再生医学的アプローチによる難治性中耳炎からの完全治癒戦略と臨床応用

文献情報

文献番号
200930010A
報告書区分
総括
研究課題名
再生医学的アプローチによる難治性中耳炎からの完全治癒戦略と臨床応用
課題番号
H20-感覚・一般-006
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
金丸 眞一(京都大学大学院医学研究科 耳鼻咽喉科・頭頸部外科)
研究分担者(所属機関)
  • 平海 晴一(京都大学医学部附属病院 耳鼻咽喉科)
  • 田村 芳寛(田附興風会医学研究所北野病院)
  • 中村 達雄(京都大学再生医科学研究所 臓器再建医学)
  • 平野 滋(京都大学大学院医学研究科 耳鼻咽喉科・頭頸部外科)
  • 西田 明子(田附興風会医学研究所北野病院)
  • 梅田 裕生(京都大学医学部附属病院 耳鼻咽喉科・頭頸部外科)
  • 前谷 俊樹(田附興風会医学研究所北野病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 感覚器障害研究
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究費
17,540,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は慢性中耳炎の完治を目指して、失われた中耳圧力調節機構を回復するために、乳突蜂巣表面を覆う粘膜内の毛細血管によるガス交換能の再生を目的に人工蜂巣骨移植を行う、再生医学的アプローチによる新しい治療法の開発と、鼓膜欠損・穿孔に対する従来の手術的治療法でない組織工学的治療法の開発である。
研究方法
I.乳突蜂巣再生
真珠腫性中耳炎、癒着性中耳炎、高度慢性化膿性中耳炎の患者45名に対し第1段階鼓室形成術施行時に、人工材料を使用せず、側頭骨より採取した自家小骨片を削開乳突腔に移植した。 このうち第1段階手術前に鼓膜穿孔のない32名で、第2段階手術前にCT上、乳突蜂巣再生が観察された17名のうち5名に対して、第2段階手術時に乳突蜂巣骨の構造再生の確認と笑気ガスによる中耳圧の変化を測定し、マノメーターによるガス交換能の再生の評価を行った。コントロールとして、正常な乳突蜂巣の発育を有する人工内耳手術および顔面神経減荷術を施行した5名に対し、同様の中耳圧測定を行い、再生乳突蜂巣のガス交換能を定量的に調べた。
さらに、32名すべての患者の術前および術後6カ月での耳管機能検査を施行し、乳突蜂巣再生が耳管機能に及ぼす影響について検討した。
II.鼓膜再生療法
さまざまな原因による鼓膜穿孔・欠損患者53名に対して、本治療法を施行した鼓膜穿孔・欠損に対し穿孔・欠損部辺縁をメスで新鮮創化し、ゼラチンスポンジにb-FGF(塩基性線維芽細胞増殖因子)を浸潤させその穿孔部に留置、フィブリン糊を滴下し外部と遮断した。3週間後に鼓膜再生を評価し、1回の処置で鼓膜が再生しない場合、同様の処置を繰り返し行った。
結果と考察
I.乳突蜂巣再生
第2段階手術後6カ月でCT上、乳突蜂巣構造の再生が認められる23症例のうち20症例で耳管機能の改善を認めた。一方、乳突蜂巣構造が再生していない9症例では、術前後で耳管機能の改善は観察されなかった。
II.鼓膜再生療法
4回までの処置で52症例で鼓膜再生が完了し、めだった有害事象はなかった
結論
1.乳突蜂巣再生が耳管機能の改善に寄与し、中耳ガス交換機能に両者が密接に関与していることを示していると考えられた。
2.難治性中耳炎の治療として乳突蜂巣再生が有効な治療法であると考えられる。
3.組織学的鼓膜再生療法は、従来の手術的治療法に代わる新しい治療法と考えられる。

公開日・更新日

公開日
2010-09-22
更新日
-