文献情報
文献番号
202301017A
報告書区分
総括
研究課題名
社会保障給付に関するマイクロシミュレーション分析の研究
課題番号
23AA2001
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
佐藤 格(国立社会保障・人口問題研究所 社会保障基礎理論研究部)
研究分担者(所属機関)
- 八塩 裕之(京都産業大学 経済学部)
- 川出 真清(日本大学 経済学部)
- 金田 陸幸(大阪産業大学 経済学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(政策科学推進研究)
研究開始年度
令和5(2023)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究費
6,900,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究の目的は、社会保障制度の改正や各種給付等による所得再分配への影響を試算する手法として、マイクロシミュレーション分析に着目し、属性別の影響を把握するためのモデルを構築することにある。
研究方法
2019年国民生活基礎調査の個票データを用いて、社会保障制度の改正や各種給付等による所得再分配への影響を試算するためのマイクロシミュレーション分析のモデルを構築した。その上で、 (1)出産育児一時金の引き上げにかかる費用を負担するための医療保険制度の保険料引き上げ、(2)厚生年金の適用拡大、(3)児童手当の拡充、を想定し、政策変更の影響を所得十分位別の平均所得、相対的貧困率およびジニ係数により評価した。
結果と考察
結果 医療保険制度については、負担増が必ずしも累進的になるわけではないという結果になった。可処分所得で評価して負担を最も大きくするのは、後期高齢者医療保険の保険料率は引き上げず、その他の制度にのみ負担を求めるプランAだが、ジニ係数や相対的貧困率を最も悪化させるのは年金収入が153万円以上の後期高齢者の所得割部分の料率を0.83ポイント増加させるプランDであった。
厚生年金の適用拡大では、月5.8万円以上の収入があるすべての被用者へ適用拡大するプラン5で、最大0.8%程度平均世帯可処分所得が減少した。一方、ジニ係数や相対的貧困率で評価した場合には、どのプランにおいても差はわずかなものにとどまった。
児童手当については、2019年の状況と比較して、2023年に決定した児童手当拡充は18歳以下の子供がいる世帯全体では2.5%、さらに低所得階層、たとえば第I階級においては18.2%の負担軽減効果というように、低所得階級ほど大きな負担軽減率となった。またジニ係数や相対的貧困率といった指標で見た場合、児童手当等の再分配効果は極めて小さいものの、子どもあり世帯に限定した場合には比較的大きな影響があった。
考察 医療保険制度については、プランDにおいてジニ係数の悪化、相対的貧困率の悪化が最も顕著に見られるのは、年金所得に対する健康保険料の負担が増加すること、また健康保険料引き上げの基準となる年金所得額が比較的低いことによると考えられる。公的年金については、プラン5において等価可処分所得や平均世帯年金保険料が比較的大きく変化するのは、他のプランと比較して適用範囲がかなり広いためであると考えられる。児童手当については、負担軽減効果に比べて再分配効果が極めて小さいことは、幅広い所得階層に支給されるためと考えられる。
厚生年金の適用拡大では、月5.8万円以上の収入があるすべての被用者へ適用拡大するプラン5で、最大0.8%程度平均世帯可処分所得が減少した。一方、ジニ係数や相対的貧困率で評価した場合には、どのプランにおいても差はわずかなものにとどまった。
児童手当については、2019年の状況と比較して、2023年に決定した児童手当拡充は18歳以下の子供がいる世帯全体では2.5%、さらに低所得階層、たとえば第I階級においては18.2%の負担軽減効果というように、低所得階級ほど大きな負担軽減率となった。またジニ係数や相対的貧困率といった指標で見た場合、児童手当等の再分配効果は極めて小さいものの、子どもあり世帯に限定した場合には比較的大きな影響があった。
考察 医療保険制度については、プランDにおいてジニ係数の悪化、相対的貧困率の悪化が最も顕著に見られるのは、年金所得に対する健康保険料の負担が増加すること、また健康保険料引き上げの基準となる年金所得額が比較的低いことによると考えられる。公的年金については、プラン5において等価可処分所得や平均世帯年金保険料が比較的大きく変化するのは、他のプランと比較して適用範囲がかなり広いためであると考えられる。児童手当については、負担軽減効果に比べて再分配効果が極めて小さいことは、幅広い所得階層に支給されるためと考えられる。
結論
医療保険制度については、経済格差の是正という観点からは、高齢者に負担を求めることは必ずしも望ましくないと考えられる。また公的年金については、一時点の保険料拠出でしか評価できていないという点は留保が必要であるが、月5.8万円以上の収入があるすべての被用者を厚生年金の被保険者とすることは、所得分配に大きな影響を与えることなく適用拡大を図る方法であると考えられる。最後に児童手当の拡充は、低所得階級の負担を大きく軽減するとともに、子どもあり世帯に限定すれば貧困率も低下するなど、低所得の子育て世帯への経済支援としては有効であると考えられる。
公開日・更新日
公開日
2024-07-30
更新日
-