文献情報
文献番号
202226014A
報告書区分
総括
研究課題名
トキシコゲノミクスとシステムバイオロジーとの融合による新型化学物質有害性評価系の実装研究
課題番号
21KD2001
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
相崎 健一(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター毒性部)
研究分担者(所属機関)
- 北野 宏明(特定非営利活動法人システム・バイオロジー研究機構)
- 北嶋 聡(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 毒性部)
- 菅野 純(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 毒性部)
- 夏目 やよい(国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所 健康・医薬研究センター バイオインフォマティクスプロジェクト)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究費
31,014,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究は、化学物質が実験動物に惹起する遺伝子発現等の分子毒性学情報を網羅的に取得する為に開発した独自の短期且つごく小規模のin vivo実験の結果からトキシコゲノミクス・データベースを構築し、インフォマティクス、及び、人工知能を融合する事で、科学的根拠に基づく新たな有害性予測評価手法を確立する。これにより、安全係数に依存する従来法を補強しつつ、迅速、高精度、省動物を具現化する新たな評価システムを構築する。
研究方法
先行研究において短期の試験から慢性毒性を予測する基礎検討を行い、遺伝子発現には、①曝露の度に短期的に変化を示す「過渡反応」と、②曝露を反復するに連れて発現値の基線(ベースライン)が移動する「基線反応」の二つの成分があり、①と②の関連性の解析には遺伝子の発現制御機構の情報が必要であると判明した。本研究では、(1)新型反復曝露実験(4日間反復曝露を行い、次の日に単回曝露を実施し2、4、8、24時間後に肝の網羅的遺伝子解析を行う)をエストラゴール及びフタル酸ビス(2-エチルヘキシル) (DEHP)に適用した(国立医薬品食品衛生研究所の「動物実験の適正な実施に関する規程」を遵守)。(2)代表的な溶媒であるメチルセルロース水溶液について14日間反復曝露後のヒストン修飾解析を次世代シーケンサーを用いて行った。(3)(4)(5)データ解析用のアルゴリズムをPercellome技術やシステムバイオロジーを基に開発し、独自開発の解析プログラムに実装した。
結果と考察
分担研究(1)『短期間「新型」反復曝露実験と単回曝露実験データベースの対比による反復曝露毒性予測技術の開発』では、エストラゴール、及び、DEHPの4日間新型反復曝露の2実験を実施した。エストラゴールの遺伝子発現誘導は、単回・反復ともにPPAR下流の脂質代謝に関わる遺伝子が主体であったが、4日間の反復曝露により発現遺伝子の総数は数倍に増加し、基線反応、及び、過渡反応が増強し発現のタイミングが早まる遺伝子を多く認め、また小胞体ストレスなどを介した細胞増殖シグナルが増強され、少なくともマウス肝に対する発癌性がGene Ontologyから強く示唆された。DEHPの4日間の新型反復曝露についてもGeneChip解析を実施し網羅的な遺伝子発現データを得て先行研究によるDEHPの単回曝露と比較するなどして解析を進めた。分担研究(2)『反復曝露影響のエピゲノム機構解析』では、化学物質の反復投与においては、溶媒も反復投与されるため、溶媒の反復影響によるエピジェネティック変化を把握する必要があることから、代表的な溶媒であるメチルセルロース水溶液の14日間反復曝露のエピゲノム解析を行って変動を抽出した。分担研究(3)『システムバイオロジーによる毒性解析のAI化』においては、深層学習(Deep Learning)を用いて、膨大な遺伝子変動データやエピゲノムデータから、生物学的に有意な変化を呈した遺伝子を高精度且つ自動的に抽出するシステムの開発を進めた。分担研究(4)『統合ツール“Percellome Integrator”の開発』では、遺伝子発現データとエピゲノムデータの連携解析ユニットの開発などを進めつつ、変動遺伝子の自動抽出パイプラインの改良を実施した。分担研究(5)『Percellomeデータベースを利用した解析パイプライン』では、既知のPPARαリガンドおよびこれまでの研究成果からPPARαリガンドであることが示唆されている化学物質(クロフィブラート、バルプロ酸ナトリウム、エストラゴール)に、一部シグナルが重複するフタル酸ジ(2―エチルヘキシル)とフェノバルビタールを加えた5物質の相互解析を実施し、トランスクリプトーム情報及びエピゲノム情報を利用した効率的な解析モデルの構築を試みた。
結論
本研究は、ほぼ計画通りに進捗した。分担研究(1)での解析により、先行研究による結論と同様に、新型反復曝露実験プロトコルとPercellome法に基づく網羅的解析技術により、4日間といった短期間の試験による反復曝露毒性の予測の実現性が高いことが示唆された。分担研究(2)においては、代表的な溶媒であるメチルセルロース水溶液の反復投与でも、ヒストン修飾が変化することが明らかになった。分担研究(3)については新たに開始したエピゲノム解析のAI自動化について、充分な訓練用画像の重要性に加え、精密な構造デザインが要求されることが分かった。分担研究(4)については、変動遺伝子の自動抽出パイプラインの改良により、統合ツールがより機能的・実用的なものになることが期待された。分担研究(5)においては、化学物質が惹起する遺伝子発現変動パターンを曝露時間情報を元に分解することにより、時間を追うごとに変動する生体応答を捉え易くなることを確認した。
公開日・更新日
公開日
2023-07-31
更新日
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