高齢者の健康維持・増進支援システムの開発

文献情報

文献番号
199700638A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢者の健康維持・増進支援システムの開発
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
吉武 裕(国立健康・栄養研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 吉武裕(国立健康・栄養研究所健康機器調査研究室長)
  • 川久保清(東京大学医学系研究科助教授)
  • 田中宏暁(福岡大学体育学部教授)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成10(1998)年度
研究費
7,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
世界保健機構は、高齢者の健康の指標を生活機能における自立をもって当てはめることを提唱している。このことは、活動余命の延長が高齢者の健康づくりにおいて重要な課題であることを示している。
わが国においても高齢社会を迎え、身体的不活動による脆弱な高齢者の増大により、生活機能の自立度が低い高齢者の対策が急務とされるようになってきた。
最近、高齢者の生活機能の自立度を高める手段の一つとして運動の有効性が確認されつつあるが、安全性と有効性を考慮した高齢者の健康維持・増進システムはないのが現状である。
そこで本研究班では、1)高齢者の身体活動量測定システム(吉武)、2)運動指導と安全確保のための負荷解析システム(川久保)(川久保)、および3)高齢者の運動処方評価システム(田中)の3項目について検討することを目的とした。
研究方法
1)高齢者の身体活動量測定システム(吉武):今年度は、本研究で試作した身体活動量測定システムによる歩行時間推定の妥当性について検討した。青年女性20名を対象に、通勤(通学)、仕事などの日常生活活動中の歩行時間を計測した。歩行時間の計測は2人1組(被検者と観察者)で行った。被検者は小型ホルター心電計に歩数計を接続した身体活動量計を装着し、通常の日常生活を行わせた。被検者の実歩行時間は、観察者がストップウォチにより計測した。また、それと同時に行動記録の調査も行った。
2)運動指導と安全確保のための負荷解析システム(川久保):運度負荷試験はエルゴメータを用いたランプ負荷にて行い、運動負荷時の心拍数、血圧応答および心電図解析の結果を運動処方強度に反映するシステムとした。運動負荷試験は146名の中高年者を対象に行った。基本的な運動処方強度(処方心拍数は、年齢別予測最大心拍数(220-年齢)の65~72%とした(最大酸素摂取量の50~60%強度)。心拍数と収縮期血圧の単回帰直線から収縮期血圧200mmHg時の心拍数を求め、処方心拍数より低い場合は、200mmHg時の心拍数を処方心拍数として採用した(修正処方心拍数)。運動負荷試験終了時の心拍数が処方心拍数より低い場合には同様に修正した。心拍数とwattの直線回帰から修正心拍数に相当するwattも求めた。
3)高齢者の運動処方評価システム(田中):自転車エルゴメ-タ-によるRAMP負荷テストを60歳以上の男女について26例行った。負荷漸増の傾斜は10w/minとした。それぞれの被検者について心拍数が75% 最大心拍数に到達した時点でDPBPを自動算出し、この負荷以後とりこまれたデ-タ-毎に算出されたDPBPが連続して4-回ともに誤差が5%未満であれば負荷を中止するアルゴリズムを適用し算出した(DPBP;以下DPBPauto)。そして、DPBPautoと運動負荷中に求められた全デ-タ-を基に算出したDPBP(以下DPBPallとする)を比較検討した。 
なお、75%最大心拍数は次式を用いた:75%最大心拍数=0.75*(220-年齢)。またDPBPは独立変数を仕事率、従属変数を二重積として残差分散が最小になる折れ線グラフを求めその屈曲点であるDPBPを自動的に算出した。統計処理には対応あるt-検定、差の変動係数および相関係数を用いた。
結果と考察
結果=
)高齢者の身体活動量測定システム(吉武):身体活動量測定システムによる総歩行時間とストップウォチによる実歩行時間との間にはr=0.885(p<0.01)の有意な高い正相関が得られた。また、炊事、通勤、ゆっくり歩行などの各種動作時における身体活動量測定システムによる歩行時間とストップウォチによる実歩行時間の比較も行った。その結果、日常生活の動作強度が低くなるに従って、本システムによる歩行時間は過大に評価される傾向にあった。
2)運動指導と安全確保のための負荷解析システム(川久保):年代別修正処方心拍数を検討した結果、修正処方心拍数は平均値で20歳代の120~140拍/分から、70歳代の95~105拍/分に分布した。この結果は、厚生省の健康のための運動所要量で示された処方心拍数の範囲とほぼ一致した。体重1kgあたりの処方wattの平均値は、20歳代の1.26~1.58から70歳代の0.65~0.98に分布した。
3)高齢者の運動処方評価システム(田中):DPBPallとDPBPautoは近似し両者間に有意な差はなかった(DPBPall:47.9±16.9Wvs DPBPauto:47.3±17.4W)。両者の差の変動係数は6%、相関係数は0.984であった。DPBPautoとDPBPallとの誤差が最も大きかったのは7Wで、5W未満が26名中21名で全体の8.5割に達した。
考察=
1)高齢者の身体活動量測定システム(吉武):身体活動量の測定には動作の強度と時間の把握が必須である。我々は高齢者の身体活動量測定においては、歩行状況の把握が重要であることを明らかにしている。そこで昨年は、本システムにより計測される歩行率(単位時間あたりの歩数)が運動強度をどの程度反映するかを検討した。その結果、本システムにより計測される歩行率は酸素摂取量や心拍数と高い有意な相関関係があることを明らかにしている。
そこで今年度は、本システムによる歩行時間の測定を行った。その結果は、本システムにより測定された歩行時間は日常生活時の歩行時間と高い有意な相関関係が認められた。
以上のことから、本システムは高齢者の歩行の運動強度と時間の測定が可能であることから、高齢者の身体活動量測定システムとして有用であると考えられた。また、本システムによる測定結果は、運動負荷量を決定する際の有用な情報を提供できることが可能性が示唆された。
2)運動指導と安全確保のための負荷解析システム(川久保):高齢者の運動処方においては、運動に対する循環応答の個人差が非常に多い点を考慮しなければならない。運動処方における負荷強度の処方は、簡易的には従来年齢別予測最大心拍数に適度な指数をかけて求められている。しかし、この方法の難点は実際の運動時の心拍応答の個人差を考慮していないことである。また、運動時に心拍数に比して課題に血圧が上昇する例があり、運動時の安全性確保のためにも、その時の循環応答の個人差を処方に反映する必要がある。運動試験を行ったとしても、その時の循環応答の個人差を処方に反映する方法については検討が少なかった。これらの点を考慮した本研究の方法は、個々人の安全域を確認できることから、簡易に個人の体力レベルにあった運動を処方する際の有用な情報を提供できるものと思われる。
3)高齢者の運動処方評価システム(田中):昨年度提案した運動負荷自動中止のアルゴリズムの妥当性を60歳以上の高齢者について26負荷試験例で確かめたところ、妥当性の高い結果が得られた。この結果に基づき、本装置に改良を加え、75%最大心拍数を越えた時点とDPBPが判定できた時点でモニターの色を変えたり、画面を点滅するといった方法で検者にメッセージを送るか自動的に負荷を中止するソフトを入れることを提案したい。このような改良により、少ない検者で一度に多人数の高齢者を対象に、しかも非常に精密な体力診断と運動処方作成のための負荷テストが可能となる。また、本システムは川久保のシステムと一体にすることによって、安全性と有効性を考慮した精度の高い高齢者の運動負荷解析および運動処方評価システムが可能と考えられる。
結論
運動による高齢者の生理機能の自立度を高めるための高齢者の健康維持・増進支援システムの開発を行った。その結果、1)高齢者の日常の歩行時間と運動強度の測定、2)運動負荷試験の運動強度の安全域と運動負荷試験の中止基準の判別、および3)安全域内で効果的に二重積屈曲点(Double Product Break - point)を用いて体力診断・運動処方ができる運動処方評価システム(田中)の3項目について検討し、いずれも自動化が可能であることが明らかになった。次年度は、3つのシステムの総合化を図り、1つにシステムとして製品化の予定である。

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