高齢神経疾患のリハビリテーションと心理社会的要因

文献情報

文献番号
199700621A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢神経疾患のリハビリテーションと心理社会的要因
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
若山 吉弘(昭和大学藤が丘病院)
研究分担者(所属機関)
  • 加知輝彦(国立療養所中部病院)
  • 春原経彦(国立精神・神経センター武蔵病院)
  • 前田眞治(北里大学東病院)
  • 米山栄(川村病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成8(1996)年度
研究終了予定年度
平成9(1997)年度
研究費
6,270,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年の治療法と介護の進歩により高齢神経疾患患者の罹病期間は延長したが、それに伴ってquality of life(QOL)の低下がみられるものも少なくない。本研究では高齢神経疾患の中で頻度の高い脳卒中後遺症(CVD)やパーキンソン病(PD)などを対象として、リハビリテーション(リハ)の立場から、能力低下防止に少しでも結びつくような対策を検討し、患者のQOLを向上させるための研究を実施する。
研究方法
?.プロジェクト研究「高齢神経疾患QOL調査表」を作製し、CVD107例(65才以上76例、65才未満31例)とPD病患者136例(65才以上91例、65才未満45例)を対象に背景因子と1.Physical health(Ph),2.Functional health(F),3.Psychological health(Ps),4.Social health(S)の各項目につきそれぞれ15項目計60項目を調査した。2.(F)ではCVDとPDで疾患特異的項目を設定した。CVDとPDを65歳以上の高齢者と65歳未満の非高齢者に分けて集計し、それぞれ?高齢者のCVDとPDをあわせたものと非高齢者のCVDとPDをあわせたものの比較、?高齢者のCVDと非高齢者のCVD、高齢者のPDと非高齢者のPDとを比較し、有意差をχ2検定した。次にリハのQOLに与える効果をみるため、リハ前後でQOLの調査を行い比較検討した。リハは多くの施設では2週間に1度の頻度で行われているが、この頻度では、少なくても半年以上実施した。さらに1週間に、2~3度の頻度で2~3ヶ月施設で実施するか、入院し連日2~3ヶ月実施した短期集中型リハも実施した。今年度はPD,CVDや高齢、非高齢を問わずこれらを合わせ計34例で検討した。?.各個研究1.PD患者の?スパイログラムによる検討、?呼吸筋力の評価、?呼吸リハによる呼吸機能の変化を検討した。?ではPD70例(男33例、女37例:平均年齢66.7歳)で、%肺活量、1秒率、フローボリュウム曲線を測定し年齢や重症度で比較。?ではPD18例(男8例、女10例:平均年齢66.7歳)で呼吸筋力計を使用し、最大吸気時口腔内圧(MIP)と最大呼気時口腔内圧(MEP)を測定し、吸気筋、呼気筋を評価。?では3名のPDに呼吸筋ストレッチ体操を施し、その前後で呼吸機能検査と6分間歩行距離を比較した。2.高齢神経疾患の入浴動作とQOL:今年度までに65才以上の高齢者11名(男4例、女7例:平均年齢70歳)と若年成人6例(男1例、女5例:平均年齢22歳)を対象に三次元動作解析システムで入浴動作を分析した。3.PDの痴呆、うつ状態のADLに与える影響を調べるため、PD61例(男26例、女35例:平均年齢67歳)にBarthel Index,老研式活動能力指標、SDSスコア、長谷川式痴呆スケールを調査し、それぞれの相関関係を検討した。4.PDの臨床的重症度、生活状況とQOLとの関連につき、65才以上の高齢群と未満の若年群を比較し、経年的変化を検討した。若年群13例、高齢群10例につき知的機能検査、ADLの評価、Yahr重症度分類で評価した。更に主観的幸福感を、Life satisfaction index A(LSIA),Philadelphia Geriatric Center Morale Scale(PGC)で測定した。5.高齢神経疾患の痴呆とQOLに関する研究:痴呆症状の安定化に及ぼす夜間温泉入浴効果を、特養老人ホーム入所中でADLが保たれている75~88歳のアルツハイマー型老年痴呆10例(男2例、女8例)で調べた。週2回、18~19時に温泉入浴した。開始前2週間、入浴療法中9週間、終了後2週間、攻撃性、興奮、徘徊の程度や睡眠状態を評価した。
結果と考察
?.プロジェクト研究 65才以上の高齢のCVDとPD患者の合計167例と、65才未満の非高齢のCVDとPD患者の合計76例との比較ではCVDとPDを合わせた65才以上の高齢神経疾患患者で5%以下の有意差で統計的に有意に低下していた項目は、背景因子では高齢群で同居
人数が少なく、主たる介護人は妻に加え嫁が多くなり、痴呆の程度が強かった。非高齢群では家庭での役割のある人が多かった。QOLの項目1.(Ph)では嚥下、歩行、方向転換、転倒、座位からの起立、排便・排尿に関してで、2.(F)では50m以上の平地歩行、階段の昇降、バス電車を利用しての外出、炊事、洗濯が出来るかどうかであり、3.(Ps)では物忘れ、加齢感に関してで、4.(S)では家族や親戚の人の相談にのることがあるかどうかであった。CVD,PDそれぞれの疾患で高齢、非高齢の比較ではCVDでは両者に5%のレベルで有意差のあるものは背景因子では高齢群で梗塞が多く、多発性で上肢の麻痺が強く、非高齢群で出血が多く、リハ実施者、身障者手帳の所持者が多かった。QOLの項目では有意差はなかった。PDでは次の項目が有意であった。背景因子では高齢群で同居人数が少なく、主たる介護人に妻に加え嫁が多くなり、歩行障害も強くリハの実施者も多かった。非高齢群で、wearing offが多く、家庭での役割を持つ人が多かった。QOLの項目1.(Ph)では手足の不自由さ、前傾姿勢、すくみ足、方向転換、転倒、座位からの起立、排便・排尿、2.(F)では階段昇降、バス電車を利用しての外出、炊事、洗濯、3.(Ps)では物忘れ、加齢感、4.(S)では旅行、家族親戚相談にのることでQOLが5%以下のレベルで有意に低下していた。次にリハ前後でのQOLの比較では現時点ではχ2検定で統計的に変化の現れた項目はなかった。?.各個研究1.?65才以上のPDは65才未満と比べ、有意に%肺活量、1秒率、ピークフロー値ともに低下。Yahr?度患者では?度、?度患者より呼吸機能は低下。?MIP,MEPの平均は、それぞれ31.9,35.2cmH2Oで年齢予測値を18例中14例が下回っていた。65才以上と未満の平均値に有意差はなかったが、Yahr?、?度の平均値は?度より有意に低下。?では3例中2例で呼吸筋力と6分間歩行距離が改善した。2.動作開始から終了まで高齢者6.5秒、若年者4.5秒であった。浴槽から立ち上がり縁をまたぎ洗い場に足をつくまでの間が最も危険であった。また、重心の軌跡は若年者は最も片足を高く上げた位置にピークのある2相性の、高齢者では浴槽の縁を持つまでが垂直方向、縁を持ってから水平方向、離してから垂直方向に移動する3相性の動きであった。3.老研式活動能力指標はBarthel Index,SDS,年齢と長谷川式痴呆スケールが相関した。Barthel Indexとは、老研式活動能力指標、SDS,長谷川式痴呆スケールが相関した。またStepwise Regressionでの検討ではBarthel Indexには長谷川式スケールが、老研式活動能力指標には長谷川式スケールとSDSスコアが有意に相関した。4.患者背景では今年度はYhar重症度が高齢群で進行した。家族関係、生活状況では高齢群で配偶者以外が介護者となる割合が上昇し、家族や住宅に対する満足度がやや低下した。友人、趣味、地域活動では両群とも趣味を持つ率が低下した。LSIA,PGCの得点は高齢群と若年群でそれぞれ11.8点,11点と8.5点,8.1点で経年変化はなく、すべて低値であった。5.夜間入浴開始6週間目より、有意に睡眠スコアが改善したが、昼間入浴に移行すると直ちに悪化した。攻撃性、興奮、徘徊のそれぞれで夜間入浴は有効であった。 プロジェクト研究に関しては、高齢神経疾患患者群の背景因子で同居人数が非高齢群より少なく、妻や息子の嫁の負担が大きくなり、今後介護に当たって考慮を要する問題である。QOLの項目ではPDのみとPD+CVDで嚥下、移動、排泄、物忘れや加齢感の増大、人の世話という側面で高齢者でQOLが低下していた。これらのデータは今後高齢神経疾患患者の居住空間及び、家族や地域社会とのコミュニケーションの改善のため何らかの示唆を与えてくれると思われる。またリハ前後のQOLに関しては、今年度は症例が少なく有意差は得られなかったが来年度更に検討したい。
結論
本年度は本研究開始2年目であり、高齢神経疾患患者について背景因子での問題点や、QOLに関してどの側面で特に低下しているのかにつき、興味あるデータが得られた。更に各個研究でも結果の項で示したような興味あるデータが得られつつあり、来年度にはよ
り明確な結論が得られるものと考えている。

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