ナノテクノロジー、再生医学を融合した人工内耳。人工蝸牛の開発

文献情報

文献番号
200930003A
報告書区分
総括
研究課題名
ナノテクノロジー、再生医学を融合した人工内耳。人工蝸牛の開発
課題番号
H19-感覚・一般-003
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
伊藤 壽一(京都大学大学院医学研究科 耳鼻咽喉科・頭頸部外科)
研究分担者(所属機関)
  • 中川 隆之(京都大学大学院医学研究科 耳鼻咽喉科・頭頸部外科)
  • 平海 晴一(京都大学医学部附属病院 耳鼻咽喉科・頭頸部外科)
  • 坂本 達則(京都大学医学部附属病院 耳鼻咽喉科・頭頸部外科)
  • 川野 聡恭(大阪大学大学院基礎工学研究科 分子流体力学)
  • 田畑 泰彦(京都大学再生医科学研究所 生体組織工学研究部門 生体組織工学、生体材料学)
  • 和田 仁(東北大学大学院 工学研究科 機械工学)
  • 熊川 孝三(虎の門病院 耳鼻咽喉科)
  • 内藤  泰(神戸市立医療センター中央市民病院 耳鼻咽喉科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 感覚器障害研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
23,600,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ナノテクノロジー、蝸牛バイオメカニクス、内耳生物学および再生医学、組織工学、耳科学の各分野の知見を統合し、医工連携による「内耳再生」を目指し、スタンドアロンな蝸牛埋め込みデバイスを開発し、細胞移植によるラセン神経節再生と融合し、蝸牛機能を再生する技術を開発することを目的とする。

研究方法
モルモット蝸牛基底回転への埋め込みを想定したデザインの圧電素子デバイスを作製し、モルモット蝸牛鼓室階に埋め込み、外耳道からの音刺激に対する圧電素子膜の振動を計測した。さらに、これまでに開発したデバイスを用い、体外で至適条件の音刺激を圧電素子に加え、これから得られる起電力を増幅し、蝸牛基底部を刺激し、聴性脳幹反応を記録する実験を行った。蝸牛基底板振動の数値解析モデルでは、有毛細胞喪失の基底板振動に与える影響、特に外有毛細胞喪失が与える影響を解析した。自己由来細胞を移植細胞ソースとしたラセン神経節細胞再生に関しては、骨髄および脂肪組織由来間葉系細胞を神経分化誘導し、得られた移植細胞の解析を行い、移植実験を行い、組織学的、機能的な評価を行った。
結果と考察
外耳道からの音圧110 dB SPLの音響刺激に対し、最大振幅100nmの圧電素子膜振動が計測され、蝸牛内に埋め込まれた圧電素子が音響刺激により振動されることが証明された。圧電素子の起電力に基づく聴性脳幹反応記録実験では、116 dB SPL相当の刺激で聴性脳幹反応が得られ、圧電素子の起電力を増加させることにより機能回復できることが証明された。基底板振動特性の数値解析により、外有毛細胞の喪失は振動振幅を著しく低下させることが示された。また、細胞移植実験では、脂肪組織由来のsphereは神経系のマーカー発現が乏しく、骨髄由来のsphereを移植細胞とした実験を中心に行い、組織学的には蝸牛軸および内耳道に移植細胞由来の神経細胞を確認できたが、電気刺激聴性脳幹反応で機能的な回復を確認することはできなかった。神経突起伸長誘導などの処置を追加する必要性があることが明らかとなった。
結論
われわれが開発した圧電素子デバイスは、音響刺激により適切に振動され、圧電素子から発生する電気刺激により聴性脳幹反応を得ることができることが明らかとなり、今後、圧電素子の起電力を増加させることにより、新規聴覚デバイスとして用いることが可能であることが示された。

公開日・更新日

公開日
2010-09-22
更新日
-

文献情報

文献番号
200930003B
報告書区分
総合
研究課題名
ナノテクノロジー、再生医学を融合した人工内耳。人工蝸牛の開発
課題番号
H19-感覚・一般-003
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
伊藤 壽一(京都大学大学院医学研究科 耳鼻咽喉科・頭頸部外科)
研究分担者(所属機関)
  • 中川 隆之(京都大学大学院医学研究科 耳鼻咽喉科・頭頸部外科)
  • 平海 晴一(京都大学医学部附属病院 耳鼻咽喉科・頭頸部外科)
  • 坂本 達則(京都大学医学部附属病院 耳鼻咽喉科・頭頸部外科)
  • 川野 聡恭(大阪大学大学院 基礎工学研究科 分子流体力学)
  • 田畑 泰彦(京都大学再生医科学研究所 生体組織工学研究部門 生体組織工学、生体材料学)
  • 和田 仁(東北大学大学院 工学研究科 機械工学)
  • 熊川 孝三(虎の門病院耳鼻咽喉科)
  • 内藤  泰(神戸市立医療センター中央市民病院 耳鼻咽喉科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 感覚器障害研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ナノテクノロジー、蝸牛バイオメカニクス、内耳生物学および再生医学、組織工学、耳科学の各分野の知見を統合し、医工連携による「内耳再生」を目指し、スタンドアロンな蝸牛埋め込みデバイスを開発し、細胞移植によるラセン神経節再生と融合し、蝸牛機能を再生する技術を開発することを目的とする。

研究方法
音響刺激を電気刺激に変換し、外部電力を必要としない完全埋め込みの人工感覚上皮開発として、圧電素子膜を用いた体外計測用デバイス、モルモット蝸牛埋め込み用デバイスを開発し、体外での仕様解析を行い、生体モルモットを用いた計測実験を行った。並行して、数値モデル解析による蝸牛基底板振動特性からみた求められる条件の解析、手術を含めたデバイス装着技術開発、自己由来細胞を用いたラセン神経節再生実験を行った。
結果と考察
体外計測用デバイスの起電力に基づく聴性脳幹反応記録実験では、116 dB SPL相当の刺激で聴性脳幹反応が得られ、圧電素子の起電力を増加させることにより機能回復できることが証明された。モルモット蝸牛埋め込み用デバイスを用いた実験では、外耳道からの音圧110 dB SPLの音響刺激に対し、最大振幅100nmの圧電素子膜振動が計測され、蝸牛内に埋め込まれた圧電素子が音響刺激により振動されることが証明された。基底板振動特性の数値解析からは、圧電素子膜が基底板に接着すると著しく振動特性が変化すること、外有毛細胞が喪失した難聴者では、振動特性よりも起電力が問題となることが分かった。また、細胞移植実験では、骨髄由来間葉系細胞由来神経前駆細胞の移植により、組織学的には神経細胞の再生が誘導できたが、機能的な回復を確認することはできなかった。
結論
われわれが開発した圧電素子デバイスは、音響刺激により適切に振動され、圧電素子から発生する電気刺激により聴性脳幹反応を得ることができることが明らかとなり、今後、圧電素子の起電力を増加させることにより、新規聴覚デバイスとして用いることが可能であることが示された。

公開日・更新日

公開日
2010-09-22
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200930003C

成果

専門的・学術的観点からの成果
これまでに生物学的なアプローチで臨まれてきた内耳有毛細胞再生を最近のナノテクノロジーを応用して開発しようとした人工感覚上皮の新規性は高く、理論的なモデルを最終的には生体動物モデルで実証した点が高く評価できると考える。また、開発すべきデバイスの仕様決定のために行った数値モデルによる蝸牛基底板振動解析により、蝸牛内へのデバイス挿入が与える影響のみならず、定量的な有毛細胞喪失が与える影響を評価でき、1列の外有毛細胞喪失のみで蝸牛基底板振動が著しく障害させることが分かったことの学術的価値は大きい。

臨床的観点からの成果
体外デバイス、充電を必要としていた既存の人工内耳に対して、蝸牛に残存する基底板振動を利用したスタンドアロンなデバイスを開発したことの臨床的なインパクトは大きく、人工内耳関連の国際学会などで今後の全く新しい人工内耳開発の方向性を呈示した研究として高い評価を受けている。また、人工感覚上皮開発でえられたノウハウは、新しい人工内耳電極開発にも応用可能な技術であり、今後幅広い応用が期待できる研究成果といえる。
ガイドライン等の開発
本研究は、新たなガイドライン開発に関係するものではない。
その他行政的観点からの成果
本研究で開発した人工感覚上皮は、実用出来る段階ではないが、起電力の増加や電極の改良による電気刺激効率の改善などの問題をクリアすれば、実用化への目処はたち、企業の参画が期待できる。国内電子機器メーカーの参画がえられれば、実用化に向けて飛躍的な発展が期待でき、本邦初、完全オリジナルな聴覚デバイス開発が期待できる。感音難聴が最も多い身体障害のひとつであり、今後の高齢化社会の進行を考慮すれば、国民福祉など行政に与える影響は大きいと考える。
その他のインパクト
本研究課題は、多くの異なる分野の研究者および臨床医が協力して行った学際的な要素を持ち、個々の分野の研究者の努力だけでは実現できない研究成果をあげつつある研究である。特に、欧米の研究者にとっては、ナノテクノロジーなどの工学的な分野、幹細胞などの生物学的な分野といった本邦が得意とする分野の研究者が集結して行ったものであり、国際学会などで与えたインパクトは大きなものであった。特に、有毛細胞再生を全く異なった視点から捉えた着想は、多くの内耳研究者にとってインパクトが大きなものであった。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
7件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
33件
学会発表(国際学会等)
21件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Ogita H, Nakagawa T,Ito J.
Transplantation of bone marrow-derived neurospheres into guinea pig cochlea
Laryngoscope , 120 , 576-581  (2010)
原著論文2
2. Nakagawa T, Ito J.
Local drug delivery to inner ear for treatment of hearing loss.
Current Drug Therapy 3 , 3 , 143-147  (2008)

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
-