文献情報
文献番号
202227007A
報告書区分
総括
研究課題名
地域保健における保健所に求められる役割の明確化に向けた研究
課題番号
21LA1003
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
尾島 俊之(浜松医科大学 医学部 健康社会医学講座)
研究分担者(所属機関)
- 内田 勝彦(大分県東部保健所)
- 福永 一郎(高知県安芸福祉保健所)
- 白井 千香(大阪市立大学大学院医学研究科公衆衛生学教室)
- 永井 仁美(大阪府富田林保健所)
- 佐伯 圭吾(奈良県立医科大学 医学部 疫学・予防医学講座)
- 宮園 将哉(大阪府健康医療部)
- 逢坂 悟郎(兵庫県加東保健所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康安全・危機管理対策総合研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
2,839,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
保健所の業務の現状と課題を整理し、今後の地域保健対策への提言を行い、「地域保健対策の推進に関する基本的な指針」及び「地域健康危機管理ガイドライン」の見直しに資することを目的とした。
研究方法
全国の保健所を対象として、令和4(2022)年10月~令和5(2023)年1月にメールによる依頼及び回答により調査を行った。回収率は61.1%(286/468)であった。また、フォーカスグループディスカッション、文献的調査、既存データの分析、研究班会議による検討を行った。
結果と考察
(1) 保健所の健康格差縮小、ソーシャルキャピタル醸成、他機関との連携等に関する今後の方向性:今後も健康格差の縮小やソーシャルキャピタルの醸成への取組、また市町村やその他の機関との連携を強化する必要性が示された。地域の公的機関、非営利機関、民間機関等の連携強化における保健所の役割強化が求められる。
(2) 地域保健の人材確保と資質向上:専門職の人材確保と資質向上は車の両輪である。コロナ禍を契機に、保健師の増員に必要な国の財政措置も講じられることとなった。また、健康危機管理に対応する専門職人材の派遣調整の仕組みがつくられた。地域保健対策の推進に必要不可欠なICT(情報通信技術)の活用に対応できる資質向上が重要である。
(3) 自助・共助・啓発・コミュニケーション:平時から自治体の広報誌やホームページ、及び保健所独自のチラシやホームページを活用した情報発信が多く、加えてSNSの活用も工夫されていた。地域住民と行政の協働を平常時から行うことで、信頼関係を築きつつ自助、共助が促されると考えられる。
(4) 保健所の裁量で使用できる予算、行政内の連携:保健所の裁量で使用できる予算が確保されていることは例外的であった。多くの保健所で調整機能が発揮されている一方で、一部の保健所で課題も示唆された。保健所が企画調整機能を発揮するための自治体内での位置づけ、予算、連絡調整のための仕組みの整備が求められる。
(5) 健康危機管理体制:マニュアルやBCPの整備状況では、健康危機事象の類型による差がみられ、全庁的な対応に課題があった。保健所庁舎などのハード面の整備も必要である。複合災害やオールハザードを想定した対応ができるようにする必要がある。
(6) コロナ禍での医療・介護体制の構築:コロナ禍において、67.1%の保健所が自宅療養者への往診等の医療体制についての対策を講じていた。平時はもとより、コロナ禍のような災害レベルの際にも、保健所は都道府県・市町村と協力しつつ、管内の医療・介護とその連携の体制構築を推進する必要がある。
(7) 地域支援事業:77.1%の県型保健所が管内市町村の地域支援事業との関わりを持っていた。地域支援事業は地域包括ケアシステムの基盤整備であり、都道府県、県型保健所の市町村支援が重要となる。市区型保健所は、郡市区医師会への動機づけなどにおいて地域支援事業の担当部署を支援する必要がある。
(8) 精神保健福祉:「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム」で示されている「協議の場」は8割弱の保健所が何らかの形で設置をしていた。夜間対応は少人数で待機料や出動時手当も少なく、対応翌日も通常通り勤務をしている保健所が多く、働き方の在り方が課題である。
(9) 海外の保健所に関する文献的調査:米国においては、評価尺度の策定等によって、公衆衛生機関が果たすべき役割や、維持すべき質についての認識が共有され、公衆衛生活動の質向上に向けた取り組みが行われていた。
(10) 地域健康危機ガイドライン改定についての検討:「地域健康危機管理ガイドライン」の改定にあたって、健康危機の定義にオールハザードを想定することとし、ICS/CSCA/OODA loop、全庁的対応、業務継続計画(BCP)、ICT環境、科学的エビデンス、リスクコミュニケーション、リテラシー、Build Back Better等が重要である。
(11) フォーカスグループディスカッション:今後の保健所について、さらなるパワーアップ、サージキャパシティの確保等が重要である。欧米と異なり、日本ではグループで仕事を進める考え方であり、繁忙期にはグループ内で(場合によっては他の部署から)内部融通をするという考え方が根底にある。
(12) 今後の地域保健対策への提言:保健所の組織体制、業務戦略、関係機関との連携、情報活用・調査研究、人材確保・資質向上を柱とした提言をまとめた。
(2) 地域保健の人材確保と資質向上:専門職の人材確保と資質向上は車の両輪である。コロナ禍を契機に、保健師の増員に必要な国の財政措置も講じられることとなった。また、健康危機管理に対応する専門職人材の派遣調整の仕組みがつくられた。地域保健対策の推進に必要不可欠なICT(情報通信技術)の活用に対応できる資質向上が重要である。
(3) 自助・共助・啓発・コミュニケーション:平時から自治体の広報誌やホームページ、及び保健所独自のチラシやホームページを活用した情報発信が多く、加えてSNSの活用も工夫されていた。地域住民と行政の協働を平常時から行うことで、信頼関係を築きつつ自助、共助が促されると考えられる。
(4) 保健所の裁量で使用できる予算、行政内の連携:保健所の裁量で使用できる予算が確保されていることは例外的であった。多くの保健所で調整機能が発揮されている一方で、一部の保健所で課題も示唆された。保健所が企画調整機能を発揮するための自治体内での位置づけ、予算、連絡調整のための仕組みの整備が求められる。
(5) 健康危機管理体制:マニュアルやBCPの整備状況では、健康危機事象の類型による差がみられ、全庁的な対応に課題があった。保健所庁舎などのハード面の整備も必要である。複合災害やオールハザードを想定した対応ができるようにする必要がある。
(6) コロナ禍での医療・介護体制の構築:コロナ禍において、67.1%の保健所が自宅療養者への往診等の医療体制についての対策を講じていた。平時はもとより、コロナ禍のような災害レベルの際にも、保健所は都道府県・市町村と協力しつつ、管内の医療・介護とその連携の体制構築を推進する必要がある。
(7) 地域支援事業:77.1%の県型保健所が管内市町村の地域支援事業との関わりを持っていた。地域支援事業は地域包括ケアシステムの基盤整備であり、都道府県、県型保健所の市町村支援が重要となる。市区型保健所は、郡市区医師会への動機づけなどにおいて地域支援事業の担当部署を支援する必要がある。
(8) 精神保健福祉:「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム」で示されている「協議の場」は8割弱の保健所が何らかの形で設置をしていた。夜間対応は少人数で待機料や出動時手当も少なく、対応翌日も通常通り勤務をしている保健所が多く、働き方の在り方が課題である。
(9) 海外の保健所に関する文献的調査:米国においては、評価尺度の策定等によって、公衆衛生機関が果たすべき役割や、維持すべき質についての認識が共有され、公衆衛生活動の質向上に向けた取り組みが行われていた。
(10) 地域健康危機ガイドライン改定についての検討:「地域健康危機管理ガイドライン」の改定にあたって、健康危機の定義にオールハザードを想定することとし、ICS/CSCA/OODA loop、全庁的対応、業務継続計画(BCP)、ICT環境、科学的エビデンス、リスクコミュニケーション、リテラシー、Build Back Better等が重要である。
(11) フォーカスグループディスカッション:今後の保健所について、さらなるパワーアップ、サージキャパシティの確保等が重要である。欧米と異なり、日本ではグループで仕事を進める考え方であり、繁忙期にはグループ内で(場合によっては他の部署から)内部融通をするという考え方が根底にある。
(12) 今後の地域保健対策への提言:保健所の組織体制、業務戦略、関係機関との連携、情報活用・調査研究、人材確保・資質向上を柱とした提言をまとめた。
結論
今後の地域保健対策において、保健所の平時と危機時の組織体制の明確化や施設・物資の整備、PDCAサイクルや標準化などの業務戦略、地域デザイン機能を重視した関係機関連携、双方向のリスクコミュニケーションなどによる住民との連携、情報活用・調査研究の推進、人材確保・資質向上などが重要である。
公開日・更新日
公開日
2024-04-01
更新日
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