東南アジア地域で国際共同治験を計画する際の留意事項に関する研究

文献情報

文献番号
202225028A
報告書区分
総括
研究課題名
東南アジア地域で国際共同治験を計画する際の留意事項に関する研究
課題番号
20KC2010
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
頭金 正博(名古屋市立大学大学院薬学研究科 医薬品安全性評価学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 中村 亮介(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 佐井 君江(国立医薬品食品衛生研究所 医薬安全科学部 第一室)
  • 熊谷 雄治(北里大学 医学部附属臨床研究センター)
  • 宇山 佳明(独立行政法人医薬品医療機器総合機構 医療情報活用部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス政策研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
17,644,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究事業では、東南アジア諸国での新規医薬品開発のための国際共同治験を推進することを目的として、医薬品の有効性と安全性に関する民族差の原因となる内的要因と外的要因を明らかにすることを目的とした。特に、国際共同治験の計画およびデザインに関する一般原則のガイドラインであるICH E17におけるPooled populationの考えを東南アジア地域へ拡大適用する際の留意点を明らかにすることを主な目的とした。具体的な研究対象地域としては、台湾及び東南アジア諸国で治験が活発化している国(タイ、インドネシア、ベトナム、シンガポール等)とし、令和4年度は、内的要因としての遺伝子多型、外的要因としての併用薬(用法・用量)、診断基準、臨床・治験環境に関する調査・検討を行い、総合的に東南アジア地域を含む国際共同治験において、日本との国・地域差をもたらしうる要因を明らかにし、東南アジア地域で国際共同治験を計画する際の留意点等の情報を提供することとした。
研究方法
PubMed、EMBASE、ClinicalTrials.gov、医中誌及び(独)医薬品医療機器総合機構(PMDA)が公表している申請資料概要と審査報告書、インターネット上で公開されている各国規制当局の添付文書情報、遺伝子多型データベース及びヒトゲノムプロジェクト(1000 genome project, gnomAD, Genome Asia 100K)等の公開情報を用いて調査を行った。現地の治験環境や医療状況に関する調査は、現地CROの協力を得て、各国の臨床試験におけるkey opinion leader を4名(インドネシア、フィリピン、ベトナム)から5名(マレーシア)選定しwebを介して調査を行った。
結果と考察
抗精神病薬のアリピプラゾールを対象にして東南アジア地域を含むアジア地域での国際共同治験のデータを用いて有効性・安全性の地域差(民族差)について検討したところ、アジア地域内で見られた有効性の違いは、地域差ではなく施設間の違いに起因する可能性が考えられた。東南アジア諸国での用法・用量の調査から、シンガポールで承認され日本でも承認済みの4品目について調査したところ、用法・用量は基本的に日本国内と同様であった。一方、有効成分の含有量の異なる剤がシンガポールでのみ開発されている例があった。また、副作用の診断基準は東南アジア諸国と欧米諸国とで大きな差異はないと考えられた。主要な薬物応答関連遺伝子の多型を対象に、東南アジアを含むアジア地域ならびに欧州地域集団のアレル頻度を比較した研究からは、機能変化をもたらす主要な責任アレルの種類やそれらのアレル頻度に大きな差が認められる多型など、留意すべき多型が複数存在することが明らかとなった。アジア地域での国際共同治験の動向についての調査結果から、東南アジア地域での国際共同治験は、比較試験よりも非対照試験での参加が多く、国際共同治験への参加は限定的であった。東南アジア諸国での臨床試験の実施環境に関する調査から、東南アジアにおける国際共同試験は十分に実施可能と思われたが、国・地域による審査制度、機器等の輸入の問題、臨床試験実施のための資源等を考慮する必要性が示唆された。
結論
東南アジア地域あるいはアジア地域での有効性及び安全性の民族差(地域差)について検討した。抗精神病薬の国際共同治験で一部の国での有効性に違いが見られたが、試験実施施設の影響が大きく、内的要因が関与する民族差とは考えられなかった。また、用法・用量に関する調査からは、東南アジア諸国の国内でのみ独自に開発を行った医薬品については、その他の地域(他国)との間で用法・用量が異なっている例があり、当該医薬品の有効性や安全性には他国と違いが生じる可能性が考えられた。また、東南アジア地域での治験環境や国際共同治験の実施状況についての調査からは、東南アジア地域での治験担当医師の国際共同治験研究計画作成への関与が小さいことや、比較試験よりも非対照試験に参加している例が多いことが明らかになった。これらを踏まえて、今後は、日本と東南アジア諸国がさらに連携することで、東南アジア地域での国際共同治験の活性化に繋がると考えられる。

公開日・更新日

公開日
2023-06-14
更新日
-

研究報告書(PDF)

総括研究報告書
研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し
倫理審査等報告書の写し
倫理審査等報告書の写し
倫理審査等報告書の写し
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2023-06-14
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202225028B
報告書区分
総合
研究課題名
東南アジア地域で国際共同治験を計画する際の留意事項に関する研究
課題番号
20KC2010
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
頭金 正博(名古屋市立大学大学院薬学研究科 医薬品安全性評価学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 中村 亮介(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 佐井 君江(国立医薬品食品衛生研究所 医薬安全科学部 第一室)
  • 熊谷 雄治(北里大学 医学部附属臨床研究センター)
  • 宇山 佳明(独立行政法人医薬品医療機器総合機構 医療情報活用部)
  • 斎藤 嘉朗(国立医薬品食品衛生研究所 医薬安全科学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス政策研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究者交替、所属機関変更
2020年度から研究分担者の斎藤嘉朗先生(国立衛研)から中村亮介先生(国立衛研)に交替した。

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究事業では、東南アジア諸国での新規医薬品開発のための国際共同治験を推進するために、医薬品の有効性と安全性に関する民族差の原因となる内的要因と外的要因を明らかにすることを目的とした。特に、国際共同治験の計画およびデザインに関する一般原則のガイドラインであるICH E17におけるPooled populationの考えを東南アジア地域へ拡大適用する際の留意点を明らかにすることを主な目的とした。具体的な研究対象地域としては、台湾及び東南アジア諸国で治験が活発化している国(タイ、インドネシア、ベトナム、シンガポール等)とし、データベースを用いて有効性と安全性の比較を行うと共に、内的要因としての遺伝子多型、外的要因としての併用薬(用法・用量)、診断基準、臨床・治験環境に関する調査・検討を行い、総合的に東南アジア地域を含む国際共同治験において、日本との国・地域差をもたらしうる要因を明らかにし、東南アジア地域で国際共同治験を計画する際の留意点等の情報を提供することとした。
研究方法
PubMed、EMBASE、ClinicalTrials.gov、医中誌及び(独)医薬品医療機器総合機構(PMDA)が公表している申請資料概要と審査報告書、インターネット上で公開されている各国規制当局の添付文書情報、国際的なヒトゲノムプロジェクト(1000 genome project, gnomAD, Genome Asia 100K)等の公開情報等を用いて調査を行った。現地の治験環境や医療状況に関する調査は、各国の臨床試験におけるkey opinion leader を選定しwebを介して調査を行った。
結果と考察
直接経口抗凝固薬、メトトレキサート、アリピプラゾールを対象にして東南アジア地域を含む国際共同治験のデータを用いて有効性・安全性の地域差(民族差)について検討したところ、アジア地域内で見られた有効性等の違いは投与量の違いや施設間の違いが影響していると考えられた。東南アジア諸国での用法・用量の調査から、東南アジアにおける近年の承認品は、国際共同治験が多く、根拠となる臨床試験での用量の差異は生じにくい可能性が考えられた。一方で、過去に承認された医薬品では、十分に民族的要因を評価せず用量設定がなされた医薬品も東南アジアでは複数あると考えられ、アジア人に適切な用量が採用されていないケースが示唆された。主要な薬物応答関連遺伝子の多型を対象に、東南アジアを含むアジア地域ならびに欧州地域集団のアレル頻度を比較した研究からは、機能変化をもたらす主要な責任アレルの種類や、それらのアレル頻度に大きな差が認められる多型など、留意すべき多型が複数存在することが明らかとなった。アジア地域での国際共同治験の動向についての調査結果から、国際共同治験への東アジアの参加は定着しつつあるが、東南アジアの参加については限定的であり、日本と東アジアが参加している国際共同治験で実施されている民族的要因を早期に探索する臨床試験は東南アジアでほとんど実施されていないことが明らかとなった。東南アジア諸国での臨床試験の実施環境に関する調査から、東南アジアにおける国際共同試験は十分に実施可能と思われるが、国・地域による審査制度、機器等の輸入の問題、臨床試験実施のための資源等を考慮した上で、計画立案の早い段階からの方策設定が重要と思われる。
結論
東南アジア地域での国際共同治験を計画する際の留意事項として、新薬開発の規制状況、試験開始前の手続きなどは、国により、審査制度とそれに関わる時間的要因などの相違が認められたことから、国際共同治験の実施においては、国又は地域ごとの疾患の疫学や患者プールの大きさについて留意した上で、予め各国の最新の制度を確認し、円滑な実施のために各国で対応が必要な事項や対応スケジュール等を検討する必要であることが示された。また、民族的要因の検討の観点から、用法・用量の違いや副作用の診断基準等のいわゆる外的要因の相違に加えて、有効性と安全性、薬物動態に関する内的要因の相違を生じる可能性を予め検討する必要性を示した。以上を踏まえて、東南アジア諸国(地域)での国際共同治験を実施する際の留意事項を以下の様にまとめた。国際共同治験において日本が東アジア地域だけでなく東南アジア地域とも連携を強化することで、アジア民族での臨床試験データがさらに集積し、ICH E17ガイドラインで述べられている医薬品の有効性及び安全性に重要な影響を与える民族的要因に関する科学的エビデンスの集積が促進されると考えられる。これにより民族的要因の影響に関する理解が深まり、ICH E17ガイドラインで提唱されているpooled concept(併合された地域あるいは併合された属性別集団での解析)の適切な運用につながることが期待される。

公開日・更新日

公開日
2023-06-14
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202225028C

収支報告書

文献番号
202225028Z