長寿者の壮年期生活習慣と健康に関するコホート研究

文献情報

文献番号
199700643A
報告書区分
総括
研究課題名
長寿者の壮年期生活習慣と健康に関するコホート研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
渡邊 昌(東京農業大学)
研究分担者(所属機関)
  • 水野正一(東京都老人研究所)
  • 小島光洋(宮城県栗原保健所長)
  • 田辺穣(愛知県衛生部長)
  • 吉田紀子(鹿児島県保健福祉部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高齢者の健康状態が長年の生活習慣の蓄積によることは当たり前のことと想像されているが、実際に地域住民を長期に追跡調査した研究は少ない。80歳代、90歳代の高齢者が増えており、この年齢層の実態把握とともに、同一人の40歳、50歳代頃の生活習慣と 比較できれば疾病の原因あるいは健康な生活につながる要因を解明できる可能性がある。本研究は鹿児島県、愛知県、宮城県において30年前に設立した6府県コホート対象者の追跡調査をし、転出、死亡を確認し、生存者を対象に現状を再調査することを目的とする。生存者は70歳-89歳の高齢者になっているので、介護を必要とするものについては介護者への質問票によって介護の状態なども把握する。本研究で得られる健康な長寿にいたる要因はそのまま健康教育等に実施しうるもので、将来の高齢者の医療費軽減などに多大の成果をもたらすと思われ、衛生行政上の基礎資料となる。
研究方法
愛知県、宮城県の3県のコホート地区で作成した1995年の生存者名簿を元に各地域1000人程度を選択し、再調査を行う。3年間で合計9000人を目指す。対象は70歳-90歳の高齢者となった1965年にコホート対象者となったもので、過去と比較検討できるような質問票による調査を行う。検診可能者については採血により種々の生体指標を参考にする。各地域における調査は保健婦もしくは介護者に依頼する が、本人への調査とともに介護状態等についての質問票を配布し、対象者の被介護状態について調査する。調査票にたいする回答についてvalidity checkを行う。
また、1965年に6府県で行われた26万人のprospective cohort studyのデータベースを再整理し、広く疫学調査に供しうるものにし、従来のデータの信頼性について再チェックを行った。
結果と考察
30年前に住民ベースで調査された6府県コホートの再調査を行い、コホート対象者の 現状を追跡調査し、愛知県では全地域の調査を終え、7375名の死亡を確認した。愛知県のみでも30年間の死亡者数は1万7千名にのぼり、10年ずつの3期間について別途にリスクを計算できることになった。鹿児島県でも今年度中に死因追跡調査を終了する予定で市町村が取り組んでいる。宮城県は栗原保健所管内の死亡調査、生存確認調査がほぼ終了した。
生存者についての再調査票を検討して厚生省自立度チェックなども含む調査票を作成した。今回の調査票は生活習慣の変化をみるために、あえて初回と同じ調査票にし、これに加えて健康調査票(2)としてactivities of daily life (ADL), 日常生活自立度調査が追加され、A3表裏のサイズにした。表紙部分でinformed consentをとるようになっている。これにより高齢者のLife style、自覚症状、既往歴等について追加調査する体制が整った。
愛知県下2保健所管内で4町12地区からランダムに1020名を抽出し、902件を回収、823名の有効回答を得た。独居30人、同居417人、入院12人、老人ホーム2人、特養ホーム5人である。生活自立度は自立481人、準寝たきり45人、寝たきりIが13人、寝たきりIIが21人であった。既往歴回答者は399人であったが、既往歴としては高血圧が263人(32%)であった。循環器疾患は狭心症43人、心筋梗塞22人、脳梗塞38人、脳出血16人、糖尿病53人、痛風17人で、がんは39人であった。喫煙率はきわめて低く、すわない633人に対して常習喫煙者は106人、以前喫煙者は66名であった。酒類も常習飲酒者99名、時々飲酒者52名に対し、飲まないと答えた者は597名であった。野菜は毎日たべるものが多く、肉、魚もほどほどであったが、牛乳に関しては毎日飲むものと、飲まないものと両極端にわかれた。現在、過去の習慣との関係を詳細に分析中である。
データベースの整備により、2,3の疫学研究をおこなうことができた。水野らは、六府県コホートのデータを用いて、肺癌の死亡リスクと禁煙の関係を解析した。その結果、60歳以上で禁煙しても肺癌のリスクは下がらないことが明らかとなった。また、日本茶はがんに予防的に働くという実験データがあり、一方、多くのケース・コントロール研究では熱いお茶や食べ物は食道がんのリスクと報告されてる。喫煙と飲酒を考慮して熱いお茶の影響を調べると、熱いお茶の影響は、喫煙、飲酒に比べると相対リスクは低いという結果が得られた。
わが国では住民単位での大規模な前向き研究は1965年にスタートした6府県コホート研究を嚆矢とする。現在、10万人規模の前向き研究として厚生省多目的コホート研究、文部省コホート研究があるが、いずれもまだ7-8年の経過観察しかなく、対象年齢は70歳以下で高齢者の健康要因の解明、疾病要因の分析にはまだ10年以上待たねばならない。本研究の成果は厚生省コホート、文部省コホートの将来の参考になる。海外においてはわずかにMONICA計画による循環器疾患を対象に行われた研究が30年の観察歴をもつが、 対象者数が少ない。また、英国医師を対象としたコホート研究は40年目の結果が報告されたが、対象者が特殊な職業集団であること、主としてたばこの危険性についての分析を目的とした為に巾広い分析が行われなかった。米国、ヨーロッパで始まったコホート研究は端緒についた段階であり、高齢者を対象にしていない。  
本研究により1995年に75ー79歳に至った人々について、新たにベースライン調査を行い、死亡をエンドポイントに追跡を行うことが可能となった。3年間で3県合わせて9000人について実施し、健康で長寿な生活を壮年期の調査とつないで解析できることが可能になった。
結論
長期縦断調査によって始めて病期の引き金(イニシエーション)に関するリスクがわかる。1965年に設定された6府県コホートの30年目の追跡調査により愛知県のみで7000名を超える死亡者数と1万7千名を超える70歳以上の生存者を確認できた。今年度からの再追跡調査により、健康な長寿に至る生活習慣をより明らかにできる。平成10年度は健診を併用して血清生化学的検査も取り入れる予定である。

公開日・更新日

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