高齢者に対する組織的な保健・看護・介護サービスのあり方に関する研究

文献情報

文献番号
199700625A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢者に対する組織的な保健・看護・介護サービスのあり方に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
金川 克子(東京大学)
研究分担者(所属機関)
  • 鈴木和子(東海大学)
  • 石垣和子(浜松医科大学)
  • 安村誠司(山形大学)
  • 尾島俊之(自治医科大学)
  • 立浦紀代子(羽咋市訪問看護ステーション)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成8(1996)年度
研究終了予定年度
平成9(1997)年度
研究費
15,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、在宅高齢者を対象に、自立した生活が少しでも長く維持できるように、組織的な保健・看護・介護サービスのあり方を検討することである。ここでは、高齢者の日常生活自立度(寝たきり度)判定基準(ランクJ、 A、 B、 C)を勘案して、各々のニーズに応じた高齢者に対する組織的な保健・看護・介護サービスのあり方を検討することとした。すなわち、?自立している(ランクJ)高齢者を中心とした組織的な保健サービスのあり方の検討(尾島)?準ねたきり(ランクA)の高齢者を中心とした組織的な保健サービスのあり方に関する検討(安村)?寝たきり(ランクB、C)の高齢者を中心とした組織的な看護・介護サービスのあり方の検討(石垣、立浦)?高齢者単独世帯と高齢者夫婦世帯を中心とした組織的な保健・看護サービスの検討(金川)?高齢者の介護家族に対するサービスのあり方の検討(鈴木)の5つの研究課題とした。
研究方法
上記の5つの研究課題に沿って、各々の研究分担者が以下の方法で行った。
1. 自立している(ランクJ)高齢者を中心とした組織的な保健サービスのあり方の検討: 対象は、1993年に栃木県内6医療機関に、脳卒中で入院し、生存して退院した高齢者である。これらの対象に1994年から毎年10月~翌年1月に訪問面接を行い、ADL(Katz Indexを使用)と健康に関する習慣や日常の活動状況等を把握し、ADL維持の要因分析を行った。
2. 準ねたきり(ランクA)の高齢者を中心とした組織的な保健サービスのあり方に関する検討:山形県内の2市の2地区の65歳以上の在宅高齢者(1997年8月1日現在)を対象に1997年9月に一次調査(郵送法)、同年10月~11月に二次調査(郵送法)、同年11月下旬に三次調査(訪問面接)により、ランクAの特性を分析した。
3. 寝たきり(ランクB、 C)の高齢者を中心とした組織的な看護・介護サービスのあり方の検討:1)静岡県H市における特別養護老人ホーム待機者を対象として2段階にわたるアンケート調査を実施した。まず一次調査として、H市における特別養護老人ホーム待機者全員に対して、質問紙郵送法による調査を実施した。一次調査の対象者は、平成9年8月末時点での待機者473名、調査時期は平成9年10月であった。回収数は387、回収率は81.8%であった。次に一次調査の結果、在宅にて待機していることが判明した者に対し、二次調査として質問紙に基づく聞き取り調査を保健婦による訪問面接にて実施し、本人のADLや介護者の状況の詳細な情報を得た。二次調査の対象者は、在宅待機している者(92名)にケアハウスで待機している者(8名)を含め合計100名、そのうち調査実施者は99名であった。二次調査の実施時期は平成9年12月であった。2)石川県羽咋市在住の65歳以上の自立度判定基準B、Cを対象に2群に分け、一方には介入群として、ADL改善のためのプログラム(座位耐性訓練を主にしたもの)を実施し、他方には対照群として同市からの訪問指導のみを導入し、両群のADL、生理的状況、非臥床時間等を比較・分析した。
4. 高齢者単独世帯と高齢者夫婦世帯を中心とした組織的な保健・看護サービスの検討: 石川県W市在住の高齢者単独世帯と高齢者のみ世帯を対象に、1年間の推移と高齢者の活動能力、公的サービスの利用状況・周知度を把握・分析した。
5. 高齢者の介護家族に対するサービスのあり方の検討:長崎県内の3市16町1村に在住する介護家族を対象に高齢者と介護者の特性を訪問面接調査にて把握し・分析した。
結果と考察
各々の課題についての詳細な研究結果は別にまとめているが、ここでは研究課題に沿って主な結果のみを示す。
1. 自立した高齢者のADL維持に関連した要因を低ADL化の寄与危険、ADL維持のためのオッズ比より明らかにした。主な結果は、健康時からの禁煙、適正飲酒、趣味あり、定期的受診あり等が挙げられた。
2. ランクAは65歳以上の在宅高齢者のうち6.1%を占めていた。また、ランクJに比較して、身体的に虚弱であり、心理的にも依存傾向がみられたり、また、日常動作での自信が持てず生きがいもない人が多くみられた。
3. 1) 特別養護老人ホーム入所申請後の待機者は4分の1弱が在宅で待機していたが、4分の1強が入院、約2分の1が老人保健施設に入所しながらの待機であった。介護負担は精神的負担が最も多く次いで肉体的負担であった。介護困難解消のためのサポートを求める相手としては、親戚が最も高く、次いで同居家族であった。ソーシャルサポートについてはそれほど多くは求められていなかった。また、配偶者が同居の方が在宅待機が多い、配偶者が元気で同居している場合は待機者のADLはより低い、死別の場合は情緒的サポート、手段的サポートを求める意見が他より多く、サービス認知も高かったが、サービスの利用は特に高くはない、などが明らかになった。
2) 在宅寝たきり高齢者 82名を対象(介入群41名;対照群41名)として、ADLおよび1日の非臥床時間の拡大を目標に 3カ月間にわたる座位耐性訓練を中心とするケアプログラムによる介入を実施し効果を検討した結果、ADLではセルフケア動作特に整容、上半身更衣、下半身更衣の各動作について両群に有意差を認め、介入群では低下しなかったのに対し、対照群では有意に低下した。非臥床時間では両群に有意差を認め、介入群では増大したのに対し、対照群では有意に減少した。また、ADLと非臥床時間との間には有意な正の相関がみられた。
4. 独居高齢者(483名)と高齢者のみ世帯の高齢者(1179名)の30%が1年後に身体的低下を感じており、20%に入院の経験がみられている。独居老人の方が高齢者世帯のみよりもソーシャルサポートを多く受けていた。また、ソーシャルサポートと活動能力とに関連がみられた。
5. 介護家族の負担感は日常生活動作の介助、外出の付き添い、家事の順位であり、体力を要するものが高い傾向がみられた。なお、介護期間が5年以上ではこの傾向が強かった。ホームヘルプサービスやショートステイサービスを受けている家族は負担感が高かった。
これらから、在宅高齢者は、自立度レベル、家族構成、家族介護の負担感等で異なっており、サービスのあり方は各々に特性を考慮したものを意図することが必要であり、これら成果をもとにサービスプログラムを試案した。
結論
在宅高齢者の自立度レベルに関連する特性、自立度B、CランクへのADL維持のための介入プログラムの開発、高齢者単独世帯・高齢者夫婦世帯のサポート状況、家族の介護負担の要因等を明らかにし、在宅高齢者の特性に応じたプログラムの試案を行った。今後プログラムの実施方法の作成と実証研究を進めたい。

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