文献情報
文献番号
202306008A
報告書区分
総括
研究課題名
認知症医療の進展に伴う社会的課題の検討のための研究
課題番号
23CA2008
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
新井 哲明(筑波大学 医学医療系臨床医学域精神医学)
研究分担者(所属機関)
- 五十嵐 中(横浜市立大学 医学群(健康社会医学ユニット))
- 岩田 淳(東京大学 医学部)
- 春日 健作(新潟大学 脳研究所)
- 新美 芳樹(東京大学大学院医学系研究科 医療経済政策学)
- 東 晋二(東京医科大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生労働科学特別研究
研究開始年度
令和5(2023)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究費
8,677,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
アルツハイマー病に対する抗アミロイドβ抗体薬などの疾患修飾薬(disease modifying therapy: DMT)の臨床実用が開始されたことを踏まえ、それに伴う課題の整理と検証を行い、我が国における新たな認知症の治療体制および施策の方向性を導くための検討材料を得るとともにそれらに寄与する提言を行うことを目的とする。
研究方法
文献レビューおよびアンケート調査等に基づき、非薬物療法を含めたサポート体制、医療経済的な観点を含む多面的な薬剤の価値の評価、患者層別化、バイオマーカーを用いた認知症診断の体制、高齢者の疾患修飾薬に対する認識とプレクリニカル期の適応、連携による診療体制等について検討した。
結果と考察
認知症・MCI例に対する有効な非薬物治療的介入としては、言語・コミュニケーション障害に対する言語・コミュニケーション訓練とそれ以外の症状に対する運動プログラム、音楽療法、認知刺激療法等とに大別される。今後、抗Aβ抗体薬治療に関連して非薬物療法を導入する場合、その患者に言語・コミュニケーション障害があるかどうかのアセスメントが必要である、日常臨床で使いやすいアセスメントを確立する必要がある。運動プログラム、音楽療法、認知刺激療法等は、MCI例に対してはリソースが不足しており、その充実が今後の課題である。また、家族・介護者への教育プログラムも有効であり、今後これらを提供できるシステムの構築も課題である。
多様な側面をもつ認知症治療の評価は、単なる医療費およびQALYの評価では不十分であり、より広い観点からの評価が必要であることが、ICER組織およびNICE等の海外諸機関の評価結果の検討から明らかになった。今後は、MCDAなどの定量化手法を援用しつつ、認知症領域に特化した価値評価基準の策定などの幅広い研究を行っていくことが課題である。
患者層別化については、投与対象とならない進行期の患者の受診が多いことがまずは明らかとなった。アミロイドβ(Aβ)の蓄積の有無をみる検査での陽性率はこれまでの各種臨床研究と概ね合致する結果であった。以上から、抗Aβ抗体薬の適応についての社会的啓発が今後重要である。
バイオマーカーについては、抗Aβ抗体薬の対象者選定にアミロイドPETおよび脳脊髄液検査が有用であるが、連携体制の構築のためには診断医・治療医への啓発および診療ガイドラインを作成する必要がある。また、APOE遺伝型検査は抗Aβ抗体薬の有害事象リスクの層別化に有用であるが、ADのリスク遺伝子でもあるため、対象患者およびその家族への倫理的配慮から、遺伝カウンセリングの整備などが必要である。
高齢者のDMTに対する認識については、J-TRC研究参加者を対象にアンケート調査を行い、抗Aβ抗体薬、必要な検査、血液バイオマーカー、APOE検査、通院、副作用、費用等に関する質問に対する回答を得た。それらの解析の結果、今後DMTの実装を進めるに当たっては、投与の可能性のある対象者を含めて幅広く情報提供を行い、知識の普及が必要であることが示された。
診療体制の構築に関しては、検査・治療実施能力の整備に要する事項として、検査設備と人的リソースの確保、副作用のモニタリングと緊急時診療の体制構築、輸液実施のためのスペースと人員の確保、医療弱者への配慮について検討した。また、診療・福祉面の整備に必要な事項として、診察医の育成および能力向上、APOE遺伝子型の検査体制、投与非対象者への配慮・支援、早期例への対応について検討した。早期診断、早期治療による治療効果の増大と安全性と有効性に寄与する適正な診療が本剤の治療の重要な柱となることから、検査整備と専門医へのアクセスを効率化する医療連携と、一般市民への社会啓発、専門医による臨床的・倫理的配慮の議論・研究が継続して行われる必要がある。
以上の成果を踏まえ、我が国におけるDMTによる認知症の治療体制に関する今後の課題と対応についての提言を作成した。内容は、社会的意義、社会への啓発活動、適応基準、連携、副作用への対応、包括的体制、医療体制の地域格差是正、医療弱者への支援、適応拡大、DMT導入後の研究継続、DMT導入後の社会対策などについてである。今後、これらの提言に沿った対応をしていくことにより、認知症の人との共生社会の構築を促進していくことが求められる。
多様な側面をもつ認知症治療の評価は、単なる医療費およびQALYの評価では不十分であり、より広い観点からの評価が必要であることが、ICER組織およびNICE等の海外諸機関の評価結果の検討から明らかになった。今後は、MCDAなどの定量化手法を援用しつつ、認知症領域に特化した価値評価基準の策定などの幅広い研究を行っていくことが課題である。
患者層別化については、投与対象とならない進行期の患者の受診が多いことがまずは明らかとなった。アミロイドβ(Aβ)の蓄積の有無をみる検査での陽性率はこれまでの各種臨床研究と概ね合致する結果であった。以上から、抗Aβ抗体薬の適応についての社会的啓発が今後重要である。
バイオマーカーについては、抗Aβ抗体薬の対象者選定にアミロイドPETおよび脳脊髄液検査が有用であるが、連携体制の構築のためには診断医・治療医への啓発および診療ガイドラインを作成する必要がある。また、APOE遺伝型検査は抗Aβ抗体薬の有害事象リスクの層別化に有用であるが、ADのリスク遺伝子でもあるため、対象患者およびその家族への倫理的配慮から、遺伝カウンセリングの整備などが必要である。
高齢者のDMTに対する認識については、J-TRC研究参加者を対象にアンケート調査を行い、抗Aβ抗体薬、必要な検査、血液バイオマーカー、APOE検査、通院、副作用、費用等に関する質問に対する回答を得た。それらの解析の結果、今後DMTの実装を進めるに当たっては、投与の可能性のある対象者を含めて幅広く情報提供を行い、知識の普及が必要であることが示された。
診療体制の構築に関しては、検査・治療実施能力の整備に要する事項として、検査設備と人的リソースの確保、副作用のモニタリングと緊急時診療の体制構築、輸液実施のためのスペースと人員の確保、医療弱者への配慮について検討した。また、診療・福祉面の整備に必要な事項として、診察医の育成および能力向上、APOE遺伝子型の検査体制、投与非対象者への配慮・支援、早期例への対応について検討した。早期診断、早期治療による治療効果の増大と安全性と有効性に寄与する適正な診療が本剤の治療の重要な柱となることから、検査整備と専門医へのアクセスを効率化する医療連携と、一般市民への社会啓発、専門医による臨床的・倫理的配慮の議論・研究が継続して行われる必要がある。
以上の成果を踏まえ、我が国におけるDMTによる認知症の治療体制に関する今後の課題と対応についての提言を作成した。内容は、社会的意義、社会への啓発活動、適応基準、連携、副作用への対応、包括的体制、医療体制の地域格差是正、医療弱者への支援、適応拡大、DMT導入後の研究継続、DMT導入後の社会対策などについてである。今後、これらの提言に沿った対応をしていくことにより、認知症の人との共生社会の構築を促進していくことが求められる。
結論
我が国におけるDMTによる認知症の治療体制についての今後の課題として、社会的意義、社会への啓発活動、適応基準、連携、副作用への対応、包括的体制、医療体制の地域格差是正、医療弱者への支援、適応拡大、DMT導入後の研究継続、DMT導入後の社会対策などが挙げられる。今後、これらの課題に対応していくことにより、認知症の人との共生社会の構築につなげていくことが重要である。
公開日・更新日
公開日
2024-06-03
更新日
-