妊婦・授乳婦における医薬品の安全性に関する情報提供の在り方の研究

文献情報

文献番号
202225027A
報告書区分
総括
研究課題名
妊婦・授乳婦における医薬品の安全性に関する情報提供の在り方の研究
課題番号
20KC2009
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
村島 温子(国立研究開発法人国立成育医療研究センター 周産期・母性診療センター)
研究分担者(所属機関)
  • 林 昌洋(虎の門病院 薬剤部)
  • 濱田 洋実(筑波大学医学医療系 総合周産期医学)
  • 中山 健夫(京都大学 大学院医学研究科)
  • 佐瀬 一洋(順天堂大学大学院医学研究科臨床薬理学教室)
  • 伊藤 直樹(帝京大学 医学部小児科学講座)
  • 高橋 邦彦(東京医科歯科大学 M&Dデータ科学センター)
  • 登美 斉俊(慶應義塾大学 薬学部)
  • 後藤 美賀子(国立成育医療研究センター 妊娠と薬情報センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス政策研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
4,462,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、妊娠中ならびに授乳中の薬物治療の質の高い安全性情報を作成し、それを必要とする一般医療者と一般女性に適切に提供する環境をつくることである。
研究方法
令和3年度に作成した一般医療者・一般女性向けの動画や資材をフリーアクセスのサイトに掲載し、必要時にダウンロードも可能とした。一般医療者が参考にする産科ガイドライン2023年版に、これまでの本研究の成果を反映させた。既に構築された妊娠と薬情報センターの症例データベースならびにこのデータベースと虎の門病院症例データベースを統合したものを用いて、新たなエビデンスを創出するとともに、保険請求データベースを用いて当該分野の研究の信頼性と妥当性を検討した。また、妊娠と薬情報センター拠点病院で利用する、国内外の疫学情報を収集した「成育サマリ」を整備した。一方、妊娠中・授乳中の安全性について薬物動態学に基づく評価方法を検討した。さらには臨床使用経験に基づく安全性エビデンスを効率よく創出するための次世代の環境作りのために海外の妊娠登録調査の実態を調査した。
結果と考察
令和3年度に作成した一般医療者・一般女性向けの動画や資材をフリーアクセスのサイトに掲載し、必要時にダウンロードも可能とした。医師向けの教育動画は主に総合診療医師の教育サイトにて公開を継続し、薬剤師・歯科医師向けの資材は各職能団体の協力を得てホームページに掲載するなど、今後も継続的に情報提供が可能となった。これらによって、一般医療者や一般女性が、妊娠・授乳中の薬の安全性に不安を持った時の考え方や専門機関へのアクセス方法の啓発に貢献できた。
産婦人科診療ガイドライン-産科編2023の「妊娠・授乳と薬」関連全5項目を完成させた。本研究の成果は、より充実した本ガイドラインの全国への提供を通して、わが国の産科医療の発展、母児の安全性の向上に大きく貢献すると考えられる。
妊娠と薬情報センターのオンライン化に伴い、「成育サマリ」を拠点病院ネットワークで共有するための方法を検討するとともに、各成育サマリの整備を行ったことで、より適切な情報提供が可能となった。
令和3年度に行った米国における妊娠登録研究(Registry)の現状の調査をもとに、Registryによってどのような成果が得られるか調査した。最も多い妊婦服薬レジストリを運営するNational Pregnancy Registry for Atypical Antipsychoticsのホームページを閲覧し、Registryは医療従事者の医療面接が設計でき、高品質なエビデンスを創出できるシステムであることを確認し、日本においてRegistryを推進していく上で参考とすることができた。
症例データベースを用いた疫学研究では、妊娠と薬情報センター症例データベース単独の解析で非定型抗精神病薬について、妊娠と薬情報センターと虎の門病院と結合したデータの解析でトリプタン製剤とロイコトリエン受容体拮抗薬の安全性評価に関する英文誌への発表に引き続き、去痰剤(2剤)、抗菌剤(2剤)について英語論文を作成することができ、今後の情報提供に用いることが可能となった。また、本統合データベースの利用上の修正点を含めた再整備のためのプログラムを構築し、データベースの調整を行うとともに今後のデータベース活用に向けた管理、運用体制について検討を行ったことにより、今後の研究に利活用しやすい環境作りができた。
RWDがRA妊婦に対する解析にも活用できることが示された。今後、新たなエビデンス・ギャップ、例えばバイオ医薬品(bDMARDS)等の進化に伴うRA患者の妊孕性、妊娠中ケア、周産期母児アウトカム等への応用が期待される。
本研究で構築したヒト胎盤透過の生理学的薬物動態モデルは、トランスポーター基質薬物のような低透過性薬物についてもin vivo F(胎児):M(母体)比も適切に予測することが可能であった。今後、本モデルとex vivoヒト胎盤灌流実験を活用して様々な薬物のヒトF:M比を推定し、その情報を提供していく基盤ができた。一方、臨床症例を用いて臍帯血中・母乳中の薬物濃度の測定を進め、5剤の濃度測定結果を英文雑誌に発表し、当該薬物を必要とする世界中の妊婦・授乳婦さんが安心できる環境作りに貢献できた。また、母乳中への薬剤移行性や乳児側の要因を考慮して評価する方法について総論としてまとめ刊行雑誌を通じて提供したことにより、医療従事者と授乳婦間のshared decision makingの一助となることが期待される。
結論
妊婦・授乳婦における医薬品の安全性に関する情報を必要とする医療者や一般女性がアクセスできる環境の整備、提供する安全性情報の作成・整備、次世代のエビデンス創出の方法論の検討により、本研究の目的を達成することができた。

公開日・更新日

公開日
2023-09-12
更新日
-

研究報告書(PDF)

倫理審査等報告書の写し
倫理審査等報告書の写し
倫理審査等報告書の写し
倫理審査等報告書の写し
倫理審査等報告書の写し
倫理審査等報告書の写し
倫理審査等報告書の写し
倫理審査等報告書の写し
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2023-09-12
更新日
2024-04-23

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202225027B
報告書区分
総合
研究課題名
妊婦・授乳婦における医薬品の安全性に関する情報提供の在り方の研究
課題番号
20KC2009
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
村島 温子(国立研究開発法人国立成育医療研究センター 周産期・母性診療センター)
研究分担者(所属機関)
  • 林 昌洋(虎の門病院 薬剤部)
  • 濱田 洋実(筑波大学医学医療系 総合周産期医学)
  • 中山 健夫(京都大学 大学院医学研究科)
  • 佐瀬 一洋(順天堂大学大学院医学研究科臨床薬理学教室)
  • 伊藤 直樹(帝京大学 医学部小児科学講座)
  • 高橋 邦彦(東京医科歯科大学 M&Dデータ科学センター)
  • 登美 斉俊(慶應義塾大学 薬学部)
  • 後藤 美賀子(国立成育医療研究センター 妊娠と薬情報センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス政策研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、妊娠中ならびに授乳中の薬物治療の質の高い安全性情報を作成し、それを必要とする一般医療者と一般女性に適切に提供する環境をつくることである。
研究方法
一般医師・一般女性を対象に妊娠中・授乳中の薬使用に関して行ったアンケート結果をもとに「医師・薬剤師・一般女性・関係団体などからなるワーキンググループを作り、①若年者教育、②薬学部教育現場からの視点、③臨床現場の視点、④医師への啓発、に分かれて、教育・啓発のための資料を作成した。産婦人科診療ガイドライン-産科編2023における「妊娠・授乳と薬」関連全5項目について修正案を検討した。また、本ガイドラインと他科の診療ガイドラインにおける記載の違いの課題や診療ガイドラインへ反映する際の利益相反について検討した。また、妊娠と薬情報センター拠点病院で利用する、国内外の疫学情報を収集した「成育サマリ」を整備した。日本において妊娠登録研究(Registry)を推進していく上で参考とするため、欧米の規制当局によって作成されたRegistryのためのガイダンスや米国で実際に行われているRegistryについて情報収集した。既に構築された妊娠と薬情報センターの症例データベースならびにこのデータベースと虎の門病院症例データベースを統合したものを用いて、新たなエビデンスを創出するとともに、妊婦・授乳婦におけるリアルワールドデータ(RWD)源のひとつである保険請求データベースを用いた当該分野の研究の信頼性と妥当性を検討した。一方、妊娠中・授乳中の安全性について薬物動態学に基づく評価方法を検討した。
結果と考察
一般医療者・一般女性向けに作成した動画や資材をフリーアクセスのサイトに掲載し、必要時にダウンロードも可能とし、今後も継続的に情報提供が可能となった。これらによって、一般医療者や一般女性が、妊娠・授乳中の薬の安全性に不安を持った時の考え方や専門機関へのアクセス方法の啓発に貢献できた。
産婦人科診療ガイドライン-産科編2023の「妊娠・授乳と薬」関連全5項目に本研究の意向を反映させたことで、わが国の産科医療の発展、母児の安全性の向上に大きく貢献することができた。
妊娠と薬情報センターのオンライン化に伴い、「成育サマリ」を拠点病院ネットワークで共有するための方法を検討するとともに、各成育サマリの整備を行ったことで、より適切な情報提供が可能となった。
欧米ではRegistryをはじめとして、市販後に妊婦使用例の情報を積極的に収集するような方策がとられていた。米国で最も多いRegistryを運営する組織のホームページを閲覧し、日本において安全性エビデンスを効率よく創出するための次世代の環境整備に資する知見を得た。
症例データベースを用いた疫学研究では、妊娠と薬情報センターと虎の門病院の統合データベースを用いた疫学研究では、今まで情報がない薬剤も含め、多くの薬剤についてのエビデンスを得ることができ、安全性の情報提供に用いることが可能となった。そのうちのひとつであるドンペリドンはこの成果をもとに添付文書の見直しにつながった。また、本統合データベースの利用上の修正点を含めた再整備のためのプログラムを構築し、データベースの調整を行うとともに今後のデータベース活用に向けた管理、運用体制について検討を行ったことにより、今後の研究に利活用しやすい環境作りができた。
保険請求データベースを用いて「出生前の抗うつ薬への曝露と新生児の転帰」、「関節リウマチ(RA)合併妊娠の周産期母児アウトカム」について解析し英語論文を完成させたことで、保険請求データベースを当該領域の研究に利用することの信頼性、妥当性について示すことができた。
ヒト胎盤透過の生理学的薬物動態モデルとex vivoヒト胎盤灌流実験データを活用して様々な薬物のヒトF(胎児):M(母体)比を推定し、その情報を提供していく基盤を構築でき、薬物動態学に基づく評価方法の発展に貢献できた。一方、多くの臨床症例で、母体血と臍帯血の薬物濃度の測定を行い、胎盤移行性を明らかにし、英語論文として発表したことで、当該医薬品を使用する国内外の妊婦に貴重な情報を提供することができた。また、母乳中への薬剤移行性や乳児側の要因を考慮して評価する方法について総論としてまとめ刊行雑誌を通じて提供したことにより、医療従事者と授乳婦間のshared decision makingの一助とすることができた。
結論
妊婦・授乳婦における医薬品の安全性に関する情報を必要とする医療者や一般女性がアクセスできる環境の整備、提供する安全性情報の作成・整備、次世代のエビデンス創出の方法論の検討により、本研究の目的を達成することができた。

公開日・更新日

公開日
2023-09-12
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2023-09-12
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202225027C

成果

専門的・学術的観点からの成果
妊娠と薬情報センター症例データベースを用いた解析で、ドンペリドンや非定型抗精神病薬など複数の薬剤について、安全性評価を行い英文誌に発表した。また、保険請求データベースを用いて解析し、その有用性を示すことができた。さらに、薬物動態学に基づく評価方法として、トランスポーター発現情報を組み込んだ胎盤透過の生理学的薬物動態モデルの妥当性を示すことができた。多数の臨床検体を用いて臍帯血や母乳中の薬物濃度を測定し、英文誌に発表した。
臨床的観点からの成果
薬局用のポスターを作成し、日本薬剤師会のホームページからダウンロードできるようにした。歯科医医師向けに、歯科医師が処方することの多い薬剤の情報を盛り込んだ歯科医向けのポスターを作成し、日本歯科医師会、日本小児歯科学会のホームページからダウンロードできるようにした。医師向けには、初期研修医や総合診療科の医師への教育を目的として「妊娠と薬の基本的知識」に関する動画を作成し総合診療医育成のビデオオンデマンドサイトに掲載した。これらによって、医療者向けに当該領域の啓発ができた。
ガイドライン等の開発
妊娠・授乳期女性の診療において必要な薬剤を適切に使用するために産科ガイドライン以外の他科の診療ガイドラインの齟齬の解消が必要というアンケート結果を得た。一方、今後薬剤安全性の評価を産科ガイドラインなどの診療ガイドラインに適切に反映するうえで、利益相反のマネージメント、その透明性・公正性の確保が利益相反の課題として挙げられた。本研究班の班会議における議論を内容産科ガイドライン2023年版の「妊娠・授乳と薬」関連5項目に反映することができた。
その他行政的観点からの成果
国内外の当該分野の安全性評価の仕組みについて調査を行い、臨床に有用な市販後調査として妊娠登録研究(Registry)が必要であるとの結論を得た。その参考とするため、欧米の規制当局により作成されたRegistryのためのガイダンスを翻訳、関係者から情報を収集した。さらに、米国におけるRegistryの現状の調査をもとに、Registryによってどのような成果が得られるのか検討し、医療従事者の医療面接が設計できるRegistryは高品質なエビデンスを創出するために不可欠であると考えられた。
その他のインパクト
世界最大規模のドンペリドン使用妊婦例を対象とした安全性評価が英語論文として発表でき、添付文書の見直しにつながった。臨床症例を用いた薬剤の母乳中濃度を測定した結果が多数英文誌に掲載され、その結果授乳中の薬剤の安全性情報データベースとして世界随一の、NIHが運営するLactMedに引用されたことで、当該薬物を必要とする世界中の授乳婦が安心して母乳育児を両立できる環境作りに貢献できた。欧米の妊娠登録調査に関する基礎資料ができたことで、本邦における妊娠登録調査の指針を示す準備ができた。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
38件
その他論文(和文)
20件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
33件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2024-05-28
更新日
-

収支報告書

文献番号
202225027Z