高齢者骨、関節疾患の移動能力を確保するための研究

文献情報

文献番号
199700622A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢者骨、関節疾患の移動能力を確保するための研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
安藤 徳彦(横浜市立大学)
研究分担者(所属機関)
  • 安藤徳彦(横浜市立大学)
  • 福田道隆(弘前大学)
  • 岩崎敬雄(福岡大学)
  • 今田拓(東北文化学園)
  • 伊藤良介(神奈川リハ病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成10(1998)年度
研究費
7,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
移動能力とADL、社会的活動性、主観的QOLとの関係を検討して、移動能力改善の意義を明らかにすることを目的としてプロジェクト研究を行った。また、リハビリテーションの効果検討を企図して以下の目的で分担研究を行った。第1は脊髄損傷患者について機能障害の回復の治療成果と予測方法を明らかにすること、第2は物理療法と薬剤の効果判定を筋の活動量から検討して明らかにすること、第3は下肢装具と杖の効果を歩行時の関節の角度変位、免荷効果と歩容、床反力とモーメントから検討することである。
研究方法
1.プロジェクト研究:移動能力改善の意義を検討する研究では骨関節疾患患者の生活環境、福祉制度利用、ADL、社会的活動性、主観的QOLに関わる調査票を作成し、班員が所属する医療機関を受診した在宅患者を対象に調査を行い、項目間の関係をクロス集計して検討した。
2.分担研究:(1)訓練の治療成果について入院直後から外来まで評価・治療を継続できた脊髄障害患者のWatersの% recovery scoreを算出し、さらに臨床評価の予測機能をMRI所見と比較検討した。
(2)温熱療法と薬剤の治療効果を変形性膝関節症患者の内側広筋の筋電図の24時間累積積分表面筋電図とペインスケール、自発痛、他動運動痛、ADLで鎮痛効果を検討した。
(3)膝関節屈伸・内反・回旋角度を電気角度計で、筋活動を表面筋電図で計測し、重心移動、歩行速度、装具装着による相違を検討した。
(4)坐骨支持式長下肢免荷装具と大腿骨顆部支持式免荷装具とPTB式短下肢免荷装具を作製し、免荷効果と歩行の左右対称性を支柱に貼付した歪みゲージ、フットスウィッチ、デジタル体重計で検討した。
(5)杖と両側下肢にかかる床反力を別個に計測できる歩行路を作製して三次元動作解析装置と併用して関節モーメントを測定した。
結果と考察
1.プロジェクト研究では移動能力はADL諸動作、家事、生活用具利用、社会参加・娯楽の活動性と有意の関係を認めたが、主観的QOLとは関連性を認めなかった。社会参加と他の項目の関係も検討したが、ADL諸動作、家事、娯楽とは有意の関係を認めたが、主観的QOLとの関連性は認められなかった。以上の結果から移動能力はADL、社会的活動性との強い関連があり、移動能力の改善がこれらを向上させる上で重要だと考えられた。また、移動動作と主観的QOLとは関連を認めず、主観的QOL向上には身体機能とは別の包括的アプローチが必要だと考えられた。
2.分担研究では(1)入院期間中の % recovery は上肢・下肢ともに低かった。中央値17ヶ月の外来リハを行った症例では ASIA B,C で下肢の% recoveryが50%以上で、実用歩行を獲得した者はscale Cで14/16の比率だった。 MRIで髄内病変を認めた症例では下肢の% recoveryは低値だった。一方、SEPでは改善の確実な予測は困難であった。以上から考察すると、脊髄損傷の機能回復は ASIA C では高く、障害の予測にT2強調画像の髄内所見は有用だった。早期に回復兆候の得られた者では長期間の積極的リハが有効であった。
(2)温熱と薬剤の併用群が単独施行群よりも筋電図の累積放電量が増加していた。また併用群ではペインスケールの低下も認めた。以上変形性膝関節症に薬剤と物療の併用で1日の筋活動量が増加したが、筋活動量の増加は疼痛の軽減と相関した。このことから、一日の筋活動量の増減は疼痛の客観的指標に利用でき、優れた指標であると考えられた。
(3)裸足で歩行速度が増すと膝関節の内反角と回旋角と筋活動は増加した。足底装具の装着でこれらの角度増加に有意な効果を認めなかったが、筋活動は速度増加に伴う変化がほとんどなく、過剰な筋活動を抑制する効果が装具で得られた。足底板の装着で過剰な筋緊張を抑制し、障害の増悪を予防する効果は得られると考えられた。
(4)長下肢免荷装具とPTB短下肢免荷装具ではほぼ100%の免荷効果が得られ、大腿骨顆部免荷装具は38%の免荷効果であった。しかし歩行時左右対称性は長下肢免荷装具とPTB短下肢免荷装具では不良で、大腿骨顆部免荷装具では良好であった。以上の結果はそれぞれの装具の特性を示すもので、処方時はこの特性を考慮して適応を決定すべきと考えられた。
(5)平地歩行では杖の使用で床反力と各施行ばらつきと各関節のモーメントが減少しており、杖による免荷効果と安定効果が推測された。階段昇降ではばらつきは不変でモーメントと床反力は減少し、杖の免荷効果が推測された。以上の結果は杖の効果内容は歩行路条件によって相違することを示すと考えられた。
結論
骨関節疾患の家庭と社会の自立性と活動性を向上させるには、移動能力の改善の影響が大きい。機能改善の予測にはリハ医学的な臨床診断・評価が最も重要であり、早期の積極的なリハビリテーションが有効である。また疼痛には薬剤とリハ併用が有効で、評価に筋活動量が利用でき、下肢装具は装具の特性を配慮して適応を決定すべきであり、杖の効果内容は歩行路条件によって相違する。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-

研究報告書(紙媒体)