ASEAN等における高齢者介護サービスの質向上のための国際的評価指標の開発と実証に資する研究

文献情報

文献番号
202305006A
報告書区分
総括
研究課題名
ASEAN等における高齢者介護サービスの質向上のための国際的評価指標の開発と実証に資する研究
課題番号
23BA1003
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
児玉 知子(国立保健医療科学院 公衆衛生政策研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 荒井 秀典(国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター 理事長室)
  • 林 玲子(国立社会保障・人口問題研究所)
  • 町田 宗仁(国立保健医療科学院 国際協力研究部)
  • 佐々木 由理(国立保健医療科学院 国際協力研究部)
  • 大夛賀 政昭(国立保健医療科学院 医療・福祉サービス研究部)
  • 山口 佳小里(国立保健医療科学院 医療・福祉サービス研究部)
  • 三浦 宏子(北海道医療大学 歯学部)
  • 菖蒲川 由郷(新潟大学医歯学系 十日町いきいきエイジング講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 地球規模保健課題解決推進のための行政施策に関する研究
研究開始年度
令和5(2023)年度
研究終了予定年度
令和6(2024)年度
研究費
4,300,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
人口高齢化は世界が直面している課題であるが、特にアジア太平洋地域では変化のペースが速く、65歳以上人口割合は、2050年には現在の約2.5倍に増加すると推定されている。東南アジア諸国(Association of Southeast Asian Nations, 以下ASEAN)等においては、アクティブエイジングに関する取組が進められている一方、高齢者の増加に伴い、介護サービス(Long-term care services,以下LTC)へのアクセス拡大、公的LTC導入や整備、継続的な提供が課題となっている。本研究では、諸外国の介護の質の評価に関する既存の枠組みや指標を収集し、中・低所得国を含め、国際的に広く利用可能な評価指標の開発を行うことで、ASEAN等における高品質なLTCへのアクセス向上に貢献することを目的とする。
研究方法
1) LTCに関する定義や概念の整理として、国連機関(WHOやOECD)やEuropean Commission、アジア開発銀行等が用いている既存の枠組みと質の評価に関してインターネットや各種データベースを用いた情報収集を実施した。評価指標について、現地調査班との討議を踏まえて指標候補一覧を作成し、ASEAN諸国の高齢者割合とユニバーサル・ヘルス・カバレッジの達成状況等を二次資料から把握した。
2) 日本、韓国、台湾、香港、フィリピン、マレーシア、シンガポール、バングラデシュにおける登録に基づいた死亡・出生統計、ベトナム、タイ、インドネシア、インド、ネパールにおける標本調査による出生統計を収集し、直近までの変化を分析した。
3) 文献調査によってあらかじめ抽出した7領域の評価指標について、5か国の高齢者介護に関連するステークホルダーにインタビューを実施した。
4) ASEAN諸国での歯・口腔の健康格差を把握するため、zスコアを用いて歯科関連項目の国家間比較を実施した。併せて、高齢期の歯の喪失状況がフレイルに与える影響についてシステマティックレビューを行った。
結果と考察
WHOにおけるLTCの定義や概念、OECDによる保健医療のシステムパフォーマンス測定と質評価の枠組みについて明らかにし、欧米諸国を中心としたLTCの質保証および4つのレベル(システム、組織、専門職、利用者)の質管理について整理した。さらに、LTCで評価が必要な領域および指標について、Revised ASEAN-JAPAN Healthy & Active Ageing Index(HAAI)における関連指標を確認し、今後評価が必要とされるべき7領域32指標を作成した。また、各国出生統計からは 2019年まで緩やかに増加していた平均寿命が、ほとんどの国で2020年に増加したのち2021年に減少に転じ、2022年の減少は特に大きくなっていた。このような変化が、介護サービス提供に与える影響を適切に把握する必要がある。現地調査(カンボジア、タイ、フィリピン、マレーシア、ミャンマー)では、LTCに関する定義や提供体制状況が5か国で異なっていたが、家族によるケアや在宅ケアを中心とした体制構築、認知症への認識、ICTなどの利活用、リハビリテーションサービスについては、進展の度合いの違いはあるが、いずれの国においても取り組みが進められていた。LTCサービスが必要とするすべての高齢者に行き届くためには各国ともに多くの課題があることが明らかとなった。二次データを用いた歯科保健指標に関するASEANでの国家間比較を行ったところ3つに類型化でき、その特色を可視化できた。また、フレイルと歯の喪失状況との関連性についてシステマティックレビューによって検証したところ、両者間で明らかな関連性が示された。歯の喪失状況をはじめとする歯科口腔保健状態を把握することは、フレイル対策や介護予防対策に寄与することが示唆された。
結論
今後、高齢者割合の増加が予想されるASEAN各国において、特に中・低所得国では、医療・福祉制度が整備途上であるため、介護予防の視点を含んだ対策が期待される。コロナによる各国の高齢者を巡る状況は大きく変化していると考えられ、つねに直近の現状に即した施策を適切に行うことが必要である。今回、現地調査を行った5か国の LTC提供体制状況は、経済社会的背景から各国で異なっている一方、家族を中心とした在宅ケアが中心に置かれている傾向がみられた。さらに、認知症の認識、ICTなどの利活用、リハビリテーションサービスについては、進展の度合いの違いがあり、必要とするすべての高齢者に行き届くサービスとなるには多くの課題がある。また、歯科口腔保健状況は国家間で類型化が可能であり、これらを把握することは質の高いLTCにも寄与することが示唆された。

公開日・更新日

公開日
2024-09-25
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
202305006Z