2型糖尿病患者のQOL、血管合併症及び長期予後改善のための前向き研究

文献情報

文献番号
200926019A
報告書区分
総括
研究課題名
2型糖尿病患者のQOL、血管合併症及び長期予後改善のための前向き研究
課題番号
H19-循環器等(生習)・一般-022
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
山田 信博(筑波大学)
研究分担者(所属機関)
  • 曽根 博仁(筑波大学大学院人間総合科学研究科)
  • 大橋 靖雄(東京大学大学院医学系研究科)
  • 河津 捷二(朝日生命成人病研究所)
  • 森 保道(虎の門病院内分泌代謝科)
  • 金藤 秀明(大阪大学大学院医学系研究科)
  • 沖田 考平(大阪大学大学院医学系研究科)
  • 鈴木 進(太田西ノ内病院 糖尿病センター)
  • 横手 幸太郎(千葉大学医学部付属病院)
  • 佐藤 麻子(東京女子医科大学 糖尿病センター)
  • 渥美 義仁(東京都済生会中央病院 内科)
  • 井藤 英喜(地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター)
  • 水流添 覚(熊本大学大学院医学薬学研究部)
  • 山下 英俊(山形大学医学部)
  • 石橋 俊(自治医科大学医学部)
  • 及川 眞一(日本医科大学 内科学第3)
  • 片山 茂裕(埼玉医科大学 内分泌・糖尿病内科)
  • 羽田 勝計(旭川医科大学内科学講座病態代謝内科学分野)
  • 石田 俊彦(香川大学 第一内科)
  • 守屋 達美(北里大学医学部)
  • 大橋 健(東京大学医学部付属病院)
  • 吉政 康直(循環器病センター 内分泌代謝学動脈硬化代謝内科部門)
  • 田中 明(女子栄養大学 栄養学部実践栄養学科)
  • 門脇 孝(東京大学医学部付属病院)
  • 西川 哲男(横浜労災病院)
  • 吉村 幸雄(四国大学栄養データベース室)
  • 白井 厚治(東邦大学付属佐倉病院)
  • 山根 公則(広島大学大学院)
  • 井口 登與志(九州大学 先端融合医療レドックスナビ研究拠点)
  • 山田 研太郎(久留米大学医学部医学科)
  • 川上 正舒(自治医科大学付属さいたま医療センター)
  • 石垣 泰(東北大学病院 糖尿病代謝科)
  • 鈴木 仁弥(福井大学医学部)
  • 番度 行弘(福井県済生会病院)
  • 南條 輝志男(和歌山県立医科大学)
  • 中村 二郎(名古屋大学大学院)
  • 寺内 康夫(横浜市立大学)
  • 中村 直登(京都府立医科大学大学院医学研究科)
  • 小杉 圭右(大阪警察病院 内科)
  • 佐々木 敬(東京慈恵会医科大学付属病院)
  • その他(当研究班の分担者は52名。その他の分担者については研究報告書を参照。)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
42,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
生活習慣と糖尿病との関係は深いが、これまで、患者教育を通じた生活習慣介入が糖尿病発症を抑制すること、糖尿病合併症のリスク因子や代替エンドポイント(BMIやHbA1cなど)を改善させることは、多くの介入研究の結果からエビデンスとして確立している。しかし、生活習慣介入を主体とした介入が、血管合併症そのもののリスクを低下させることを示したという結果はこれまで報告されていない。本研究JDCSは、日本の多数症例において、現代の糖尿病日常診療で実施可能な範囲内の患者教育を通じた生活習慣介入が果たして合併症予防に有効か、という問いに対して長期前向きに検討を続けて来た。
研究方法
本研究では、コホート全体の観察により、日本人患者やその診療状況を追跡調査し、群間比較により、患者指導を中心とした介入がコントロール指標改善や合併症抑制に有効かどうかも判定している。対象者は、生活習慣改善を中心とした強化治療を行う介入群と、通常の外来診療を継続する非介入群に割り付けられている。介入群の患者には、体重、血糖、血圧などについて治療到達目標が設定されており、その上で、肥満度、耐糖能関連指標、脂質関連指標の他、細小血管・大血管合併症の発症と進展について毎年調査が行われてきた。各合併症の診断基準は予めプロトコールで定められ、それぞれ専門家の判定委員により判定されている。
結果と考察
本年度発表された結果では、患者教育を中心とした介入が、脳卒中発症リスクを有意に低下させた。この結果は、生活習慣介入が大血管合併症を抑制した世界初のエビデンスである。本研究は、現在の日本の糖尿病患者の予後や治療内容を知る上でも貴重な資料となる。これらは東アジア人糖尿病患者の臨床エビデンスとして、わが国はもちろん、周辺のアジア諸国も含めた糖尿病診療ガイドラインに、その結果が反映されるものと期待される。データは論文化されて、世界中に発表されている他、内外の学会、講演会、メディアなどで広く紹介されている。
結論
本研究は、日常臨床である程度実施可能な、生活習慣改善を主体とした専門医による強化治療が、糖尿病血管合併症を予防できることを示した世界初の研究である。本研究は、これまでも日本人糖尿病のエビデンスを多数生み出してきたが、今後予定されている多くの解析結果とともに、将来の糖尿病診療に大きく貢献するものと期待される。

公開日・更新日

公開日
2010-09-14
更新日
-

文献情報

文献番号
200926019B
報告書区分
総合
研究課題名
2型糖尿病患者のQOL、血管合併症及び長期予後改善のための前向き研究
課題番号
H19-循環器等(生習)・一般-022
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
山田 信博(筑波大学)
研究分担者(所属機関)
  • 曽根 博仁(筑波大学大学院人間総合科学研究科)
  • 大橋 靖雄(東京大学大学院医学系研究科)
  • 河津 捷二(朝日生命成人病研究)
  • 森 保道(虎の門病院内分泌代謝科)
  • 金藤 秀明(大阪大学大学院医学系研究科)
  • 沖田 考平(大阪大学大学院医学系研究科)
  • 鈴木 進(太田西ノ内病院 糖尿病センター)
  • 横手 幸太郎(千葉大学医学部付属病院)
  • 佐藤 麻子(東京女子医科大学 糖尿病センター)
  • 渥美 義仁(東京都済生会中央病院 内科)
  • 井藤 英喜(地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター)
  • 水流添 覚(熊本大学大学院医学薬学研究部)
  • 山下 英俊(山形大学医学部)
  • 石橋 俊(自治医科大学医学部)
  • 及川 眞一(日本医科大学 内科学第3)
  • 片山 茂裕(埼玉医科大学 内分泌・糖尿病内科)
  • 羽田 勝計(旭川医科大学内科学講座病態代謝内科学分野)
  • 石田 俊彦(香川大学 第一内科)
  • 守屋 達美(北里大学医学部)
  • 大橋 健(東京大学医学部付属病院)
  • 吉政 康直(循環器病センター 内分泌代謝学動脈硬化代謝内科部門)
  • 田中 明(女子栄養大学 栄養学部実践栄養学科)
  • 門脇 孝(東京大学医学部付属病院)
  • 西川 哲男(横浜労災病院)
  • 吉村 幸雄(四国大学栄養データベース室)
  • 白井 厚治(東邦大学付属佐倉病院)
  • 山根 公則(広島大学大学院)
  • 井口 登與志(九州大学 先端融合医療レドックスナビ研究拠点)
  • 山田 研太郎(久留米大学医学部医学科)
  • 川上 正舒(自治医科大学付属さいたま医療センター)
  • 石垣 泰(東北大学病院 糖尿病代謝科)
  • 鈴木 仁弥(福井大学医学部)
  • 番度 行弘(福井県済生会病院)
  • 南條 輝志男(和歌山県立医科大学)
  • 中村 二郎(名古屋大学大学院)
  • 寺内 康夫(横浜市立大学)
  • 中村 直登(京都府立医科大学大学院医学研究科)
  • 小杉 圭右(大阪警察病院 内科)
  • 佐々木 敬(東京慈恵会医科大学付属病院)
  • その他(当研究班の分担者は52名。その他の分担者については研究報告書を参照。)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 高齢社会を迎え、高騰する医療費との関係においても糖尿病は重要疾患の一つである。これまで糖尿病に関する大規模臨床試験は欧米を中心に実施されてきたが、日本人患者に欧米のエビデンスを、そのまま適用できるかは不明である。JDCSではこれまで、日本人患者と欧米人患者との多くの違いについて指摘してきた。一方、生活習慣と糖尿病との関係は深いが、生活習慣教育を主体とした介入が、血管合併症そのもののリスクを低下させたという結果はこれまで報告されていない。JDCSは、日常診療で実施可能な範囲内の患者教育を通じた生活習慣介入が糖尿病合併症予防に有効か、という問いに対して長期前向きに検討した。
研究方法
日本全国より多症例を登録し、患者教育による生活習慣改善を中心的な介入手段として、追跡調査を進めてきた。主治医が積極的に生活習慣改善を中心とした強化治療を行う「介入群」と、通常の外来診療を継続する「非介入群」に割り付けられ、前者には、体重、血糖、血圧、血清脂質などについて治療到達目標が設定されている。各合併症の診断基準は予めプロトコールで定められており、それぞれ専門家の判定委員により判定されている。各種データはコンピューターに入力し、統計専門家による解析や効果判定を実施している。
結果と考察
介入群は非介入群より有意に低い平均HbA1C値を示した。網膜症、腎症、冠動脈疾患の発症率については有意差がみられなかったが、脳卒中に関しては、非介入群に対して、介入群の発症率は有意に低く、ハザード比は0.62であった。また本研究では、欧米とは異なる日本人患者の特徴も多く捉えられた。たとえば肥満度、アルコール摂取の影響の違い、ウエスト周囲径の意義の違い、などである。これらは、日本人糖尿病患者に適した対策を考える上で重要であると考えられる。
結論
生活習慣介入を主体とした介入が、介入群において脳卒中発症リスクが有意に低下させた結果が発表され、患者教育が血管合併症そのものに有効であることを示した世界初の重要なエビデンスとなった。この日本の糖尿病患者と糖尿病専門医が協力して築き上げた貴重なコホートから得られるであろうエビデンスは今後、日本のみならず東アジア諸国を始めとする世界の糖尿病診療に貢献していくことが期待されている。

公開日・更新日

公開日
2010-09-14
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200926019C

成果

専門的・学術的観点からの成果
患者教育を通じた生活習慣介入が、糖尿病未発症者においてその発症を抑制すること、および糖尿病患者においてその合併症のリスク因子や代替エンドポイント(BMIやHbA1cなど)を改善させることは、多くの介入研究の結果からエビデンスとして確立している。しかし、生活習慣介入を主体とした介入が、血管合併症そのもののリスクを低下させることはこれまで報告されていない。本研究において脳卒中発症リスクが有意に低下することが示され、患者教育が血管合併症そのものに有効であることを示した世界初の重要なエビデンスとなった。
臨床的観点からの成果
生活習慣改善を中心とした強化治療が、糖尿病血管合併症を予防できるかを検討しつつ、日本人2型糖尿病患者の病態的特徴を把握し、合併症抑制のエビデンスを確立し、患者予後とQOL改善に貢献することも目的としてきた。介入群において脳卒中発症リスクが有意に低下していた結果は、欧州糖尿病学会誌に発表され、世界初のエビデンスとして注目された。本研究は、これまでも日本人糖尿病のエビデンスを多数生み出してきたが、今後予定されている多くの解析結果とともに、将来の糖尿病診療に大きく貢献するものと期待される。
ガイドライン等の開発
2型糖尿病の病態や合併症には人種差・民族差がみられ、現在の診療ガイドラインは、主に欧米人患者のエビデンスに基づいているが、日本人を含むアジア人患者のエビデンスに基づいて行う方がよい。本研究の結果は、すでに糖尿病学会のガイドラインなどにも引用されているが、今後とも各合併症の発症率やリスクファクターなどのデータは、分担研究者によって逐次発表されていく予定である。これらは、わが国はもちろん、周辺のアジア諸国も含めた糖尿病診療ガイドラインに反映されるものと期待される。
その他行政的観点からの成果
2型糖尿病は、わが国だけで一年に3000人の失明者と13000人の人工透析導入患者を新たに生み出し、冠動脈疾患や脳卒中の発症率も数倍上昇させるため、本研究で得られた成果は、国民の健康や医療財政に直接的な影響を持つデータとなりうる。特に、生活習慣教育を中心とした介入は、薬剤やインスリンによる介入と比較して安価で、低血糖などの副作用も少ないことから医療経済的な波及効果も期待できる。また本研究の分担研究者は、糖尿病薬に関する厚生労働省科学研究にも招かれて参加している。
その他のインパクト
生活習慣介入を主体とした患者教育が大血管合併症を抑制した世界最初のエビデンスとして、2型糖尿病診療に寄与するものと思われる。本研究は、糖尿病専門施設において糖尿病専門医により実施されていることから、データの質と信頼性の高く、現在の日本の糖尿病患者の予後や治療内容を知る上でも貴重な資料となる。データは論文化されて、世界中に発表されている他、内外の学会、講演会、メディアなどで広く紹介されている。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
6件
米国糖尿病学会誌、米国肥満学会誌、欧州糖尿病学会誌、Lancet, New Engl J Medなど
その他論文(和文)
70件
著書、総説
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
30件
日本内科学会、日本糖尿病学会、日本循環器学会などの各シンポジウムや教育講演など、
学会発表(国際学会等)
10件
米国糖尿病学会、国際内分泌学会、韓国糖尿病学会、など
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
厚生労働科学研究「経口糖尿病薬の臨床評価ガイドライン作成委員会」への参加
その他成果(普及・啓発活動)
10件
新聞、ラジオ、テレビ(放送大学)出演など

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Sone H, Tanaka S, Iimuro S, et al.
Long-term lifestyle intervention lowers incidenceof stroke in Japanese patients with type 2 diabetes: a nationwide multicenter randomised controlled trial. (the Japan Diabetes Complications Study) .
Diabetologia , 53 , 419-428  (2010)
原著論文2
Sone H, Tanaka S, Iimuro S, et al.
syndrome and their combinations as predictors of cardiovascular disease in Japanese patients with type 2 diabetes. Implications for improved definition. Analysis from Japan Diabetes Complications Study (JDCS).
J Atheroscler Thromb , 16 , 380-387  (2009)
原著論文3
Hayashi T, Kawashima S, Itoh H, et al.
Low HDL-cholesterol is associated with the risk of stroke in elderly diabetic individuals: Changes in the risk for atherosclerotic diseases at various ages.
Diabetes Care , 32 , 1221-1223  (2009)
原著論文4
Sone H, Tanaka S, Iimuro S, et al.
Waist circumference as a cardiovascular and metabolic risk in Japanese patients with type 2 diabetes.
Obesity , 17 , 585-592  (2009)
原著論文5
Hayashi T, Kawashima S, Itoh H,et al.
Importance of Lipid Levels in Elderly Diabetic Individuals.
Circ J , 72 , 218-225  (2008)
原著論文6
Sone H, Yoshimura Y, Tanaka S,et al.
Cross-sectional association between BMI, glycemic control and energy intake in Japanese patients with type 2 diabetes Analysis from the Japan Diabetes Complications Study.
Diabetes Res Clin Pract , 77 (11) , 23-29  (2007)
原著論文7
守屋達美,田中司朗,飯室聡,他
日本人2型糖尿病における糖尿病性腎症および大血管障害の発症につい て -糖尿病における血管合併症の発症予防と進展抑制に関する研究(JDC Study)から-
日本糖尿病合併症学会誌 , 23 , 26-30  (2009)

公開日・更新日

公開日
2015-10-07
更新日
-