在宅高齢者のための健康異常早期検出装置の開発に関する研究

文献情報

文献番号
199700630A
報告書区分
総括
研究課題名
在宅高齢者のための健康異常早期検出装置の開発に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
石原 謙(国立大阪病院)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ほとんどの高齢者はいくつかの疾患を持ちしかも異常の発現から重症化も速いため、健康上の異常の早期発見は極めて重要な課題である。ことに在宅治療中の高齢者や独居高齢者では死活問題ですらある。これは健康管理あるいはモニタリングという技術的テーマとなるが、身体に電極を張り付けたり頻回な採血をする従来の技術では事実上解決できず、非侵襲かつ無拘束に連続モニタリング出来る新しいモダリティが必須である。そこで我々は24時間連続的にモニターしながらもなおかつプライバシーを侵害しない新しいビデオモニタリング技術「ビジュアルセンシング」の基礎を開発した。
本研究の目的は、この基礎技術を応用し、ことに就寝時などの呼吸の乱れの検出から本人の自覚症状に先立ち健康異常を早期検出するための「在宅高齢者のための健康異常早期検出装置」として開発するものである。
診察の診が「みる」であり、看護の看も「みる」であるように、医療・福祉の現場では、「みる」ことが極めて重要である。実際、在宅患者・高齢者は皆、自分を「みて」いて欲しいと願っているし、介護する方からも弱者を放ってはおけず、-出来るだけ長い間傍で「みて」いたいと思い、これに関して行政に期待するところも大である。
しかし現実には、一人の患者のために何人もの医療スタッフや家族が長期間に渡って24時間の交代監視をすることは、特殊な場合を除いて社会的経済的に不可能である。この現状は、大病院での充分な筈の基準看護の制度の元でもそうであり、在宅で医療を受けている独居高齢者では惨憺たるものである。
これに村しては、世界で最も人件費の高いわが国のマンパワーに依存しようとする解決は不可能で、工学的にみると自動モニタリング技術の強いニーズである。本研究では、自動モニタリング技術の基礎を確立し、自動モニタリングのプロトタイプを試作した。
研究方法
動画像はさまざまな時系列情報を含む。基礎技術となるビジュアルセンシングでは、ビデオ画像上の各構成要素の時間領域の変化成分をカメラの直後で連続的に抽出し、これを時間軸上に再配列してその要素の時系列情報とする。例えば、睡眠中のヒトのビデオ動画像を時間差1秒程度の遅れ動画像と常に差分すると、呼吸運動が布団の上からでも抽出され、瞬時瞬時のその差成分の総和値を時系列に配列すると呼吸曲線が得られる。ディスクリートな時系列情報となったこれらの生体情報は、患者の表情や肢体や衣服を直接表現するものではないためプライバシーを守り、しかも物理的データ量は画像に比べてはるかに小さく、各種のマルチメディア媒体を用いて通信・加工・保存するのに好都合である。
本研究では、この基礎技術を応用して、呼吸パターンや体動の状態を経時的に観察し、個人の健康状態の連続記録されたデータベースの作成を行った。ことに介護者や家人が就寝するため療養中の患者自身も周囲のものも不安の増す夜間の呼吸や体動を連続記録したデータベースを構築し、過去のそれとの比較において健康上の異常を早期に抽出することを目標に、まずは夜間就寝中の寝返りや臥床位置の変化にも対応できるように関心領域の自動設定アルゴリズムを試作し、これを実時間にて高速処理するコンピュータシステムを開発した。平成9年をそのプロトタイプ試作とし、平成10年以降に完成を予定しているものである。
結果と考察
健常ボランティアによる夜間就寝中の連続計測において、1)10ルックス以上の照明が確保されると特別な感度増強をせずとも民生用のCCDカメラで十分な計測画像が得られた。2)寝返りや体動による最適関心領域の変化にも十分な追従が可能な自動再設定が行えた。3)従来から行っていた差分処理を画素毎の変化の絶対値とすることで感度の向上と信号対雑音比の向上が計れた。4)就寝時間の約90%以上の時間帯で良好な呼吸計測が行えた。5)無呼吸による呼吸曲線消失と体動のための関心領域の再設定による呼吸曲線消失の区別は実時間ではなお困難な場合があるが、1晩中の呼吸曲線データベースをプレイバックして研究者のマニュアルでの検討を行うと明らかな区別が出来た。
コンピュータを用いた視覚情報の処理は、マシンビジョンあるいはコンピュータビジョンとして工場の生産プラントの監視制御や自走ロボットの視覚センサー(ロボットビジョン)の工学的研究が、国内外で古くから行われた。しかし主として以下の理由のために、医療・福祉の分野へのモニターとしての応用は極めて少ない。
まず、マシンビジョンでは、3次元空間内での正確な絶対値としての解を抽出するための異なる2カ所以上からのカメラ入力画像か、能動的に投射した特別な照明系が必要であり、一つの固定カメラ画像からの時系列情報の抽出は試みられることさえ無かった。
結果として、従来の3次元空間内の動きベクトルを抽出するアルゴリズムでは、コンピュータに過大な負荷がかかり、動画像からのリアルタイム情報抽出に極めて高額のコストが必要で事実上スーパーコンピュータレベルの画像処理能力が必要であった。
結論
本年のプロトタイプ開発研究において、健常ボランティアを対象に、呼吸・体動をワークステーションでは無くパーソナルコンピュータを用いて、ベッド上での安静時にリアルタイムで抽出可能となった。計測精度については身体の微小な振動との区別や無呼吸と体動による検出不能の区別にさらなる判別の処理アルゴリズムが必要であるが、呼吸や四肢の体動そのものの検出感度は高い耐雑音特性を示した。さらにインターネットを用いて本装置のデータは遠隔医療にも利用可能であることを確認済みである。
本装置の特徴は、1)一切の拘束物や付着電極などのない完全な無侵襲性と2)そのために漏電やマクロショックやミクロショックなども原理的に発生しない安全性、3)モニター情報はディジタル数値列で出力され、他のマルチメディア機器と双方向に有効利用しやすい。4)生の動画像を送信する必要がないため、モニターされる者のプライバシーを侵害しない、などである。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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研究報告書(紙媒体)