抗酸菌感染症の発症・診断・治療・新世代予防技術に係わる分子機構に関する研究

文献情報

文献番号
200931006A
報告書区分
総括
研究課題名
抗酸菌感染症の発症・診断・治療・新世代予防技術に係わる分子機構に関する研究
課題番号
H19-新興・一般-006
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
牧野 正彦(国立感染症研究所 感染制御部)
研究分担者(所属機関)
  • 小林 和夫(国立感染症研究所 免疫部)
  • 河村 伊久雄(京都大学大学院医学研究科 微生物感染症学)
  • 荒川 宜親(国立感染症研究所 細菌第二部)
  • 田村 敏生(国立感染症研究所 感染制御部)
  • 菅原 勇(結核予防会結核研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
40,545,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
病原性抗酸菌感染症は、未だに地球規模で猛威を振るい続けている。栄養状態の改良・環境の整備により、結核の新規発症者および死亡者数は近年減少傾向を示してきていたが、その低下率は鈍化しつつある。病原性抗酸菌症の制圧は、感染から組織破壊までの過程を総合的に理解して初めて可能となる。本研究班では、病原性抗酸菌症の診断法の開発・慢性持続性感染の誘導機構・病原性抗酸菌症の予防方策の確立に向けた基礎研究の進展および結核の増悪因子の解析を目的とした。
研究方法
結核菌MDP-1に対する抗体価を活動期及び治療終了結核患者血清を用いて測定した。結核菌の潜伏化を誘導する宿主因子解明のため、免疫抑制性補助因子PD-1をノックアウトしたマウスの結核菌感受性を解析した。抗酸菌症発症予防ワクチン開発のため、ウレアーゼ欠損BCGにHSP70-MMP-II融合遺伝子を導入し新規リコンビナントBCG(BCG-D70M)を作製し、そのT細胞活性化能を評価した。T細胞レセプターを介した抗原刺激により活性化する新規転写因子をDNAマイクロアレイを用いて探索した。新規発症結核患者2,141名の糖尿病合併率・多剤耐性菌分離率・再発率を臨床的に解析した。
結果と考察
抗MDP-1抗体は治療終了結核患者で検出され、MDP-1が結核菌の潜伏化に関与することが明らかとなった。PD-1は免疫臓器では抗結核菌生体防御反応を抑制する一方、肺では結核菌の増殖を抑制していた。BCG-D70Mはこれまでに作製した全てのリコンビナントBCGの中で最も強く樹状細胞及び未感作CD4陽性及びCD8陽性T細胞を活性化し、大量のIFN-γの産生を誘導した。CD8陽性T細胞は細胞障害活性を獲得した。抗原刺激によりT細胞レセプターを介し活性化する新規転写因子としてTAF-7が同定された。さらに、STAT4のチロシンリン酸化が相乗的に作用し、樹状細胞の活性化を誘導するIL-17Fが産生された。糖尿病合併結核患者では、多剤耐性菌の分離率が高く、また再発率も高かった。
結論
抗酸菌症の診断・予防・潜伏化機構及び増悪因子の解明に一定の成果が得られた。

公開日・更新日

公開日
2010-07-13
更新日
-

文献情報

文献番号
200931006B
報告書区分
総合
研究課題名
抗酸菌感染症の発症・診断・治療・新世代予防技術に係わる分子機構に関する研究
課題番号
H19-新興・一般-006
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
牧野 正彦(国立感染症研究所 感染制御部)
研究分担者(所属機関)
  • 小林 和夫(国立感染症研究所 免疫部)
  • 河村 伊久雄(京都大学大学院医学研究科 微生物感染症学)
  • 荒川 宜親(国立感染症研究所 細菌第二部)
  • 田村 敏生(国立感染症研究所 感染制御部)
  • 菅原 勇(結核予防会結核研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
病原性抗酸菌症の発症機構の解明、予防・治療法の開発、および増悪因子の解析に関し、包括的研究を行うことを目的とした。
研究方法
免疫抑制性補助因子であるPD-1を欠損したマウスを用い、抗酸菌の慢性持続感染機構に関与する宿主因子を解析した。新しいワクチン開発を目指し、種々のリコンビナントBCGを作製し、そのT細胞活性化能及び抗酸菌の生体内増殖抑制能マウスを用いて検討した。高齢者結核発症を予防するためには、長期生存型細胞障害性メモリーT細胞を作製する必要がある。ナイーブCD8陽性T細胞を活性化するために必須のCD4陽性T細胞からのヘルプを効率的に誘導するため、結核菌由来Ag85のCD4陽性T細胞エピトープを用い、抗原特異的に活性化する転写因子をDNAマイクロアレイを用いて探索した。結核菌ゲノム上機能が未知の遺伝子に焦点を当てて、新規診断及び治療に有用な遺伝子を探索した。分裂休眠期結核菌潜伏感染者を診断するためMDP-1分子の有用性について検討した。中国上海市で新たに結核と診断された患者の糖尿病合併例について、多剤耐性菌の出現率を検討した。
結果と考察
PD-1は経静脈的に投与されたBCG菌の免疫臓器での慢性持続感染に深く関与していたが、経気道的に結核菌を感染させると結核菌の増殖誘導に働いていた。ウレアーゼ欠損BCGにHSP70-MMP-II連結遺伝子を導入したBCGは、ウレアーゼ欠損BCG、HSP70-MMP-II連結遺伝子導入BCGに比し、強くナイーブCD4陽性T細胞及びCD8陽性T細胞を活性化し、細胞障害性T細胞を産生し、さらに、メモリーT細胞を産生した。同時にらい菌の生体内での増殖を抑制した。抗原刺激により活性化される新規転写因子としてTAF7を同定した。MACの診断用遺伝子としてISを、新規治療用ターゲット遺伝子としてRv2613c遺伝子を同定した。血清中の抗MDP-1抗体価が肺結核治癒後に上昇することが明らかとなった。一方、抗CFP-10抗体は活動期肺結核患者で高値を示した。新規発症肺結核患者の10%に糖尿病が合併しており、合併者では多剤耐性菌の出現率及び再発率が高値を示した。また、1型糖尿病ラットに結核菌を感染させると血糖値のコントロールで結核病変が軽症化することも判明した。
結論
抗酸菌症の慢性持続感染機構及び診断・治療・予防法の開発において有用な知見が得られた。

公開日・更新日

公開日
2010-07-13
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200931006C

成果

専門的・学術的観点からの成果
ウレアーゼ欠損BCGにHSP70-MMP-II連結遺伝子を導入したBCGは、非常に強く未感作CD4陽性T細胞及びCD8陽性T細胞を活性化し細胞傷害性T細胞を産生し、さらにメモリーT細胞を産生した。同時に、らい菌の生体内での増殖を抑制した。結核菌由来抗原刺激により活性化される新規転写因子としてTAF7を新たに同定した。TAF7を選択的に活性化する抗原がワクチンとして有用と考えられた。
臨床的観点からの成果
非結核性抗酸菌の血清診断用キットを作製した。感度・特異度ともに高値を示し、非結核性抗酸菌の非侵襲性迅速診断を可能とした。さらに、非結核性抗酸菌症の遺伝子診断用及び新規治療用ターゲット遺伝子を同定した。キットの作製を可能とした。
ガイドライン等の開発
非結核性抗酸菌症の診断基準は、アメリカで作製されたものが全世界的に使われている。非結核性抗酸菌症の診断基準の改正について、アメリカ胸部疾患学会に申し込みを行った。
その他行政的観点からの成果
新規発症肺結核患者の10%に糖尿病が合併しており、合併者では多剤耐性菌の出現率及び再発率が高値を示した。合併症においては、血糖値をコントロールすると肺結核が軽症化した。結核の治療に際し、血糖値のコントロールが重要であることを示した。
その他のインパクト
マスコミで取り上げられたことはない。公開シンポジウムは行っていないが、班会議を広くオープンにして行った。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
34件
その他論文(和文)
1件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
66件
学会発表(国際学会等)
24件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Makino, M., Y. Maeda, Y. Fukutomi
Contribution of GM-CSF on the enhancement of the T cell-stimulating activity of macrophages
Microbes and Infect. , 9 , 70-77  (2007)
原著論文2
Maeda, Y., T. Mukai, M. Kai
Evaluation of major membrane protein-II as a tool for serodiagnosis of leprosy
FEMS Microbiol. Lett. , 272 , 202-205  (2007)
原著論文3
Kai, M., Y. Fujita, Y. Maeda
Identification of trehalose dimycolate (cord factor) in Mycobacterium leprae
FEBS Lett. , 581 , 3345-3350  (2007)
原著論文4
Miyamoto, Y., T. Mukai, Y. Maeda
Characterization of the fucosylation pathway in the biosynthesis of glycopeptidolipids from Mycobacterium avium complex
J. Bacteriol. , 189 (15) , 5515-5522  (2007)
原著論文5
Kaku, T., I. Kawamura, R. Uchiyama
RD1 region in mycobacterial genome is involved in the induction of neciorss in infected RAW264 cells via mitochondrial membrane damage and ATP depletion
FEMS Microbiol. , 274 , 189-195  (2007)
原著論文6
Uchiyama, R., I. Kawamura, T. Fujimura
Involvement of caspase-9 in the inhibition of necrosis of RAW 264 cells infected with Mycobacterium tuberculosis
Infect. Immun. , 75 (6) , 2894-2902  (2007)
原著論文7
Katsube, T., S. Matsumoto, M. Takatsuka
Control of cell wall assembly by a histone-like protein in mycobacteria
J. Bacteriol. , 189 (22) , 8241-8249  (2007)
原著論文8
Mukai, T., Y. Maeda, T. Tamura
CD4+ T cell activation by antigen-presenting cells infected with urease-deficient recombinant Mycobacterium bovis bacillus Calmette-Guérin
FEMS Immunol. Med. Microbiol. , 53 , 96-106  (2008)
原著論文9
Kai, M., N. P. N. Ha, H. T. T. Huong
Serological diagnosis of leprosy in patients in Vietnamese by enzyme-linked immunosorbent assay with Mycobacterium leprae-derived major membrane protein-II
Clin. Vaccine Immunol. , 15 (12) , 1755-1759  (2008)
原著論文10
Miyamoto, Y., T. Mukai, Y. Maeda
Mycobacterium avium complex gtfTB gene encodes a glucosyltransferase required for the biosynthesis of serovar 8-specific glycopeptidolipid
J. Bacteriol. , 190 (24) , 7918-7924  (2008)
原著論文11
Kitada, S., K. Kobayashi, S. Ichiyama
Serodiagnosis of Mycobacterium avium-complex pulmonary disease using an enzyme immunoassay kit
Am. J. Respir. Crit. Care Med. , 177 , 793-797  (2008)
原著論文12
Maeda, Y., T. Tamura, M. Matsuoka
Inhibition of the multiplication of Mycobacterium leprae by vaccination with a recombinant M. bovis BCG strain that secretes major membrane protein-II in mice
Clin. Vaccine Immunol. , 16 (10) , 1399-1404  (2009)
原著論文13
Mukai, T., Y. Maeda, T. Tamura
Induction of cross-priming of naïve CD8+ T lymphocytes by recombinant Bacillus Calmette-Guérin that secretes heat shock protein 70-major membrane protein-II fusion protein
J. Immunol. , 183 , 6561-6568  (2009)
原著論文14
Makino, M., Y. Maeda, M. Kai
GM-CSF-mediated T-cell activation by macrophages infected with recombinant BCG that secretes major membrane protein-II of Mycobacterium leprae
FEMS Immunol. Med. Microbiol. , 55 , 39-46  (2009)
原著論文15
Kurenuma, T., I. Kawamura, H. Hara
The RD1 locus in the Mycobacterium tuberculosis genome contributes to activation of caspase-1 via induction of potassium ion efflux in infected macrophages
Infect. Immun. , 77 (9) , 3992-4001  (2009)
原著論文16
Piao, Z., K. Shibayama, S. Mori
A novel insertion sequence, IS1642, of Mycobacterium avium, which forms long direct repeats of variable length
FEMS Microbiol. lett. , 29 , 216-221  (2009)
原著論文17
Mori, S., K. Shibayama, JI. Wachino
Purification and molecular characterization of a novel diadenosine 5’,5’’’-P1,P4-tetraphosphate phosphorylase from Mycobacterium tuberculosis H37Rv
Protein Expr. Purif. , 69 , 99-105  (2010)

公開日・更新日

公開日
2016-06-27
更新日
-