文献情報
文献番号
202306016A
報告書区分
総括
研究課題名
医療機関・薬局の低密度エリアにおける医薬品供給の実態と流通コスト分析
研究課題名(英字)
-
課題番号
23CA2016
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
東 伸一(青山学院大学 経営学部)
研究分担者(所属機関)
- 矢澤 憲一(青山学院大学 経営学部)
- 大崎 恒次(専修大学 商学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生労働科学特別研究
研究開始年度
令和5(2023)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究費
3,149,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究は、医薬品卸の支店単位で2次医療圏を前提に展開される地域配送活動にかかわる以下の事項について明らかにすることを研究目的としている。
(1) 2次医療圏の規模と配送効率の関係は何か。
(2) 2次医療圏の地理的密度と配送効率の関係は何か。
(3) 医薬品卸の地域配送活動に負荷を与えている要因は何か。
(4) 離島や遠隔地における地域配送活動に負荷を与える要因は何か。
(1) 2次医療圏の規模と配送効率の関係は何か。
(2) 2次医療圏の地理的密度と配送効率の関係は何か。
(3) 医薬品卸の地域配送活動に負荷を与えている要因は何か。
(4) 離島や遠隔地における地域配送活動に負荷を与える要因は何か。
研究方法
本研究は、第I部と第II部により構成される。第I部は、本研究課題の背景となる医療用医薬品、とりわけ安定供給が不可欠とされる3つのカテゴリにおいて流通段階で不採算の発生する品目とそのカテゴリに占める比率や当該カテゴリの流通不採算の水準についての分析をおこなう。これをうけて第II部では、まず日常の医療活動に不可欠な医薬品に関する医薬品卸の地域配送活動において、2次医療圏レベルで流通コスト水準にバラツキが生じる要因についてメッシュ統計を用いた空間分析をおこなう。これにより、2次医療圏間の配送条件の相違や2次医療圏間の階層関係についての示唆を得る。次に、研究対象として設定した11道県における主要医薬品卸の支店(営業所)を単位とする地域配送活動の実態把握と流通コスト分析のためのサーベイを実施し、多変量解析による分析をおこなう。これらの結果を受け、定量的に把握、推定することの難しい各地の2次医療圏(群)に固有の地理的、社会的条件や自然環境などが医薬品卸の地域活動に与える多様な要因群を把握するための現地調査およびインタビュー調査をおこなう。
結果と考察
第I部の医薬品カテゴリ別流通コスト分析では、基礎的医薬品、安定確保医薬品カテゴリAおよびBの3カテゴリあわせて2,817品目について、主要医薬品卸7社に対するサーベイを実施した。これらの回答から得たデータによると、3カテゴリすべてで医薬品卸の配送コストが販売価格を上回る不採算状況に陥っていることが明らかになった。品目数ベースでも販売額ベースでも不採算品目の構成が大きくなっている。第II部のメッシュデータを用いた空間分析では、研究対象とする11都道府県を3次メッシュで分割し、病院・診療所や調剤薬局、中核病院といった医療機関、さらにはスーパーやコンビニ、銀行、郵便局といった社会インフラへの住民アクセスの水準について測定をおこなった。同一道県内でもこれらのアクセスが極めて良好な中核2次医療圏が存在する一方、多くの周縁2次医療圏ではその水準が大幅に低位にある場合が顕著であることが明らかになった。つまり、2次医療圏には階層性が存在し、下位の2次医療圏は地理的・社会的条件や自然環境などの諸条件の組み合わせにより、医薬品卸の地域配送活動に非効率が生じるとともに有効性担保の困難性が示唆される。これに続き実施した医薬品卸の支店単位での地域配送活動と流通コストの分析のための調査では、医薬品卸の支店(または営業所)の1取引先あたり総配送回数と総配送距離、そして総配送時間のそれぞれは、1取引先あたり総配送費用に有意な正の影響を与えることが明らかになった。さらに、前者3変数を独立変数とし1取引先あたり総配送費用を従属変数としたモデルにおいては、総配送費用に対して総配送時間が有意な正の影響を与えることがわかった。配送時間が配送費用に影響を与えるということは、高流通コストの支店が奉仕する2次医療圏の取引先事業所が地理的に小規模分散的であり、それらへの配送経路も複雑かつ多ルートとなり、その結果、多くのマンパワーを投入し、頻回の配送を非効率なルートで繰り返すことで配送時間が増加し、その結果、人件費を中心とする配送コストの負担が大きくなるということである。これら一連の分析結果をうけ、離島や島嶼部、中山間部、遠隔地、厳しい気候条件などを特徴とする道県を研究対象の11道県の中から抽出して実施した地域調査およびインタビュー調査では、それら条件に起因する種々な要因が医療用医薬品の経路末端での配送活動に困難性をもたらすとともに、コスト増が生じていることが実例を通して明らかにされた。また、そうした地域において医薬品卸の活動現場で種々な創意工夫がおこなわれている点も顕著である。
結論
安定供給が不可欠な医薬品において流通不採算の発生が深刻化し、一部の品目で出荷調整が長期化する中、本研究は、まずそうした流通不採算の実態を数量的に把握し、その深刻度を明らかにした。そして、卸売段階での不採算を生じさせるメカニズムは2次医療圏間の格差を内包した階層構造から読み解くことができ、周縁的2次医療圏においては地域配送活動の負荷を発生させる種々な地理的・社会的、自然環境的条件が作用していることが説明された。
公開日・更新日
公開日
2025-01-14
更新日
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