高齢障害者の立位・歩行に関するリハビリ訓練の為の支援機器に関する研究開発

文献情報

文献番号
199700631A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢障害者の立位・歩行に関するリハビリ訓練の為の支援機器に関する研究開発
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
山本 敏泰(富山県高志リハビリテーション病院)
研究分担者(所属機関)
  • 矢野英雄(国立身体障害者リハビリテーションセンター研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
4,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高齢障害者において,立位・歩行能力を改善し,その維持・向上をはかることは,リハビリテーション(以下リハと略す)訓練後の社会復帰の目安ともなっている程にまことに重要な事である。特に脳卒中などの歩行では,下垂足,更には内反尖足,膝関節拘縮などの障害が残り,下肢機能の著しい低下が特徴的である。リハ医療の分野において,従来装具療法,感覚機能の統合等の多様な治療が試みられてきた。しかしその対策は十分でなく,老健施設等に入所した後,あるいは家庭で寝たきりとなってしまう事もおおい。
本研究では,特に脳卒中片麻痺者を対象とした,地域での運動療法などにも適した侵襲性を伴わない表面電極を利用したハイブリッド型訓練用電気刺激システムの応用研究を実施する。現在の電気刺激の特色は,殆ど随意運動出力が観られない複雑な多関節運動を比較的自然な動作として人工的に作り出せる事である。一方対麻痺者の新しいReciprocal gait orthosisにおいても同様な特性が示唆されている。本年度は,特に脳卒中を対象とし訓練用システムの実用化を目指した以下の検討を行った。
1)訓練用電気刺激システムの制御インターフェースに関する研究
2)刺激電極システムと,電気刺激パターン生成方法に関する研究
3)片麻痺者用ハイブリッド化歩行補助装具に関する研究開発
4)ハイブリッド電気刺激システムによる歩容などの評価に関する研究
研究方法
上記の課題について,以下のような方法で検討を行った。
1)訓練用電気刺激システムの制御インターフェースに関する研究:電気刺激システムの制御インターフェースとして,?歩行準備及び歩行訓練に必要な刺激パラメータの調整方法,及び?筋電位などの新たなバイオフィードバック情報の検討を実施した
2)刺激電極と,電気刺激パターン生成方法に関する研究:刺激電極は,一般の電気生理検査用装置を用い,痛みや筋収縮の有無を確認しながら電極形状を決めた。 刺激パターンの推定においては,上述の刺激電極の大きさと配置が重要な影響を及ぼし,適切な出力を得るための筋の組み合わせなど実験的検討がなされた。本研究においては,従来の?歩行時筋電位パターンの他に,主に,?3次元関節トルク計測(本年度は股関節のみ),による実験的検証を踏まえながら,?筋骨格数学モデル(Delpら,1994)を利用した筋力推定を基本にして生成した。特に刺激電極等の方法を用いて,幾つかの側面から検討を加えた。
3)片麻痺者用ハイブリッド化歩行補助装具に関する研究開発: 歩行時の基本的なレシプローカルな運動を支援する機能として,本年度は,主に空気圧式歩行補助装具を試作した。患足のみを対象とし,腰部の安定性と,股関節屈曲運動を支援するものである。電気刺激装置との同期方法についても検討した。
4)ハイブリッド電気刺激システムによる歩容などの評価に関する研究:歩行準備訓練における膝関節などの屈伸運動の評価は,関節角度,主な屈筋/伸筋の筋電位等を用いた。歩行においては,動力式歩行補助装具と機能的電気刺激装置システムを組み合わせたハイブリット型電気刺激を用いて、高齢片麻痺者の歩行解析を行った。ビデオや通常のリハ評価法における評価の他に,定量的なgait analysisとして,三次元動作解析システムを使用し検討を加えた。
結果と考察
各検討項目について以下の結果を得た。
1)訓練用電気刺激システムの制御インターフェースに関する研究:歩行のリハ訓練においては,主要な関節の分離運動,立位の安定性等を支援する歩行準備訓練も重要である。現在まで試作研究されてきた多チャンネル電気刺激システムの改良を進め,主要部位別刺激が可能なシステム構成とした。主要関節の電気刺激時の筋電位モニターはバイオフィードバック信号として有効に作用することを認めた。歩行訓練ではreciprocal motionを支援すると共に,立脚/遊脚期の股,膝関節屈伸,遊脚期の足関節背屈等の歩容の改善をはかる電気刺激を行った。歩行時のバイオフィードバック情報として,電子音付きのフットスイッチなどを利用し,歩行速度に合わせた刺激パターン調整機能を付与した。
2)刺激電極システムと,電気刺激パターン生成方法に関する研究:刺激電極については,銀織布に粘着性の強いゲルパッドを利用したものを用い,対象筋の大きさにあわせて作成した。その配置は電気刺激によってMotor Pointのみではなく痛みと関節出力トルク(筋力)を考慮して設定した。従来表面電極電気刺激による股関節屈曲運動は比較的困難であるとされてきたが少なくとも健常者においては十分なトルクが得られることが実証された。
歩行時の刺激パターン推定に関しては,筋骨格数学モデルを基本的なツールとして検討した。モデル構築には文献学的情報の他に,実験的に検証を行うため3次元関節トルク計測を行った。3次元計測センサーはひずみゲージを利用し,屈曲/伸展,内転/外転,内旋/外旋トルクの3成分を検出する。実験の結果として,モデルによる推定結果とよく符合する結果を得た。 又被刺激筋の組み合わせによる出力トルクについて,例えば膝屈曲運動の場合には,長内転筋(+恥骨筋),縫工筋,大腿直筋,及び大腿筋膜張筋の出力を考慮して決定した。片麻痺者の場合には大腿が外転気味になり,長内転筋(+恥骨筋+縫工筋)と大腿直筋で1チャンネルを構成する事もあった。 今後は,当該3次元トルクセンサーを活用した筋骨格モデル構築を推進する予定である。
3)片麻痺者用ハイブリッド化歩行補助装具に関する研究開発:本年度は,主に患側のみに継手を利用した空気圧駆動式歩行補助具を試作した。
臨床試用の結果として補助具は,比較的重度な歩行障害の場合等における,腰部の安定性を確保に非常に有用である事が示唆された。次に機械的な駆動方法として,前述のエアシリンダーの他にケーブルによる牽引等についても検討を加えた。結果は安定性が高まると共に,歩容の改善がみられた。今後は健側を利用した駆動方法を含め,軽量化,着脱の簡便性などの実用化のための検討を実施し,臨床応用を進める。
4)ハイブリッド電気刺激システムによる歩容などの評価に関する研究:歩行準備訓練においては,主要関節の角度変化,及び主動作筋と拮抗筋の筋電位モニターを利用した。これは電気刺激時の筋電位フィードバックとしても有効であった。歩行分析では,?高齢片麻痺者の装具なしの通常歩行,?補助装具歩行,及び?ハイブリッド型電気刺激歩行について解析し、歩幅,立脚時間,遊脚時間および両脚の反対脚に対する着地位置の相対的関係から算出した両脚の対称性について検討した。 当該対象者において,ハイブリット型電気刺激システム装着時の歩容が,歩行速度や歩幅の増大によって顕著に改善されることが示唆された。
今後は,対象者を増やすと共に,神経生理学的な評価方法の検討も含めて実施していく予定である。
結論
片麻痺者の歩行能力を支援するハイブリッド電気刺激システムの研究開発において,以下の結論を得た。
?歩行準備訓練筋電位等のバイオフィードバック情報は訓練環境改善の手段として有効性が示唆された。又電子音付きフットスイッチによる刺激パターンの調整は有効に作用した。
?表面電極型電気刺激において,長内転筋などの組み合わせ刺激により充分な膝関節屈曲運動を得ることが出来た。銀織布を利用した電極をmotor pointのみではなく筋の形状に合わせて配置することにより,比較的痛みの少ない有効な刺激出力が得られることを確認した。
?3次元関節トルク計測システムによる実験的検証と共に,筋骨格モデルによる電気刺激パターン生成方法は有効である事を示した。
?片麻痺者用ハイブリッド化歩行補助装具として,空気圧駆動式のレシプロ機能を有するシステムを試作し,その有効性を示した。
?動作学的な評価方法として,歩行分析を実施し,脳卒中における歩幅,歩行速度などのパラメータに顕著な改善をみた。
今後は電気刺激パターンの推定方法,電気制御インターフェースの改良を実施し,実用化を目指した臨床応用研究を進めると共に,運動生理,神経生理学的側面を含めた評価方法の検討を実施していく。

公開日・更新日

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