HIFU施術における人体への侵襲性の評価研究

文献情報

文献番号
202306015A
報告書区分
総括
研究課題名
HIFU施術における人体への侵襲性の評価研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
23CA2015
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
河野 太郎(東海大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生労働科学特別研究
研究開始年度
令和5(2023)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究費
4,440,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
HIFUとは、高密度焦点式超音波(High Intensity Focused Ultrasound)の略で、集束超音波の熱エネルギーにより体内の組織を高温に加熱するもので、焼灼・凝固の侵襲作用により前立腺がん治療等に用いられる技術である。美容で用いられるものはその治療の技術を転用したもので、表皮部分に熱傷を起こさずに、任意の皮下組織に熱を与えることができるため、主にシワ・たるみ治療や痩身目的に用いられている。このようなHIFU施術は、医療機関である美容クリニック、エステティシャンが施術するエステサロンのほか、店舗に置かれたHIFU機器を利用者自らが扱うセルフエステ等で行われている。HIFU施術に関しては、消費者庁の事故情報データバンクに、2015年に初めて事故が報告されて以降、増加傾向にある。2023年3月には、消費者安全調査委員会の調査結果により、エステサロン等によるHIFU施術の実態や事故情報が報告されるとともに、実験調査ではHIFU施術による人体への影響が一定程度明らかになった。その上で、消費者安全調査委員会は、厚生労働大臣に対し、HIFU施術には医行為に該当するものがあると考えられるため、医師法上の取扱いを整理するよう意見具申を行った。本研究は、文献的検討、HIFU機器を用いた実験、医療機関における有害事象に関するアンケート調査を行うことで、HIFU施術のうち、医行為に該当し得る範囲について具体的な事例を基に明らかとすることを目的とした。
研究方法
本研究班は、①文献分析班、②実験班、③アンケート班の3班で検討を行った。
① 文献分析班は、PubMedを利用し、ヒトに対して医療機関でHIFU施術を行なった研究を対象に関連文献を検索した。
② 実験班は美容用HIFU装置を用いて超音波照射することにより生ずる生体中の温度分布と熱凝固を一部実測に基づく数値計算により求めて,有害事象の可能性について定量的に検討を行った。
③ アンケート班は、HIFU機器を使用した医療機関に対して各HIFU治療機供給元より統一されたレター『HIFU使用における合併症に関するアンケートへのご協力のお願い』を用いたアンケート調査を行った。
結果と考察
HIFU施術における合併症に関するアンケート調査 合計481/1791件(回収率26.8%)の回答があり、137症例の有害事象が報告された。137症例の中には複数の有害事象があり、有害事象の件数は150件であった。熱傷57件(36%)、熱傷以外の皮膚の有害事象49件(31%)、神経障害49件(31%)、その他4件(2%)であった。
神経障害は知覚障害が29件(59%) 、運動障害が20件(41%) であった。知覚障害の内訳は、三叉神経2枝領域(頬部・上口唇)が14件(48%)、三叉神経1枝領域(前額部・頭部)が10件(35%)、大耳介神経領域(耳介後部)が3件(10%)、三叉神経3枝領域(下顎部)が2件(7%)であった。運動障害は、顔面神経下顎縁枝が29件(68%) 顔面神経頬筋枝が19件(30%) であり、顔面神経側頭枝、顔面神経頬骨枝、顔面神経頸枝は認めなかった。その他の有害事象は、飛蚊症2件、白内障2件、顔面痙攀1件、唾液腺嚢胞1件であった。有害事象を認めた、トランスデューサーの深度は、4.5mmが76件(48%)と最も多かった。
有害事象を起こす原因として、3つのことが考えられる。ひとつは、ハイリスク部位への照射である。神経損傷や眼障害のように解剖学的に損傷リスクが高い部位へのHIFU照射は極力避けるのが望ましい。二つ目は、手技的な問題である、トランスデューサーが、均一に当たらずに、皮膚の浅層に照射すると熱傷、遷延性発赤、膨疹、色素沈着等が生じやすい。三つ目は骨の反射である。集束超音波の特徴として、伝導路に骨や空気が存在する場合に反射波や散乱波が生じることが知られており、皮下組織と骨、皮下組織と空気など異なる組織の境界面では、反射・屈折による焦点のずれが生じる。骨の温度上昇に伴う周辺組織への傷害も併せて考慮する必要がある。
以上より、HIFU施術は医療機関であっても、ある一定の頻度で、熱傷、皮疹、神経障害等の幅広い合併症が生じる危険性があることが判明した。 上記で報告された合併症は、医師の医学的判断および技術によって低減可能な危険性である。
結論
まず、HIFUによる若返り治療や痩身治療は美容外科で従来から施術されてきたものであるため、HIFU施術自体は医療関連性は高いものであると考えられる。
また、報告された合併症は、医師の医学的判断および技術によって低減可能な危険性であるため、「危険性の医療関連性」も肯定されると考えられる。
したがって、HIFU施術については医行為該当性が肯定できると考えられる。

公開日・更新日

公開日
2024-06-07
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2024-06-07
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202306015C

成果

専門的・学術的観点からの成果
HIFUを合併症を分析して、原因を解析した。現在まで合併症の報告は症例報告がほとんどで、その原因解析は不十分であったが、今回、その理由と対策が判明した。成果は日本形成外科学会総会で報告され国内外から大きな反響があった。
臨床的観点からの成果
HIFUの合併症の原因が、設定によるものと解剖学的特徴によるものであることが判明し、合併症の回避が可能となった。
ガイドライン等の開発
美容医療向けのHIFUのガイドラインの開発が今後の課題である。
その他行政的観点からの成果
報告された合併症は、医師の医学的判断および技術によって低減可能な危険性であり、「危険性の医療関連性」が肯定されると考えられる。また、若返り治療や痩身治療は美容外科で従来から施術されてきた「行為自体の医療関連性」は高いため、HIFU施術には医療行為該当性が肯定できると考えられる。
その他のインパクト
HIFU治療は医療機関以外でも施行されているのが現状である。HIFU治療は、「危険性の医療関連性」が肯定され「行為自体の医療関連性」は高く、エステ用のHIFUや家庭用のHIFUのあり方にも影響が大きいと考えられる。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
2件
2024年日本形成外科学会総会 特別講演 2024年日本美容外科学会総会 特別講演
学会発表(国際学会等)
1件
The 43rd ISDS Annual Meeting Kaohsiung 2024
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2025-05-23
更新日
2025-06-04

収支報告書

文献番号
202306015Z