文献情報
文献番号
202227008A
報告書区分
総括
研究課題名
気候変動に伴う水道システムの生物障害等リスク評価とその適応性の強化に向けた研究
課題番号
21LA1004
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
秋葉 道宏(国立保健医療科学院 生活環境研究部)
研究分担者(所属機関)
- 西村 修(東北大学 大学院工学研究科 土木工学専攻)
- 柳橋 泰生(福岡大学 工学部)
- 藤本 尚志(東京農業大学 応用生物科学部)
- 高梨 啓和(鹿児島大学大学院理工学研究科)
- 下ヶ橋 雅樹(叡啓大学 ソーシャルシステムデザイン学部)
- 越後 信哉(京都大学大学院 地球環境学堂)
- 小坂 浩司(国立保健医療科学院 生活環境研究部)
- 清水 和哉(東洋大学 生命科学部)
- 浅田 安廣(国立保健医療科学院 生活環境研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康安全・危機管理対策総合研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究費
9,688,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究では「気候変動に伴う水道システムの生物障害等リスク評価とその適応性の強化に向けた研究」 に資する成果を得ることを目指し、気候変動条件下における障害生物発生ポテンシャル評価と将来発生予測モデルの構築、障害生物発生時における分析方法の開発と効率的な浄水処理システムの提案、気候変動により生じる生物障害等リスクに対する対応策の検討に関連する研究を実施した。
研究方法
WHO飲料水水質ガイドラインの更新に伴い、シアノトキシンの分析方法、処理方法に関する文献整理を行った。複数のカビ臭原因物質産生藻類株を用いてカビ臭合成酵素遺伝子による系統の違いとカビ臭産生能、増殖に及ぼす窒素制限、温度、光強度等の影響について検討を行った。藻類発生予測モデルの構築に向けて、空間解像度及び取得頻度が異なる2つの地球観測衛星の観測情報から、対象水域の濁度及び地表面温度の推定を行い、障害生物発生データ、水質データ、出水データ、気象データと共に障害生物発生を予測する複数の機械学習モデルを構築した。生ぐさ臭の機器分析による水質管理を可能とするために、 原因物質の構造や分析条件を検討した。精密質量分析による溶存有機物(DOM)の精密質量スペクトルの差異解析から、藻類由来有機物の検出が可能か、培養したMicrocystis aeruginosaの有機物試料を用いて検討した。河川水位とカビ臭原因物質の検出との関係性について調査した。WHO、IWAによる気候にレジリエントな水安全計画の策定に関する手引き「Climate-resilient Water Safety Plans: Managing Health Risks Associated with Climate Variability and Change」を翻訳した。
結果と考察
シアノトキシン分析方法では、質量分析の発展に伴い、一斉分析や迅速分析方法に関する手法の検討が進められていることが明らかとなった。シアノトキシンの処理方法では、水源での状況を踏まえた上で効果的な組み合わせを検討する必要があることを示した。株間、系統間でカビ臭原因物質産生、生育特性の違い等が明らかとなった。また、光強度影響では、低光強度の際に最大増殖および2-MIB産生を示した。日長影響では、日長が長い時に、藍藻類は早い増殖を示すとともに代謝産物を多く産生することを明らかにした。藻類発生予測モデルの構築に向けて、生物の発生又は非発生を予測する二値分類モデルについて、最良モデルが正解率90%を超えた一方で、回帰モデルの精度の低さ及び全体的なデータ不足が改善点としてあげられた。障害生物発生予測の衛星データの活用に関し、解析結果からデータ取得頻度が重要であると考えられた。水道水生ぐさ臭の原因物質について、候補構造を1物質まで絞り込んだ。また、 同物質を検出する方法を構築した。精密質量分析によるDOMの精密質量スペクトルの差異解析により、藻類由来有機物の検知を試み、藻類の異常増殖に対する質量分析の応用可能性を示した。カビ臭原因物質と河川水位の関係、そして濁度と河川水位との関係性も踏まえると、気候変動の適応策として河川水位の監視の重要性を示唆する結果となった。「気候に対してレジリエントな水安全計画:気候の変動と変化にともなう健康リスクの管理」を出版した。
結論
WHO飲料水水質ガイドライン第4版で新たに変更があったシアノトキシンについて、主流となる分析方法としてLC-MS/MSによる分析、そして処理特性に基づく処理方法の考え方について示した。分子系統によってカビ臭物質の産生能が異なったり、株間で窒素源に対する応答が異なったり、温度によってカビ臭産生量が大きく異なることから、カビ臭原因物質産生藻類の分子系統とカビ臭原因物質産生能、増殖に及ぼす環境条件の影響等について知見を集積した上で、このような系統による違い、環境条件による産生ポテンシャルの変化を踏まえた発生予測モデルの構築の必要性が示唆された。藻類発生予測モデルについて、衛星データが藻類発生予測に有用であり、特に時間解像度の高い(観測頻度が高い)衛星データがより重要であることが示された。質量分析、選択的誘導体化反応と量子化学計算を組み合わせることにより、 水道水生ぐさ臭の原因物質の候補構造を1物質まで絞り込むことに成功した。今後は、推定された物質を入手し、生ぐさ臭と関係するか否か、管理指標として適切か否かを検証する必要がある。精密質量スペクトルの差異解析について、環境水中でも藻類増殖に由来する有機物を分別可能であることを示した。気候変動の適応策として、河川水位の監視の重要性を示した。「気候に対してレジリエントな水安全計画:気候の変動と変化にともなう健康リスクの管理」を出版した。
公開日・更新日
公開日
2024-04-01
更新日
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