深在性真菌症と輸入真菌症に関する新しい検査法と抗真菌薬の開発、並びに病原因子の解明に向けたポストゲノムの基盤的研究

文献情報

文献番号
200931008A
報告書区分
総括
研究課題名
深在性真菌症と輸入真菌症に関する新しい検査法と抗真菌薬の開発、並びに病原因子の解明に向けたポストゲノムの基盤的研究
課題番号
H19-新興・一般-008
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
大野 秀明(国立感染症研究所 生物活性物質部)
研究分担者(所属機関)
  • 亀井 克彦(千葉大学真菌医学研究センター)
  • 槇村 浩一(帝京大学医真菌研究センター)
  • 杉田 隆(明治薬科大学微生物学教室)
  • 菊池 賢(順天堂大学医学部大学院感染制御学COE)
  • 渋谷 和俊(東邦大学医学部病院病理学講座)
  • 上 昌広(東京大学医科学研究所)
  • 上原 至雅(岩手薬科大学薬学部微生物学薬品創薬学講座)
  • 三鴨 廣繁(愛知医科大学病院感染制御部)
  • 川上和義(東北大学大学院医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
24,350,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
輸入真菌症と深在性真菌症は年々増加の傾向にあるが、早期診断・早期治療は困難であり、これらの真菌症が終末感染となって患者が死に至る場合が少なくない。本事業では、輸入真菌症の発生動向調査、有効な診断法の開発、ならびに深在性真菌感染症に対する生体防御機構、真菌の病原因子の解析、新規抗真菌薬の探索を目的として研究を行った。
研究方法
(1) 輸入真菌症の発生動向調査を前年度より引き続き行った。(2)新種プロトテカ藻の病原性と診断、環境真菌の気道感作・感染の惹起、接合菌の病原的意義と診断に関して研究を行った。(3) 複数の真菌を同一ブロック上に集約して配置させたアレイブロックの作製し、診断への有用性を検討した。 (4) 新聞データベースと週刊誌を調査対象として、真菌感染に関する情報の国民への認知度を調査した。 (5)海生菌の二次代謝産物から幅広い殺菌活性をもつ新規化合物を同定した。 (6) クリプトコックス菌体中にNKT細胞によって認識される糖脂質を同定した。また、クリプトコックスDNAは、CpGモチーフとは異なる機序で樹状細胞を活性化することを見出した。(7) Candida albicansの生存に必須なプロテインキナーゼの活性を阻害する物質を同定した。
結果と考察
輸入真菌症例数は安定しているが、パラコクシジオイデス症患者が相次いで発見され、輸入真菌症の多様化が進行していると考えられた。また、環境菌と考えられていた担子菌や接合菌の中に気道感染を引き起こすものが存在することを明らかにした。以上のように真菌症の臨床における重要性は高まりつつある一方で、新聞・雑誌における真菌症の取り扱いは低く、国民の認知、関心は依然低いままであることが示唆された。
基礎研究に関して、クリプトコックス症における菌由来核酸と自然免疫応答との関係を明らかにしつつあり、診断法開発に関して複数菌種を用いたアレイブロックは、感度・特異性共に臨床への応用が期待できるものであった。また、新規抗真菌薬の候補物質を複数同定しており、今後の治療薬開発に貢献できるものと期待している。
結論
臨床における重要性の高い輸入真菌症、深在性真菌症に関して発生動向調査、診断法開発、病原性解明、治療薬開発を目標とした研究を行ってきた。今後、医療の高度化に伴い真菌症の社会における重要性が増すにつれて、本事業の研究成果が真菌症治療の助けとなることが期待される。

公開日・更新日

公開日
2010-07-14
更新日
-

文献情報

文献番号
200931008B
報告書区分
総合
研究課題名
深在性真菌症と輸入真菌症に関する新しい検査法と抗真菌薬の開発、並びに病原因子の解明に向けたポストゲノムの基盤的研究
課題番号
H19-新興・一般-008
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
大野 秀明(国立感染症研究所 生物活性物質部)
研究分担者(所属機関)
  • 亀井 克彦(千葉大学真菌医学研究センター)
  • 槇村 浩一(帝京大学医真菌研究センター)
  • 杉田 隆(明治薬科大学微生物学教室)
  • 菊池 賢(順天堂大学医学部大学院感染制御学COE)
  • 渋谷 和俊(東邦大学病院病理学講座)
  • 上 昌広(東京大学医科学研究所)
  • 上原 至雅(岩手医科大学薬学部微生物学薬品創薬学講座)
  • 三鴨 廣繁(愛知医科大学病院感染制御部)
  • 川上 和義(東北大学大学院医学系研究科感染分子病態解析学分野)
  • 新見昌一(前国立感染症研究所 生物活性物質部)
  • 宮崎義継(国立感染症研究所 生物活性物質部)
  • 大川原 明子(国立感染症研究所 生物活性物質部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
輸入真菌症と深在性真菌症は年々増加の傾向にあるが、早期診断・早期治療は困難であり、これらの真菌症が終末感染となって患者が死に至る場合が少なくない。本事業では、輸入真菌症の発生動向調査、有効な診断法の開発、真菌感染症に対する生体防御機構、真菌の病原因子の解析、新規抗真菌薬の探索などを通じて輸入真菌症や深在性真菌症の制御を目的として研究を行った。
研究方法
研究代表者ならびに研究分担者が各々の領域で、1)輸入真菌症の発生動向調査、2)真菌症の迅速診断法の開発と真菌症治療における問題点へのアプローチ、3)新規抗真菌化合物の単離・スクリーニング、4)真菌の病原因子の解明、に対し研究を行なった。
結果と考察
輸入真菌症例数はとくにコクシジオイデス症とヒストプラスマ症の2つが1980年代後半から急激に増加していることがうかがわれ、さらに近年パラコクシジオイデス症患者が相次いで発見され、輸入真菌症の多様化が進行していると考えられた。一方、本研究課題において行なわれた新種微生物の記載や、アスペルギルス症やヒストプラスマ症、ニューモシスチス肺炎など真菌症の迅速診断法の開発を通じて、単に我が国における真菌症の原因菌の疫学を明らかにして、その感染管理に利するのみならず、我が国固有の遺伝子・微生物資源である本邦臨床分離株を保全し、国民の健康に関わる本症研究に供し、かつ新規診断治療法の研究開発に有効であったと考えられた。さらに、基礎研究分野に関して、クリプトコックス症における菌由来核酸と自然免疫応答との関係を明らかにしつつあり、今後免疫学的側面から真菌症制御にアプローチできるのではないかと考えられた。最後に、本研究課題ではカンジダ属の生存に必須なプロテインキナーゼの活性阻害物質の発見や、きのこおよび海生菌の二次代謝産物からシードとなる化合物の探索を試み、抗真菌活性を持つ化合物を単離するなど新規抗真菌薬の候補物質を複数同定することができ、今後新規の真菌症治療薬開発に貢献できるものと期待している。

結論
臨床における重要性の高い輸入真菌症、深在性真菌症に関して発生動向調査、診断法開発、病原性解明、治療薬開発を目標とした研究を行ってきた。今後、医療の高度化に伴い真菌症の社会における重要性が増すにつれて、本事業の研究成果が真菌症治療の助けとなることが期待される。

公開日・更新日

公開日
2010-07-14
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200931008C

成果

専門的・学術的観点からの成果
研究班活動を通じて真菌症原因菌となる3種の新種微生物を記載することができた。また、新たな抗真菌薬の候補となる物質を見出すことができた。さらに、本研究班では真菌症の病原因子解明として、クリプトコックス属のNKT細胞認識機構の解明や樹状細胞活性化機構の解明に向けた成果がえられた。
臨床的観点からの成果
日和見感染症の原因菌として重要なPneumocystis jiroveciiを標的とするLAMP法の開発、Candida guilliermondiiの検出法の開発、カンジダ主要4菌種の簡便な同定法の確立、パラフィン包埋組織片を対象としたin situ hybridization法による原因真菌診断法、ヒストプラスマ属に対する特異的PCR法の開発や血清診断法の開発などを行い、これらを通じ真菌症の迅速診断、原因菌診断に貢献できる成果が発表された。
ガイドライン等の開発
本研究班の前の研究班により2006年に「輸入真菌症診断・治療ガイドライン」が作成、発表されていたため、本研究班では新たなガイドラインの作成は行なっていない。しかし、発表から5年後を目処に改訂を行なう予定とし、本研究班で改訂に向けた意見交換などは定期的に行なった。
その他行政的観点からの成果
以前の研究班からの活動を引き継ぎ、輸入真菌症の国内発生動向調査を研究者間での情報を共有しながら行なった。この結果、日本人の海外旅行者が急増する時期と重なるように輸入真菌症の増加、なかでもコクシジオイデス症とヒストプラスマ症の急激な増加やパラコクシジオイデス症の再増加、マルネッフェイ型ペニシリウム症の増加などが認められた。今後臨床側への情報提供のみならず海外安全情報など広報活動を通じて広く日本人海外旅行者、出張者の健康管理に活用できる成果がえられた。
その他のインパクト
深在性真菌症や輸入真菌症とはどんなものか、これら真菌症を知ってもらい、理解を深めて頂く目的で、一般の人々を対象とした公開講座(参加無料)を平成21年度に行なった。この講座は日本感染症学会、日本化学療法学会との共催で、第1回目は東京にて、第2回目を名古屋で開催した。講座の内容としては2人の講師により輸入真菌症ならびに真菌症概論、内臓真菌症についての講演とした。

発表件数

原著論文(和文)
79件
原著論文(英文等)
111件
その他論文(和文)
22件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
173件
学会発表(国際学会等)
71件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Kaneko T, Makimura K, Abe M, et al.
Revised culture based identification system for Malassezia.
Journal of Clinical Microbiology , 45 (11) , 3737-3742  (2007)
原著論文2
Uemura N, Makimura K, Onozaki M, et al.
Development of loop-mediated isothermal amplification method for diagnosing Pneumocystis pneumonia.
Journal of Medical Microbiology , 57 (1) , 50-57  (2008)
原著論文3
Kalkanci A, Mekha N, Poonwan N, et al.
Comparative evaluation of Trichosporon asahii susceptibility using ASTY colorimetric microdilution and CLSI M27-A2 broth microdilution reference methods.
Microbiol Immunol , 52 (9) , 435-439  (2008)
原著論文4
Satoh K, Makimura K
Sporobolomyces koalae sp. nov., a novel basidiomycetous yeast isolated from the nasal smear of Queensland koalas kept in a Japanese zoological park.
International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology , 58 (12) , 2983-2986  (2008)
原著論文5
Kikuchi K, Sugita T, Makimura K, et al.
s Histoplasma capsulatum a native inhabitant of Japan?
Microbiology and Immunology , 52 (9) , 455-459  (2008)
原著論文6
AlShahni MM, Makimura K, Yamada T, et al.
Direct Colony PCR of Several Medically Important Fungi using Ampdirect® Plus.
Japanese Journal of Infectious Diseases , 62 (2) , 164-167  (2009)
原著論文7
Satoh K, Ooe K, Nagayama H, et al.
Prototheca cutis sp. nov., a newly discovered pathogen of protothecosis isolated from inflamed human skin.
Int J Syst Evol Microbiol , 60 , 1236-1240  (2010)
原著論文8
Satoh K, Makimura K, Hasumi Y, et al.
Candida auris sp. nov., a novel ascomycetous yeast isolated from the external ear canal of an inpatient in a Japanese hospital.
Microbiol Immunol , 53 (1) , 41-44  (2009)
原著論文9
Hanaoka N, Takano Y, Shibuya K, et al.
Indentification of the Putative Protein Phosphatase  Gene PTC I as a Virulence-Related Gene Using a Silkworm Model of Canadian albicans Infection.
Eukaryot Cell , 7 (10) , 1640-1648  (2008)
原著論文10
Nakayama H, Shibuya K, Kimura M, et al.
Histopathological study of candidal infection in the central nervous system.
Nippon Ishinkin Gakkai Zasshi , 51 (1) , 31-45  (2010)
原著論文11
Mekha N, Sugita T, Ikeda R, et al.
Real-time PCR assay to detect DNA in sera for the diagnosis of deep-seated trichosporonosis.
Microbiol Immunol , 51 , 633-635  (2007)
原著論文12
Kalkanci A, Sugita T, Arikan S, et al.
Molecular identification, genotyping, and drug susceptibility of the basidiomycetous yeast pathogen Trichosporon isolated from Turkish patients.
Med Mycol , 22 (5) , 1-6  (2009)
原著論文13
Mekha N, Sugita T, Ikeda R, et al.
Genotyping and antifungal drug susceptibility of the pathogenic yeast Trichosporon asahii isolated from Thai patient.
Mycopathologia , 169 , 67-70  (2010)
原著論文14
Ohno H, Ogata Y, Suguro H, et al.
An outbreak of histoplasmosis among healthy young Japanese women after traveling to Southeast Asia.
Internal Medicine , 49 , 491-495  (2010)
原著論文15
中山晴雄,篠崎 稔, 三宅洋子, 他
病理組織検査
Medical Technology , 36 (7) , 707-712  (2008)
原著論文16
篠崎 稔, 中山晴男, 渋谷和俊
肺真菌症の新しい病理診断手法
日胸 , 67 (11) , 250-255  (2008)
原著論文17
大久保陽一郎, 中山晴男, 長谷川千花子, 他
深在性真菌症の病態と病 理組織学的特徴
日本臨床 , 66 (4) , 2328-2333  (2008)
原著論文18
大久保陽一郎, 羽鳥 努, 密田亜希, 他
真菌症が発生したらどう 対応すればよいでしょうか?
腎と透析 , 66 (4) , 693-695  (2009)
原著論文19
鈴木 琢, 渋谷和俊
これだけは知っておきたい皮膚真菌症の知識-真菌症と病理
Monthly Book Derma , 148 , 7-11  (2009)
原著論文20
大久保陽一郎, 渋谷和俊
合併症・免疫抑制薬の副作用とその対応、感染症:真菌
腎移植のすべて , 323-324  (2009)

公開日・更新日

公開日
2016-06-27
更新日
-