情報・通信技術を応用した高齢者支援システム

文献情報

文献番号
199700637A
報告書区分
総括
研究課題名
情報・通信技術を応用した高齢者支援システム
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
稲田 紘(国立循環器病センター)
研究分担者(所属機関)
  • 小笠原康夫(川崎医科大学)
  • 吉田勝美(聖マリアンナ医科大学)
  • 吉原博幸(宮崎医科大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成8(1996)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
11,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
在宅や施設の高齢者がquality of life(QOL)の面でも充実した日常生活を過ごすには、健康面での支援をはかることが重要で、このためには健康状態の把握や疾病管理に必要な高齢者の日常時の健康に関する情報を収集して、保健・医療・福祉の関係機関や関係者へ伝達とすることが要請される。しかし、現状では特定のものを除き、こうした高齢者の健康情報の収集・伝送と、これに基づく関係者間における情報交換を迅速に可能とする手段はほとんど見られない。そこで本研究では、発展の著しい情報・通信技術の応用により、高齢者の各種健康情報の収集・記録・伝送・処理を容易に的確にかつ迅速に可能とし、関連機関や関係者間で、これらの情報の伝達・交換を円滑に実施することのできる幾つかのシステムを開発しようとする。そして、これらのシステムの実用化をはかることにより、保健・医療・福祉面から高齢者の日常生活の支援を行おうとするものである。
研究方法
上記の研究目的のもとに、昨年度に実施した基礎的研究やシステム設計などに基づき、以下のような各システムについて研究開発を進めた(かっこ内は分担研究者名)。
1.保健・福祉情報の収集・伝送システム(稲田):在宅高齢者の健康情報としてバイタルサインや画像情報を収集し、かかりつけ医のいる医療機関などへ伝送可能なシステムを開発するべく、本年度は、昨年度に詳細設計を実施した心電図・心拍数・身体活動度・動脈血酸素飽和度などのバイタルサインデータを収集するシステムのプロトタイプを二つのユニットに分けて試作した。そして、試作システムにより収集したデータをパソコンの画面に表示するためのプログラムを作成した。さらに、試作した各ユニットの在宅高齢患者による試用から、操作性に関する評価を試みた。
2.高齢者の循環機能評価のための微小血管動態観察・処理システム(小笠原):高齢者を対象としたアクセスが極めて容易な顕微鏡システムを構築・応用し、ヒト舌下部微小循環に対する各種薬剤の反応を直接観察・解析しようとして、本年度は観測した微小循環画像の解析手法開発に主眼を置き、研究を進めた。具体的な処理手順は、ビデオテープに録画された微小循環画像をA/D 変換し、ディジタルイメージファイルとして蓄積した後、画像内から解析対象とする血管像に関心領域を設定して、血管形状の特徴を抽出する。特徴量としては、血管径、血管中心軸の形態(弯曲度)、血管分岐角度、血管分枝の長さなどがある。第一段階として血管径変化を特徴量として用い、その計測精度について検討した。
3.高齢者の健康管理のための問診システム(吉田):本研究では、在宅高齢者に対し適切な健康情報を提供するため、QOL の確保・向上を目標として、昨年度に開発した専用の問診調査票に、高齢者が在宅から通信手段を介して回答することにより、必要な保健情報を提供しうるシステムの開発を試みようとする。本年度は、QOL を中心とした健康情報について、インターネットホームページを介しての入力環境を整備するとともに、高齢者に適した入力手段の基礎的要件を整理した。
4.広域ネットワークを利用した健康情報支援システム(吉原):本研究は、高齢者とその介護者、訪問看護婦・保健婦など保健・医療関係者と、専門の医療機関とのコミュニケーションを高め、健康情報の共有により、在宅医療における諸問題の解決をはかろうとする。このため昨年度は通信サーバを構築し、WWW サーバと実験的なデータベースサーバを構築するとともに、通信方法の研究から、電子機器に不慣れなユーザのためのインターフェイスを設計・検討した。本年度は、本方式をさらに発展させ、患者個別の問診情報の管理、電子カルテシステムとの連携などについて検討した。
結果と考察
上述の各システムに関する本年度の研究について、得られた主な結果を記す。
1.保健・福祉情報の収集・伝送システム:バイタルサイン収集システムのプロトタイプとして試作した心電図・身体活動度収集ユニットと動脈血酸素飽和度収集ユニットの寸法と重さは、各々118(H) x 64(W) x 23(D)mmと150g、90(H) x 134(W) x 35(D)mm と250g である。これらにより収集したデータのパソコンでの画面表示は、トレンドグラム表示のほか、心拍数については全データの心拍数区分領域による色分け表示とイベント時の32秒前に遡った心電図波形表示を可能とした。高齢患者の試用による操作性の評価では、電源スイッチなしで計測開始時に電池を装填する方法などは、高齢者に不向きなことを認めた。
2.高齢者の循環機能評価のための微小血管動態観察・処理システム:計測対象の血管の直径は数10μm から200μm程度で、径変化は血管軸方向に一様に生じる場合が多く、また不均一な収縮・弛緩が観測される場合でも、血管軸長さ数10μm の部分は同程度の血管拡張あるいは収縮が生じていることが多かった。したがって、径の変化量の計測については、血管軸方向に血管径と同程度の長さの観測窓を設定して、そのなかでの平均的な径変化を解析した。解析には専用画像処理ソフト(NIH Image )を用い、マクロプログラムを作成した。血管拡張作用を有するニトログリセリンを舌下に散布投与すると、予備実験では数%から十数%の血管径変化が生じることがわかった。
3.高齢者の健康管理のための問診システム:50問から構成される高齢者問診の入力画面毎に区切りを入れ、入力の確認ができるように設定した。出力結果については、QOL に関して5軸得点評価が可能なように、保健指導画面はグラフ表示と保健指導コメント表示の二つから構成した。また、端末としての特性や高齢者の生理的変化からみた高齢者端末の必要条件を検討した。QOL 以外の愁訴情報については、保健医療福祉施設間での情報の共有化を行うために所見を整理するコードとして、International Classification of Pri-mary Care 分類コードの検討を行った。
4.広域ネットワークを利用した健康情報支援システム:宮崎医科大学で実験的に稼働中の電子カルテシステムに診療情報を搭載し、別途作成した問診サーバには、患者の主病名に応じた問診データを設定して、患者が定期的にこれらのシステムにアクセスすることを想定した実験を行った。患者がアクセスすると、患者ごとに最適化された問診が行われ、入力されたデータは自動的に電子カルテシステムに登録される。このデータはシステムによって自動的に評価され、異常のある場合は自動的に電子メイルを経由して担当医師に連絡されるようになっている。
以上のように本研究では、在宅や施設の高齢者の健康情報を収集し、医療・福祉機関や関係者などへ伝送して、情報の共有・交換を行うため、取り扱う情報の種類がやや異なる4つのシステムの開発をめざして、昨年度はシステムの設計を中心とする研究を実施した。本年度はその成果を1歩進め、試作システムの構築を行ったが、各システムの開発の見通しが十分得られたと思われる。そのうち、保健・福祉情報収集・伝送システムにおけるバイタルサイン収集システムや高齢者の循環機能評価のための微小血管動態観察・処理システムのように、実際に高齢者を対象とする試用実験を試みたものもあるが、システムの有用性の評価を行うには十分とはいえない。したがって、次年度は各システムの本格的な構築を進めるとともに、高齢者を対象とした試用実験を重ね、実用化のための試行錯誤的な検討により、高齢者に役立つものとする必要があろう。
結論
保健・医療・福祉面から支援するため、高齢者の健康情報の収集・記録・伝送・処理が可能な幾つかのシステムを開発しようとし、昨年度の成果に基づき試作システムの構築や一部の試用を実施した。その結果、システムの開発に関する見通しが得られたが、実用化のためには、次年度に各システムの本格的な構築と試用・評価を行わねばならない。

公開日・更新日

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