動脈硬化性疾患の発症予知・進展予防に関する研究

文献情報

文献番号
200926012A
報告書区分
総括
研究課題名
動脈硬化性疾患の発症予知・進展予防に関する研究
課題番号
H19-循環器等(生習)・一般-014
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
沢村 達也(国立循環器病研究センター 血管生理学部)
研究分担者(所属機関)
  • 藤田 佳子(国立循環器病研究センター 血管生理学部 )
  • 木村 剛(京都大学大学院医学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
16,200,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
動脈硬化およびその結果として起こる虚血性心疾患は多因子病である。コレステロールや肥満の動脈硬化危険因子としての重要性は明らかであるが、それだけがすべてではない事も論を待たない。本研究ではLOX-1を中心に、酸化LDLや炎症をはじめ動脈硬化危険因子の血管での作用機構を明らかにし、これまでに対策がとられていない危険因子を標的とした新しい診断・治療法開発を目指す。
研究方法
1.血中LOX-1リガンドおよび可溶型LOX-1 (sLOX-1) 測定による心血管病予後予知(前向き研究)2.高脂血症患者におけるスタチン投与の血中LOX-1リガンドへの影響(介入試験)、を進めた
結果と考察
(1)吹田研究(参加者2,437名、前向きコホート研究)の血清サンプルを用いて、LOX-1リガンド、sLOX-1したところ、LOX-1リガンド濃度の脳卒中・脳梗塞の予後予知における有用性が示された。また、LOX-1リガンドとsLOX-1リガンドの積としてLOX Indexを算出したところ、脳卒中・脳梗塞のみならず、心血管病全体の発症予知指標となりうることが証明された。
(2)薬剤治療歴のない高脂血症患者25名に、pitavastatin (2 mg/day、6カ月)を投与したところ、総コレステロール、LDLコレステロールの低下とともに、LOX-1リガンドの有意な低下が観察された。興味深いことに、LOX-1リガンドの低下はLDLコレステロールの低下と相関がなく、スタチンの多面的な抗動脈硬化作用には、LOX-1リガンド量の低下も関与していることが示唆された。
結論
LOX-1リガンドおよびLOX Indexの心血管病発症予知に対する診断的有用性が明らかになった。また、スタチンにはLDL低下には依存しないLOX-1リガンド低下能があることが明らかとなり、ヒトにおいても、LOX-1リガンド量の低下が冠動脈イベントの発症低下につながることが示唆された。これらの指標の臨床現場への導入およびLOX-1阻害剤の開発は、動脈硬化性疾患の予防および治療に役立つことが期待される。

公開日・更新日

公開日
2010-05-24
更新日
-

文献情報

文献番号
200926012B
報告書区分
総合
研究課題名
動脈硬化性疾患の発症予知・進展予防に関する研究
課題番号
H19-循環器等(生習)・一般-014
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
沢村 達也(国立循環器病研究センター 血管生理学部)
研究分担者(所属機関)
  • 藤田 佳子(国立循環器病研究センター 血管生理学部 )
  • 木村 剛(京都大学大学院医学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
動脈硬化およびその結果として起こる虚血性心疾患は多因子病である。コレステロールや肥満の動脈硬化危険因子としての重要性は明らかであるが、それだけがすべてではない事も論を待たない。本研究ではLOX-1を中心に、酸化LDLや炎症をはじめ動脈硬化危険因子の血管での作用機構を明らかにし、これまでに対策がとられていない危険因子を標的とした新しい診断・治療法開発を目指す。
研究方法
(1)血中LOX-1リガンドおよび可溶型LOX-1 (sLOX-1) 測定の確立と有用性の検証
(2)LOX-1の病態における意義の解明
(3)酸化LDL以外の動脈硬化危険因子の作用機構の解明、を進めた。
結果と考察
(1)吹田市コホートの前向き疫学研究などの結果により、LOX-1リガンド量が健常人の脳卒中・脳梗塞発症の予知マーカーとなること、また、LOX-1リガンドとsLOX-1の積であるLOX Indexは心血管病全体の発症の予知指標になることが証明された。一方、sLOX-1は急性冠症候群の早期再発のよい予知マーカーであることが分かった。さらには、pitavastatinを高脂血症患者へ投与すると、LDLコレステロールの低下とは非依存的にLOX-1リガンド量の低下を示すことが明らかとなった。
(2)ヒトサンプルおよび動物実験を通して、LOX-1が血管壁への脂質沈着、血栓形成、動脈硬化巣の形成、虚血心筋傷害に至る動脈硬化性疾患の一連の形成過程に関与していることが明らかとなった。
(3)虚血性心疾患の予測因子として知られるC反応性タンパク (CRP)が、LOX-1のリガンドとして機能し、血管透過性の亢進や補体の活性化を引き起こすことを明らかとなった。
結論
LOX-1リガンド、sLOX-1およびLOX Indexの診断的有用性が明らかとなった。また、LOX-1が動脈硬化性疾患の一連の形成過程に促進的に関与している実験的エビデンスも得られた。LOX Indexを中心とした指標の臨床現場への導入およびLOX-1阻害剤の開発は、動脈硬化性疾患の予防および治療に役立つことが期待される。

公開日・更新日

公開日
2010-05-24
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2011-02-16
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200926012C

成果

専門的・学術的観点からの成果
ヒトサンプルや動物試験の結果から、酸化LDL受容体 (LOX-1) が、血管壁への脂質沈着、血栓形成、動脈硬化巣形成、虚血心筋傷害など、動脈硬化性疾患の一連の形成過程に促進的に関与していることが明らかとなった。また、疫学的に虚血性心疾患の危険因子と考えられているC反応性タンパク (CRP) が、LOX-1を介して心血管における生理作用を発現していることが明らかとなった。
臨床的観点からの成果
健常人における心血管病の発症・死亡をエンドポイントとした吹田研究(2,437名、平均11年間)の結果、血中LOX-1リガンド量が脳卒中・脳梗塞の発症予知マーカーとなることが明らかとなった。特に脳梗塞においては、第1四分位と比較した第4四分位の相対危険度はおよそ3倍であり、脳卒中の確立した最大の危険因子である高血圧と同程度であった。また、LOX-1リガンドと可溶型LOX-1の積 (LOX Index)の高値は、脳卒中・冠動脈疾患を含めた心血管病全体の発症のリスクをよく予知することが明らかとなった。
ガイドライン等の開発
高血圧と並ぶ新しい危険因子が明らかになったことから、これまでの示標だけでは見逃されている疾患予備群を救済するために、LOX index検査のガイドラインへの取り込みが、動脈硬化性疾患の予知・予防に役立つことが期待できる。
その他行政的観点からの成果
LOX-1リガンド量およびLOX Indexは、これまでの既知の危険因子とは独立したものであり、これまで疾患予備群と考えられなかった層における発症を予防できる可能性があるとともに、既知の危険因子と組合わせることにより、より効率のよい疾患の発症予防が達成できると考えられる。
その他のインパクト
LOXリガンドおよびLOX indexの心血管病発症予知の可能性に対する成果は、国際誌 (Clinical Chemistry 2010年 56号) に掲載されるとともに、同号でEditorialで紹介された。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
59件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
2件
学会発表(国内学会)
12件
学会発表(国際学会等)
4件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Mehta, J.L., Sanada, N. Sawamura, T. et al.
Deletion of LOX-1 reduces atherogenesis in LDLR knockout mice fed high cholesterol diet.
Circ Res ,  (100) , 1634-1642  (2007)
原著論文2
Hu, C., Dandapat, A., Sawamura, T. et al.
LOX-1 deletion alters signals of myocardial remodeling immediately after ischemia-reperfusion.
Cardiovasc Res ,  (76) , 292-302  (2007)
原著論文3
Hu, C., Chen, J., Sawamura, T. et al.
LOX-1 abrogation reduces myocardial ischemia-reperfusion injury in mice.
J Mol Cell Cardiol ,  (44) , 33-47  (2008)
原著論文4
Hu, C., Dandapat, A., Sawamura, T. et al.
LOX-1 deletion decreases collagen accumulation in atherosclerotic plaque in low-density lipoprotein receptor knockout mice fed a high-cholesterol diet.
Cardiovasc Res ,  (79) , 287-293  (2008)
原著論文5
Hu, C., Dandapat, A., Sawamura, T. et al.
Modulation of angiotensin II-mediated hypertension and cardiac remodeling by lectin-like oxidized low-density lipoprotein receptor-1 deletion.
Hypertension ,  (52) , 556-562  (2008)
原著論文6
Fujita, Y., Kakino, A., Sawamura, T. et al.
Oxidized LDL receptor LOX-1 binds to C-reactive protein and mediates its vascular effects.
Clin Chem ,  (55) , 285-294  (2009)
原著論文7
Fujita, Y., Kakino, A., Sawamura, T. et al.
C-Reactive Protein Uptake by Macrophage Cell Line via Class-A Scavenger Receptor.
Clin Chem ,  (56) , 478-481  (2010)
原著論文8
Nakano, A., Inoue, N., Sawamura, T. et al.
LOX-1 mediates vascular lipid retention under hypertensive state.
J Hypertens ,  (28) , 1273-1280  (2010)
原著論文9
Inoue, N., Okamura, T., Sawamura, T. et al.
LOX index, a novel predictive biochemical marker for coronary heart disease and stroke.
Clin Chem ,  (56) , 550-558  (2010)

公開日・更新日

公開日
2015-10-07
更新日
-