老人痴呆患者の問題行動への対処法

文献情報

文献番号
199700626A
報告書区分
総括
研究課題名
老人痴呆患者の問題行動への対処法
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
齋藤 和子(千葉大学看護学部)
研究分担者(所属機関)
  • 小穴康功(東京医科大学霞ヶ浦病院)
  • 津田ヨシエ(市川市社会福祉部)
  • 田中久江(広島県東広島保健所)
  • 佐藤美智子(秋田桂城短期大学看護学科)
  • 石津宏(琉球大学医学部)
  • 野口美和子(千葉大学看護学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成8(1996)年度
研究終了予定年度
平成9(1997)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
老人痴呆患者では、初期の、軽症段階における保護・看護・介護のあり方が痴呆症状全体の進行、問題行動の出現に重要な役割をはたしている。そこでこの目的は1.問題行動出現のメカニズムを明らかにし、2.初期、軽症段階における、問題行動の緩和あるいは改善に導くような精神機能維持活動のプログラムおよび活動用の道具を開発し、3.殊に寒冷地、降雪地等、老人が閉居し、寝たきり状態に陥りやすい地域で、訪問看護・介護時に実施できるゲ-ムおよび遊具等を工夫、開発し、よって4.痴呆の重症化を予防し、問題行動を回避あるいは緩和する看護・介護の具体的方法を確立することである。
研究方法
分担研究者の分担課題によって調査研究あるいは臨床実践研究である。
結果と考察
各課題毎に結果を要約し、考察を加える。
課題1.千葉県内老人保健施設利用者家族調査:目的は、老人保健施設を利用している家族の介護状況と、退所を困難にさせている要因を明らかにすることである。対象施設は、千葉県内の老人保健施設で、痴呆専門棟があるか、あるいは痴呆加算のある施設 8か所、および痴呆加算のない施設 2か所計10か所で、対象者は 100名であった。回収率は 42%であった。結果は以下の通りである。1.施設利用の理由は、利用形態にかかわらず「長期入所施設に入れないため」が多く、全体の62% である。2.前項のいわば<長期入所施設待機群>とそれ以外を比較すると、<待機群>は介護協力者が少なく、また介護者の健康状態が不良である。3.デイケア利用群は介護協力者を多くもっている。以上から、介護協力者不在、および介護者の健康状態不良が退所の阻害要因であると要約された。
課題2 .老人性痴呆疾患の問題行動の背景と対策-多軸的背景スケ-ルを中心に-:対象者は、東京医科大学霞ヶ浦病院精神神経科老人性痴呆疾患センタ-を平成 3年開設時から平成 9年までの 6年間に受診した約 450名の痴呆性疾患の中から、問題行動があり、かつ当研究者らが縦断的に経過を観察しえた20例である。多軸スケ-ルは、1.興奮、易怒、攻撃性、性衝動等の情動障害、2.せん妄等の意識障害、3.精神症状、4.脳の萎縮の程度、5.神経症状、6.薬物療法の効果、7.家族関係、8.痴呆スケ-ル得点を、それぞれ重度 1点、中等度 2点、軽度 3点として評価した。結果は、在宅同居ケア群と、施設ケア群で比較した。情動障害では興奮、精神症状では健忘および失見当、精神症状では被害妄想が多かった。各得点は、両群間で統計的有意差は認められなかった。
課題3.在宅老人痴呆患者の効果的な介護:1996年度は在宅痴呆性老人を対象とし、問題行動の原因と動機に関連した調査した。本年度は介護者を対象に調査した。調査は面接による聞き取りで、老人の経過観察と平行して実施した。その結果、痴呆性老人本人の状態に改善は見られなくとも1.介護者の介護意欲が保持され、2.介護支援が安定して得られれば在宅での介護継続は可能であると結論された。そしてこのためには1.介護者の痴呆にたいする理解と受容が重要であること、2.デイサ-ビスやショ-トステイのように、一定時間あるいは一定期間、介護者と痴呆性老人が完全に離れていられるような内容の支援が必要であり、これらを定期的に利用することで介護意欲も保持されると考えられた。
課題4.軽症痴呆患者の問題行動出現回避のモデルグル-プワ-ク:この研究の目的は、痴呆の兆候のある老人に、日常生活の自立が不可能になるほど重症化する前に、積極的に予防的ケア、すなわち「精神機能回復訓練」および「好ましい生活時間の構造化」援助を行うことにより重症化を阻止しようというものである。事業は1.音楽療法、2.コラ-ジュ療法、3.ゲ-ム、4.自宅での日常生活時間の構造化である。評価は、1.精神機能、2.感情表出、3.生活行動について実施した。結果は、各種評価スケ-ルで開始時にくらべ平均スコアが上昇し、事例によっては問題行動に改善がみられた。これらは、本プログラムによるグル-プワ-クおよび自宅における生活時間の構造化への援助が、痴呆の進行阻止に有効であることを示唆するものである。
課題5.冬季降雪地帯に住む在宅の痴呆患者に対する精神機能回復のための遊具、ゲ-ムの開発:本課題は秋田県大館保健所管内において実施された。同管内は秋田県北東部に位置し、11月から 4月までは寒冷と雪に覆われ、屋内、屋外を問わず高齢者の活動は制約をうける。研究の目的は、冬の活動不足を解消し、痴呆や寝たきりを予防するために、高齢者、特に痴呆性老人、寝たきり予備軍に対する家庭訪問や健康教育で簡便に使用できるゲ-ムや遊具の開発および普及である。内容には"遊び"を積極的に採り入れ、個別指導および集団指導を実施した。注目される結果は、道具を用い、遊びに誘うと殆どの老人の表情が和やかになり、喜んで参加することである。重度痴呆の老人でも"遊び"には関心を示した。遊びの効果は老人には楽しみを与え、来談者と交流をもつきっかけとなること、つまり老人とのコミュニケ-ションの道具となることである。主題には童話等既知のものを用い、物語の進行、場面の転換、図柄、色彩等は独自に工夫し試行を重ねた。今後看護・介護の専門職および家族等が施設や自宅で使用した結果を調査し、改良を図りたい。
課題6.沖縄県における老人痴呆患者の問題行動と対処法ー沖縄の社会文化的環境と精神衛生の視点からー(第2報):沖縄における痴呆老人患者の臨床症状、とりわけ問題行動について1.地域特性を踏まえて対処方略を工夫したメンタル・ケアを行い、2.問題行動の消長を精神衛生学的に追跡するとともに、3.臨床症状の変化を評価尺度を用いて測定した。その結果、臨床的にはADLの改善と問題行動の改善が平行してみられた。また痴呆症状を含めて患者の精神状態の改善はNMスケ-ルや島袋式および下地式場面行動評定票において、さらには長谷川式DRスケ-ルにおいても有意な改善が把握された。これにより、当該メンタル・ケアは有効な対処方略であることが示唆された。課題7.老人痴呆患者の問題行動への対処法ー老人病院における痴呆患者の問題行動とその対処法についてー:老人病院の看護婦への面接調査から、痴呆性老人の問題行動について看護者は様々な対処法を有していることが明らかになった。また、それぞれの看護婦は、問題解決のための方法のみでなく、問題の原因を探索する方法や、問題発生を予測し、予防するための方法、問題そのものの解決が難しい時の打開策を有していた。
結論
各課題において各々研究対象の拡大、内容の充実、補充、新規開発等をを行った。得られた結果はそれぞれ痴呆性老人の問題行動への対処に示唆を与えるものであった。

公開日・更新日

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