戦没者遺骨の身元特定に係るDNA鑑定の精度向上に関する研究

文献情報

文献番号
202301008A
報告書区分
総括
研究課題名
戦没者遺骨の身元特定に係るDNA鑑定の精度向上に関する研究
課題番号
21AA2004
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
橋谷田 真樹(関西医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 眞鍋 翔(関西医科大学 法医学講座)
  • 玉木 敬二(京都大学 医学研究科)
  • 中村 安孝(東京歯科大学 歯学部)
  • 松末 綾(福岡大学 医学部法医学)
  • 北川 美佐(大阪医科薬科大学 医学部医学科 予防・社会学講座 法医学教室)
  • 山田 良広(神奈川歯科大学 歯学部 社会歯科学系 法医学講座 歯科法医学分野)
  • 浅利 優(旭川医科大学 法医学講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(政策科学推進研究)
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究費
17,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、厚生労働省の戦没者遺骨のDNA鑑定事業の効率的な遂行のために、「戦没者遺骨鑑定の標準プロトコルの作成」、「多数の遺骨・ご遺族から該当する血縁者をスクリーニングする専用ソフトウェアの開発」を行う。
研究方法
「① 戦没者遺骨鑑定の標準プロトコルの作成」については、これまでに、各分担研究者に対し、遺骨試料のDNA型鑑定方法に関するアンケートを行い、聞き取り調査を行った。その結果、脱灰および溶解を容易にするために骨試料を「骨粉」化する、または小さな「骨片」として作業を進めるといった違いが見られた。そこで、骨試料を骨粉化した後、3種の市販されているDNA抽出キットを使用してDNA抽出を行う方法と、骨片をある市販の試薬で溶解させた後、2種の市販のDNA精製キットでDNAの回収を行うという、計5通りの抽出方法について、同じ骨資料を用いて実証実験を行なった。
「② 多数の遺骨・ご遺族から該当する血縁者をスクリーニングする専用ソフトウェアの開発」については、より視認性に優れたshinyパッケージを導入した。また、計算速度の向上のため、DNA型の解析を行うプログラムはC++言語で作成した。ソフトウェアの検証のためにコンピュータ上で模擬のDNA型、つまり父-息子、母-娘、兄弟、姉妹、父方おじ-甥、母方おば-姪のなどの血縁ペアのDNA型(STR型、Y-STR型、mtDNA型)を作成した。2人のペアのうち1人を遺骨側、もう1人を遺族側に振り分け、血縁関係毎にソフトウェアで解析した。この解析結果を基に、血縁関係毎の感度および特異度を調査した。血縁関係の判定基準は、常染色体STR型における尤度比を100以上、Y-STR型の不一致を2か所以内、mtDNA型の不一致を1か所以内とした。さらに、実際のご遺骨ではDNAの状態が悪く、DNA型の一部を検出できないことがあるが、この状況を想定するために、遺骨側のDNA型の50%が不検出である場合における感度・特異度についても同様に検討した。
結果と考察
「① 戦没者遺骨鑑定の標準プロトコルの作成」については,10検体の骨試料全てにおいて5種の抽出方法を試み、それぞれ抽出したDNAを定量したところ、0.0006 ng/μl〜0.0177 ng/μlの範囲でヒトDNAが得られた。DNA量に優位差が見られるほどの違いはなく、どの方法を用いても同じような値しか得られなかった。常染色体上STR解析用の増幅試薬であるGlobalFiler PCR Amplification Kit(Thermo Fisher Scientific)を用いたSTR解析の結果、最も多くのSTR情報を得ることができたのは、骨片を脱灰した後、DNAエキストラクターFMキット(FUJIFILM)を用いて試料を溶解し、フェノール・クロロホルム処理後の上清をNucleoSpin Gel and PCR Clean-up(TaKaRa)にてDNAを抽出する方法であった。
「② 多数の遺骨・ご遺族から該当する血縁者をスクリーニングする専用ソフトウェアの開発」については,感度(真の血縁ペアを正しく血縁と判定できる確率)は,父-息子,母-娘で100%,兄弟,姉妹で約93%と高く,父方おじ-甥,母方おば-姪については遠縁のため約37%に留まった.一方,特異度(非血縁ペアを正しく非血縁と判定できる確率)はSTR型のみではなくY-STR型あるいはmtDNA型を併用することで大幅に低下し,各々の血縁関係における偽陽性数は,全100万通りのうち数例に留まることが明らかとなった.さらに、DNA型の50%が不検出である場合における感度・特異度についても検討したところ,感度は低下したが,特異度は全100万通りのうち数例から十数例に留まった.
結論
「① 戦没者遺骨鑑定の標準プロトコルの作成」については、DNA抽出の実証実験の結果,骨片を脱灰した後、DNAエキストラクターFMキット(FUJIFILM)を用いて試料を溶解し、フェノール・クロロホルム処理後の上清をNucleoSpin Gel and PCR Clean-up(TaKaRa)にてDNAを抽出する方法が最も解析成績が良かった。DNAが抽出された後の解析工程は、統一されていることから、本研究により、抽出・増幅・解析の行程は統一され、専用のプロトコルが確立されたと言って良いであろう。
「② 多数の遺骨・ご遺族から該当する血縁者をスクリーニングする専用ソフトウェアの開発」については、戦没者遺骨のDNA鑑定事業への実用化に向けて検証作業中であり,検証が完了すれば、本事業への実用化につながるものと期待される。なお、ソフトウェアはオープンソースのプログラミング言語Rで構築していることから、誰でも無料で利用できる形で公開する予定である。

公開日・更新日

公開日
2024-07-01
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202301008B
報告書区分
総合
研究課題名
戦没者遺骨の身元特定に係るDNA鑑定の精度向上に関する研究
課題番号
21AA2004
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
橋谷田 真樹(関西医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 眞鍋 翔(関西医科大学 法医学講座)
  • 玉木 敬二(京都大学 医学研究科)
  • 中村 安孝(東京歯科大学 歯学部)
  • 松末 綾(福岡大学 医学部法医学)
  • 北川 美佐(大阪医科薬科大学 医学部医学科 予防・社会学講座 法医学教室)
  • 山田 良広(神奈川歯科大学 歯学部 社会歯科学系 法医学講座 歯科法医学分野)
  • 浅利 優(旭川医科大学 法医学講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(政策科学推進研究)
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、厚生労働省の戦没者遺骨のDNA鑑定事業の効率的な遂行のために、「戦没者遺骨鑑定の標準プロトコルの作成」、「多数の遺骨・ご遺族から該当する血縁者をスクリーニングする専用ソフトウェアの開発」を行う。
研究方法
「① 戦没者遺骨鑑定の標準プロトコルの作成」について、まず遺骨のDNA鑑定の工程は、「(1)DNAの抽出」、「(2)DNAの増幅」、「(3)電気泳動による型判定」、「(4)ご遺族(血縁候補者)とのマッチング」となる。これらの工程のうち「(2)DNAの増幅」、「(3)電気泳動による型判定」は使用する試薬・機器が世界的に統一されており、また、「(4)ご遺族(血縁候補者)とのマッチング」も専用のソフトウェアを使用するので違いはない。人によって大きく異なるのが「(1)DNAの抽出」の部分である。ここで効率よく良好なDNAを得ることができれば、必然とDNA型判定も良い結果となる。当プロジェクトに参加している7機関から遺骨鑑定に関するプロトコルのアンケート調査を行なったところ、それぞれの知識・経験に基づき独自の方法でDNA解析を行なっていることが判明した。そこで、同一の骨試料を用いておのおののDNA抽出方法を検証・比較した。「② 多数の遺骨・ご遺族から該当する血縁者をスクリーニングする専用ソフトウェアの開発」については、ソフトウェアの開発および検証が概ね完了した。ソフトウェアの構築には主にプログラミング言語Rを用いたが、DNA型の解析に関わる部分は計算速度の向上のためC++言語を用いた。また,ボタン1つで簡単に操作できるようにするため、視認性に優れたR言語のshinyパッケージを導入してgraphical user interface(GUI)化した。ソフトウェアには、複数人分の遺骨および複数人分の遺族のSTR型、Y-STR型、ミトコンドリアDNA型を入力できるようにし、遺骨と遺族の各ペアがどのような血縁関係にあるかを推定できるようにした。作成したソフトウェアは、模擬のDNA型を用いて検証した。
結果と考察
「① 戦没者遺骨鑑定の標準プロトコルの作成」について、同一の骨試料を用いておのおののDNA抽出方法を検証したところ、小さな骨片をDNAエキストラクターFMキット(FUJIFILM)を用いて試料を溶解し、フェノール・クロロホルム処理後、上清からNucleoSpin Gel and PCR Clean-up(TaKaRa)にてDNAを抽出する方法が最も解析成績が良かった。
② 多数の遺骨・ご遺族から該当する血縁者をスクリーニングする専用ソフトウェアの開発」については、模擬のDNA型を用いて検証した結果,感度(真の血縁ペアを正しく血縁と判定できる確率)は、父-息子,母-娘で100%、兄弟、姉妹で約93%と高く、父方おじ-甥,母方おば-姪については遠縁のため約37%に留まった。一方、特異度(非血縁ペアを正しく非血縁と判定できる確率)はSTR型のみではなくY-STR型あるいはmtDNA型を併用することで大幅に低下し、各々の血縁関係における偽陽性数は、全100万通りのうち数例に留まることが明らかとなった。さらに、DNA型の50%が不検出である場合における感度・特異度についても検討したところ、感度は低下したが、特異度は全100万通りのうち数例から十数例に留まった。
結論
「① 戦没者遺骨鑑定の標準プロトコルの作成」については、実証実験により最もよい抽出方法が確認されたことで、骨からのDNA鑑定におけるプロトコルが完成した。抽出後は統一されたSTR解析方法を用いることで、最も効率よく骨からのSTR解析が進められることになるであろう。
「② 多数の遺骨・ご遺族から該当する血縁者をスクリーニングする専用ソフトウェアの開発」については、戦没者遺骨のDNA鑑定事業への実用化に向けて、厚生労働省戦没者遺骨鑑定推進室と共同で既存のソフトウェア(DNA-VIEW)との比較検証をスタートさせており、検証作業が完了すれば、本事業への実用化につながるものと期待される。なお,ソフトウェアはオープンソースのプログラミング言語Rで構築していることから、誰でも無料で利用できる形で公開する予定である。

公開日・更新日

公開日
2024-07-01
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202301008C

成果

専門的・学術的観点からの成果
「① 戦没者遺骨鑑定の標準プロトコルの作成」については、実証実験の結果から、骨からのDNA抽出において最も解析結果の良い方法を決定し、解析プロトコルを作成することができた。また、「② 多数の遺骨・ご遺族から該当する血縁者をスクリーニングする専用ソフトウェアの開発」については、プログラミング言語Rの統合開発環境であるRStudioを用いて構築し、遺骨・遺族のDNA情報を入力することで、尤度比による血縁関係を推定するソフトウェアを作成できた。
臨床的観点からの成果
遺骨からのDNA解析において,新たな解析プロトコルが作成されたことにより,DNA解析の精度が向上することが期待される.さらに得られたDNA情報を,効率よく,かつ精度良く血縁関係を推定できるソフトウェアの開発により,一柱でも多くの遺骨を遺族の元へお返しできるであろう.
ガイドライン等の開発
戦没者の遺骨からのDNA解析は困難を極めるが,効率のよいDNA抽出方法を検証した結果,新たなDNA解析プロトコルを作成できた.遺骨と遺族のマッチングに関しても,常染色体およびミトコンドリアDNAの情報をもとに血縁関係を高精度で推定できるソフトウェアを開発したことで,新たなガイドラインを提案できることとなった.
その他行政的観点からの成果
新たなDNA解析プロトコルの作成,および血縁関係推定ソフトウェアの開発により,一柱でも多くの戦没者遺骨を遺族の元へお返しすることが可能となった.
その他のインパクト
DNA情報を元にした血縁関係の推定ソフトウェアは,大規模災害時の身元確認にも応用が可能であり,オープンソースのプログラミング言語Rで構築していることから、誰でも無料で利用できる形で公開する予定である.このソフトウェアに関しては学会等でも発表済みであり,近いうちに論文化する予定である.

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
1件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
3件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2024-07-01
更新日
-

収支報告書

文献番号
202301008Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
20,300,000円
(2)補助金確定額
20,300,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 17,464,720円
人件費・謝金 0円
旅費 35,280円
その他 0円
間接経費 2,800,000円
合計 20,300,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2024-10-07
更新日
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