Nagata Y, Jiang X. et.al.
Mechanism of NKT cell activation by intranasal coadministration of alpha-galactosylceramide, which can induce cross-protection against influenza viruses.
Mucosal Immunol , 1 (3) , 208-218  (2008)
原著論文6
Ichinohe T, Iwasaki A, Hasegawa H.
Innate sensors of influenza virus: clues to developing better intranasal vaccines.
Expert Rev Vaccines. , 7 (9) , 1435-1445  (2008)
原著論文7
Hasegawa H, Ichinohe T, Ainai A. et.al.
Development of an inactivated mucosal vaccine for H5N1 influenza virus.
Therapeutic and Clinical Risk Management , 5 (1) , 125-132  (2009)
原著論文8
Takahashi Y, Hasegawa H, Hara Y et.al.
Protective immunity afforded by H5N1 (NIBRG-14)-inactivated vaccine requires both antibodies against hemagglutinin and neuraminidase in mice.
J Infect Dis , 199 (11) , 1629-1637  (2009)
原著論文9
Ichinohe T, Ainai A, Tashiro M. et.al.
PolyI:polyC12U adjuvant-combined intranasal vaccine protects mice against highly pathogenic H5N1 influenza virus variants.
Vaccine , 27 (45) , 6276-6279  (2009)
原著論文10
Ichinohe T, Ainai A , Nakamura T. et.al.
Induction of cross-protective immunity against influenza A virus H5N1 by intranasal vaccine with extracts of mushroom mycelia.
J Med Virol. , 82 (1) , 128-137  (2010)
原著論文11
Ainai A, Ichinohe T, Tamura S. et.al
Zymosan enhances the mucosal adjuvant activity of Poly(I:C) in a nasal influenza vaccine.
J Med Virol. , 82 (3) , 476-484  (2010)

公開日・更新日

公開日
2014-05-26
更新日
2016-06-27