旅館及び公衆浴場における伝染性の疾病の範囲の設定のための研究

文献情報

文献番号
202227010A
報告書区分
総括
研究課題名
旅館及び公衆浴場における伝染性の疾病の範囲の設定のための研究
課題番号
21LA1006
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
山岸 拓也(国立感染症研究所 薬剤耐性研究センター第四室)
研究分担者(所属機関)
  • 土橋 酉紀(国立感染症研究所 実地疫学研究センター)
  • 黒須 一見(国立感染症研究所 薬剤耐性研究センター)
  • 福住 宗久(国立感染症研究所 実地疫学研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康安全・危機管理対策総合研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
4,250,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
旅館業法(昭和 23 年法律第 138 号)においては、「営業者は、宿泊しようとする者が伝染性の疾病にかかっていると明らかに認められる場合を除いては、宿泊を拒んではならない。」とされている。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対して、各宿泊施設では、様々な感染対策上の取り組みが実施されている。しかし、施設によっては適切な感染対策を超えて過剰な予防策が実施されていたり、感染症を恐れての宿泊拒否等の問題があることが確認されている。
そこで本研究では、旅館やホテルでの感染症アウトブレイクについての文献調査、宿泊施設での現地調査とインタビュー、事業者に対する宿泊拒否及び入浴拒否を行った感染症の具体例等を含むアンケート調査を実施することにした。
研究方法
2022年9月から2023年1月にかけて5カ所の旅館やホテルにおいて、環境表面や空気検体2000LからのウイルスRNAや細菌の検出、館内CO2濃度を調べ、視察と従業員へのインタビューで感染対策実施状況を確認した。また、2022年11-12月に、郵送質問紙やWeb質問紙調査により、旅館やホテルにおける感染対策実施状況や宿泊拒否の状況を確認した。更に、ホテルや旅行関連の感染症アウトブレイク事例の文献調査、及び宿泊拒否に関する海外法規の調査を行った。
結果と考察
旅館ホテルの施設環境調査では空気検体からはウイルスRNAは検出されず、環境表面からは、1施設1検体(エレベータのボタン)からSARS-CoV-2の遺伝子が検出され、複数個所から一般細菌が検出された。館内CO2濃度は概ね700ppm以下であったものの、食事会場、フロント、喫煙所で利用者が集中する時間帯にはそれ以上となることがあった。各施設で手指消毒薬の設置や換気は概ね行われており、食事会場では客の手袋着用が推奨されていた。質問紙調査では、配布2,091部中484部(23%)が回収された。宿泊客のチェックイン時の健康観察、従業員のマスク着用、出勤時の健康観察、換気、密への注意、清掃への配慮等が約9割の施設で実施されていた。感染症が疑われる、または感染症の客の利用を断った経験のある施設について、484施設のうち30施設で該当があり、このうちCOVID-19によるものと回答をした施設は8施設(27%)であった。文献調査では、ホテル関連のアウトブレイクに関する文献は57あり、レジオネラ症が22(39%)、ノロウイルス感染症が13(23%)、サルモネラ症と急性下痢症が各4(7%)であった。宿泊拒否に関する聴取を行った欧米アジア10カ国・地域のうち、平時の法律でホテルが利用客を断れる法律ありとの回答は無く、マレーシアとシンガポールでは特別な法律の下で宿泊拒否が認められていた。
結論
旅館やホテルのビュッフェでは、利用客が手袋を使用していた状況においても細菌汚染を認めており、手袋の使用は必ずしも環境汚染を予防しないことが示唆された。旅館やホテルにおける感染リスクへの対応としては、施設内で感染伝播が起こりうると考えられる感染症に明らかに罹患している場合を含め、有症状の利用客に適切に医療施設を紹介することが重要と考えられた。旅館業における宿泊拒否に関しては、人権保護の観点から慎重な議論が必要であり、平時の法律下での扱いと、社会に影響が大きい感染症の勃発時での扱いを分けることも意義があると考えられた。

公開日・更新日

公開日
2024-04-01
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2024-03-28
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202227010B
報告書区分
総合
研究課題名
旅館及び公衆浴場における伝染性の疾病の範囲の設定のための研究
課題番号
21LA1006
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
山岸 拓也(国立感染症研究所 薬剤耐性研究センター第四室)
研究分担者(所属機関)
  • 福住 宗久(国立感染症研究所 実地疫学研究センター)
  • 土橋 酉紀(国立感染症研究所 実地疫学研究センター)
  • 黒須 一見(国立感染症研究所 薬剤耐性研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康安全・危機管理対策総合研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 公衆浴場や旅館では、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対して、様々な感染対策上の取り組みが実施されているが、宿泊拒否を含め施設における適切な対策は明確ではない。そこで公衆浴場や旅館における感染症に関係した問題を明らかにし、適切な感染対策の在り方を検討することにした。
研究方法
公衆浴場や旅館における感染症関連事例のメディア報道や文献の確認、公衆浴場や旅館における現地病原体検査と感染対策の実施状況に関する調査、宿泊拒否に関する海外法規の調査を行った。
結果と考察
 過去10年のメディア報道や文献上、宿泊拒否を要するような感染症のホテルでの発生やホテル関連事例は確認されなかった。また、確認したアジア欧米10カ国・地域中2カ国では、特措法などの特別な法律で、旅館やホテルなどの施設が利用客の宿泊を拒否できることを規定した法律があった。
 公衆浴場の感染症事例や感染対策の実態把握アンケートでは、410件が回収され(回収割合77%)、利用客がCOVID-19となり、浴場を休止した施設は38施設(9%)、2016年~2021年にCOVID-19以外で利用客から苦情や連絡をうけた件数は10件で、内訳はレジオネラ3件等であった。旅館における現地調査では、空気検体からはウイルスの遺伝子は検出されなかった。高頻度接触面の環境表面からは、1施設1検体(エレベータのボタン)からSARS-CoV-2の遺伝子が検出され、複数個所で一般細菌が一定数(300CFU/ml)以上確認された。CO2濃度は概ね700ppm以下であったものの、朝食会場、フロント、喫煙所等で利用者が集中する時間帯を中心にそれ以上となることがあった。感染対策実施状況としては、各施設複数個所の入り口に手指消毒薬および検温計の設置がされていた。朝食がビュッフェ形式の施設では、宿泊客が各自食事を取り分ける際に使い捨て手袋の着用を求めていた。
 旅館やホテルにおいて宿泊を拒否する感染症の実態把握調査では、484部が回収された(回収割合23%)。宿泊客のチェックイン時の健康観察、従業員への感染対策、店舗の換気や清掃への配慮が約9割の施設で実施されていた。感染症が疑われる、または感染症の客の利用を断った経験のある施設について、484施設のうち30施設で該当があり、このうちCOVID-19が原因と回答をした施設は8施設(27%)あった。
 最初のスクリーニングで拾い上げられた8744の文献のうち、ホテル関連のアウトブレイクに関する文献は57であった。57文献のうち、レジオネラ症が22(39%)、ノロウイルス感染症が13(23%)、サルモネラ症と急性下痢症が各4(7%)であった。客が感染した事例が30(53%)であり、従業員の感染事例が1(2%)、客と従業員の感染事例が15(26%)であった。
 公衆浴場では皮膚疾患での店舗による利用拒否は、必ずしも感染性があるとは限らず、店舗による利用拒否に関しては、利用客の利用を拒むことのではなく、有症状の利用客が訪れた時に医療に繋げる仕組みが重要と考えられた。
 旅館やホテルでは、総じて、従業員や利用客がSARS-CoV-2を含むウイルスに曝露するリスクは低いと推測された。朝食会場や喫煙所では、空気・エアロゾル感染の可能性が否定できず、各施設でCO2濃度も加味しながら、適切な換気を確保していくことが感染予防に重要であると考えられた。また、環境表面からのSARS-CoV-2や一般細菌の検出から、旅館やホテルで従業員や利用客が適切な方法で手指衛生を実施することが、病原微生物の接触感染予防に重要であると考えられた。ただし、ビュッフェでは、利用客が手袋を使用していた状況においても細菌汚染を認めており、手袋の使用は必ずしも環境汚染を予防しないことが示唆された。
 2020年のCOVID-19流行以降、ほとんど全ての宿泊施設が、宿泊客・従業員に対してCOVID-19の予防対策に努めていた。現在の、旅館業法では旅館やホテルが宿泊を拒否できないとされているが、明らかな感染症患者以外に、有症状の利用者に対して宿泊を拒否するのではなく医療に繋げることで、感染拡大防止に寄与できる可能性があると考えられた。
結論
旅館やホテルのビュッフェでは、利用客が手袋を使用していた状況においても細菌汚染を認めており、手袋の使用は必ずしも感染を予防しないことが示唆された。旅館やホテルにおける感染リスクへの対応としては、施設内で感染伝播が起こりうると考えられる感染症に明らかに罹患している場合を含め、有症状の利用客に適切に医療施設を紹介することが重要と考えられた。旅館業における宿泊拒否に関しては、人権保護の観点から慎重な議論が必要であり、平時の法律下での扱いと、社会に影響が大きい感染症の勃発時での扱いを分けることも意義があると考えられた。

公開日・更新日

公開日
2024-04-01
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2024-03-28
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202227010C

成果

専門的・学術的観点からの成果
公衆浴場や旅館における感染症発生状況や感染対策実施状況、旅館における宿泊拒否の現状が把握できた。これらの知見を広く利用可能にすることで、利用拒否に関する規定がある公衆浴場法や旅館業法の見直しの議論に貢献でき、かつ公衆浴場や旅館業における適切な感染対策の方向性を示すことができる。
臨床的観点からの成果
臨床上の成果はないが、本研究で明らかになった、公衆浴場や旅館での感染症アウトブレイクの発生状況の情報は、それらの施設の利用歴がある患者において鑑別診断を絞りこむのに役立つと考えられた。
ガイドライン等の開発
本研究は、まとめとして国立感染症研究所が発行している病原体検出情報(IASR)で公表予定である。公表された場合、その情報を基に、各施設がガイドライン等を開発できると考えられた。
その他行政的観点からの成果
公衆浴場や旅館業におけるアンケート調査結果は、ご協力いただいた各団体に返却しており、各団体が自らの業界の感染対策に役立てることが可能である。
その他のインパクト
本研究班の研究成果は、令和4年度から5年度にかけて審議されている旅館業法の見直しの議論に役立てられている。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
1件
第82回日本公衆衛生学会、茨城県、2023年10月_宿泊施設における感染対策の検討に関する現地調査について
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2023-06-22
更新日
2024-06-21

収支報告書

文献番号
202227010Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
4,250,000円
(2)補助金確定額
4,250,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 2,774,733円
人件費・謝金 0円
旅費 333,483円
その他 1,141,784円
間接経費 0円
合計 4,250,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2024-02-14
更新日
-