高齢者の屋外モニタリングシステム

文献情報

文献番号
199700633A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢者の屋外モニタリングシステム
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
田村 俊世(東京医科歯科大学医用器材研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 牧川方昭(立命館大理工学部)
  • 田中志信(山形大工学部)
  • 清水孝一(北海道大工学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成8(1996)年度
研究終了予定年度
平成10(1998)年度
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高齢者の日常行動中の身体活動量、循環動態や行動形態を知ることは、運動量を客観的に把握でき、健康管理、疾病の予防に役立つ。また、行動形態がわかれば徘徊が問題となっている痴呆老人の、徘徊に至る過程が解明され、介護の面でも有益な指針を与えることができる。屋内での計測では、行動形態、生理量を無拘束に計測することが可能となっている。しかし、屋外での計測を考えた場合、何らかの方法で計測対象者に装置を携帯させる必要が生じる。そこで、限りなく少ない拘束で、安全でかつ信頼性が高く、行動量、活動量、循環動態が計測できる装置の開発をすすめ、高齢者の日常の行動形態を計測し、介護の指針、痴呆を防止する方法を検討する。さらには、徘徊が生じた場合の探索システムの開発をすすめる。
研究方法
1.超小型データロガーの開発と性能評価(田村)、2.日常生活における関節運動モニタ方法の検討(牧川)、3.循環動態計測システム(田中)、さらに 4.徘徊探索システムの開発(清水)を試みた。
1.超小型データロガーの開発:高齢者の日常生活では手を使う運動が比較的顕著に現われることを考慮して腕時計型の3軸加速度を内蔵したデータロガーを試作した。また、応用として日常行動の自動識別を歩行を対象に行った。
2.日常生活における関節運動モニタ方法の検討:昨年度は、体幹に加速度センサを装着させることにより,被検者の大まかな行動 がモニタしうることを示した。本研究では更に詳細な日常行動のモニタを求めて,加速度センサを用いた関節運動モニタ方法を検討した。加速度センサを対象関節の両側の関節軸の近傍に装着させると、両センサと関節回転軸との距離小さくなり、この関節回転軸回りの運動による遠心・回転加速度は無視できるほど小さくなる。そのため、両加速度センサに加わる加速度はほぼ同一であるとすることができ、両加速度センサの出力の違いは関節角度にのみ依存するとすることができる。この方法を使って1軸関節ならびに3軸関節の運動をモニタすることを試みた。
3. 循環動態計測システム:高齢者の健康の維持、疾病の予防には日常の活動水準を高レベルに維持することが重要で、その客観的指標の一つとして循環系の機能評価が挙げられる。そこで本年度は、日常生活下における高齢者の循環機能評価を目的として、容積補償法により一心拍毎の血圧値を無侵襲・無拘束的に測定・記録する携帯型装置を試作し、フィールド実験によりその性能評価を行った。試作装置を用いて健常成人を対象に安静・歩行・立位・座位などの日常行動時における一心拍毎の血圧(BP)及び心拍間隔(IBI)を計測し、得られた時系列データから起立性低血圧の有無等、自律神経系の血圧調節機能の判定に有用な圧受容体反射感度(BRS)を算出した。また周波数分析によりIBIの高周波数 (HF;0.15-0.5Hz)成分のパワーを求め、この変化から自律神経系活動の評価を行った。
4.徘徊探索システム:本手法は、バイオテレメトリにおける生体の位置追跡手法の原理に基づいている。すなわち、電波を用いて徘徊老人の位置や動きを無拘束的に探査・追跡しようとするものである。本手法を実現するシステムは、大きく介護者側パーソナルコンピュータ、および対象老人が携帯する応答器に分けられる。応答器は、GPS衛星からの電波を受信し測位を行うGPS受信機としての役割と、その測位結果を介護者のもとに返信する移動電話端末としての役割を果たす。本システムによって徘徊老人の捜索を行う場合、介護者は移動電話回線により対象老人の携帯する端末機を呼び出す。GPS受信機によって得られた測位結果は、移動電話回線により介護者に返信される。介護者は、返信信号をパーソナルコンピュータにより分析し、対象老人の位置を求めるとともに、速やかに保護の手段を講じることができる。
結果と考察
1.超小型データロガーの開発: 3軸加速度センサを内蔵した腕時計型のデータロガーを完成させ、装置の機能評価を行った結果、動作に伴う加速度頻度、加速度の単位時間の積分値は高い精度で測定できることが確認された。本体の寸法は47×35×16 mmで重量は約50gである。今回の機器の特長として加速度原波形よりソフトウェアにより頻度、単位時間あたりの積分値を計算するようにした。そのために、信号処理の融通性が図られた。応用として歩行の自動識別を試みた結果、ウェーブレット解析で平地、階段昇降の区別が可能となった。
2.日常生活における関節運動モニタ方法の検討:まず上肢モデルを製作し、測定原理の検証ならびに精度の確認を行った。その結果、1軸関節運動に関しては、本方法の正当性が確認出来た。3軸関節運動については、もう1組の加速度ベクトルを用意する、あるいは自由度を1つ減らすことにより、運動をモニタすることが可能である。今回は上肢に取り付けた加速度センサは回旋運動によってもあまり変位しないことを利用した。結果は、上肢の外内転運動ならびに屈曲進展運動を計測することが出来ることが示されたが、小さいながらも回旋運動の影響を受け、誤差を生じることが明かとなった。
3.循環動態計測システム: 健常成人8名を対象とした実験の結果、BRS値は負荷の増加(臥位→座位→立位→歩行→階段昇降)と共に減少した。また迷走神経系の活動を反映するとされているIBIのHF成分もBRSと同様の傾向を示した。
4.徘徊痴呆老人探索システム:  これまで、本手法に関する基礎的検討、システム各部の設計・開発を進めてきた。本手法実現のための問題点として、GPS電波の不感地帯に入った場合の問題、移動に伴う電話回線の瞬断、GPS定位精度などがあげられた。今年度は、それぞれ対処法を開発するとともにその有効性を確かめる装置を試作した。
高齢者を対象とした場合、これまでに開発された携帯装置は軽量であるが寸法が携帯するには大きく感じられた。そのため今年度は加速度測定のみに着目し、加速度センサを内蔵した時計型のデータロガー開発した。この種類のセンサは従来睡眠の評価などに用いられているが、日常活動量を評価するために感度、データ圧縮などの新しい方法を考案した。センサ部は装置に内蔵し、計測対象者は腕時計をつける感覚で装着することが可能となった。今後エネルギー代謝量との相関について詳細に検討していく。
つぎに関節運動について加速度を用いた計測方法は1軸関節においては有効であった。しかし3軸関節においてはセンサの装着方法や皮膚表面のねじれなどの問題があり、更なる検討が必要である。しかしながら本手法は画像処理、磁界センサのような大がかりな設備を必要としないので、手軽に装着でき、移動を伴う関節運動の計測が可能となる。今後、日常生活での関節運動の無拘束計測の可能性が示唆された。
日常生活下の血圧調節機構について自律神経活動の面から考察すると、実験で得られたBRS値並びにIBIのHF成分の変化より、行動負荷の増加に伴い迷走神経活動が抑制されることが示唆される。この知見は、従来、侵襲的な方法によって得られた実験室レベルでの生理学的知見とよく一致するものである。
探索システムについては、これまでの研究で、本手法実現の基本的可能性は確かめられたが、まだまだ多くの実際上の問題点が残されていた。今年度は、それらを既存技術で解決する方法を見いだした。まだ、老人に装着する装置の小型化などの問題は残されているが、これらの解
決法により、本手法実用化の可能性が大きく前進したと考えられる。
結論
今年度の研究成果より、3軸加速度センサを内蔵した時計型の超小型データロガーを開発し、満足できる基本特性が得られたこと、加速度センサを関節近傍に取り付けることにより、関節運動をモニタする方法を検討し、1軸関節運動の計測が可能であること、更に3軸関節運動計測方法の可能性が示唆されたことにより日常生活の関節運動の無拘束計測への応用が期待されること、無拘束連続血圧測定の試作システムによる健常成人を対象とした予備実験より、日常生活下の一心拍毎の血圧値が測定可能であること、並びに取得データを解析することにより、従来困難であった日常生活下における自律神経系を介した血圧調節機構の評価が可能となり、日常生活下における高齢者の循環機能評価に十分適用可能であることが確認された。
また、探索システム実現の可能性は確認され、主要な問題点も明らかとなり、またそれらを既存技術で解決する方法が見いだされた。

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