在宅高齢者の健康自動計測システム

文献情報

文献番号
199700634A
報告書区分
総括
研究課題名
在宅高齢者の健康自動計測システム
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
戸川 達男(東京医科歯科大学医用器材研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 石島正之(東女医大医工研助教授)
  • 山越憲一(金沢大工学部教授)
  • 太田茂(川崎医療福祉大学教授)
  • 川原田淳(富山大工学部助教授)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成8(1996)年度
研究終了予定年度
平成10(1998)年度
研究費
11,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高齢者の日常生活活動において自動計測可能な生体情報を収集蓄積する方法および機器を開発し、健康管理に活用するとともに、疾病の発症時において過去にさかのぼり生体情報を提供することにより、より正確な診断を可能にし、さらに、高齢者の日常の健康状態のデーターベースをもとに高齢者の生活の実態を定量的に把握して、これからの高齢化社会のための住宅開発や生活設計の具体的指針を得ることを目的とする。
研究方法
1)ベッドに設置するモニタリングシステム、2)浴槽に設置するモニタリングシステム、3)トイレに設置するモニタリングシステム、4)在宅での行動のモニタリングの開発と改良、ならびにこれらのシステムを5)モデルルーム、および、6)モデル住宅に設置して総合評価を行った。
1)ベッドに設置するモニタリングシステム(石島):通常のベッドシーツに、導電性の布帛(ふはく)電極を体軸と直角方向に4列セットした。この電極群の外側の電流極に20~500kHzの高周波定電流(10~100μA)を印加し、内側の電圧極からの信号を差動増幅器の入力へ導き、フィルタリングを施した。同時に呼吸流量計を用いて参照用の呼吸波形を得、比較した。
2)浴槽に設置するモニタリングシステム(戸川):水位変化より入浴開始、終了を認識して浴槽内での心電図記録を自動的に収集するシステムを完成し、若年者により長期にわたるデータ収集保存を試みた。また、2人の被験者の入浴に対して心電図波形の個人差による識別を試みた。
3) トイレに設置するモニタリングシステム(山越):日常生活で利用されるトイレに高精度体重計測装置を設置し、体重、排泄重量及び心拍動に伴うバリストカーディオグラム(BCG)を計測するトイレシステムをこれまでに開発してきた。本年度では更に、試作装置を実際のトイレに設置した自動計測システムの構築、構築システムでのデータ集積と計測アルゴリズムの改良、及び個人識別と排尿・排便の識別に関する基礎的検討に絞って研究を行った。
4)在宅での行動のモニタリング(太田):在宅の独居高齢者の宅内行動をモニタリングし、その結果を別居家族宅に送り、健康状態を推測する手掛かりとなる最新の生活状況を伝えることによって、被験者本入と別居家族双方の不安感を軽減する方法を試みた。高齢者宅に複数の行動検知センサ(非接触型の赤外線センサ主体)を設置し、行動を連続的に計測し、その結果を加工して・宅内装置からWebサーバに定期的に送信し、さらに、サーバ上の情報を別居家族がインターネット経由で随時参照できるようにした。
5)モデルルームにおける総合評価(戸川、山越):東医歯大医用器材研にベッド、浴室およびトイレを備えたモデルルームを設け、上記の計測システムを設置し、被験者にモデルルームで実際に生活させ、各システムの評価とともに、データー収集の技術を検討した。
6)モデル住宅における総合評価(川原田):
ベッドによる心電図、浴槽内心電図、トイレでの体重・排泄量計測を行う健康計測機器を富山県高岡市に建設されたウェルフェアテクノハウス(WTH)に導入し、これらの機器を生活空間内で運用するために必要となるシステムの統合化や自動計測・データ保存のためのハード及びソフトウェア設計を行うとともに、在宅における健康自動計測システムの性能評価を行った。
結果と考察
以下の結果を得た。
1) ベッドに設置するモニタリングシステム:インピーダンス計測を用いた呼吸計測法により呼吸流量計から得られた波形と時相がほぼ一致する波形が得られた。ただし波形ピークの不一致など、波形は若干の相異が認められた。
2)浴槽に設置するモニタリングシステム:約4ヶ月にわたり入浴心電図を自動的に収集することができた。浴槽内壁に設置した電極より誘導した心電図波形をウェーブレット変換し、ニューラルネットワークを用いて学習を行うアルゴリズムを作成し、個人識別を試みた結果、ほぼ100%の識別が可能であることが示された。
3)トイレに設置するモニタリングシステム:個人登録された11名に対し約4ヶ月にわたり体重関連・循環関連情報のデータ集積を問題なく行うことができた。データ表示項目は、個人名、日時、尿/便の区別、体重(排泄後)、排泄量、排泄時間、排泄速度(最大及び平均値)、及び脈拍数(又は脈波間隔;最大と平均値)の8項目である。また、収集データの解析を通し、計測アルゴリズムの改良も並行して行い、 現時点では体重/排泄量10g以内、及び脈拍数3%以内の誤差で自動計測可能となった。個人識別については、体重と身長の組み合わせが識別率が最も高かったが、 全体平均で75%であった。
4)在宅での行動モニタリング:一定時間ごとに宅内装置からサーバに転送したデータを用いて、別居家族がインターネット経由で被験者の宅内行動状況を随時に確認できるようにすることができた。
5)モデルルームにおける総合評価:体動検知ベッド、心電図記録浴槽およびロードセル設置トイレにより1週間にわたり連続してデータを自動収集保存することができた。
6)モデル住宅における総合評価:複数計測装置からの信号を一元化するために、各装置間やデータ処理用パーソナルコンピュータ間とのデータ伝送の方法について検討した。WTH内において、RS-232Cやインターネットの標準となっているTCP/IPの伝送方式により収集データの伝送を試みた結果、両プロトコルとも、信号の伝送・再現を良好に行えた。また、若年健常者において、一週間の連続データの収集を行った結果、例えば、ベッドでの心電図計測では、一晩中において平均93%程度の良好な心電図波形を計測・記録することが可能であった。
本年度の研究成果により、すべての研究課題について自動化の可能性が示された。個々の研究成果について、ベッドにおける呼吸モニターにおいては4電極インピーダンス法を用いることにより、前に試みた2電極による容量変化による方法に比べて安定した信号が得られることを確認した。浴槽内心電図/心拍数計測システムが問題無く作動したことから、今後、これ以外の入浴生理情報を検討していくこととした。
また、構築した自動計測トイレシステムは、個人及び尿/便情報の2項目を手入力する必要があるが、学内生活での実際の使用経験からはさほど苦にならず、トイレ使用中の無意識自動計測が可能であった。しかし、日常の家庭内生活では、やはり全自動化することが望ましく、新しい個人識別法を検討してシステムの全自動化を図っていく予定である。行動モニタリング計測では、行動検知センサの応答状況を間取り図上に動面的に表示する行動軌跡画面が簡単だが分かりやすいと好評である。この画面は被験者の日頃の生活パタンを熟知する人に多大の情報を提供する。宅内行動情報は、血圧や心拍などの生体情報に比べ健康状態との関連がやや薄いという印象があるが、無意識的計測が可能で長期間継続できる強みがあり、長期計測結果に基づく統計的解析と併用すれば、より高度な推定も可能である。モデルルームやモデルハウスでの長期間にわたるデータ収集が可能になったことからデータ伝送、データ保存のフォーマットを早急に統一する必要がある。そして、外部との(例えばWTHと東医歯大間での)データ伝送実験により相互間のデータのやり取り、解析が可能かを検討する。
結論
今年度の研究の主な成果は、1)ベッドシーツに導電性の布帛電極をセットし、定電流源を用いることで、被験者の就寝中の呼吸を無自覚的に計測することができたこと、2)浴槽で自動計測される心電図波形の連続4ヶ月にわたるデータを問題無く収集保存できた、複数人の入浴者に対して個人識別が可能であることが示されたこと、3)トイレに設置したロードセルにより、体重、排泄量、心拍動など無意識に計測できることがわかったこと、4)行動モニタリングは被験者の健康状態を推測する手段としては実施が容易で安価で現実的であり、実用価値は極めて高いことを確認したこと、5)モデルルームとWTHに設置された健康自動計測システムの統合化のために、機器間のデータ伝送方式について検討し、長期の連続データの計測・記録を行う方式を確立したことなどである。

公開日・更新日

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更新日
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