文献情報
文献番号
202226003A
報告書区分
総括
研究課題名
ナノマテリアルの物理化学的性状を考慮した肺、胸腔及び全身臓器における有害性の評価ならびに新規in vitro予測手法の開発
課題番号
20KD1003
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
内木 綾(公立大学法人 名古屋市立大学 大学院医学研究科 実験病態病理学)
研究分担者(所属機関)
- 戸塚 ゆ加里(日本大学薬学部 環境衛生学)
- 梯 アンナ(大阪市立大学 大学院医学研究科)
- 津田 洋幸(公立大学法人 名古屋市立大学 津田特任教授研究室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
17,563,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
ナノサイズの金属・カーボン・有機物粒子・繊維状物質は非常に安定であり、吸入されると組織・細胞に長期間沈着する。従来の化学物質が、物質自体の代謝変換によって障害や発がんを誘発するのとは異なり、ナノマテリアルの障害性及び発がん性には、不可逆的な蓄積とそれに対する慢性的な炎症や異物反応が関与する。そのため、吸入暴露による実用的な健康影響評価手法を開発することは極めて重要である。申請者らはこれまでに、吸入暴露試験で発がん性を認めたMVCNT-7を含めた複数のカーボンナノチューブ(CNT)について、経気管肺内噴霧投与法(TIPS法)を用いた肺および中皮発がん性の検出に成功した。健康影響評価の一つのエンドポイントとして、遺伝毒性は有用な指標となることが知られており、近年環境要因の暴露に固有の体細胞変異のパターン(変異シグネチャー)が存在することが明らかになってきた。さらに、この変異シグネチャー情報を用いることで、化学物質が誘発する毒性のAdverse Outcome Pathway (AOP)を得ることも可能であることが示されている。本研究では、物性の異なるCNTsをモデル物質として、TIPS投与によるラット肺・胸膜中皮発がん性の有無、および発がん性の程度を規定する毒性機序を詳細に解明する。それにより求められたCNTのAdverse Outcome Pathway (AOP)を、吸入暴露試験に代替しうるナノマテリアルの健康影響評価試験法の考案に活用することを目的として行う。
研究方法
多層CNTs (MWCNT-7, MWCNT-N)と単層CNT (SWCNT)のF344ラットに対するTIPS投与による肺と胸膜中皮に対する障害性および発がん性について、投与後4、13、52週後における酸化的DNA障害、増殖活性や遺伝子発現変化と腫瘍性病変形成との関連を解析する。また次世代シークエンサー (NGS)によりCNT発がんに関与する変異シグネチャーを同定し、発がんに寄与する責任因子を推定する。また、同定した遺伝子変化の情報を用いて、CNTのAOPを構築し、有害性評価指標として応用可能で信頼の高いものを選出する。また、In vivoで得られた酸化的DNA障害、増殖活性や遺伝子変化等について、in vitro系においても共通して確認される毒性所見を抽出することにより、短期・簡便な試験法における評価指標に応用可能なAOPを得る。
結果と考察
In vivoでは52週までのサンプルを解析し、MWCNTs投与により、肺胞上皮および心膜中皮における増殖(Ki67)、DNA障害(γH2AX)、酸化的DNA損傷(8-OHdG)マーカーの標識率は有意に増加し、SWCNTでは変化を認めなかった。肺胞上皮過形成は、MWCNTs投与群で用量相関性に増加し、いずれも高用量群で有意な変化を認めた。肺胞上皮腺腫と腺癌は、MWCNT-Nのみで誘発され、SWCNTはいずれの病変も誘発しなかった。肺におけるKI67, γH2AX、8-OHdGの上昇、Ccl種、Tnf-α、Il-6等のサイトカイン、ケモカイン発現の増加はCNT投与後4-52週まで継続し、52週における肺増殖性病変の誘発頻度と相関した。以上より、これらの毒性所見はCNTのAOPのKey Event (KE)と考えられ、発がん機序への関与と発がん性短期予測指標への応用の可能性が示唆された。In vitro試験では、Mφにおける酸化的ストレスやサイトカイン発現等、in vivo試験と同様にCNTにより変動する指標が得られており、今後は引き続き肺オルガノイドを用いて同様の解析をする。またCNTのAOPまたは発がん要因の解明に有用と考えらえる変異シグネチャーについては、NMF解析の結果から、C:G to T:A変異が顕著な2つの変異シグネチャー(Rat_SBS_A, Rat_SBS_B)が同定され、このうちのRat_SBS_Aはヒト中皮腫で比較的寄与が高い変異シグネチャーと類似していた。さらに、非常に多くのSNV数が観察された2検体では、このRat_SBS_Aの寄与率が非常に高いが、変異数の少ない検体ではRat_SBS_Bの寄与率が高いことがわかった。
結論
MWCNT-7, MWCNT-Nと肺発がん性が未知のSWCNTをTIPS投与し解析した結果、酸化的DNA損傷と細胞増殖活性化はCNTによるAOPとして重要で、発がん機序に強く関与すること、また発がん性の短期予測指標になりえる可能性が示唆された。ラットCNT誘発中皮腫FFPEサンプルを用いて、2種類の変異シグネチャーが同定され、発がんメカニズム解明や有害性評価などに有用な情報となると考えられる。
公開日・更新日
公開日
2023-07-31
更新日
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