AI支援型MPSを用いたヒトiPS由来神経細胞による神経毒性試験法の開発

文献情報

文献番号
202226010A
報告書区分
総括
研究課題名
AI支援型MPSを用いたヒトiPS由来神経細胞による神経毒性試験法の開発
課題番号
22KD1002
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
安彦 行人(国立医薬品食品衛生研究所 薬理部)
研究分担者(所属機関)
  • 諫田 泰成(国立医薬品食品衛生研究所 薬理部)
  • 小島 肇(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 安全性予測評価部)
  • 松永 民秀(名古屋市立大学 大学院薬学研究科 臨床薬学分野)
  • 加藤 竜司(名古屋大学 大学院創薬科学研究科)
  • 鈴木 郁郎(東北工業大学 工学部)
  • 渋谷 淳(国立大学法人東京農工大学大学院 農学研究院動物生命科学部門)
  • 吉成 浩一(東北大学大学院薬学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和6(2024)年度
研究費
18,861,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
現在、化学物質の発達神経毒性はげっ歯類を用いた行動試験により評価されているが、ヒトへの外挿性や予測性に課題がある。動物試験における3Rsの観点からも、ヒト生体に近い細胞や標本を用いたin vitro評価系や、コンピューターを活用したin silico予測手法の開発が望まれる。本研究はヒトiPS細胞由来の神経細胞及び血液脳関門(BBB)を用いたin vitro評価法の開発、in vitroとin silico手法の統合による新たな発達神経毒性予評価法の開発を目的とする。
研究方法
ヒトiPS細胞由来神経細胞のネットワーク活動の化学物質に対する反応を多点電極アレイ(MEA)システムにより測定し、得られたデータを用いて機械学習による毒性予測技術を検討した。ヒトiPS細胞由来神経細胞のMEAデータの再現性の問題点を改善するため、細胞画像のAI解析技術を検討した。また分担研究者の松永らが独自に樹立したヒトiPS細胞由来BBBについて、国衛研と名市大において経内皮電気抵抗(TEER)測定による機能確認のプレバリデーションを実施した。
In silico毒性予測手法として、発達神経毒性に関する総説(Mundy et al., Neurotoxicol Teratol, 52:25-35, 2015)に記載された361の化学物質を、351の構造記述子によりクラスタリングする手法を検討した。特に、類似度の計算に用いる構造記述子の選択により化学物質を分類した。
発達神経毒性のメカニズムが明らかになっていない化学物質に関して、フッ化ナトリウム、過塩素酸アンモニウム、イミダクロプリドに焦点を当ててin vivo毒性評価を行い、児動物脳の海馬歯状回における神経新生を解析した。またin vitroとin silico手法の比較により、in vitroデータから発達神経毒性が陽性と推測した物質について既報のin vivoデータの検索を行い、統合的な評価により予測性が向上するのか検討を行った。
さらに、JacVAM資料編纂委員会の協力のもとOECD in vitro DNTガイダンスに対する意見募集に対応(意見集約と提出)を行った。
結果と考察
MEA測定プレート上で培養されたコンフルエント状態の細胞画像から、深層学習モデルによる学習により特徴量を抽出するアルゴリズムを開発した。ヒトiPS細胞由来BBBの輸送安定性やバリア機能に関するプレバリデーションを行い、BBBのプロトコルを確立した。またMEAデータの機械学習により構築したモデルは、未知の(学習に用いられていない)陽性物質データから陽性判定を下すことができた。これにより再現性が高く、キネティクスが反映された予測性の高いin vitro評価系の開発に資することが期待される。
In silico毒性予測手法として本研究で開発したクラスタリング手法により、発達神経毒性陽性の物質や類似した構造を持つ物質が集積したクラスターが得られ、クラスタリング手法が適切であることが示唆された。特に、類似度の計算に用いる構造記述子を適切に選択することにより神経毒性予測性を向上できることが示唆された。
フッ化ナトリウム、過塩素酸アンモニウム、イミダクロプリドのラット発達期ばく露を行い、海馬歯状回において神経幹細胞の増殖抑制や神経炎症が生じていることを見出した。得られた知見をin vitro実験により検証することで、in vitro評価法を改良できることが期待される。
発達神経毒性に関する総説(Mundy et al., Neurotoxicol Teratol, 52:25-35, 2015)に発達神経毒性陽性の記載がなかった物質のうち、in silico予測とMEAデータから発達神経毒性陽性の可能性が示唆されたフィプロニルについて文献検索を実施し、海外評価機関における発達神経毒性陽性の試験報告を見出した。in silico及びin vitroの統合的アプローチによりin vivo発達神経毒性の予測精度が向上することが示唆された。
 OECDのin vitro DNT in vitro testing batteryガイダンスの意見募集に対し、神経細胞分化や神経突起伸長といったエンドポイントの生物学的な意味づけ、またin vivoでの行動異常との対応づけなどのコメントを提出した。また国内外の学会に出席し関連情報の収集、意見交換を実施した。
結論
AIを用いた細胞画像評価及びMEAデータ解析、またBBBのプレバリデーションにより、in vitro神経毒性評価の技術基盤を構築できた。今後、in vitro試験データ・in silico予測を統合的に活用することにより、発達神経毒性の予測性が向上することが期待される。

公開日・更新日

公開日
2023-07-31
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2023-07-31
更新日
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収支報告書

文献番号
202226010Z