新規に発生しているレンサ球菌による劇症型感染症の臨床的・細菌学的解析と診断・治療法に関する研究

文献情報

文献番号
200931002A
報告書区分
総括
研究課題名
新規に発生しているレンサ球菌による劇症型感染症の臨床的・細菌学的解析と診断・治療法に関する研究
課題番号
H19-新興・一般-002
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
砂川 慶介(北里大学大学院感染制御科学府・北里大学北里生命科学研究所 感染症学研究室)
研究分担者(所属機関)
  • 生方 公子(北里大学大学院感染制御科学府&北里生命科学研究所・病原微生物分子疫学研究室)
  • 渡辺 治雄(国立感染症研究所 細菌第一部)
  • 大石 和徳(大阪大学微生物病研究所・感染症国際研究センター 高病原性感染症研究部門)
  • 吉田 敦(獨協医科大学病院 臨床検査医学講座)
  • 藤島 清太郎(慶應義塾大学病院医学部救急部 )
  • 坂田 宏(JA北海道厚生連旭川厚生病院 小児科)
  • 岩田 敏(国立病院機構東京医療センター 小児科)
  • 松井 英則(北里大学大学院感染制御科学府&北里生命科学研究所・病原微生物分子疫学研究室)
  • 秋山 徹(国立国際医療センター研究所 感染症制御研究部・感染症免疫遺伝研究室)
  • 阿戸 学(国立感染症研究所 免疫部第二室)
  • 池辺 忠義(国立感染症研究所 細菌第一部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
26,819,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年,再び増加しつつあるβ溶血性レンサ球菌や肺炎球菌による侵襲性重症感染症の実態を把握するため,i) 全国規模で当該菌株の分子疫学解析を行うこと,ii) 発症時の宿主病態を調べ欧米のそれと比較すること,iii) 重篤化に至る菌側因子を明らかにするためヒトとブタ由来のそれぞれのG群溶血性レンサ球菌(SDSE)の全ゲノム解析を行うこと,iv) モデルマウスを用いて発症時の病態解析を行うこと,v) 無菌的検査材料からのこれらの菌の迅速診断法を確立すること,vi) 関連学会との共催シンポジウムを行って本感染症に対する啓発活動を行うこととした。
研究方法
上記の目的に沿い,β溶血性レンサ球菌や肺炎球菌の分子疫学解析を実施した。ヒト由来とブタ由来のSDSE株の全ゲノム解析をピロシークエンス法で行った。モデルマウスを用いて病態解析を行った。無菌検査材料からの当該菌の検出用に新たなreal-time PCR法を構築した。共催シンポジウムは関連する2学会と2.5時間のシンポジウムとして開催した。
結果と考察
i) 日本感染症学会と日本化学療法学会との合同学会および日本臨床微生物学会と共催シンポジウムを開催,医療関係者の啓発活動を行った。ii) SDSEの疫学成績は米国CDCの同様の成績と比較し,疫学的に明らかに異なることをみいだした。iii) 無菌的検査材料,特に化膿性髄膜炎由来の髄液に対し,GBSや肺炎球菌を含む8菌種の網羅的迅速診断法を構築した。iv) GASでは特定のemm型株において,病原遺伝子を制御する新たな遺伝子rgg遺伝子に変異のある株が劇症型発症に関与していることを示唆した。また,好中球障害機構の解析,炎症性サイトカインの役割を明らかにした。v) UMINと敗血症例のWeb登録システムを共同開発した。vi) SDSEによる劇症型感染を解析するためII型糖尿病マウスモデルを構築した。vii) ヒトとブタ由来SDSE株2株の全ゲノムデータとGASの病原性遺伝子とを比較した。viii) ヒトCD46発現トランスジェニックマウスを用いてGASによる劇症型感染を惹起させ,その病態を明らかにした。
結論
以上の成果は,我が国において50歳以上の年齢層が急速に増加し,かつ基礎疾患保有者が増加している社会事情を反映しているものと考えられ,これら感染症に対する臨床的対応策と啓発活動が必要であると結論される。

公開日・更新日

公開日
2010-07-13
更新日
-

文献情報

文献番号
200931002B
報告書区分
総合
研究課題名
新規に発生しているレンサ球菌による劇症型感染症の臨床的・細菌学的解析と診断・治療法に関する研究
課題番号
H19-新興・一般-002
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
砂川 慶介(北里大学大学院感染制御科学府・北里大学北里生命科学研究所 感染症学研究室)
研究分担者(所属機関)
  • 生方 公子(北里大学大学院感染制御科学府&北里生命科学研究所・病原微生物分子疫学研究室)
  • 渡邉 治雄(国立感染症研究所 細菌第一部)
  • 大石 和徳(大阪大学微生物病研究所・感染症国際研究センター 高病原性感染症研究部門)
  • 吉田 敦(獨協医科大学病院 臨床検査医学講座)
  • 藤島 清太郎(慶應義塾大学病院医学部救急部 )
  • 坂田 宏(JA北海道厚生連旭川厚生病院 小児科)
  • 岩田 敏(国立病院機構東京医療センター 小児科)
  • 松井 英則(北里大学大学院感染制御科学府&北里生命科学研究所、病原微生物分子疫学研究室)
  • 秋山 徹(国立国際医療センター研究所 感染症制御研究部・感染症免疫遺伝研究室)
  • 阿戸 学(国立感染症研究所 免疫部第二室)
  • 池辺 忠義(国立感染症研究所 細菌第一部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
急速な成熟化社会を迎えた我が国では,重症型市中感染症の原因菌が変化している。中でも,病原性の高いβ溶血性レンサ球菌や肺炎球菌例が増加し問題化している。本研究班は当該感染症に注目し,その実態と解決策について基礎と臨床の両面から3ヵ年にわたって検討し,医療行政に貢献することを目的とした。
研究方法
β溶血性レンサ球菌(A群(GAS),B群 (GBS),G群 (SDSE))と肺炎球菌による侵襲性感染症を対象とし,次の研究項目を実行した。i) 全国規模による当該菌株の分子疫学解析,ii) 発症時の宿主病態解析,iii) 重篤化に至る菌側の因子を明らかにするためヒトとブタ由来のそれぞれのSDSEの全ゲノム解析を行い,GASおよびGBSのそれと比較,iv) 病態モデルマウスを用いた発症時の病態解析,v) 新生児GBS感染症を予防するための妊婦の検査,ならびに無菌的検査材料からの上記細菌の迅速診断法の確立,vi) 関連する2学会との共催シンポジウムを開催して本感染症に対する啓発活動を実施。
結果と考察
I)全国規模で収集した当該菌株は全て分子疫学解析を行い,米国CDC,欧米の同様の成績と比較し,相違点を明らかにした。II)宿主病態を含む解析では,50歳代以上で生活習慣病を含む基礎疾患を有する発症が極めて多いことを明らかにした。III)SDSEのゲノム解析では,GASと極めて相同性が高く同様の病原遺伝子を保持しているが,GBSとは低いことを明らかにした。IV)病態モデルマウスを用いた解析では,糖尿病保持では致死率が高いこと等を明らかにした。V)GASでは病原遺伝子を制御する新たな遺伝子(rgg)に変異を持つ特定株が劇症型発症に関与していること,好中球障害機構や炎症性サイトカインの役割も明らかにした。VI)ヒトCD46発現トランスジェニックマウスを用いてGAS,SDSEによる劇症型感染症の病態を明らかにした。VII)GBSや肺炎球菌を含む8菌種の網羅的迅速診断法を構築した。VIII)日本感染症学会,日本臨床微生物学会等2学会と合同シンポジウムを開催し啓発活動を行った。
結論
以上の成果は,我が国において高齢化社会を反映した新たな感染症が顕彰化している実態を明確にした。今後,これらの感染症対策とさらなる啓発活動の普及が行政施策上必要であると結論される。

公開日・更新日

公開日
2010-07-13
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2011-02-01
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200931002C

成果

専門的・学術的観点からの成果
侵襲性重症感染症由来のβ溶血性レンサ球菌および肺炎球菌を全国規模で約1,000株収集し,病原性に関わる遺伝子の分子疫学解析を行った。成果は英文誌(CMI,AAC,JMM)等に掲載され,米国疾病センター(CDC)が同時期に発表した同様の成績と比較でき,その違いを明らかにすることができた。また,ヒト重症疾患に近似した動物モデルを構築でき,その成果を発表することができた。ヒト由来レンサ球菌のうち,近年急速に増加しているSDSEの全ゲノム解析を完了し,その病原因子解析をするための土台が構築できた。
臨床的観点からの成果
β溶血性レンサ球菌(GAS,GBS,SDSE)あるいは肺炎球菌によって侵襲性感染症を惹起した症例について,発症時の宿主側背景因子について解析した。GAS,GBS,SDSEの順で50歳以上の割合が高いこと,基礎疾患保有率は60-80%と高率であること,予後不良率(死亡+後遺症残存例)も20%近く,急速な転帰をとることを明らかにした。肺炎球菌による重症例では,予後不良率が27%とさらに高いことを明らかにした。これらの重症例は救命救急や時間外受診例が多いことを明らかにした。
ガイドライン等の開発
ガイドライン
成果の一部は「細菌性髄膜炎の診療ガイドライン」へ反映された。
1) 砂川 慶介(分担)「VI.治療,2. 小児(p52-65)」,2) 生方 公子(分担)「VII.資料,1. 細菌の分類(p67-75)
その他行政的観点からの成果
重症細菌感染症の原因となるβ溶血性レンサ球菌,あるいは肺炎球菌等を網羅的にしかも迅速に検出するPCR法を確立し,その有用性についても検討した。それらは研究用試薬としてキット化に成功した。この手法を広く普及させることにより,2時間程度での感染症診断が可能となる。診断精度を向上させることができると同時に,最も適正な抗菌薬療法が可能となり,入院期間を短縮させることができる。結果として,医療費軽減に結びつけることができる。
その他のインパクト
当該感染症の特徴は,基礎疾患を有する高齢者が急速に増加した日本社会が直面する問題である。この事実の啓発活動のため,日本感染症学会・日本化学療法学会・東日本合同学会(2009年10月),ならびに日本臨床微生物学会(2010年1月)の両学会において,共催のシンポジウムを開催した。その他,関連学会および研究会においても特別講演等を多数行なった。また,メディカルトリビューン等にも詳細に採り上げられた。現在,3ヵ年の研究成果をホームページ上で公開すべく準備中である。

発表件数

原著論文(和文)
14件
原著論文(英文等)
49件
その他論文(和文)
37件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
103件
学会発表(国際学会等)
43件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
3件
冊子:全国疫学研究のまとめ 共催シンポジウム2件:日本感染症学会東日本地方会・日本化学療法学会東日本支部総会および日本臨床微生物学会

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Wajima, T, Murayama SY, Sunaoshi K, et al.
Distribution of emm type and antibiotic susceptibility of group A streptococci causing invasive and noninvasive disease.
Journal of Medical Microbiology , 57 (11) , 1383-1388  (2008)
原著論文2
Chiba N, Murayama SY, Morozumi M, et al.
Rapid detection of eight causative pathogens for the diagnosis of bacterial meningitisby real-time PCR.
Journal of Infect ion and Chemotherapy , 15 (2) , 92-98  (2009)
原著論文3
Murayama SY, Seki C, Sunaoshi K, et al.
Capsular type and antibiotic resistance in Streptococcus agalactiae isolate from patients with invasive infections, ranging from newborns to the elderly.
Antimicrobial Agents and Chemotherapy , 53 (6) , 2650-2653  (2009)
原著論文4
Chiba N, Morozumi M, Sunaoshi K,et al.
Serotype and antibiotic resistance of isolates from patients with invasive pneumococcal disease in Japan.
Epidemiology and Infection , 138 (1) , 61-68  (2009)
原著論文5
Takahashi T, Sunaoshi K, Sunakawa K, et al.
Clinical aspects of invasive infections with Streptococcus dysgalactiae ssp. equisimilis in Japan: differences with respect to Streptococcus pyogenes and Streptococcus agalactiae.
Clinical Microbioligy Infection , 17  (2009)
原著論文6
Yoshino M, Murayama SY, Sunaoshi K, et al.
Nonhemolytic Streptococcus pyogenes isolates that lack large regions of the sag operon mediating streptolysin S production.
Journal of Clinical Microbiology , 48 (2) , 635-638  (2010)
原著論文7
Takahashi T, Asami R, Tanabe K, et al.
Clinical aspects of invasive infection with Streptococcus dysgalactiae subsp. equisimilis in elderly patients.
Journal Infection and Chemotherapy , 16 (1) , 68-71  (2010)
原著論文8
Kishii K, Chiba N, Morozumi M, et al.
Diverse mutations in the ftsI gene in ampicillin-resistant Haemophilus influenzae isolates from pediatric patients with acute otitis media.
Journal Infection and Chemotherapy , 16 (2) , 87-93  (2010)
原著論文9
坂田 宏
小児におけるB群溶連菌感染症の臨床的検討.
感染症学雑誌 , 82 (6) , 633-637  (2008)
原著論文10
坂田 宏
溶連菌感染症を反復した児から検出されたA群溶血連鎖球菌におけるemm型別とPFGEパターン解析.
感染症学雑誌 , 83 (6) , 647-651  (2009)
原著論文11
Chen M, Hisatomi Y, Furumoto A, et al.
Comparative immune response of patients with chronic pulmonary diseases during the 2-year period after pneumococcal vaccination.
Clinical and Vaccine Immunology , 14 (2) , 139-145  (2007)
原著論文12
Koyama J, Ahmed K, Zhao J, Saito M, et al.
Strain-specific pulmonary defense achieved after repeated airway immunizations with non-typeable Haemophilus influenzae in a mouse model.
The Tohoku Journal of Experimental Medicine , 211 (1) , 63-79  (2007)
原著論文13
Yoshii H, Kamiyama H, Amanuma H, et al.
Mechanisms underlying glycosilation- mediated loss of ecotropic receptor function in murine MDTF cells, and its implication for receptor evolution.
The Journal of General Virology , 89 (1) , 297-305  (2008)
原著論文14
Kerdsin A, Oishi K, Sripakdee S, et al.
Clonal Dissemination of Streptococcus suis serotype 14 in Thailand.
Journal of Medical Micrbiology , 58 (11) , 1508-1513  (2009)
原著論文15
Oma K, Zhao J, Ezoe H, et al.
Intranasal immunization with a mixture of PspA and a Toll-Like Receptor Agonist induces specific antibodies and enhances bacterial clearance in the airways of mice.
Vaccine , 27 (24) , 3181-3188  (2009)
原著論文16
Ikebe T, Hirasawa K, Suzuki R, et al.
Distribution of emm genotypes among group A streptococcus isolates from patients with severe invasive streptococcal infections in Japan.
Epidemiology and Infection , 135 (7) , 1227-1229  (2007)
原著論文17
Ato M, Ikebe T, Kawabata H, et al.
Incompetence of neutrophils to invasive group A streptococcus is attributed to induction of plural virulence factors by dysfunction of a regulator.
PLoS ONE e3455 , 3 (10)  (2008)
原著論文18
Ikebe T, Ato M, Matsumura T, et al.
Highly frequent mutations in negative regulators of multiple virulence genes in group A streptococcal toxic shock syndrome isolates.
PLoS Pathogens e1000832 , 6 (4)  (2010)
原著論文19
Matsui H., Y Sekiya, M Nakamura, S Y et al.
CD46 transgenic mouse model of necrotizing fasciitis caused by Streptococcus pyogenes infection.
Infection and Immunity , 77 (11) , 4806-4814  (2009)
原著論文20
Zhao J, Hayashi T, Saarinen S, et al.
Cloning, expression, and characterization of the superantigen streptococcal pyrogenic exotoxin G from Streptococcus dysgalactiae.
Infection and Immunity , 75 (4) , 1721-1729  (2007)

公開日・更新日

公開日
2016-06-27
更新日
-