タスクシフトによる医師労働時間短縮効果と医療機関経営上の影響に関する研究

文献情報

文献番号
202301005A
報告書区分
総括
研究課題名
タスクシフトによる医師労働時間短縮効果と医療機関経営上の影響に関する研究
課題番号
21AA2001
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
荒井 耕(国立大学法人一橋大学 大学院経営管理研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 阪口 博政(金沢大学 経済学経営学系)
  • 車田 絵里子(社会医療法人愛仁会高槻病院 臨床研究センター)
  • 齊藤 健一(京都大学 医学研究科 附属医療DX教育研究センター)
  • 平木 秀輔(京都大学 医学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(政策科学推進研究)
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究費
7,469,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
医師の労働時間短縮を進める方法の一つとしてタスクシフトの推進が課題となる中、各種シフトの費用対効果分析の必要性が提唱されたが、従来、その方法論は確立されていなかった。そこで本研究では、これまで暫定的な方法論を構築し、実地研究病院での適用や研究協力病院での試行的研究を通じて、より現実的に利用可能な方法論として改善してきた。本年度は、この改善された方法論に基づく費用対効果分析を実地研究病院でも検証しつつ、多数医療機関への展開可能性を検証する。またタスクシフトの推進による労働時間短縮という本研究の狙いの実現には、シフトの大きな阻害要因であるシフト先職種の余力不足の解消も進める必要があり、業務のより効率的な遂行が課題であるため、その課題解決への糸口も探る。
研究方法
以上の研究目的を達成するために、本研究では4つの調査を用いた。
実地病院調査では、研究班の医療機関において、改善された方法論に基づく費用対効果分析の検証などを行った。業務時間把握及び費用対効果分析調査では、令和4年度の調査に回答した病院群を対象として、19種類のシフト対象業務ごとに、タスクシフトに伴う各職種の業務所要時間の変化などのデータを収集した。その上で、令和4年度と本年度の収集データを統合し、『医療経済実態調査』から得られる各職種の人件費等を基に算出された職種別労務単価を適用することで、各種タスクシフトの費用対効果を分析し、研究班で構築改善してきた方法論の多数機関への展開可能性を検証した。インタビュー調査では、業務効率化への示唆を得るために5病院に調査をした。ICT等時短貢献意識調査では、ICT活用による効率化に向けて、今後優先的に検討すべきICT等を明確にすることを目的としてDPC対象病院の情報部門担当者にアンケート調査を実施した。
結果と考察
実地病院調査では、東京医科歯科大学病院においては、放射線部門における診療放射線技師や看護師、臨床工学技士へのタスクシフトについて、令和4年度までに構築改善したデータ収集及び費用対効果分析の方法論が有効に利用でき、妥当性が確認された。また愛仁会高槻病院と田附興風会北野病院では、それぞれ技術部門と医師事務作業補助者部門でのタスクシフトの導入実践プロセスを詳細に分析して、実効性のあるシフト活動実現の要点を明らかにした。
業務時間把握及び分析調査では、254病院から有効回答を得て、回収期間と医師労働短縮時間数を算出して費用対効果を分析できた。また外れ値除去後の1,198事例群を対象に、19種類の業務別に見ると、費用対効果が相対的に良い種類から悪い種類まであり、経営上の負荷が小さく医師労働短縮時間数が大きい種類から優先的に取り組むという経営政策を採りうることが確認された。また各病院が実施している各種タスクシフト全体としての経営上の負荷は基本的に大きくはない一方で、各病院の各種シフトのための投資全体により得られる医師労働時間短縮は大きく、各病院にとっての各種シフトへの取組みは、全体として費用対効果が良いことも明らかとなった。
またインタビュー調査では、業務標準化の推進(習熟による効率化)、ICTの活用、円滑化による効率化の可能性が示唆された。ICT活用には、作業の完全代替や他作業との並行による直接的な効率化と、業務を為す前提となるデータへのアクセス等を短縮する間接的な効率化が見られた。円滑化による効率化は、医療技術職等を多能工化することでアイドルタイムが最小化されて効率化するものである。
加えてICT等時短貢献意識調査では、ICT活用による効率化に関して、ICT等の種類ごとに、さらなる導入の余地や時短への貢献度意識を明確にして、今後優先的に検討すべきICT等についての示唆を得るためにアンケート調査を実施し、電子問診や音声入力、RPAなどは、特に優先順位が高いことが判明した。
結論
タスクシフトによる医師労働時間短縮効果と医療機関経営への負荷に基づいて各種シフトの費用対効果を分析する、現実的に利用可能で多数医療機関での展開可能性のある方法論を確立することができた。また今回分析対象とした19業務種類について、1,589事例の費用対効果分析の結果を提示でき、これから各種タスクシフトに取り組む病院にとっての参考を提供できた。さらに19業務種類別の費用対効果が明確になったことで、今後、医療機関に対して費用対効果の大きい業務種類から取り組むことを促すことができる。加えて、今後期待されるより効率的な業務遂行にはICT等の活用が有効であるが、特に優先的に検討すべきICT等についての示唆も得ることができた。

公開日・更新日

公開日
2024-07-01
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2024-07-01
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202301005B
報告書区分
総合
研究課題名
タスクシフトによる医師労働時間短縮効果と医療機関経営上の影響に関する研究
課題番号
21AA2001
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
荒井 耕(国立大学法人一橋大学 大学院経営管理研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 阪口 博政(金沢大学 経済学経営学系)
  • 平木 秀輔(京都大学 医学研究科)
  • 齊藤 健一(京都大学 医学研究科 附属医療DX教育研究センター)
  • 内藤 嘉之(社会医療法人愛仁会 高槻病院)
  • 吉村 長久(京都大学 医学研究科 眼科学)
  • 車田 絵里子(社会医療法人愛仁会高槻病院 臨床研究センター)
  • 森 由希子(国立大学法人 京都大学 医学部附属病院 医療情報企画部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(政策科学推進研究)
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
医師の労働時間短縮に向けてタスクシフトの推進が課題となっている。しかし極めて厳しい経営環境下にあって、短期的にはコスト増と認識されがちなタスクシフトに対して、医療機関が積極的に取り組むことに躊躇せざるを得ない状況にある。そのため、各種シフトの費用対効果分析を実施して、費用対効果が大きいタスクシフトを明らかにすることは極めて重要である。しかし従来、タスクシフト種類ごとの費用対効果分析の方法論は確立されていない。そこで本研究では、タスクシフトによる医師労働時間短縮効果と医療機関経営への影響を体系的に分析する方法論を確立することを目的とした。その際、理論的な方法論をいくつかの医療機関で実践してより現実的に利用可能な方法論として確立し、また多数医療機関で適用可能な方法論とすることを目的とした。
研究方法
以上の研究目的を達成するために、令和3年度には、文献調査、実地病院調査、労務費単価検討調査、アンケート調査、インタビュー調査の5つの調査、令和4年度には、実地病院調査、試行収集分析調査、アンケート調査、インタビュー調査の4つの調査、令和5年度には、実地病院調査、業務時間把握及び費用対効果分析調査、インタビュー調査、ICT等時短貢献意識調査の4つの調査を実施した。
結果と考察
令和3年度には、国内外の文献調査により参考となる研究がないかを確認しつつ、実地研究病院でのデータ収集の試みや実地研究病院およびインタビュー調査対象病院でのシフト状況に関する質的なデータを参考にして、また利用するのに適した労務費単価の検討もして、タスクシフトによる医師労働時間短縮効果と医療機関経営への影響を体系的に分析するための暫定的な方法論を構築した。また全国の病院にシフトの現状に関するアンケート調査も実施して、費用対効果分析の優先対象とすべき業務を明確にした。
令和4年度には、暫定的に構築した方法論を実際に3つの医療機関で実践することを通じて、より現実的に利用可能な方法論として改善した。また、費用対効果分析の多くの機関への展開可能性を検証するために、令和3年度の調査結果から優先的な分析対象とした19種類のシフト業務を対象に、より多くの機関での適用研究に先立ち7病院への試行収集分析調査を実施した。その調査により把握した、多病院からデータ収集する上での課題を踏まえて、年度後半にはアンケート調査を通じて、シフト対象業務ごとに、費用対効果分析に必要なシフトに伴う技術的な初期費用に関連する諸データを収集した。加えて、インタビュー調査により、シフト先職種の業務引受余力などのシフトにおける質的状況もさらに把握した。
令和5年度には、令和4年度の初期費用調査に回答した病院を対象に、各種シフトの月間発生件数とシフト開始前後の医師及び他職種の当該業務実施にかかる一回当たり所要時間に関する調査を実施した。両年度の調査からの各シフト事例のマニュアル作成・研修時間・業務所要時間データに、対応する各職種の労務単価を乗じて、シフトのための技術対応初期費用とシフト開始による年間人件費節約額を算出し、各事例のタスクシフトに伴う経営上の負荷としての初期費用の回収期間を計算した。一方、令和5年度調査データから各シフト事例による年間医師労働時間短縮数も計算した。その上で、優先分析対象とした19種類別の回収期間及び医師労働時間短縮数の中央値や平均値などを算出し、19種類間での費用対効果の良し悪しを明らかにした。また、各種業務のシフト事例を病院別に集計し、各病院の各種シフト全体としての回収期間と医師労働時間短縮数を把握し、その分布状況を分析した。さらに実地研究病院でも、構築改善された方法論に基づいて費用対効果分析を実施してその方法論を検証し、妥当であることが確認された。加えて、インタビュー調査により、業務標準化・ICT活用・円滑化によって業務効率化が可能なことが示唆され、またアンケート調査により、ICT活用による効率化に向けて今後優先的に検討すべきICT等についての示唆も得た。
結論
現実的に利用可能で多数医療機関での展開可能性のある方法論を確立できた。そのため、今後、今回分析対象とされていない看護師の各種特定行為などについても、費用対効果分析を容易に実施できる。また今回分析対象とした19業務種類について、1,589事例の費用対効果分析の結果を提示でき、これから各種タスクシフトに取り組む病院にとっての参考とできる。さらに19業務種類別の費用対効果が明確になったため、今後、医療機関に対して費用対効果の大きい業務種類から取り組むことを促すことに活用できる。加えて、今後期待されるより効率的な業務遂行を推進する上で、特に優先的にその費用対効果を分析して導入意思決定を支援すべきICT等を明確にすることに活用できる。

公開日・更新日

公開日
2024-07-01
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2024-07-01
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202301005C

成果

専門的・学術的観点からの成果
現実的に利用可能で多数医療機関での展開可能性のある各種タスクシフトの費用対効果分析の方法論を確立した。そのため、今後、今回分析対象とされていない各種特定行為なども、費用対効果分析を容易に実施できる。また今回分析対象とした19業務種類について、1,589事例の費用対効果分析の結果を提示でき、これから各種タスクシフトに取り組む病院にとっての参考となる。さらに19業務種類別の費用対効果が明確になったため、今後、医療機関は経営的観点を考慮して、費用対効果の良い種類から優先的に取り組むことができる。
臨床的観点からの成果
該当しない
ガイドライン等の開発
本研究ではガイドライン等の開発を特に目的としていないが、本研究の分析結果自体が、厚生労働省の「医師の働き方改革を進めるためのタスク・シフト/シェアの推進に関する検討会」がタスクシフトを「特に推進すべきもの」としたものの内の19種類のタスクシフトごとの費用対効果を明らかにしたものであるため、これら19種類の「特に推進すべきもの」の中から、医療機関にとって経営的に有利なタスクシフト種類から優先的に実践するための実質的なガイドラインとなっている。
その他行政的観点からの成果
厚生労働省の「医師の働き方改革を進めるためのタスク・シフト/シェアの推進に関する検討会」において、その推進のために費用対効果分析の必要性が唱えられる中、当検討会が「特に推進すべきもの」とした19種類のタスクシフトについて費用対効果を明らかにしたため、今後、医療機関に対して費用対効果の大きい種類から優先的に取り組むことを促すことができる。また今回、費用対効果分析の方法論が確立されたため、今後、より広範なタスクシフトを対象に費用対効果を分析して、経営的観点を踏まえた優先的推進を図ることが可能となる。
その他のインパクト
「医師の労働時間減へ「タスクシフト」広がる 来春からの規制前に、特定看護師が呼吸器や麻酔管理」朝日新聞2023年8月16日朝刊18面の記事内で、「タスクシフトの費用対効果や医療機関経営への影響を研究している」として紹介されました.また、『日経ヘルスケア』2023年7月号p.65で「特集 中小病院がやっておくべき「医師の働き方改革」4つのポイント:タスクシフトは初期投資の負担が少ないものから着手しよう」として研究結果の一部が紹介されました。

発表件数

原著論文(和文)
2件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
0件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
ガイドライン相当1件
その他成果(普及・啓発活動)
2件
マスコミ発表2件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2024-07-01
更新日
-

収支報告書

文献番号
202301005Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
9,700,000円
(2)補助金確定額
8,987,000円
差引額 [(1)-(2)]
713,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 703,155円
人件費・謝金 1,479,630円
旅費 723,045円
その他 3,850,395円
間接経費 2,231,000円
合計 8,987,225円

備考

備考
自己資金 225円

公開日・更新日

公開日
2024-09-27
更新日
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