高齢者の自立・QOL支援システム

文献情報

文献番号
199700636A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢者の自立・QOL支援システム
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
福井 康裕(東京電機大学理工学部応用電子工学科)
研究分担者(所属機関)
  • 廣瀬秀行(国立身体障害者リハビリテーションセンター研究所)
  • 高橋誠(北海道大学大学院工学研究科)
  • 関口行雄(職業能力開発大学校福祉工学科)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成8(1996)年度
研究終了予定年度
平成9(1997)年度
研究費
-円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高齢者の自立、QOL向上を目的とした機器の開発は、積極的な社会参加を希望する高齢者が多いと言われていることなどからも重要な課題であると言える。自立・QOL向上を支援する機器の中でも特に行動範囲の拡大、日常生活動作の自立の実現は、介助者の負担軽減の点からも最重要課題である。本研究班ではこの移動機器の開発に主眼を置いたが、取り組んでいる4研究テーマは、従来の移動機能の補助・代行に主眼を置いた機器開発ではない高齢者の積極的な行動範囲の拡大、自立意欲の引き出しを狙ったものである。そのため、各研究とも装置の機構、制御法等に力を入れ移動支援における質的向上も考慮している。また、実用化を最重要課題としているため各研究テーマともに実際の高齢者あるいは実用を想定した場面での評価・検討を進めた。
研究方法
本研究班では、在宅および施設における移動に関して、?重度障害を持つ寝たきり高齢者のQOL向上を目的とした座位保持機能の研究(廣瀬)、?座位から立位への体位変換を人と椅子の運動空間の調和性を考慮し設計を行う電動介護椅子の研究(高橋)、?座位、または寝た状態から被介護者の車椅子等への移動を介助者と機器が協力して移動を可能にする柔軟性のある介助用パワーアシスト制御法の研究(福井)、?高齢者の自立・QOLの向上を目指した移動と姿勢変換機能を同時に備えた機能的姿勢変換機能付き車椅子の開発(関口)と言うように、寝たきりから→座位→立位→屋内移動→屋外移動・姿勢変換と言う移動とそれに伴う自立・QOL向上に関連する一連の機器の研究・開発を主任研究者の研究総括の下、実用化を目指し行っている。本年度は、?高齢者の座位保持に関する研究:重度寝たきり高齢者の生活の質的向上を目的とした車椅子に関し、座圧、すべり、介護の観点から評価を進め、重度寝たきり高齢者の座位保持に有効な機能に関し検討を行った。?空間調和性に優れる電動介護椅子:昨年度までの筋活動等の結果に基づき1個のアクチュエータにて動作可能な電動介護いすの開発を行い、カメラ等を用いた動作奇跡解析などからその有効性を確認した。?生活機器のためのパワーアシスト制御:移動用リフトに介助支援を行うための制御機能付きパワーアシスト装置を組み込み、被験者にて実際に動作評価を行い、特に安全性等に関し検討を行った。?機能的姿勢変換・移動支援装置:コンパクトな車椅子に姿勢変換機能を有する支持フレームを持つ新たな姿勢変換機能付き車椅子の設計開発を行い、実際に大型小売店などで試乗評価を行い作業範囲の検討、実用性に関する評価を行った。
結果と考察
結果=本年度は、各試作装置の人による評価、検討、実際の高齢者からのデータ収集を中心に研究を進めその実用性を評価した。以下に個々のテーマについて本年度の研究結果を述べる。?高齢者の座位保持に関する研究:在宅介護支援センターの入所者に対し3機種を用いて評価を行うとともに座圧の測定、すべりの測定などからその比較を行った結果、リクライニングするものが座圧が高く、すべりも発生しやすいことが確認され、ウオータータイプ、ジェリータイプの座面を持つものは座圧、すべりともに少なく座位保持により適していた。?空間調和性に優れる電動介護椅子:従来の座面のみ上昇させる方式のものと異なり、新規な方式では背もたれの動作も姿勢に合わせ動作させることにより、着座時の姿勢変換時に"く"の字をとることが無く、また立位変換時も従来の中腰状態までのアシストでなく立位まで自然な姿勢変換ができることが確認できた。?生活機器のためのパワ
ーアシスト制御:市販リフトに試作パワーアシストシステムを組み込み実際に被験者による評価を行った結果、上下動作ともに1.5kgw程度力で行うことが可能であった。また、床走行時、不意な振動が入力された場合などの安全性に関しても開発した動作アルゴリズムにて十分対応可能であることが確認された。?機能的姿勢変換・移動支援装置:試作を行った姿勢変換機能付き車椅子のフィールド評価の結果、移乗がしにくいこと、立位時の重心が前方に偏り、後方の駆動輪が浮き上がること、中間姿勢で座面が滑りやすいことなどの問題点が挙げられ、試作2号機にてこれらの問題を解決し良好な動作性能を得るに至った。
考察=高齢者の介助、介護機器の中でも移動支援、に関する機器の開発は介助者の労働力の軽減、被介助者の自立、社会参加を促すものでありまた、QOLの向上にも果たす役割は大きい。以下、本年度行った実験結果に基づき各々の研究課題について考察を行う。?高齢者の座位保持に関する研究:重度寝たきり高齢障害者を対象にリクライニングいす、ウオーターチェア、ジェリチェアに関しその介護操作性、座圧変化およびすべりを測定した。リクライニングいすは座圧力、すべりとも大きく結果として褥そうに至る可能性を有することが考えられた。他のものは座圧、すべりともに好ましい結果が得られたが機能としてティルト機能、除圧機能を検討する必要性があるものと考えられた。また、拘縮が著しい場合はさらなる検討を要する。?空間調和性に優れる電動介護椅子:開発を行った電動介護椅子は、背もたれも姿勢変化に合わせて動作するという従来にない機能を備えている。これを1個のアクチュエータで動作させたことによりいすの機構および動作奇跡は複雑なものとなったが、一つのスイッチで動作できるなど利点も大きい。身体の動作奇跡も自然に近いものが得られ、本いすの有用性が確認できたものと考える。?生活機器のためのパワーアシスト制御: 開発を行ったパワーアシスト機構を市販のリフトに組み込み、被験者の上下動を行ってみたが、従来のリモコン方式での速度とほぼ同等の速さで上下動が可能であり、急に手を離した際の安全性についても確認された。制御法は、振動などの外乱データに特に考慮したため走行中などにおける振動による誤動作も排除することが可能であった。?機能的姿勢変換・移動支援装置:姿勢変換機能付き車椅子の試作を2台行い、1台目にて生じた問題点を改良し2台目にて操作感などの向上など開発当初の目標を達成させることができた。現在の装置は、全て手動で立位姿勢変換時の操作もガススプリングによるものである。高齢者の中には、このガススプリングの補助では不足の場合も考えられ今後電動に変更するなどの改良も必要になるものと考える。
結論
本研究班では、今後の高齢者福祉分野における最重要課題である高齢者の自立、QOL支援システムについて、寝たきり→座位保持→座位から起立→移動支援→移動時の活動範囲の拡大という、寝たきりを無くし積極的に社会参加を可能にするまで、各レベルでの高齢者の自立意欲、QOL向上を支援する一連の機器に関し具体的なテーマを掲げ、実用化を目標とした機器開発・研究を進めてきた。本年度は各研究テーマとも、機器の試作を終え、人による評価を行い実用化への最終的な問題点、今後さらに要求される仕様の検討を行い、それを明確化した。 

公開日・更新日

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