企業退職高齢者の社会的ネットワークに関する研究

文献情報

文献番号
199700641A
報告書区分
総括
研究課題名
企業退職高齢者の社会的ネットワークに関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
古谷野 亘(北海道医療大学)
研究分担者(所属機関)
  • 安藤孝敏(東京都老人総合研究所)
  • 浅川達人(東海大学)
  • 堀田陽一(ダイヤ高齢社会研究財団)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
14,800,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
今後急増する高齢者の多くは、青壮年期を雇用者として過ごした「企業退職高齢者」(サラリーマンOB)である。企業退職高齢者の多くは、その現役時代の就業・生活形態のゆえに、近隣との交流が少なく、退職後の人的ネットワークが脆弱で、生きがいと社会参加、適応のために特別の対応を必要とするといわれている。しかしながら、企業退職高齢者についての研究は不十分であり、その社会的ネットワークの特徴と問題点が実証的に解明されているわけではない。
本研究の目的は、企業退職高齢者の社会的ネットワークの態様を、同一地域に居住する自営業(退職)高齢者との比較のもとで明らかにし、さらに職種・職層・転勤経験等によって社会的ネットワークに生じる差異をも明らかにして、企業退職高齢者の社会的ネットワークに特有の問題点とその関連要因を析出することにある。
研究方法
研究初年度にあたる本年は、調査に先立って、先行研究のレヴューと既存データセットの再分析を集中的に行い、日本の高齢者の社会的ネットワークについて得られている知見の再確認と、高齢者、特に企業退職高齢者の社会的ネットワークの態様をとらえるための指標および調査研究方法についての検討を行った。そして、それらの結果にもとづいて地域調査を実施した。
調査は、1998年1~2月に、東京都杉並区に居住する60歳以上80歳未満の男性高齢者1,500人を対象として、訪問面接法により実施された。調査対象者の選定は住民基本台帳からの無作為抽出によった。ただし、年齢階級別の人口構成に大きな偏りがあることから、60~64歳、65~69歳、70~74歳、75~79歳を同数(375人)ずつ抽出した。有効回収数は766、有効回収率は51.1%であった。家族等による代理回答は求めなかった。
回答者の平均年齢は69.8歳であり、88.4%が有配偶であった。家族構成は、夫婦のみ(46.3%)が最も多く、次いで未婚子同居(32.6%)、既婚子同居(9.5%)、独居(8.2%)の順であった。また、回答者の50.1%が調査時に有職であり、最長職が被雇用であった者(以下「雇用者」という)が66.8%、自営業を最長職とする者(同「自営業者」)が33.2%であった。就学年数の平均は雇用者で13.9年、自営業者では12.5年であった。
調査対象者には、同居家族と別居子・別居子の配偶者以外で「おつきあいのある方」(以下「他者」という)を最大15人まであげることを求め、その一人一人との関係についてたずねた。この手続きにより、766人の回答者から3,590人の他者との関係に関する情報を得た。
結果と考察
一人の回答者が「おつきあいのある方」としてあげた他者の数は0~15人で、平均は4.7人であった。有職の雇用者があげた他者の平均人数は自営業者より多かった(表1)。しかし雇用者の場合、無職の者では有職者よりつきあいのある他者が少なかった。
個々の他者との関係をみると、他者の83.4%とは「共通の話題」があり、67.7%は「共通の体験について話せる」人であった(表2)。また、他者の74.7%は「気心の知れた仲」であり、61.9%は「一緒にいてほっとする」人であった。しかし、「家族ぐるみの付き合い」をしている人と「自分にとって刺激になる」人は3割余にとどまり、「ちょっとした用事をしてくれた」人は2割に満たなかった。
「おつきあいのある方」としてあげられた3,590人の他者の87.4%は男性であり、年齢的には60歳代が全体の4割、70歳代が3割を占めた。
これらの他者と回答者が知り合ったきっかけは、「職場・仕事を通して」(39.8%)が最も多く、次いで「同じ学校で学んだ」(20.5%)、「兄弟・親戚」(12.9%)の順であった。知り合ってからの経過(知り合った後どのような関係にあったか)では、「趣味や遊びでつき合いがあった」(47.5%)が最も多く、「職場・仕事」(42.6%)と「同じ学校」(24.3%)を上回った。また「飲食店等の常連客としてのつき合いがあった」は、知り合ったきっかけとしてはわずか1.5%であったが、知り合ってからの経過としては14.0%とかなり多いほうであった。
雇用者に比べて自営業者では、知り合ったきっかけとその後の経過で「近所」と「町内会・自治会」がやや多かった。また、近くに居住する他者が多く、頻繁に会っている他者が多かった。
60~79歳の男性が「おつきあいのある方」としてあげることのできる他者の数は平均で4.7人であった。自営業者の「おつきあいのある」他者が近所の人で、頻繁に会い、また家族ぐるみの交流をしていることが多いのに対して、雇用者では、比較的遠方に居住する他者が多く、会う頻度も少なかった。さらに雇用者では、引退後には「おつきあいのある」他者が減少する傾向にあった。雇用者は、職業からの引退にともなって、業務上の人間関係(役割に依拠する機能的な関係)も失うので、ここに企業退職高齢者に特有といわれる社会的ネットワークの問題点が現れていると考えられる。
「おつきあいのある」他者と知り合うきっかけとして重要なのは、「職場・仕事」と「同じ学校」であり、この点については雇用者と自営業者の差はなかった。「おつきあいのある」他者は、仕事や学校という若いときの生活の中心を占める活動を通して知り合った人々であって、その多くは「共通の話題」のある人であり、「気心の知れた仲」であった。しかし、「趣味や遊びでつき合いがあった」ことは、人間関係の形成にとって重要な要因であって、職場や学校で出会った多くの人のうち、「趣味や遊び」を同じくした人、あるいは同じ「飲食店等の常連客」であった人のみが、「おつきあいのある」他者として残ったものと考えられる。
これらの知見は、企業退職高齢者の社会的ネットワークの特徴を示すものである。しかし、職種・職層・転勤経験等によって生じる社会的ネットワークの特徴については未だ分析の途中であって、一層の分析が必要がある。また、本年度は上級ホワイトカラーOBが多いと考えられる東京都杉並区において調査を行ったが、これとは異なる特性をもった地域の高齢者についても、その社会的ネットワークに関する同様の調査・研究を行い、比較していくことが必要である。
結論
男性高齢者の社会的ネットワークは、主として仕事と学校で知り合い、趣味や遊びをともにした人々によって構成されている。企業退職高齢者の社会的ネットワークは、規模(量)的に小さく、地域性に欠け、他者との日常的な接触に乏しい傾向にある。
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