国内で発生のないベクター媒介性感染症の疫学診断法等の研究

文献情報

文献番号
200931012A
報告書区分
総括
研究課題名
国内で発生のないベクター媒介性感染症の疫学診断法等の研究
課題番号
H19-新興・一般-012
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
苅和 宏明(北海道大学 大学院獣医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 高島 郁夫(北海道大学 大学院獣医学研究科)
  • 有川 二郎(北海道大学 医学研究科)
  • 福士 秀人(岐阜大学 応用生物科学部)
  • 丸山 総一(日本大学 生物資源科学部)
  • 林谷 秀樹(東京農工大学 共生科学技術研究院)
  • 西條 政幸(国立感染症研究所 ウイルス第一部)
  • 永田 典代(国立感染症研究所 感染病理部)
  • 早坂 大輔(長崎大学 熱帯医学研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
23,133,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ダニ媒介性脳炎はロシア、東欧各国を中心に年間8,000名以上の患者が報告されている。ハンタウイルス感染症はこれまで中国、ロシア、ヨーロッパなどで多く報告され、年間の患者発生数が約10万人ほどとされているが、世界的に調査が不十分な地域が多く存在する。その他にも、国内外においてQ熱、バルトネラ感染症、エルシニア感染症、サルモネラ感染症、およびサル痘の患者が多数報告されているにもかかわらず、げっ歯類や野生動物における感染状況は不明な点が多い。本研究で取り上げる上記の感染症はいずれもげっ歯類媒介性の重篤な人獣共通感染症であり、国内外における汚染地やヒトにおける感染状況に関する情報は不足している。そこで本研究ではこれらの感染症について、まず簡便で信頼性の高い診断法を開発する。続いて開発された診断法を用いて国内外の人獣共通感染症の感染状況を明らかにするとともに、輸入げっ歯類の検査への応用を検討する。
研究方法
ダニ媒介性脳炎(Tick-born encephalitis; TBE)ウイルスの存続様式を調べるため、道南地域で得られた野鼠の臓器からのウイルス分離を試みた。ハンタウイルス肺症候群(HPS)は南北アメリカ大陸で流行しており、様々なハンタウイルスがHPSの原因ウイルスとなっている。そこで、アメリカ大陸由来の各種ハンタウイルスのヌクレオキャプシドをバキュロウイルスの系で発現させ、HPS患者血清を用いて鑑別が可能かどうか検討した。エルシニアのYOPとLPSを抗原にしたELISA法を開発し、エルシニア症が疑われるヒト血清57検体を本ELISAに供した。
結果と考察
北海道の北斗町上磯地区のアカネズミからTBEウイルスが分離され、1995年の上磯分離株であるOshima株と非常に近縁である事が示された。南北アメリカ大陸に存在する多種類のハンタウイルスの感染ウイルス型の鑑別が可能な血清診断法が開発された。エルシニア症が疑われるヒト血清57検のうち29検体(50.9%)がエルシニア症陽性と判定された。
結論
北海道において10年以上にわたりダニ媒介性脳炎ウイルスの流行巣が維持されていることが判明した。ハンタウイルス肺症候群の鑑別診断法が開発された。エルシニア感染症の診断法としてYOPとLPSを抗原としたELISAが非常に有用であることが明らかになった。

公開日・更新日

公開日
2010-07-14
更新日
-

文献情報

文献番号
200931012B
報告書区分
総合
研究課題名
国内で発生のないベクター媒介性感染症の疫学診断法等の研究
課題番号
H19-新興・一般-012
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
苅和 宏明(北海道大学 大学院獣医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 高島 郁夫(北海道大学 大学院獣医学研究科)
  • 有川 二郎(北海道大学 大学院医学研究科)
  • 福士 秀人(岐阜大学 応用生物科学部)
  • 丸山 総一(日本大学 生物資源科学部)
  • 林谷 秀樹(東京農工大学 共生科学技術研究院)
  • 西條 政幸(国立感染症研究所 ウイルス第一部)
  • 永田 典代(国立感染症研究所 感染病理部)
  • 早坂 大輔(長崎大学 熱帯医学研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
げっ歯類をベクターまたは病原巣動物とする人獣共通感染症には危険度の高いものが多数含まれる。ダニ媒介性脳炎、ハンタウイルス感染症、Q熱、バルトネラ感染症、エルシニア感染症、サルモネラ感染症、およびサル痘は、いずれもげっ歯類媒介性の重篤な人獣共通感染症であり、国内外における汚染地やヒトにおける感染状況に関する情報は不足している。さらに、輸入げっ歯類を対象とした検査体制も未整備である。そこで本研究ではこれらの感染症について、簡便で信頼性の高い診断法の開発を試みた。
研究方法
ダニ媒介性脳炎、ハンタウイルス感染症、Q熱、バルトネラ感染症、エルシニア感染症、サルモネラ感染症、およびサル痘について、抗体検出法、抗原検出法、および遺伝子検出法の開発を行った。
結果と考察
 各種の人獣共通感染症についてELISAやPCR、RT-PCR、Real-time PCR、およびLAMPなどの診断法が新たに開発された。これにより、これらの人獣共通感染症の調査や診断が容易になり、様々な疫学的情報が得られた。すなわち、北海道において10年以上にわたりダニ媒介性脳炎ウイルスの流行巣が維持されていた。新たに島根県にもダニ媒介性脳炎ウイルスの流行巣が存在することが明らかになった。ハンタウイルス感染症では各種のハンタウイルス型の感染に対する血清学的な鑑別診断法が開発されたばかりでなく、げっ歯類集団でのハンタウイルスの感染様式の一端が明らかになった。Q熱の病原体であるCoxiella burnetiiはわが国の野生げっ歯類に高率に感染していた。バルトネラ属菌はわが国の野生げっ歯類やニホンジカなどの野生動物に高率に感染していた。サルモネラ感染症とエルシニア感染症に対してMultiplex PCRによる簡便な菌の同定法が確立された。エルシニア感染症の擬似患者の血清を、新規に開発されたELISAに供したところ、これらの患者の約半数が血清学的にエルシニア感染症と診断された。サル痘に対するLAMP法が開発され、本症の簡便な遺伝子診断が可能になった。サル痘、ダニ媒介性脳炎、およびハンタウイルス感染症で、それぞれカニクイザル、マウス、シリアンハムスターを用いた感染モデルが確立され、体内でのウイルスの増殖様式や、病態が明らかになった。
結論
 各種の人獣共通感染症に対して様々な診断法が開発され、診断や疫学情報の取得が容易になった。

公開日・更新日

公開日
2010-07-14
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200931012C

成果

専門的・学術的観点からの成果
 げっ歯類をベクターまたは病原巣動物とする人獣共通感染症には危険度の高いものが多数含まれる。ダニ媒介性脳炎、ハンタウイルス感染症、Q熱、バルトネラ感染症、エルシニア感染症、サルモネラ感染症、およびサル痘は、いずれもげっ歯類媒介性の重篤な人獣共通感染症であり、国内外における汚染地やヒトにおける感染状況に関する情報は不足している。これらの感染症に対して簡便で高感度な診断法を開発して疫学調査を行い、国内における流行状況を明らかにした。
臨床的観点からの成果
 げっ歯類をベクターまたは病原巣動物とする人獣共通感染症は危険度が高いものの、発生が稀なために診断法が確立されていないものが多い。本研究では各種人獣共通感染症に対して診断法が開発されたが、中でもエルシニア感染症に対する血清診断法が臨床的な診断に有効であることが判明した。すなわち、エルシニア感染症の擬似患者からの57例の血清について、エルシニア属菌のYOPを抗原としたELISAに供したところ、約半数の29例から抗エルシニア抗体が検出され、血清学的にエルシニア感染症であるとの診断が可能であった。
ガイドライン等の開発
特になし
その他行政的観点からの成果
 ダニ媒介性脳炎の流行に関して健康危険情報通報を提出した。ダニ媒介性脳炎は致死率が30%にもおよぶ重篤な人の脳炎である。1993年に北海道の上磯町(現北斗市上磯地区)でわが国初のダニ媒介性脳炎患者の発生後、1995年に患者発生地の犬の血液からダニ媒介性脳炎ウイルスが分離された。2008年にも同地区の野生げっ歯類からウイルスが分離されたことから、北斗市上磯地区では10年以上にわたって危険度の高いダニ媒介性脳炎ウイルスの流行巣が維持されていることが明らかになった。
その他のインパクト
特になし

発表件数

原著論文(和文)
2件
原著論文(英文等)
65件
その他論文(和文)
13件
その他論文(英文等)
2件
学会発表(国内学会)
107件
学会発表(国際学会等)
23件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
ダニ媒介性脳炎の流行に関して健康危険情報通報を提出した(ダニ媒介性脳炎ウイルスが北海道の北斗市で少なくとも10年以上自然界に保持されていた)。
その他成果(普及・啓発活動)
2件
ハンタウイルス感染症の新規診断法の普及活動(小樽検疫所と富山衛生研究所への技術指導)

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Abu Daud, NH, Kariwa H, Tanikawa Y, et al.
Mode of Infection of Hokkaido Virus (Genus Hantavirus) among Grey Red-Backed Voles, Myodes rufocanus, in Hokkaido, Japan.
Microbiology and Immunology , 51 (11) , 1081-1090  (2007)
原著論文2
Kariwa H, Lokugamage K, Lokugamage N, et al.
A comparative epidemiological study of hantavirus infection in Japan and Far East Russia.
Japanese Journal of Veterinary Research , 54 (4) , 145-161  (2007)
原著論文3
Saijo M, Georges-Courbot MC, Marianneau P, et al.
Recombinant nucleoprotein-based diagnostic systems for Lassa fever: development of diagnostic assays, which do not require infectious virus for antibody and antigen detection.
Clinical and Vaccine Immunology , 14 (9) , 1182-1189  (2007)
原著論文4
Yoshii K, Goto A, Kawakami K, et al.
Construction and application of chimeric virus-like particles of tick-borne encephalitis virus and mosquito-borne Japanese encephalitis virus.
Journal of General Virology , 89 (1) , 200-211  (2008)
原著論文5
Abu Daud NH, Kariwa H, Tkachenko E, et al.
Genetic and antigenic analyses of a Puumala virus isolate as a potential vaccine strain.
Japanese Journal of Veterinary Research , 56 (3) , 151-165  (2008)
原著論文6
Saijo M, Ami Y, Suzaki Y, et al.
Diagnosis and assessment of monkeypox virus (MPXV) infection by quantitative PCR assay: differentiation of Congo Basin and West African MPXV strains.
Japanese Journal of Infectious Diseases , 61 (2) , 140-142  (2008)
原著論文7
Watanabe S, Mizutani T, Sakai K, et al.
Ligation-madiated amplification for effective rapid determination of viral RNA sequences (RDV).
Journal of Clinical Virology , 43 (1) , 56-59  (2008)
原著論文8
Yoshii K, Ikawa A, Chiba Y, et al.
Establishment of a neutralization test involving reporter gene-expressing virus-like particles of tick-borne encephalitis virus.
Journal of Virological Methods , 161 (1) , 173-176  (2009)
原著論文9
Kariwa H, Tkachenko EA, Morozov VG, et al.
Epidemiological study of hantavirus infection in the Samara Region of European Russia.
Journal of Veterinary Medical Science , 71 (12) , 1569-1578  (2009)
原著論文10
Inoue K, Kabeya H, Kosoy MY, et al.
Evolutional and geographical relationships of Bartonella grahamii isolates from wild rodents by multi-locus sequencing analysis.
Microbial Ecology , 57 (3) , 534-541  (2009)
原著論文11
Lee K, Iwata T, Shimizu M, et al.
A novel multiplex PCR assay for Salmonella subspecies identification.
Journal of Applied Microbiology , 107 (3) , 805-811  (2009)
原著論文12
Saijo M, Ami Y, Suzaki Y, et al.
Virulence and pathophysiology of the Congo Basin and West African strains of monkeypox virus in nonhuman primates.
Journal of General Virology , 90 (9) , 2266-2271  (2009)
原著論文13
Nakauchi M, Fukushi S, Saijo M, et al.
Characterization of monoclonal antibodies to Junin virus nucleocapsid protein and application to the diagnosis of hemorrhagic fever caused by South American arenaviruses.
Clinical and Vaccine Immunology , 16 (8) , 1132-1138  (2009)
原著論文14
Iizuka I, Saijo M, Shiota T, et al.
Loop-mediated isothermal amplification- based diagnostic assay for monkeypox virus infections.
Journal of Medical Virology , 81 (6) , 1102-1108  (2009)
原著論文15
Hayasaka D, Nagata N, Fujii Y, et al.
Mortality following peripheral infection with tick-borne encephalitis virus results from a combination of central nervous system pathology, systemic inflammatory and stress responses.
Virology , 390 (1) , 139-150  (2009)

公開日・更新日

公開日
2016-06-27
更新日
-