文献情報
研究課題名
レセプトデータ等を用いた、長寿化を踏まえた医療費の構造の変化に影響を及ぼす要因分析等のための研究(傷病構造及びサービス提供体制が医療費構造に及ぼす影響の分析)
研究代表者(所属機関)
松田 晋哉(産業医科大学 医学部・公衆衛生学)
研究分担者(所属機関)
- 村松 圭司(産業医科大学 医学部 公衆衛生学)
- 藤本 賢治(産業医科大学産業保健データサイエンスセンター)
- 劉 寧(リュウ ネイ)(産業医科大学 医学部)
- 得津 慶(産業医科大学 公衆衛生学)
- 松垣 竜太郎(産業医科大学 医学部公衆衛生学教室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(政策科学推進研究)
研究者交替、所属機関変更
松垣竜太郎
医学部公衆衛生学から生態科学研究所に組織内配置換え(令和5年9月)
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究では初年度の検討結果を踏まえて厚生労働省から提供された所得情報付医科レセプトを用いて、所得が医療介護サービスの利用に及ぼす影響の分析し、また将来の傷病構造と入院医療費を推計するシミュレーションツールを開発することを目的とした。
研究方法
厚生労働省から提供を受けた所得情報付き医科レセプトを用いて都道府県別に入院医療費に影響する要因についてモデル構築を行った。具体的には都道府県別にデータの半数を学習用データとして用い、残りの半数のデータを検証用として、Neural net、Linear-AS、線形回帰、一般化線形モデルなど14のモデルを用いて推計を行った。用いた変数は性別、年齢階級(75-79歳、80-84歳、85-89歳、90-94歳、95歳以上)、122に分類された主傷病それぞれの有無である。推計結果を人口推計に掛け合わせ、入院医療費を推計するツールをExcelで作成した。
また、所得と医療費との関係について分析を行った。
結果と考察
機械学習を行った結果、47都道府県すべてで一般化線形モデルでシミュレーションモデルを作成することが妥当であるとの結果となった(学習データと検証データとの相関がいずれも0.8以上)。ツールはMS-EXCELのマクロ機能を用いて47都道府県別に県レベル、市町村レベルで推計できる仕様とした。シミュレーションを行った結果、いずれの地域でも骨折が入院医療費に与える影響が大きく、その対策が重要であると考えられた。ある県のデータを用いて、所得区分(10階級)別医療費と自己負担割合の分析を行った結果では、所得がもっとも高い群でのみ全医療費に対する自己負担額が10%となっていた。また、全収入と医療費との関係を見ると、所得区分で上位2区分のみ医療費が全収入の範囲に収まっていた。
結論
医療保険レセプト及び介護保険レセプトを用いて地域別の傷病構造及びそれに伴う医療費構造の推計を行うモデル開発の検討を行った。このツールはEXCELのマクロ機能を用いて作成しているため、特別なICT環境を必要とせず、簡便に用いることができる。傷病別にシミュレーションを行うことができるため、地域両計画医療計画における5疾病5事業との関係が明確になり、医療費適正化計画に関しても具体的な議論が可能になると考える。
研究報告書(PDF)
研究報告書(紙媒体)
文献情報
研究課題名
レセプトデータ等を用いた、長寿化を踏まえた医療費の構造の変化に影響を及ぼす要因分析等のための研究(傷病構造及びサービス提供体制が医療費構造に及ぼす影響の分析)
研究代表者(所属機関)
松田 晋哉(産業医科大学 医学部・公衆衛生学)
研究分担者(所属機関)
- 村松 圭司(産業医科大学 医学部 公衆衛生学)
- 藤本 賢治(産業医科大学産業保健データサイエンスセンター)
- 劉 寧(リュウ ネイ)(産業医科大学 医学部)
- 得津 慶(産業医科大学 公衆衛生学)
- 松垣 竜太郎(産業医科大学 医学部公衆衛生学教室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(政策科学推進研究)
研究者交替、所属機関変更
松垣竜太郎
医学部公衆衛生学から産業生態科学研究所に配置換え(令和5年9月)
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究では我々が国内の自治体の協力を得て構築している医療・介護レセプトデータベース(12区市府県の2000万人について個人単位で最長15年追跡可能)及び厚生労働省から提供された所得情報付医科レセプトを用いて、所得が医療介護サービスの利用に及ぼす影響の分析し、また将来の傷病構造と入院医療費を推計するシミュレーションツールを開発することを目的とした。
研究方法
本研究では以下の2つの研究を行った。
1.医療介護連結レセプトを用いた分析: 当教室の保有する医療介護レセプトデータのうち、被保険者の所得情報(介護保険料の段階区分)及び各地区の社会経済状況に関する情報のある一自治体のデータを用いて、所得が医療介護サービスの利用料に及ぼす影響と各傷病の地域別の有病率の時系列変化について探索的に検討を行った。
2.所得情報付き医科レセプトデータを用いた分析: 厚生労働省から提供を受けた所得情報付き医科レセプトを用いて都道府県別に入院医療費に影響する要因についてモデル構築を行った。具体的には都道府県別にデータの半数を学習用データとして用い、残りの半数のデータを検証用として、Neural net、Linear-AS、線形回帰、一般化線形モデルなど14のモデルを用いて推計を行った。用いた変数は性別、年齢階級(75-79歳、80-84歳、85-89歳、90-94歳、95歳以上)、122に分類された主傷病それぞれの有無である。推計結果を人口推計に掛け合わせ、入院医療費を推計するツールをExcelで作成した。また、所得と医療費との関係について分析を行った。
結果と考察
1..医療介護連結レセプトを用いた分析: 所得区分別の医療介護サービスの利用状況及び主な傷病の状況を概観すると所得区分の低い群では介護保険の利用率が高く、特にサービス種別では特別養護老人ホームとグループホームの利用率が低所得群で高くなっていた。他方、訪問看護は医療保険、介護保険ともに高所得群で高くなっている。訪問診療については低所得群と高所得群で高く、中位の群で低いというU字型の利用状況となっていた。所得区分と主な傷病の有病率をみると、所得区分が高くなるほど悪性腫瘍および糖尿病などいくつかの有病率が高くなっていたが、他の傷病では明確な差は観察されなかった。介護給付額と医療費の一人当たり平均には、所得区分で明確な差が観察された。所得区分3(本人市民税非課税、同居家族市民税課税)を対象とすると、それよりも低い群、高い群ともに給付額が有意に大きくなっていた。特に低所得群でその額は大きくなっていた。他方、医療費は区分3に比較して他の区分はいずれも有意に平均費用が低くなっていた。特に減少額は低所得層で大きかった。
2.所得情報付き医科レセプトデータを用いた分析: 機械学習を行った結果、47都道府県すべてで一般化線形モデルでシミュレーションモデルを作成することが妥当であるとの結果となった(学習データと検証データとの相関がいずれも0.8以上)。ツールはMS-EXCELのマクロ機能を用いて47都道府県別に県レベル、市町村レベルで推計できる仕様とした。シミュレーションを行った結果、いずれの地域でも骨折が入院医療費に与える影響が大きく、その対策が重要であると考えられた。ある県のデータを用いて、所得区分(10階級)別医療費と自己負担割合の分析を行った結果では、所得がもっとも高い群でのみ全医療費に対する自己負担額が10%となっていた。また、全収入と医療費との関係を見ると、所得区分で上位2区分のみ医療費が全収入の範囲に収まっていた。
結論
社会経済環境要因、例えば所得の状況は、悪性腫瘍や糖尿病を除いて有病率に大きな影響をもたらしていないが、医療介護サービスの利用率に有意の影響をもたらしていた。
傷病構造及び医療費の変化については、地域単位で、いくつかの操作可能なパラメーターを設定して、それを推計するモデルを作成することが妥当であると考えられた。このツールはEXCELのマクロ機能を用いて作成しているため、特別なICT環境を必要とせず、簡便に用いることができる。都道府県医療費適正化計画に関しては、機能分化や連携、あるいは在宅医療を進めることで、在院日数の短縮を行うことが、実際的である。傷病別にシミュレーションを行うことで、医療計画における5疾病5事業との関係が明確になり、具体的な議論が可能になると考える。
研究報告書(PDF)
研究報告書(紙媒体)
行政効果報告
成果
専門的・学術的観点からの成果
後期高齢者の入院レセプトと社人研の人口推計を用いて、市町村単位で傷病別医療費を推計するモデルを教師付き機械学習の手法を用いて作成した。推計精度は高く、各自治体の公衆衛生政策を立案する上で有用な資料になると考える。成果については今後、国内外の雑誌に論文として発表していく予定である。国際的には同様のシミュレーターがアメリカやイギリスにおいて開発されているが、本研究のレベルで詳細な傷病別推計を行ってはいない。
臨床的観点からの成果
本研究で作成したシミュレーターでは、多くの自治体で骨折が入院医療費に与える影響が最も大きくなっていた。この結果について、骨折および骨粗しょう症関連の研究会で発表した。今後、この推計結果をもとに、骨折予防のための地域保健・地域医療における取組(ロコモ健診とそれに続く対策)が推進されることが期待される。また、心不全の影響が大きいことも明らかになった。心不全の入院予防のための対策を検討する基礎資料として活用されることも期待される。
ガイドライン等の開発
これまでのところガイドライン等の開発には使用されていない。
その他行政的観点からの成果
本研究によって骨折の医療経済への影響が大きいことが示されたが、このことは介護保険制度において取り組まれている基本チェックリストによる運動器機能向上プラグラムの重要性を確認するものである。介護保険事業計画等への反映が期待される。
特許
主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)
収支報告書
支出
研究費 (内訳) |
直接研究費 |
物品費 |
316,950円 |
人件費・謝金 |
0円 |
旅費 |
0円 |
その他 |
3,020,050円 |
間接経費 |
1,001,000円 |
合計 |
4,338,000円 |