老人訪問看護サービスの質的向上に関する研究

文献情報

文献番号
199700628A
報告書区分
総括
研究課題名
老人訪問看護サービスの質的向上に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
七田 惠子(東海大学)
研究分担者(所属機関)
  • 高崎絹子(東京医科歯科大学)
  • 田宮菜奈子(帝京大学)
  • 深谷安子(東海大学)
  • 今瀬繁子(東海大学医療技術短期大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成7(1995)年度
研究終了予定年度
平成9(1997)年度
研究費
4,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
老人訪問看護サービスの質的向上のための方策を探求する。
研究方法
平成9年度に実施した研究方法を主に述べる。
1)利用者によるサービスの評価:平成8年度に完成した利用者による評価票を用いて、主介護者によるサービスの評価と満足度を測定し、満足度に寄与する評価要素は何かを分析した。調査対象はステーション利用者62名。1人の看護婦が訪問面接した。次ぎに看護職と介護職を同時に利用している25名の家族に、両者のサービス評価を試み、家族は何を期待し、何をどのように評価しているか、質の特性について、看護職と介護職の比較を行った。
2)日常の訪問看護業務における継続的質向上のための対策:米国を中心に採用されている Quality Assessmentと Quality Improvementの考え方を基に、わが国の各地ステーションで実施可能な方法を採用し、実践して改善策の設定までを試みた。
3)訪問看護量に関連する分析:病院訪問看護および訪問看護ステーションを利用している本人および家族を含む訪問看護利用者75名と、その担当看護婦を対象に郵送調査を行い、看護記録物からもデータを採取した。
4)訪問看護機関別ケアマネジメントの分析:訪問看護の業務内容をタイムスタディ技法により分析し、管理者、スタッフの比較を行った。対象は4機関の管理者とスタッフ15名について3~5日間調査し、延54人日を対象とした。
結果と考察
結果=1)利用者によるサービスの評価:評価は23項目の評価要素から構成され、評価判定には5段階リッカート方式を採用、1~5点の点数化を試みた。別に「訪問看護を利用して満足したか」の項目内容でサービスの満足度を尋ねた。各評価要素とサービス満足度の関係をみると、「常時対応」「緊急時対応」は利用者の強い希望であり、サービス満足度も高かった。「処置技術」「看護計画の説明」「清潔に配慮」の評価成績との関連も強かった。訪問時の利用者理解と訪問者説明のコミュニケーションが相互にスムースであること、サービスの成果としては、主介護者への心の支えとなったことが利用者にとって効果的に作用した。看護職と介護職におけるサービスの質を比較すると、利用者による質の評価項目の得点は、すべての項目において看護職のほうが介護職にくらべ、有意に高い得点を示した。看護職と介護職とでは利用者が希望する内容に差があると認められた。看護職に対しては病状管理や医療処置の質を期待し、意思疎通がよく図れて、心の支えとなってもらいたいと希望していた。介護職に対しては、家事サービスや日常生活援助を訪問回数を増やして受けたい、そして介護負担を軽くしてもらいたいと願っていた。
2)日常の訪問看護業務における継続的質向上のための対策:訪問看護婦が反省した質の低下を招いた事柄の指標(Clinical Indi-cator:CI)を、看護婦19名から、一人当たり4件ずつ、計76件あげてもらった。大別すると医療処置関係 27 % 、ついで病状の変化と対応の問題が 20 % 、看護側の業務調整関係 18 % 、諸機関との連携 14 % の順であった。これらのCIは質の向上に役立つとの意見が 100 % であり、 57 % はこれらのCIでカバーされているとの調査結果が示された。 さらに、3ステーションにおいて、過去1年間における訪問中止例について溯って調べたところ、質の低下を招いたと考えられるCIケースは各々の施設で 111、 58、 15ケースであり、これらのCIは避けられたであろうと看護婦たちは推測していた。そして、訪問看護婦が考える改善の余地としては、急変時の対応確認、24時間体制の整備、社会資源利用への支援などであり、それらを充実すれば訪問中止には至らなかったであろうという結果であった。本方法は、サービスの質を評価する方法として有用であり、状況別に応じた改善マニュアルを作成することができた。 
3)訪問看護量に関連する要因分析:訪問看護の専門家である看護婦の目でみると、訪問看護量(時間、回数)は利用者の状況、健康状態及び家族環境によって変わるものである。それを適切にアセスメントして、必要な時間をかけてサービスを提供しなければならない。時間を節約したのでは質の高い看護サービスは行えない。それを評価するには、患者のADL、症状、疾患、精神状態別に訪問看護量の目安を設定する必要がある。
4)訪問看護の業務内容分析:訪問ケア時間量は全体の 32.9%、管理業務が 24.7 %、移動に要する時間は 14.0 %、他との連携に要する時間は 10.6 %であった。管理者では管理業務が 36.4 %、訪問ケアは 20.4 %、要連携時間量は 14.1 %。1件あたりの訪問ケア時間量は管理者 51.6 分、スタッフでは 64.3 分であった。管理者は管理業務などに時間をとられ、実際に訪問できる時間量は少ない。現行では訪問ケアに対してのみ収入が得られるしくみになっているが、管理業務や連携業務に対しても収入計算がされる制度に改定すべきである。訪問看護の経営が苦しいようではサービスの質向上は困難である。
この他に、医師との連携、介護職との連携に関連する要件を求め、訪問看護への理解が不十分であるとされた。
考察=訪問看護の利用者による評価は概ね好評であり、成績は極めて良かった。しかし、こうしたサービスのプラス面のみを評価する方法では、よい成績しか得られないので、改善のための指標が読み取りにくくなる傾向がある。そこでこれしは対称的に、質の低下、すなわち、マイナス面に注目して、日頃の業務の質を維持改善できる方策を考え試みた。見出だされた質の低下を招く事柄の指標(CI)は、医療処置関係、病状の変化と対応、看護側の業務調整関係、諸機関との連携などであった。訪問看護婦が考える訪問中止をなくさせるための改善策としては、急変時の対応確認、24時間体制の整備、社会資源利用への支援などであった。自己点検、自己研鑽のためにこの方法は役に立つと思われる。
看護職と介護職の相違点に関しては、調査者が看護婦であったこと、看護の質用に調査票を開発したこと(しかし、できる限り両者の公平を期して扱ったが)で看護職の評価が高くなり、介護職に不利に働いたことも考えられる。しかも今回対象となった介護職は家事サービスが主要な業務であった。それでも、面接調査から知り得たことは、利用者は、看護職と介護職に対し、それぞれの専門を生かしてほしいと要望していたことである。訪問時間や回数に対して、利用者は多ければ多いほどよいと考えられがちであるが、調査結果は「今のままでよい」とする回答が多数であった。おそらく、看護婦の調整(アセスメント)が適切なためであろうと推察される。
結論
訪問看護サービスの質向上のために以下の項目に配慮して対策を立てるべきであるという結論を得た。
1)高レベルの医学・看護の処置技術を提供する.2)利用者は、精神的援助、心の支えとなることを切望している.3)利用者は、看護婦に対しとくに病状変化への対応を求めている.4)訪問回数、時間量は適切なアセスメントのもとに決定する必要がある.長い時間をかけるのが必ずしも質の向上とはならない.5)利用者は、急変時対応、常時対応を強く希望し、24時間看護体制の整備を求めている.6)利用者は、看護職、介護職の特性に応じたサービスを求め、看護職には処置や病状に関連した医療及び生活援助を、介護職には家族を含めた生活の質をあげる援助を求めている.

公開日・更新日

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