老人・家族の相談援助活動の質の向上と評価に関する研究

文献情報

文献番号
199700624A
報告書区分
総括
研究課題名
老人・家族の相談援助活動の質の向上と評価に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
小西 美智子(広島大学)
研究分担者(所属機関)
  • 鎌田ケイ子(東京都老人総合研究所)
  • 小野ツルコ(愛媛大学)
  • 小西恵美子(長野県看護大学)
  • 橋本祥恵(岡山県立大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成8(1996)年度
研究終了予定年度
平成9(1997)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 在宅高齢者が加齢や疾病によって心身の機能が低下し、日常生活を自立する事ができなくなると家族等の援助が必要になる。そして家族が介護を行う事により社会生活活動に制限を受けたり、心身が過労状態になると在宅療養者の生活の質が低下する。このような状況が起きないように、看護職と介護職は高齢在宅療養者及び家族の生活ニ-ズ、看護・介護ニ-ズ、医療・保健・福祉ニ-ズをアセスメントして、在宅療養生活上の問題を早期に把握して解決する事ができるように相談指導活動を行い支援していく必要である。
本研究班では、疾病や老化によってADL障害、痴呆症状を伴って地域で生活している高齢在宅療養者及び家族に保健婦、訪問看護婦及びホ-ムヘルパ-が行っている相談援助活動を分析し、個々のニ-ズを明らかにすると同時にその相談指導支援方法を提示する事を目的とした。
研究方法
 看護職と介護職が在宅療養者及び家族に行っている相談指導内容を次の在宅ケア活動から検討した。
1)「在宅療養者の相談・指導調査票」を作成し広島県政令市8保健センタ-の保健婦に高齢者及び家族に実施している相談指導内容を1ヶ月間記載することを依頼した。調査した項目は在宅高齢者の日常生活自立度、相談指導した者と方法(訪問、電話、来所)、大項目としては栄養、排泄、保清、リハビリテ-ション、精神症状、身体症状、療養者の疾患、介護者・家族の健康状況と介護生活、保健・福祉・医療サ-ビス、保健・福祉・医療専門職で、個々に詳細項目及び自由記載欄を設けた。
2)在宅痴呆高齢者に看護職と介護職が実施している援助内容を構造化し、食事、清潔、寝具・寝衣、排泄、移動、外出援助、環境整備、金銭管理、精神的支援、睡眠、安否確認、心身の状態観察、与薬・服薬、受診、介護者支援、外部との関わりの16領域80細目からなる「痴呆高齢者の生活ニ-ズ調査票」を作成し、都内の在宅サ-ビス機関3カ所のホ-ムヘルパ-や保健婦、看護婦にサ-ビス提供している痴呆高齢者とADL障害高齢者について1ヶ月間実施した援助内容を記載する事を依頼した。
3)愛媛県内25カ所訪問看護ステ-ションに、日本看護協会訪問看護検討委員会が作成した「在宅ケア機関における訪問看護の機能評価表」を送付し、施設代表者に記載を依頼した。さらに訪問看護ステ-ションを利用している在宅高齢者の心身の状況、家族の状況、訪問看護サ-ビスの利用状況、看護サ-ビス内容、訪問看護サ-ビス利用後の変化(3段階)、満足度(5段階)を記入する調査票を作成し4カ所の訪問看護ステション利用者269名に郵送し回収した。
4)長野県内の病院で大腿骨頚部骨折手術後在宅療養生活を3-6ヶ月実施している在宅高齢者13名に骨折の心理的影響、在宅生活環境、家族との関係、ADL状況について面接調査した。在宅酸素療法者48名に呼吸困難度、食事に関する環境、食事のおいしさ、空腹感、食事に関連する症状、口腔内の問題、専門家による食事指導受診の有無等について質問紙及び面接調査を行った。
5)ホ-ムヘルパ-が72名の高齢在宅療養者に援助したケア内容をMDS-HC,CAPsアセスメント表及び30問題領域分類表を用いてケア項目を分析した。そのケア項目をラベル化し、KJ法を用いて問題ラベル間の誘因や原因を検討し生活ニ-ズとホ-ムヘルパ-の援助方法との関連性を分析した。
結果と考察
 政令市保健センタ-保健婦が高齢者及び家族に平成8年は494名、平成9年は458例に行った相談指導支援内容を分析すると、食欲不振、燕下障害、水分摂取不足、排泄障害、褥創等は自立度の低いランクCに、神経痛・腰痛、転倒、生活リズム等は自立度の高いランクA、Jに多く、相談方法及び相談指導者も自立度が低いと訪問して介護者に実施する割合いが高くなり、自立度が高いと保健センタ-で本人と相談指導する割合が高くなる。在宅療養高齢者の疾患の状態、治療に関する相談指導は生活自立度の高いランクA,Jに多くその相談者は配偶者及び息子が多い。ランクBに多かったのは麻痺症状と住宅改造相談であった。在宅療養者の症状及び介護方法に関する相談指導は生活自立度と関連していたが、精神支援は本人及び介護者全体に多く行っていた。介護者の疾病に関する相談指導は在宅療養者の生活自立度がランクA、Bに多く、健康問題に関してはランクCに多いが、いずれも相談指導者は配偶者及び息子が保健センタ-へ来所する割合が多い。介護負担や介護分担等に関する相談者は在宅療養者の生活自立度ランクB,Cの息子とその妻が多く、その相談指導支援として保健・福祉サ-ビスの紹介・導入が多く行われていたが、導入後の相談指導は少ない。
高齢者の生活ニ-ズを16領域80項目に構造化して、看護職及び介護職が在宅障害高齢者46名と在宅痴呆高齢者48名に実施した生活援助内容を比較すると、障害高齢者に多い領域は清潔、排泄、移動等のADL援助と与薬、服薬、受診、心身の状態観察等の医療的対応である。痴呆高齢者に多いのは外出・散歩の付き添い、徘徊時の付き添い等外出の援助と精神支援である。両者の援助に差がないのは食事、介護者支援であり、痴呆高齢者特有の支援を配慮する事が必要である。
訪問看護ステ-ションの訪問看護婦が実施している内容を訪問評価標で分析すると、心身の状態の観察、身体の清拭、機能訓練、排泄の援助、服薬の管理、衛生材料の調達・消毒・管理方法、社会資源の活用指導が多かった。また利用者196名の利用に関するアンケ-ト調査を分析すると、療養者の生活自立度は低くベット上の生活が主である者が71.4%で、利用頻度は週3回までが84.7%であった。介護者の8割は女性で、健康状態は通院者が5割あり、介護時間は5時間以上が多かった。訪問看護サ-ビス利用による変化は病状の安定、介護に対する精神的負担の軽減等で75%の利用者が良い変化と回答していた。看護婦の態度・技術、医師との連絡等利用に関する8調査項目について「まあ満足と満足」の回答が7割以上で、いずれも評価は良かった。
在宅で酸素療法を実施している48名の食生活に影響する要因を分析すると、おいしい食事は家族と一緒に食事する、食欲がある、調理を工夫しているが挙げられた。一方食生活上の問題としては、空腹感や食物のおいしそうな香りがしない、口腔内の乾き、痛み、口内炎等の口腔内の問題、食事中の咳・むせ、食事中・後の息苦しさ、排便の不調、膨満感等の症状がでる。これらの問題は酸素療養期間の長い者に多く、また栄養士など専門職による食事指導はあまり受けていなかったが、専門職による指導は必要であると思う。大腿骨頚部骨折手術を受けた高齢者13名について、退院後の在宅生活の自立状況を面接調査すると、家族が再転倒する事を恐れて高齢者の歩行、移動、外出等を制限し、ADL及びQOLの低下を招いている事が多かった事から、家族への指導は本人と同様に必要である。
ホ-ムヘルパ-が高齢者72名に行った生活援助内容をラベル化すると2178になった。これをKJ法で分類した結果、在宅要支援者の生活ニ-ズは「食事、排泄等の日常生活行為・動作に関すること」「健康状態の観察、看護職との連携等身体面の看護ケアに関すること」「情緒の安定を図る等精神面の看護ケアに関すること」「IADL等家事に関すること」「社会的交流等社会や関係機関に関すること」「家族の介護負担軽減等介護の負担に関すること」「住環境の改善等住環境に関すること」の計7カテゴリ-に分類できた。この7カテゴリ-を視点にしたケアプランに必要な生活に関する情報収集、ケア実践及び評価が行える記録用式を作成した。これはホ-ムヘルパ-のアセスメント能力向上に寄与すると思う。
結論
 在宅高齢者のADLの自立度が低いと看護職・介護職は訪問して、摂食、排泄、身体の清潔、与薬・服薬に関するケア実施と相談指導を本人及び介護者に実施し、痴呆があると散歩・外出の付き添い等のケアが多くなる。ADLの自立度が比較的良いと保健センタ-等へ来所して在宅高齢者又は家族の疾患の状態、治療に関する相談指導を本人及び家族が行っていた。ADLの自立度に関係なく精神支援は家族を含めて多く行われていたが、療養者の疾患・症状に関する相談指導も重要な事項として推進されるべきである。

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