高齢者に対する有酸素運動の継続が長期予後に及ぼす影響

文献情報

文献番号
199700627A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢者に対する有酸素運動の継続が長期予後に及ぼす影響
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
小林 正(愛知医科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 小川斉(愛知医科大学)
  • 佐藤昭彦(大同病院)
  • 太田敬(愛知医科大学)
  • 武者春樹(聖マリアンナ医科大学)
  • 町田和子(国立療養所東京病院)
  • 後藤純規(国立療養所中部病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成8(1996)年度
研究終了予定年度
平成10(1998)年度
研究費
7,600,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
有酸素運動療法の有用性はすでに明らかにされているが、多くは青壮年者を対象とした短期のものであり、有病高齢者を対象に長期に亘り検討されている研究は極めて少ない。わが研究班ではすでに数年に亘り高齢者に対する運動療法に取り組み、その有用性を確認しつつあるが、今年度は対象者や施設利用或いは指導の有無によって効果に差が生じるか否か、また社会的自立に必要な体力や歩行能力をどのレベルに設定したらよいのか等を明らかにすることを研究目的とした。
研究方法
1)健常高齢者と有病高齢者に6ヶ月間の運動療法を施行し、その効果に差があるか否かについて検討した(小川)。2)運動療法に参加、4年を経過した有病高齢者を施設利用継続群と中断群に分け、体力を比較検討した(小林)。3)平生運動習慣を有する高齢高血圧患者の運動能力を高齢心筋梗塞患者(回復期監視型運動療法施行直後)を対照に心肺運動負荷試験を用いて対比検討した(佐藤)。4)間歇性跛行患者に運動療法を行い、3週後並びに遠隔期の歩行能力と血行動態変化を検討した(太田)。5)高齢者の社会的自立に必要な体力と歩行能力を心筋梗塞患者の退院時酸素摂取量と最高歩行速度から検討した(武者)。6)慢性呼吸器疾患々者に排痰・呼吸訓練器Flutterを用いて呼吸訓練を行い、短期並びに長期効果を検討した(町田)。7)有酸素運動としての歩行の安全性について血液濃縮度と体液調節系ホルモンを測定し、検討した(後藤)。
結果と考察
健常高齢者40名と高齢循環器疾患患者35名に運動療育センターにて6ヶ月間トレーニングを行い、有酸素運動の効果の違いについて検討した。両群において有酸素能力(peak VO2やAT)の向上は軽度であったが、上体おこしや全身反応時間は有病高齢者群で明らかに改善した。これらの運動は有酸素運動とは直接的な関係はないが、体力が低下している有病高齢者には低強度の運動であっても筋持久力や反応性に好影響を与えたものと思われる。6ヶ月間の運動療法では明らかな体力の向上は得られなかったが、4年間に亘って施設を利用して運動療法を継続した有病高齢者10名ではpeak VO2やATは維持・向上され、中断群17名、対照群7名では低下傾向を示した。この結果から4年という加齢を重ねたにもかかわらず、施設を利用、運動を継続することによって体力が維持・向上されることが明白にされた。しかし、10m歩数や10m歩行時間は3群とも小となった。検査に対する慣れもあろうが、毎日の歩数記録や定期的な体力測定が日常の基本動作である歩行に対する関心を抱かせ、万歩計や記録手帳を渡すだけでもそれなりの効果は期待できる。一方、平生運動習慣ありとする高齢高血圧患者25名の運動能力は回復期監視型運動療法施行直後の高齢男性心筋梗塞9名と比較して、peak VO2やATは有意差はなかったが、VE・VCO2関係の勾配、peak work rate、AT timeとも低値で、運動能力は決して高くなく、運動習慣を有する高血圧患者に対しても運動処方と指導を行う必要がある。
個々の症例に見合った運動処方と指導が如何に重要であるか、間歇性跛行肢14名を対象とした研究からも明らかにされた。これらの患者を3週間入院させ、運動プログラムを設定、退院後自宅でも平地最大歩行の80%の距離と3分間の休憩の繰り返しを、原則として午前、午後に30分づつ行うように指導、遠隔期(1~6.1年、平均3.1年)の歩行能力と罹患肢の血行動態を調べた結果、最大歩行距離は全例で延長し、40mAPIや40mAPI回復時間も有意に改善され、跛行肢に対する運動療法の有用性が確立された。
運動療法の目標をどのレベルに設定したらよいか、個々の疾患や重症度により異なり難しい問題であるが、神経・筋・骨格系に障害がない場合、例えば心筋梗塞患者では社会的自立が可能であるinstrumental ADL(IADL)レベルの回復を目指してリハビリテーションが行われる。
そこでIADLレベルから日常生活維持に必要な体力と歩行能力を求めた。対象は50歳から89歳の急性心筋梗塞患者65名で退院時に心肺運動負荷試験並びに10m歩行試験を行った。その結果、年齢と関係なく、AT 10ml/min/kg、ECR(peak VO2 - AT)2ml/min/kg以上、最高歩行速度60m/min以上が日常生活維持に最低限必要な体力であり、歩行能力であることが判明した。しかしながら、体力と歩行能力とは密接な相関はみられず、前述した成績と同様、歩行能力は慣れとか歩行技術などの要素が関連してくるのではないかと思われる。
歩行能力だけでも維持・向上できれば、QOLの改善につながる。しかし、この歩行が有病高齢者にとって安全かどうか、高齢心疾患患者6例を対象に自己ペース(分速61~91m)の20分歩行では体液バランス面から安全であることが明らかにされたが、この成績は屋内のものであり、すでに報告したが、気候、特に夏には脱水や体温上昇がみられるので細心の注意を持って指導に当たらなければならないと考える。
呼吸器疾患は有酸素運動を行う上で、大きな制約因子であるが、慢性呼吸器疾患患者は高齢化とともに増加の一途を辿っている。日常生活を維持するために歩行訓練も勿論必要で、施行してはいるが、呼吸訓練によって呼吸機能の改善が得られればより効果的となる。
そこで呼気に陽圧と振動を与える排痰・呼吸訓練器Flutterを用いて慢性呼吸器疾患患者を対象に短期、長期効果を検討した。
短期試験(44名、5分間の訓練)では換気及びガス交換の改善が得られ、長期試験(3ヶ月以上5分間3回/日を行った11名)では排痰効果や頭痛などの自覚症状が改善し、高炭酸ガス血症の悪化予防効果が認められた。Flutterは安価で手軽な器具であり、慢性呼吸器疾患患者の肺機能改善に有用である。
結論
有酸素運動を継続させ、効果を得るためには疾病や体力に見合った適切な運動処方と指導を行い、処方・指導を受ける側、指示する側双方がそれぞれにある期間ごとに達成目標を設定して、常にその目標を意識しながら、クリアすることを楽しみに、励みとしながら取り組んでいくことが大切で、次年度は6年間に亘る成績を総括して有病高齢者用の運動目標、処方と指導指針を提唱したい。

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