移乗・移動支援システム

文献情報

文献番号
199700635A
報告書区分
総括
研究課題名
移乗・移動支援システム
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
土肥 健純(東京大学工学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 吉田耕志郎(東京都リハビリテーション病院整形外科)
  • 数藤康雄(国立身体障害者リハビリテーションセンター研究所)
  • 田中理(横浜市総合リハビリテーションセンター企画室)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成8(1996)年度
研究終了予定年度
平成10(1998)年度
研究費
12,200,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高齢者の自立意欲が強いにもかかわらず要介護の状況に置かれている日常生活活動として「移動・移乗」「排泄」「入浴」が挙げられる.中でも移動や移乗は他の動作の基礎であるために、その自立は排泄や入浴における問題解決につながり、極めて重要度が高い.そのため屋内や屋外の移動、また排泄や入浴における移乗動作の支援は大きな意義を持つ.現状では様々な支援機器・用具が市販されているが、操作性や価格、寸法、重量や使用環境条件などから適用出来る局面が限られている.特に高齢者の自立支援に関しては、加齢とともに低下していく身体機能や、日本家屋の居住環境を考慮して開発された機器が少なく介護者に依存しなくては移動出来ない場合がある.従って高齢者の移動・移乗を支援する福祉機器の開発が強く望まれている.
そこで本研究では、日常生活における重要課題である移動・移乗について高齢者の自立支援を目指した機器開発を目的としている.
研究方法
本研究では屋内外における高齢者の移動と移乗の支援を目的とし、個々の場面設定に基づいた具体的なテーマとして(1)移動介助用ロボットアーム、(2)段差昇降電動車いす、(3)移乗・移動自立支援装置、(4)高齢者用超軽量携帯用手押し車いすを取り上げ、これらについて特に高齢者の自立を促進するための機器の開発研究を行う.本年度は各テーマについて詳細設計と実験機の試作を中心とした研究を遂行する.
(1)移動介助用ロボットアーム(土肥):在宅において使用することを目的とし、屋内で起立と着席・歩行を支援するロボットアームの開発を行う.具体的には、アーム本体の軽量化を目的に、レールから機械的動力を供給する機構を考案し、実験機の試作を通じて、基本的な移動介助動作が行えるかどうかを評価する.
(2)段差昇降電動車いす(吉田):200mmの段差を安全に昇降可能とするため段差昇降機構の改良・軽量化を行う.本年度は電動モータによる機構を検討し、試作を行う.
(3)移乗・移動自立支援装置(数藤):移乗・移動の自立に関する課題として、重度高齢障害者のベッドから車いすへの移乗の際に転落の危険性が極めて高いことが挙げられることから、重度高齢障害者のベッドから車いすへの安全確実な移乗・移動装置を開発する.本年度は油圧ブレーキを利用することとして、様々な方式を比較検討する.
(4)高齢者用超軽量携帯用手押し車いす(田中):旅行携帯機能を重視した超軽量・コンパクトな車いすの実用化設計・試作を行う.また旅行時に要求の高いポータブルトイレ機能の負荷について検討する.
結果と考察
(1)移動介助用ロボットアーム(土肥):屋内での移動を支援するロボットアームとして、日本家屋内の段差などに影響されず確実に目的地に到達できるよう、天井走行方式を採用している.このとき屋内で動き回るアーム部本体を小型軽量化するため、レールに機械的動力源を埋め込む方式を検討した.具体的な方式として、レール内に回転パイプを設け、このパイプからの動力伝達によってアームの走行、回転、上下動を行わせることとした.アーム側は個々の動作に対応するローラを備え、個別に接触を切り替えることで複数自由度の動作を実現した.
考案した動力伝達方式に基づいて実験機を製作した結果、本方式によって基本的な移動介助動作が十分行えることを明らかにした.
(2)段差昇降電動車いす(吉田):道路の200mmの段差に対応するために、市販の電動車いすを基に段差昇降機構を開発している.車いすのコンパクト化のため、別途付加した電動モータにより走行車輪の内側からせり出す特殊ローラにより後輪を持ち上げる機構を考案した.また、段差を降りる際の衝撃吸収の為、車いす後部にショックアブソーバ機構を新たに考案し付加した.実験機で段差昇降動作を確認した.
(3)移乗・移動自立支援装置(数藤):重度高齢障害者のベッドから車いすへの移乗の際の転落の原因がブレーキのかけ忘れによる車いすの不用意な動きであることから、車いすから立ち上がる際に確実にブレーキのかかる機構を設計開発する.本年度は、わずかな力で確実にブレーキをかけるため、油圧を利用した機構を検討した.市販の各種油圧モータおよび油圧回路について各方式を比較検討し、ブレーキ機構を試作した.実際の車いすに装備しての評価実験から、試作したブレーキ機構は制動力に余裕があり、更に小型化できることが分かった.
(4)高齢者用超軽量携帯用手押し車いす(田中):旅行などの長距離の移動に利用できる携帯用車いすの実現のため、5kg以下の軽量化を目指して設計している.1操作で折りたたみできるよう、リンク機構を用いたフレームの構造を考案し、また車輪径を18インチから12インチへ変更した.試作機を製作したところ、フレーム構造にリンク機構を利用したため強度が向上し、更に車輪径の変更により軽量化も実現できた.宿泊時にホテル備え付けのトイレが利用できないとき、代替手段となるポータブルトイレ機能の付加については、座面を交換する方式で対応することとした.これにより移動時および排泄時の双方に快適な居住性を実現できた.
本研究では重度の高齢障害者から軽い不自由を抱える高齢者までの、屋内から屋外までの移動を対象としており、高齢者の移乗・移動支援機器開発としては広い対象をカバーしているため実用性の高い研究成果が得られると考えられる.以下、個々のテーマについて考察を述べる.
(1)移動介助用ロボットアーム:レール内部の回転パイプから動力を得て複数の自由度の動作を行わせるため、個々に接触状態を切り替えることのできるローラを用いた新しい方式を考案できた.この方法では、ローラの安定した接触が必要となるため、レールのたわみ等にも影響されずローラが接触できるよう、構造を改良していく必要がある.
また移動介助時に掴まるハンドル部分を交換可能とすれば、トレイなどに付け替えることで屋内の搬送機能を持たせることができる.これにより、天井走行レールを最大限に利用した総合的な介助システムとして発展できる可能性がある.そこで、天井走行レール導入のコストに見合うメリットをユーザに提供できるよう、移動以外の介助作業の支援についても検討していく必要がある.
(2)段差昇降電動車いす:考案した段差昇降方式によって、車いす全体の小型化は実現できたが、実験機ではトルク不足のため、搭乗者の体重によっては段差を登ることができなかった.またシャーシの変形によって動作効率が低下し、一層段差を登りにくくしていた.今後は、段差昇降のトルク向上、および全体のシャーシ補強が必要である.
(3)移乗・移動自立支援装置:試作した機構は小型軽量化は不十分であったが、制動実験では余裕の有る制動力を示した為、出力を下げたモータを使用すれば、いっそうの小型軽量化が可能であると考えられる.また機構上、油圧弁から空気が混入しやすく動作に障害を起こしていた為、今後は油圧回路を改良する必要がある.
(4)高齢者用超軽量携帯用手押し車いす:折り畳みの為のリンク機構の利用により、フレーム強度が向上したが、試作機では寸法精度などに問題があり実用に十分ではなかった.また、軽量化についても目標に達しておらず、今後とも強度向上および軽量化を図った試作改良が必要である.
ポータブルトイレ機能については、移動時および排泄時双方の利便を考え、座面交換式とした.座面に予め穴を開けておく方式とは異なり、使用時の居住性が十分確保できたと考えられる.今後は、排泄物入れの材質や消臭などについて検討していく.
結論
高齢者の日常生活における移乗・移動支援機器の開発として、(1)移動介助用ロボットアーム、(2)段差昇降電動車いす、(3)移乗・移動自立支援装置、(4)高齢者用超軽量携帯用手押し車いす、について具体的なニーズに基づき、詳細設計および試作評価を中心に研究を行った.各々についてトルク向上等、課題点が明確になった.今後は実用化に向けて、設計改良を進めていく.

公開日・更新日

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