長期遠隔成績からみた糖尿病患者に対する至適冠血行再建法に関する研究

文献情報

文献番号
200926011A
報告書区分
総括
研究課題名
長期遠隔成績からみた糖尿病患者に対する至適冠血行再建法に関する研究
課題番号
H19-循環器等(生習)・一般-013
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
小林 順二郎(国立循環器病センター 心臓血管外科)
研究分担者(所属機関)
  • 田林 晄一(東北大学 大学院医学系 )
  • 山本 文雄(秋田大学 医学部)
  • 落 雅美(日本医科大学 医学部)
  • 田鎖 治(NTT東日本関東病院 心臓血管外科)
  • 夜久 均(京都府立医科大学 医学(系)研究科)
  • 田代 忠(福岡大学 医学部)
  • 岡林 均(岩手医科大学 医学部)
  • 川筋 道雄(熊本大学 大学院医学薬学研究部)
  • 井畔能文(鹿児島大学 医歯学総合研究科)
  • 山崎 健二(東京女子医科大学 医学部)
  • 佐藤敏彦(北里大学 医学部)
  • 宮本恵宏(国立循環器病センター 内科(糖尿病))
  • 中嶋博之(国立循環器病センター 心臓血管外科)
  • 木村一雄(横浜市立大学 循環器内科)
  • 高梨秀一郎(榊原記念病院 心臓血管外科 )
  • 伊藤 彰(大阪市立総合医療センター 循環器内科学虚血性心疾患)
  • 大塚 頼隆(国立循環器病センター 内科(虚血性心疾患))
  • 多田 英司(国立循環器病センター 心臓内科)
  • 宮崎俊一(近畿大学 循環器内科学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
8,250,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
生活習慣病として先進諸国での重大な健康問題である糖尿病の、最も重篤な慢性期合併症に虚血性心疾患がある。神経症、腎症、網膜症など他領域の合併症とともに、独特の冠動脈病変と治療に伴うリスクが知られているが、オフポンプ手術や動脈グラフトの定着や薬剤溶出ステントの出現など、近年の治療法の進歩から、治療体系の再構築が急務である。
本研究では本邦が誇る高い患者追跡率に着目し、急性期から遠隔期における患者死亡、心血管イベントを糖尿病患者の術前状態、手術による血行再建方法、造影結果等の分析から、糖尿病患者における至適血行再建法の確立を目的とする。
研究方法
対象は、2000年1月1日から2005年12月31日までにCABGもしくはPCIにて冠血行再建術を施行した患者のうち、いずれかの治療施行前に糖尿病と診断された20歳以上の患者。
結果と考察
17施設よりCABG群1243例、PCI群654例を登録した。糖尿病については、インシュリン治療を要する重症例がCABG群27%、PCI群14%と差があり、腎機能障害や透析例、NYHA classやCCSについてもCABG群で重症例の割合が高かった。
これらの解析の結果①CABGとPCIの生命予後は差を認めなかったが、Insulin使用者ではCABGの方がPCIより生命予後は良好であった。②MACEは、PCIでCABGに比べて5年で約30%多く発生し、その主因は再狭窄によるreinterventionであった。③CABGおよびPCIにおいて術前のHbA1c値6.5%以上と以下とで比較を行っても、生命予後、MACE発生に差を認めなかった。④CABG術後ではHbA1cが9%を越えると生命予後、MACE発生が多くなっていた。
5年間以上のフォローアップ期間での今回の、多施設共同研究によれば、多枝病変や糖尿病におけるCABGの優位性については、これまでに海外から報告されてきた内容とほぼ同様の結果となった。今後も、ステント材料の進化やCABGの成績の向上などとともに、高齢者や合併疾患を有するハイリスク例の増加などが進行してゆくことから、症例を重ねたさらなる検討が必要である。
結論
PCIは低侵襲で治療そのもののリスクは極めて低く広く治療対象とすることができる半面、CABGでは根治性が高く、遠隔成績により反映されやすいなどの特徴があり、個々の患者さんにおいて、それぞれ最適な治療法を選択する必要がある。今回の研究成果は、本邦からのすぐに臨床に適用可能なエビデンスとして公表し、この最適な治療法の選択においての重要な判断材料となると考えられる。

公開日・更新日

公開日
2011-01-28
更新日
-

文献情報

文献番号
200926011B
報告書区分
総合
研究課題名
長期遠隔成績からみた糖尿病患者に対する至適冠血行再建法に関する研究
課題番号
H19-循環器等(生習)・一般-013
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
小林 順二郎(国立循環器病センター 心臓血管外科)
研究分担者(所属機関)
  • 田林 晄一(東北大学 大学院医学系)
  • 山本 文雄(秋田大学 医学部)
  • 落 雅美(日本医学大学 医学部)
  • 田鎖 治(NTT東日本関東病院 心臓血管外科)
  • 夜久 均(京都府立医科大学 医学(系)研究科)
  • 田代 忠(福岡大学 医学部)
  • 岡林 均(岩手医科大学 医学部)
  • 川筋 道雄(熊本大学 大学院医学薬学研究部)
  • 井畔 能文(鹿児島大学 医歯学総合研究科)
  • 山崎 健二(東京女子医科大学 医学部)
  • 佐藤 敏彦(北里大学 医学部)
  • 宮本 恵宏(国立循環器病センター 内科(糖尿病))
  • 中嶋 博之(国立循環器病センター 心臓血管外科)
  • 木村 一雄(横浜市立大学 循環器内科)
  • 高梨 秀一郎(榊原記念病院 心臓血管外科)
  • 伊藤 彰(大阪市立総合医療センター 循環器内科学虚血性心疾患)
  • 大塚 頼隆(国立循環器病センター 内科(虚血性心疾患))
  • 多田 英司(国立循環器病センター 心臓内科)
  • 宮崎 俊一(近畿大学 循環器内科学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
生活習慣病として先進諸国での重大な健康問題である糖尿病の、最も重篤な慢性期合併症に虚血性心疾患がある。神経症、腎症、網膜症など他領域の合併症とともに、独特の冠動脈病変と治療に伴うリスクが知られているが、オフポンプ手術や動脈グラフトの定着や薬剤溶出ステントの出現など、近年の治療法の進歩から、治療体系の再構築が急務である。
本研究では本邦が誇る高い患者追跡率に着目し、急性期から遠隔期における患者死亡、心血管イベントを糖尿病患者の術前状態、手術による血行再建方法、造影結果等の分析から、糖尿病患者における至適血行再建法の確立を目的とする。
研究方法
対象は、2000年1月1日から2005年12月31日までにCABGもしくはPCIにて冠血行再建術を施行した患者のうち、いずれかの治療施行前に糖尿病と診断された20歳以上の患者。
結果と考察
17施設よりCABG群1243例、PCI群654例を登録した。糖尿病については、インシュリン治療を要する重症例がCABG群27%、PCI群14%と差があり、腎機能障害や透析例、NYHA classやCCSについてもCABG群で重症例の割合が高かった。
これらの解析の結果①CABGとPCIの生命予後は差を認めなかったが、Insulin使用者ではCABGの方がPCIより生命予後は良好であった。②MACEは、PCIでCABGに比べて5年で約30%多く発生し、その主因は再狭窄によるreinterventionであった。③CABGおよびPCIにおいて術前のHbA1c値6.5%以上と以下とで比較を行っても、生命予後、MACE発生に差を認めなかった。④CABG術後ではHbA1cが9%を越えると生命予後、MACE発生が多くなっていた。
5年間以上のフォローアップ期間での今回の、多施設共同研究によれば、多枝病変や糖尿病におけるCABGの優位性については、これまでに海外から報告されてきた内容とほぼ同様の結果となった。今後も、ステント材料の進化やCABGの成績の向上などとともに、高齢者や合併疾患を有するハイリスク例の増加などが進行してゆくことから、症例を重ねたさらなる検討が必要である。
結論
PCIは低侵襲で治療そのもののリスクは極めて低く広く治療対象とすることができる半面、CABGでは根治性が高く、遠隔成績により反映されやすいなどの特徴があり、個々の患者さんにおいて、それぞれ最適な治療法を選択する必要がある。今回の研究成果は、本邦からのすぐに臨床に適用可能なエビデンスとして公表し、この最適な治療法の選択においての重要な判断材料となると考えられる。

公開日・更新日

公開日
2011-01-28
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2011-02-01
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200926011C

成果

専門的・学術的観点からの成果
全17施設1797例(CABG群1243例、PCI群654例)、CABG群でInsulin、腎機能障害等重症例が有意に多かったが、1.生命予後はCABGとPCIで同等。Insulin例ではCABGの方が良好2.MACEはPCI後5年でCABGより約30%多く発生。主因は再狭窄によるreintervention3.両群でHbA1c値6.5%以上と以下との比較では、予後に差がないが、HbA1c>9%ではCABG術後の死亡やMACE発生が多い、などの結果をヨーロッパや複数の国内学会で公表した。
臨床的観点からの成果
これまで2枝以上の病変を有する例や、insulinや腎不全合併例などの重症例においては、初回からPCIではなくCABGをこれまで以上に考慮することによって、治療成績の向上が期待できることが本邦のデータからも裏付た。この成果を臨床の場にフィードバックし実践に移すことは今後の課題であるはあるものの、本研究は大きな意義を有するものと考えられる。
ガイドライン等の開発
2006年に公表された日本循環器学会、日本冠疾患学会、日本冠動脈外科学会、日本胸部外科学会、日本心臓血管外科学会、日本心臓病学会の合同研究班による「虚血性心疾患に対するバイパスグラフトと手術術式の選択ガイドライン」の改訂が本年度に行われるにあたり、糖尿病に関連する冠動脈病変への治療選択について本研究の結果が加味される予定である。
その他行政的観点からの成果
国民病ともいわれる糖尿病における冠動脈病変は生命予後と直結し、最適な治療法の確立が医学的に重要であるだけでなく、限られた医療材料、財政のもとで最大限効率よく予後の改善につなげることは社会的にも大きな意義を持つ。本邦のデータからも心事故回避や生存率だけでなく、コスト面からも、特に重症例や多枝病変例を中心として、CABGの有効性を示す結果となっている。
その他のインパクト
本邦では薬物溶出ステント全盛の時期にも関わらず、糖尿病例に対する冠動脈バイパス術の安全性と重要性の大きさを示す本邦発の多施設大規模な臨床研究成果として、特にMedical Tribune誌にて2008年2月、2009年4月、同年9月に取り上げられ、糖尿病及び関連する心疾患へ治療に対する社会的な意義の大きさや関心の高さが表れている。

発表件数

原著論文(和文)
5件
原著論文(英文等)
19件
その他論文(和文)
12件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
32件
学会発表(国際学会等)
1件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Watanabe K, Matsui M, Matsuzawa J,etal.
Impaired neuroanatomic development in infants with congenital heart disease.
J Thorac Cardiovasc Surg ,  (137) , 146-153  (2009)
原著論文2
Nakajima H, Kobayashi J, Toda K, etal.
Safety and efficacy of sequential and composite arterial grafting to more than five coronary branches in off-pump coronary revascularization: assessment of intraoperative and angiographic bypass flow
Eur J Cardiothorac Surg. ,  (37) , 93-98  (2010)
原著論文3
Tochii M, Ogino H, Matsuda H, etal.
Is prompt surgical treatment of an abdominal aortic aneurysm justified for someone in their eighties?
Ann Thorac Cardiovasc Surg. ,  (15) , 23-30  (2009)
原著論文4
Nakajima H, Kobayashi J, Tagusari S, etal.
Graft desigh strategies with optimum antegrate bypass flow in total arterial off-pump coronary artery bypass
European Association for Cardio-Thoracic Surgery ,  (31) , 276-282  (2007)
原著論文5
Nakajima H, Kobayashi J, Tagusari S, etal.
Angiografic flow grading and graft arrangement of arterial conduits
The Journal of Thracic and Cardiovascular Surgery ,  (132) , 1023-1029  (2006)
原著論文6
船津俊宏、小林順二郎
心臓血管外科の最新治療-不整脈
日本外科学会雑誌 ,  (109)  (2008)
原著論文7
船津俊宏、小林順二郎
僧帽弁位における生体弁の遠隔成績
心臓 ,  (40) , 754-757  (2008)
原著論文8
船津俊宏、小林順二郎
心筋症の臨床、外科的治療
治療学 ,  (42) , 426-430  (2008)
原著論文9
Kitamura S, Tsuda E, Kobayashi J,etal.
Twenty-Five-Year Outcome of Pediatric Coronary Artery Bypass Surgery for Kawasaki Disease.
Circulation. ,  (120) , 60-68  (2009)
原著論文10
Kitamura S, Nakatani T, Kato T,etal.
Hemodynamic and Echocardiographic Evaluation of Orthotopic Heart Transplantation With the Modified Bicaval Anastomosis Technique.
Circ J. ,  (73) , 1235-1239  (2009)
原著論文11
Oyamada S, Kobayashi J, Tagusari O, etal.
Is Diabetic Nephropathy a Predicted Risk Factor? -Kaplan-Meier and Multivariate Analysis of Confounding Risk Factors in off-Pump Coronary Artery Bypass Grafting for Chronic Dialysis Patients.
Circ J. ,  (73) , 2056-2060  (2009)
原著論文12
Shiraishi S, Yagihara T, Kagisaki K, etal.
Impact of age at Fontan completion on postoperative hemodynamics and long-term aerobic exercise capacity in patients with dominant left ventricle.
Ann Thorac Surg. ,  (87) , 555-561  (2009)
原著論文13
Nakamura Y, Yagihara T, Kagisaki K,etal.
Pulmonary arteriovenous malformations after a Fontan operation in the left isomerism and absent inferior vena cava.
European Journal of Cardio-thoracic Surgery. ,  (36) , 69-76  (2009)
原著論文14
Kataoka Y, Tsutsumi T, Ishibashi K,etal.
IMAGE CARDIO MED: Oppression of left main trunk due to pseudoaneurysm with graft detachment in patients with Behcet disease previously treated by the Bentall procedure.
Circulation. ,  (119) , 2858-2859  (2009)
原著論文15
Nakajima H, Kobayashi J, Toda K, etal.
A simplified technique of collar-reinforced mitral valve replacement
J Hear Valve Dis  (2009)
原著論文16
Tamori Y, Akutsu K, Kasai S, etal.
Coexistent true aortic aneurysm as a cause of acute aortic dissection.
Circ J ,  (73) , 822-825  (2009)
原著論文17
小林 順二郎
虚血性僧帽弁閉鎖不全症
循環器病研究の進歩 , 26-32  (2009)

公開日・更新日

公開日
2015-10-07
更新日
-