文献情報
文献番号
202226006A
報告書区分
総括
研究課題名
ナノマテリアルの胎盤毒性解析とその評価基盤の構築
課題番号
21KD1002
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
堤 康央(大阪大学 薬学研究科)
研究分担者(所属機関)
- 中島 彰俊(富山大学 学術研究部医学系)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究費
17,150,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究では、胎盤毒性発現メカニズムを考慮したリスク解析基盤を確立することで、化学物質による胎盤毒性を判断できるよう、(1)胎盤動態、(2)胎盤ハザード、(3)胎盤毒性に係るメカニズムなどの各段階への影響を各々解析し、(1)〜(3)の情報を総合集積することで、統合的に評価できるスキームを構築することを目指す。そのうえで、近年のナノテクノロジーの進展に伴い、香粧品や食品領域をはじめ、既に様々な産業分野の製品に実用化されているナノマテリアルなどの毒性未知化学物質の胎盤毒性情報の収集を試みる。
研究方法
胎盤毒性が疑われる既存化学物質をポジティブコントロール候補として用い、統合的評価スキームの構築と妥当性を検証することで、定量的・高感度な試験法を確立し、これらを組み合わせた「統合的胎盤毒性評価スキーム」を構築する。
結果と考察
令和4年度研究では、❶医療・食品分野での利用が多い銀ナノ粒子が、マウス胎盤形成期において胎盤の低形成を誘導し得ること、❷ヒト妊娠性絨毛がん細胞株(BeWo)における、銀ナノ粒子曝露による合胞体化の抑制には、cAMP/PKAシグナルの変動や酸化ストレスの産生が関与し得ること、❸製造量も多く身の回り品に汎用されている非晶質ナノシリカが、BeWoにおけるCGBの遺伝子発現量を減少し、forskolin誘導性の合胞体栄養膜細胞の形成を抑制し得ることを示した。さらに、❹トランスウェルにおける胎盤関門モデルにおいて、サイトトロホブラスト層と比較し、シンシチオトロホブラスト層で傍細胞経路を介した化合物の透過性が大きくなることが示唆された。加えて近年、一部のナノマテリアルは絨毛細胞の酸化ストレスや小胞体ストレス誘導に関わることが報告されており、また妊娠高血圧腎症の発症には合胞体栄養膜細胞に対する酸化ストレスや小胞体ストレスが関与するとされる。そこで、細胞内恒常性維持機構としてのオートファジー経路において酸化ストレスとの関与を調べ、ナノマテリアルによる細胞内ストレス評価スキームの構築を目指した検討を行ったところ、❺絨毛細胞の種類により定常時の抗酸化酵素HO-1の発現に差があることが示され、母児間の栄養・ガス交換やホルモン分泌に関わる合胞体栄養膜細胞が酸化ストレスにより抵抗性を持つことが明らかとなった。さらに、❻オートファジー抑制剤であるBafilomycin A1によるHO-1低下は、選択的オートファジー経路にあるNBR1が関与していることが示された。
結論
胎盤毒性メカニズムを考慮した統合的評価スキームの構築に向けて、ナノマテリアルや化学物質曝露と胎盤毒性に関する科学的根拠の収集と分子メカニズムの解明につながる点で、当初年次計画の予定通り達成できている。また、研究の質的担保、検証過程の確保に加え、利害関係者からの意見聴取を目的として、種々業界関係者と連携し、研究成果に関する意見交換を実施すると共に、論文・学会での成果公表を推進している。
公開日・更新日
公開日
2023-07-31
更新日
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