エクソソームRNAを毒性指標とした次世代型催奇形性評価法の開発に資する研究

文献情報

文献番号
202226005A
報告書区分
総括
研究課題名
エクソソームRNAを毒性指標とした次世代型催奇形性評価法の開発に資する研究
課題番号
21KD1001
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
小野 竜一(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 毒性部 第五室)
研究分担者(所属機関)
  • 桑形 麻樹子(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 毒性部第二室)
  • 成瀬 美衣(国立研究開発法人国立がん研究センター 研究所動物実験施設)
  • 伊川 正人(大阪大学 微生物病研究所)
  • 落谷 孝広(独立行政法人国立がん研究センター 分子細胞治療研究分野)
  • 平林 容子(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究費
25,017,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年、細胞間情報伝達の1つとして、細胞から分泌される小胞であるエクソソームが注目されている。エクソソームは体液中(血液、髄液など)を循環し、細胞特異的なマイクロRNAを内包することから、研究分担者の東京医大・落谷らは、腫瘍細胞に特異的なマイクロRNAを指標にした、血液1滴による13種類の早期がん診断法(精度 95 % 以上)を開発した経験を持つ。

我々は、エクソソームRNAを指標とした迅速かつ高感度な次世代型毒性試験法の開発を、厚労科研・化学物質リスク事業(H30-R2年度)において行い、成獣雄マウスに対して、血液1滴から全身の病理組織学的診断を検出しうる高感度な系の確立に成功している (Ono R. et al., Toxicology Reports 2020)。

本研究は、これまでの実績、経験を活かし、エクソソームRNAを指標にした次世代型の催奇形性評価法の確立と催奇形性の発現メカニズムの解明を目的とする。
研究方法
本研究においては、毒性発現メカニズムを考慮した次世代型の生殖発生毒性評価法を確立することを目的に、以下の概要を行う。

● エクソソームRNAを腹単位の毒性指標とする次世代型催奇形性評価法を開発するために、妊娠マウスに既知の催奇形性化合物を経口投与し、胎児に発現する形態変化から毒性指標となるエクソソームRNAの同定を次世代シーケンス解析により行う。

● 次世代型催奇形性評価法のパイロットスタディとして、遺伝子改変マウスをモデルマウスとして用いて、各種表現型のバイオマーカーが母体血で検出できるかを検証する。

● in vivoの特性を高度に保存したin vitroモデルとされるオルガノイド3D培養法の培養上清中に細胞より分泌されるエクソソームを毒性指標として利用可能かを検討し、動物実験によらない次世代型代替法の開発を行う。
結果と考察
(1)次世代型催奇形性評価法の開発の一環として、妊娠中のばく露により二分脊柱などの催奇形性や生後の自閉症などを発現することが知られる催奇形性陽性対照物質であるバルプロ酸を妊娠9~11日のマウスに経口投与した。投与量は0、300、600、800 mg/kgで、投与容量は16 mL/kgとした。また、母動物および胎児中のバルプロ酸濃度の確認を行った。結果として、600 mg/kg群では1例の胎児に神経管閉鎖不全が観察され、800 mg/kg群ではほとんどの胎児が死亡しました。両群ともに、胎児には母動物血漿中のバルプロ酸濃度の約30~60%が確認され、子宮内位置による影響は見られなかった。
(2)次世代型催奇形性評価法のパイロットスタディとして、ウィルソン病モデルマウスを用いて、母動物の体内にいるAtp7b KOマウス胎児が分泌するエクソソームRNAを母体血で検出できるかを検証することとした。今年度においては、Atp7b変異マウスの解析結果から、銅代謝異常により肝臓などに銅毒性の表現型が生じることを確認した。さらに、野生型およびAtp7b変異(F0世代)マウスの血中のエクソソームRNAの遺伝子発現解析に成功し、銅代謝異常のバイオマーカー候補となるエクソソームRNAの単離に成功した。
(3)今年度(R4年度)の研究では、肝臓オルガノイドを細胞培養プレートに播種し、5日間培養した後、アセトアミノフェン(0mM、5mM、10mM、20mM、40mM)を添加した。アセトアミノフェン添加後の2日目に培養上清と肝臓オルガノイドを回収した。
24時間までの観察では、5mMおよび10mMのアセトアミノフェン添加では、細胞の生存性は溶媒コントロールや無添加コントロール群と変化しなかった。しかし、48時間後には5mM投与群でも細胞の生存性が著しく低下していることが観察されました。
また、肝臓障害の指標である血液中の逸脱酵素(ASTおよびALT)もアセトアミノフェン添加後の48時間の培養上清で測定し、動物実験と同様の傾向が確認された。
結論
(1)催奇形性陽性対照物質であるバルプロ酸の投与実験を行い、母体血および胎児羊水を採取に成功しており、来年度にエクソソーム RNA の解析を行う。
(2)次世代型催奇形性評価法のパイロットスタディとして、遺伝子改変動物の各種表現型に対応したバイオマーカー候補の単離に成功しており、これらが母体血で検出できるのかを来年度に検証を行う。
(3)オルガノイド 3D 培養法を利用した代替法の検討のために、化学物質を添加したオルガノイドの培養上清の採取に成功しており、今後、培養上清由来エクソソームが生体を反映しているのかを検証する。

エクソソームRNAを指標としたリスク評価により、常に一定の判断基準による評価が可能となり、生殖発生毒性のメカニズムの解明にも繋げられると考えられ、厚生労働行政に貢献しうる研究開発となっている。

公開日・更新日

公開日
2023-07-31
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2023-07-31
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
202226005Z