文献情報
文献番号
202305004A
報告書区分
総括
研究課題名
世界の健康危機への備えと対応の強化に関する我が国並びに世界の戦路的・効果的な介入に関する研究
課題番号
23BA1001
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
詫摩 佳代(東京都立大学 法学政治学研究科)
研究分担者(所属機関)
- 鈴木 淳一(獨協大学 法学部)
- 武見 綾子(東京大学先端科学技術センター グローバル合意形成政策分野)
- 中山 一郎(北海道大学 大学院法学研究科)
- 西本 健太郎(東北大学 大学院法学研究科)
- 松尾 真紀子(東京大学 大学院公共政策学連携研究部)
- 横堀 雄太(国立研究開発法人国立国際医療研究センター 国際医療協力局 研修課)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 地球規模保健課題解決推進のための行政施策に関する研究
研究開始年度
令和5(2023)年度
研究終了予定年度
令和7(2025)年度
研究費
3,847,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
新型コロナウイルス感染症のパンデミックの中で、世界的な健康危機への対応能力を見直す動きが進んでいる。本研究ではパンデミック条約をはじめとする各種国際文書の交渉が行われる令和6年度5月末の間、国際文書とその交渉に関する包括的な情報収集に加え、技術的・法的観点からの分析を行い、日本の交渉におけるプレゼンス確保を目指すと同時に、わが国を含めた世界各国が健康危機の備えと対応に実質的に貢献できるように、ワクチン・治療薬・診断薬の研究開発及び生産能力等に関する具体的な支援のあり方を分析し、その結果から日本政府及び世界の健康危機管理の向上に向けた政策上の提言をまとめることを目指している。
研究方法
条約の交渉に関わる担当者と研究班が緊密に連携を図り、定期的にオンライン会議を開催し、交渉に関する最新の情報を得ながら、各メンバーがそれぞれの専門の立場からパンデミック条約を多角的に分析した。
結果と考察
詫摩佳代はパンデミック条約交渉が感染症分野の多国間協力に与える影響を国際政治の観点から分析した。鈴木淳一は改正IHRとパンデミック条約を通底する基本原則について検討し、IHRの改正過程とパンデミック条約の改正過程の分析をしたうえで、両文書の交渉の課題について分析した。健康危機対応の目的のためには、各国の主権尊重と国際協力のバランスを平時にあらかじめ確保することが必要となり、改正IHR及びパンデミック条約はそのための規範になりうると指摘する。
武見綾子はIHR改正案を中心に注目される変更点について概括するとともに、その意義について批判的な側面も含めて検討している。パンデミック条約と合わせ、多くの進展が見られる一方で、先進国も含めた世界的な危機に対応するための具体的な方策や、感染症早期探知を可能とするための制度的な介入等については法的な合意に限らずより政策的な議論を進める必要があると指摘する。
中山一郎はパンデミック対応をめぐる国際ルールにおける知的財産の取扱いについて分析する。そして、パンデミック時には、製造能力を有する(先進国)企業が迅速にワクチン等を量産して、途上国などに供給するモデル(例えばCOVAX)を基本とすべきであり、このように平時の対策(自発的な技術・ノウハウの移転)とパンデミック時の対策(COVAXモデル)を組み合わせる発想が重要であると指摘する。
西本健太郎はパンデミック条約に関して、締約国会議を設け、協定の実施状況の定期的な検討や、その効果的な実施の促進のため必要な決定を行う権限を与えていることや、附属書や議定書の採択を通じて、協定の内容がさらに発展していくことが予定されていることに特徴があると指摘する。また、パンデミック条約第3章に含まれる条文の設計に着目すると、同様にWHOで採択された条約であるたばこ規制枠組条約をはじめとして、既存の条約の規定に基づいたものが多いことが特徴であると指摘する。
松尾真紀子は、パンデミック条約の交渉のイシューのうち、パンデミック対応の際に必須となる病原体・BMとそのGSDのABSに関する議論の分析に特化して分析を行った。そしてガバナンス・制度設計上の観点から課題として (1)インセンティブを付与する制度設計の必要性、(2) WHO内・関連する公衆衛生関連組織、その他の国際機関との整合性の確保、(3)その他、条約を実行する際の組織体制上検討すべき事項として、PABSの運営指針、意思決定、モニタリング・報告の体制、紛争解決の仕組み、PABSの事務局(設置場所や体制)のほか、アドバイザリーグループや諮問・補助機関のようなものを設置する場合はその構成・選出方法、などの検討が必要であると論じている。
横堀雄太は交渉に関する包括的な情報収集に加え、技術的・法的観点からの分析を行い、日本の交渉におけるプレゼンス確保を目指すと同時に、わが国を含めた世界各国が健康危機の備えと対応に実質的に貢献できるように、公衆衛生学的立場から具体的な支援のあり方を分析し、国際文書の交渉会議へインプットを行った。
武見綾子はIHR改正案を中心に注目される変更点について概括するとともに、その意義について批判的な側面も含めて検討している。パンデミック条約と合わせ、多くの進展が見られる一方で、先進国も含めた世界的な危機に対応するための具体的な方策や、感染症早期探知を可能とするための制度的な介入等については法的な合意に限らずより政策的な議論を進める必要があると指摘する。
中山一郎はパンデミック対応をめぐる国際ルールにおける知的財産の取扱いについて分析する。そして、パンデミック時には、製造能力を有する(先進国)企業が迅速にワクチン等を量産して、途上国などに供給するモデル(例えばCOVAX)を基本とすべきであり、このように平時の対策(自発的な技術・ノウハウの移転)とパンデミック時の対策(COVAXモデル)を組み合わせる発想が重要であると指摘する。
西本健太郎はパンデミック条約に関して、締約国会議を設け、協定の実施状況の定期的な検討や、その効果的な実施の促進のため必要な決定を行う権限を与えていることや、附属書や議定書の採択を通じて、協定の内容がさらに発展していくことが予定されていることに特徴があると指摘する。また、パンデミック条約第3章に含まれる条文の設計に着目すると、同様にWHOで採択された条約であるたばこ規制枠組条約をはじめとして、既存の条約の規定に基づいたものが多いことが特徴であると指摘する。
松尾真紀子は、パンデミック条約の交渉のイシューのうち、パンデミック対応の際に必須となる病原体・BMとそのGSDのABSに関する議論の分析に特化して分析を行った。そしてガバナンス・制度設計上の観点から課題として (1)インセンティブを付与する制度設計の必要性、(2) WHO内・関連する公衆衛生関連組織、その他の国際機関との整合性の確保、(3)その他、条約を実行する際の組織体制上検討すべき事項として、PABSの運営指針、意思決定、モニタリング・報告の体制、紛争解決の仕組み、PABSの事務局(設置場所や体制)のほか、アドバイザリーグループや諮問・補助機関のようなものを設置する場合はその構成・選出方法、などの検討が必要であると論じている。
横堀雄太は交渉に関する包括的な情報収集に加え、技術的・法的観点からの分析を行い、日本の交渉におけるプレゼンス確保を目指すと同時に、わが国を含めた世界各国が健康危機の備えと対応に実質的に貢献できるように、公衆衛生学的立場から具体的な支援のあり方を分析し、国際文書の交渉会議へインプットを行った。
結論
総じて、パンデミックの経験は、一部の製造元に開発と製造が集中した既存のワクチン開発製造システムの限界を世界に認識させ、より分散化されたより機敏な製造システムへの変換の必要性を強く世界に認識させたと言える。パンデミック条約では技術移転やアクセスと利益配分に関する条文で持って、アクセス格差の問題への各国の義務を明文化しようという動きが主に途上国から提案されているが、先進国との立場の違いは大きく、アフリカ地域を中心に、WHOや製薬会社の助力を得ながら、途上国の製造能力拡大、アクセス格差にアプローチする様々な取り組みが行われたきた。このような取り組みを基軸に、パンデミックが遺した課題にアプローチしていくことが現実的だと思われる。
公開日・更新日
公開日
2025-01-27
更新日
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