感染症対策を踏まえた建物内部の適切な清掃手法等の検証及び確立のための研究

文献情報

文献番号
202227011A
報告書区分
総括
研究課題名
感染症対策を踏まえた建物内部の適切な清掃手法等の検証及び確立のための研究
課題番号
21LA1007
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
阪東 美智子(国立保健医療科学院 生活環境研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 小坂 浩司(国立保健医療科学院 生活環境研究部)
  • 黒木 俊郎(岡山理科大学 獣医学部)
  • 佐野 大輔(東北大学 大学院工学研究科)
  • 尾方 壮行(東京都立大学 都市環境学部建築学科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康安全・危機管理対策総合研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
5,200,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
令和3 年度に引き続き、感染症予防や事後対応など感染症対策を踏まえた建築物内部の適切な消毒・清掃手法の検証及び確立を行うことを目的とする。最終成果物としては、環境表面からの接触感染の防止を目的とする効果的な清掃・消毒の手法に関するガイドライン等を作成する。新型コロナウイルス感染症だけでなく、発生頻度の高いノロウイルスなど非エンベロープ型のウイルスについても、対応の相違や留意点を整理した資料の作成を目指す。
研究方法
以下の①~④の方法により研究を実施した。
①消毒・清掃に関する最新情報・知見の整理
②-1 現行の清掃マニュアルの整理
②-2 清掃管理業務従事者等の知識、態度、行動の把握
③-1 建築内部の環境表面汚染度の実測による消毒・清掃効果の検証
③-2 トイレのウイルス汚染と新型コロナウイルスに有効とされる界面活性剤含有製品の消毒・除菌等に関する情報の調査
③-3 ウイルス伝播モデルに基づいた最適消毒条件の同定
④ガイドライン・ガイダンスの作成
結果と考察
1)ビル衛生管理者を対象に実施したKAP調査では、知識に関する設問の正答率は4割弱から8割強までばらつきがあった。新型コロナウイルス感染症が流行して3年が経過し、感染症やその対策に関する知識はある程度広まってきていると思われるが、ビル衛生管理者の中にも、ノロウイルスにアルコールが有効であるとか、消毒に空間噴霧が有効である等の誤解があった。また、清掃場所で血液や嘔吐物があった場合の処理に不安を感じている者や感染症対策に関する自分の知識に不安を感じる者が少なくなかった。清拭も常に正しい方法で実施している者は限られていた。正しい知識や清掃方法等に関する情報提供や正しい行動を促すような動機づけの必要性が裏付けられた。
2)外国人技能実習生については、日本語能力が低く、研修・教育訓練はもっぱら日本語でOJTによって行われていることから、外国人技能実習生向けのガイドラインやマニュアル等のニーズはさほど高くないことがわかった。しかし、短い教材動画の作成やWeb回覧板の共有などのツールを作成・活用している企業があることから、写真や動画など文字がなくても情報が伝わり、繰り返し本人が参照できるようなものであれば有用であることが示唆された。
3)ATP測定法による建築物の室内環境表面の汚染度調査から、共有スペースの椅子手摺・机、コピー機ボタン、階段手摺、トイレ流水ボタン、冷蔵庫・電子レンジのハンドル等が、人が多く利用し高頻度に接触する面であると考えられた。清掃によるATP測定値の低減効果は、表面の汚染の程度や表面の大きさおよび形状、近接する空間内の表面汚染度分布等に依存しており、清掃方法や手順の重要性が示唆された。
4)トイレのウイルス汚染と新型コロナウイルスに有効とされる界面活性剤含有製品の消毒・除菌等に関する情報の調査からは、トイレの清掃においては、ウイルス検出報告が多い便座、洗浄用レバー、個室ドア内側の取っ手、蛇口等の拭き取りを徹底することが、汚染の低減には重要と考えられた。また、新型コロナウイルスに有効な界面活性剤が含まれている製品リストの各製品情報については、住宅家具用洗剤などの方が、台所用合成洗剤などに比べて、製品情報や除菌・除ウイルスに関する情報の記載がある製品が多かった。消毒や除菌に関する情報は、基本的に自社評価であること、現状、評価条件等についての記載がない製品も多かったため、これらについての一層の情報提供が必要である。
5)ウイルス伝播モデルに基づいた最適消毒条件の同定では、環境表面の事前消毒により二次感染者数が70%程度以上低減したことから、室内環境における感染拡大を制御するためには、室内利用前の消毒の徹底が重要であると考えられる。ネットワーク構造の異なる全てのシナリオにおいて、事前消毒により同程度の感染者数の減少率が示されたことからも、環境表面における事前消毒は感染拡大防止対策として有効である。また定期的な消毒は感染者数の低減に直接的には関与しないものの、ウイルス粒子の伝播ルートを遮断し続けることで確率的な感染者数の増加を抑制することが示された。
6)国民の感染症の予防に関する関心が非常に高まっているため、本研究班では病原体や消毒に関する専門知識をあまり持たない一般の方々が、適切な消毒作業を行うことができるようにすることを目指して建物内の消毒のためのガイドライン及びパンフレットを作成した。また、消毒作業を専門的に行う事業者の作業内容を一定のレベル以上にすることを目的として、ガイドラインとしての標準的作業手順書を作成した。
結論
感染症対策を踏まえた清掃・消毒のガイドラインとして、清掃器具の取り扱いや使用後の手入れ・保管、洗浄廃水の取り扱い、清掃従事者の防護対策等も含め、正確な知識と適切な手法を提示した。

公開日・更新日

公開日
2024-04-01
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2024-03-28
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202227011B
報告書区分
総合
研究課題名
感染症対策を踏まえた建物内部の適切な清掃手法等の検証及び確立のための研究
課題番号
21LA1007
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
阪東 美智子(国立保健医療科学院 生活環境研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 小坂 浩司(国立保健医療科学院 生活環境研究部)
  • 黒木 俊郎(岡山理科大学 獣医学部)
  • 佐野 大輔(東北大学 大学院工学研究科)
  • 尾方 壮行(東京都立大学 都市環境学部建築学科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康安全・危機管理対策総合研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
感染症予防や事後対応など感染症対策を踏まえた建築物内部の適切な消毒・清掃手法の検証及び確立を行うことを目的とする。建物の用途や利用者の属性等を鑑みたリスク評価手法を検討し、最終成果物としては、環境表面からの接触感染の防止を目的とする効果的な清掃・消毒の手法に関するガイドライン等を作成する。新型コロナウイルス感染症以外の感染症対策にも資するよう、発生頻度の高いノロウイルスなど非エンベロープ型のウイルスも含め、対応方法や留意点を整理した資料を作成する。
研究方法
研究期間は2年間である。1年目は既往研究・報告をレビューし知見や課題の整理を行い、1年目の後半から2年目の前半にかけては、清掃管理業務の実態把握や、感染症対策としての清掃・消毒の手法に関する検証を行う。ガイドライン・ガイダンスの作成にあたっては、1年目に構成や骨格を固め、2年目にその作成を行う。具体的な手順は以下のとおりである。
①消毒・清掃に関する最新情報・知見の整理
②-1 現行の清掃マニュアルの整理
②-2 清掃管理業務従事者等の知識、態度、行動の把握
③-1 建築内部の環境表面汚染度の実測による消毒・清掃効果の検証
③-2 トイレのウイルス汚染と新型コロナウイルスに有効とされる界面活性剤含有製品の消毒・除菌等に関する情報の調査
③-3 ウイルス伝播モデルに基づいた最適消毒条件の同定
④ガイドライン・ガイダンスの作成
結果と考察
①では、新型コロナウイルスは飛沫およびエアロゾル粒子への曝露により生じており環境表面を介した間接接触感染は主な伝播経路ではなくそのリスクは低いこと、1日一回以上の日常的な清掃を行うことで低減できることがわかった。
②-1では、清掃・消毒に関する内容は一般的なものにとどまり清掃回数や使用する薬品・洗剤の種類や使用方法などの具体的記載はほとんどないこと、洗剤の製造・販売元からも積極的な情報発信がなされているとは言えないこと、清掃器具の取り扱いについては記載しているものとそうでないものがあることなどがわかった。
②-2では、ビルメンテナンス事業者に対するアンケート調査から感染症対策を踏まえた清掃・消毒のガイドライン等のニーズが把握できた。また、清掃管理業務従事者等の知識、態度、行動についてはばらつきがあり、正しい知識や清掃方法等に関する情報提供が必要であることや、写真や動画等によるわかりやすい伝達手法が現場で支持されることがわかった。
③-1では、高頻度接触面として顕著に汚染される箇所が明らかになった。さらに、清掃によるATP測定値の低減効果は、表面の汚染の程度や表面の大きさおよび形状、近接する空間内の表面汚染度分布等に依存しており、清掃方法や手順の重要性が示唆された。
③-2では、トイレ清掃の手順・留意点、清掃器具の洗浄・清掃廃水の処理、及び消毒剤について整理した。洗浄廃水の取り扱いは、どこで処分を行うかについても含め事前に確認することが重要であり、感染症対策の点からは、手引き等にも記載しておくことが必要であることを確認した。消毒剤等については、米国が承認・登録制度となっていることと比較し課題を整理した。さらにNITEの新型コロナウイルスに有効とされる界面活性剤含有製品リストを用い製品情報を整理した。
③-3では、室内利用前の環境表面の消毒(事前消毒)により感染者数が70%程度以上低減されることが示唆された。また定期的な消毒は感染者数の低減に直接的には関与しないものの、ウイルス粒子の伝播ルートを遮断し続けることで確率的な感染者数の増加を抑制することが示された。
これらの知見を踏まえ、④ガイドライン、パンフレット及び消毒に関する標準作業手順書を作成した。
結論
新型コロナウイルス感染症の予防対策としての清掃・消毒については、感染者のいない状況下では1日1回の定期的清掃で十分であると言われており、まずは過剰な清掃・消毒は不要であることを、清掃従事者をはじめとする関係者に周知する必要がある。そのうえで、感染症対策を踏まえた清掃・消毒のガイドラインとして、清掃器具の取り扱いや使用後の手入れ・保管、洗浄廃水の取り扱い、清掃従事者の防護対策等も含め、正確な知識と適切な手法を提示した。

公開日・更新日

公開日
2024-04-01
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2024-03-28
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202227011C

成果

専門的・学術的観点からの成果
ビル衛生管理者を対象としたKAP調査等の結果を含む研究成果は、研究協力者である全国ビルメンテナンス協会や日本PCO協会など各種業界団体の研修会・講習会などでの活用が期待され、建築物の清掃管理業務従事者の感染症対策に関する知識や技術水準を向上させることにつながる。
また、研究代表者の所属機関である国立保健医療科学院における研修などを通じ、各自治体での環境衛生監視・指導にも役立てることができる。
臨床的観点からの成果
新型コロナウイルス感染症に対しては、感染症に対応できる事業者の裾野を広げ、建築物の消毒・清掃を推奨することで、環境表面からの接触感染予防が期待される。感染症流行期の拡大予防や事後対応だけでなく、感染症が確認されていない時期からも、日常からの取組みにより感染症発生の未然防止につながる。
ガイドライン等の開発
病原体や消毒に関する専門知識をあまり持たない一般の方々が、適切な消毒作業を行うことができるようにすることを目指して建物内の消毒のためのガイドライン及びパンフレットを作成した。また、消毒作業を専門的に行う事業者の作業内容を一定のレベル以上にすることを目的として、ガイドラインとしての標準的作業手順書を作成した。いずれも、厚労省HPの建築物衛生のサイト及び国立保健医療科学院のHPで公開している。
その他行政的観点からの成果
厚生労働省が主催する令和4年度の生活衛生関係技術担当者研修会で報告を行った。
2023年4月3日の参議院決算委員会の厚生労働大臣の答弁において、本研究班が消毒等に関する標準的な作業手順書の作成に取り組んでいることが紹介された。
その他のインパクト
とくになし。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
2件
学会発表(国際学会等)
3件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2023-06-22
更新日
2024-06-21

収支報告書

文献番号
202227011Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
5,200,000円
(2)補助金確定額
4,929,000円
差引額 [(1)-(2)]
271,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 2,904,126円
人件費・謝金 873,254円
旅費 34,454円
その他 1,117,649円
間接経費 0円
合計 4,929,483円

備考

備考
自己資金483円

公開日・更新日

公開日
2024-01-22
更新日
-