医療情報データベースの活用推進に関する研究

文献情報

文献番号
202225025A
報告書区分
総括
研究課題名
医療情報データベースの活用推進に関する研究
課題番号
20KC2007
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
宇山 佳明(独立行政法人医薬品医療機器総合機構 医療情報活用部)
研究分担者(所属機関)
  • 中山 雅晴(国立大学法人 東北大学 大学院医学系研究科)
  • 中島 直樹(国立大学法人九州大学 大学病院)
  • 鈴木 隆弘(千葉大学医学部附属病院企画情報部)
  • 横井 英人(香川大学 医学部附属病院医療情報部)
  • 安西 慶三(国立大学法人佐賀大学医学部肝臓・糖尿病・内分泌内科)
  • 野村 浩子(一般社団法人徳洲会大阪本部)
  • 木村 通男(国立大学法人浜松医科大学 医学部附属病院医療情報部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス政策研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
20,917,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
製造販売後の医薬品安全性評価は、従来、副作用報告、使用成績調査等の結果に基づくことが主であったが、医療情報データベースの整備等によりリアルワールドでの大規模データに基づく評価が可能となりつつある。MID-NET®は、厚生労働省の医療情報データベース基盤整備事業により構築されたデータベースで、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(以下「PMDA」)による運用管理の下、平成30年度から運用を開始している。MID-NET®は、診療情報明細書(レセプト)、診断群分類(DPC)及び電子カルテの情報が利用可能で、現在では行政による活用の他、臨床研究や製造販売後データベース調査にも活用されており、製造販売後の医薬品安全対策の質の向上が期待されている。医療情報データベースに基づく医薬品の安全性等の評価では、データベースに含まれる情報から対象とする有害事象(アウトカム)を適切に特定する為に、信頼できるアウトカム定義を作成する必要があるが、本邦においてアウトカム定義のバリデーションが実施された例はほとんどない。「MID-NET®データの特性解析及びデータ抽出条件・解析手法等に関する研究」(日本医療研究開発機構 医薬品等規制調和・評価研究事業)(以下「先行研究」)において、MID-NET®を対象にアウトカム定義の作成及びその妥当性の評価を効率的に実施するための検討を実施し、基礎的な検討手法を確立すると共に、バリデーションされた複数のアウトカム定義が作成された。しかしながら、実用化可能なアウトカム定義を増やす為には、更なる検討手法の効率化や具体的なアウトカム定義の作成を継続的に実施する必要がある。本研究は、先行研究の成果を踏まえて、研究の流れを見直しAll possible casesの定義(以下「APC定義」)を決定した上で以降の検討を行う等の検討手法の改善及び実用化可能なアウトカム定義の確立を目指し、医薬品安全性評価における医療情報データベースの活用促進と、より科学的な根拠に基づく安全対策の実現に繋げる事を目的とした。
研究方法
安全対策上の必要性や重要性を考慮し、検討の対象とするアウトカムを複数選定した上で、各アウトカムについて、従来法又は機械学習の手法を取り入れて作成したアウトカム定義について、複数拠点にて妥当性の評価を行った。研究の流れは以下のとおりである。
1)複数拠点で検討対象とするAPC定義及びアウトカム定義の検討
2)評価基準の作成
3)対象アウトカムについてカルテレビューにより真の症例を特定
4)機械学習及び従来法によるアウトカム定義の作成
5)各アウトカム定義の陽性的中度(以下「PPV」)及び感度の算出並びに評価
6)複数拠点のPPVの比較及び拠点間の差異の要因検討
結果と考察
「間質性肺炎」は、限定した病名条件と検体検査の条件を組み合わせ、感度を一定程度維持しながらPPVの高い定義を作成できた。拠点間のPPVの差異は、検査頻度や確定病名の付与の運用の違いが要因の一つと考えられた。
「ケトアシドーシス」は、最も広い病名条件に検体検査の条件を組み合わせ、PPV及び感度の高い定義を作成できた。拠点間のPPVの差異は、救急医療体制の違いによる、紹介や転院症例数の差が影響していると考えられた。
「甲状腺機能低下症」は、機械学習の結果を踏まえて最も広い病名条件に検査条件を組み合わせ、PPV及び感度の高い定義を作成できた。拠点間のPPVの差異は、検査値を基準として真偽判定を行う中で、検査値が正常範囲内で安定している症例や検査頻度の低い症例数等の拠点間の違いが要因の一つと考えられた。
「急性膵炎」は、病名条件を限定することでPPV及び感度の高い定義を作成できた。また、診療行為条件や検体検査条件を組み合わせる場合、時系列条件をある程度短縮することで、PPVが上昇する可能性が示唆された。拠点間のPPVの差異は、病名の除外条件でどの程度除外できたかの違いによると考えられた。
「悪性腫瘍」は、病名条件に初発に該当するという条件を組み合わせることでPPV及び感度の高い定義を作成できた。拠点間のPPVの差異は、いずれの定義も10%未満であった。
「心不全」は、病名条件に検査結果値の条件及び医薬品の条件を組み合わせ、感度を一定程度維持しながらPPVが比較的高い定義を作成できた。拠点間のPPVの差異は、拠点により真のケースを構成する集団における外来症例数等の違いが影響していると考えられた。
結論
「間質性肺炎」、「ケトアシドーシス」、「甲状腺機能低下症」、「急性膵炎」、「悪性腫瘍」、「心不全」のいずれにおいても、実用化可能なアウトカム定義を作成することができた。また、拠点間のPPVの差異の要因等を検討したことは、アウトカム定義の特徴をより理解するために有用であった。

公開日・更新日

公開日
2023-06-26
更新日
-

研究報告書(PDF)

倫理審査等報告書の写し
研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2023-06-26
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202225025B
報告書区分
総合
研究課題名
医療情報データベースの活用推進に関する研究
課題番号
20KC2007
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
宇山 佳明(独立行政法人医薬品医療機器総合機構 医療情報活用部)
研究分担者(所属機関)
  • 中山 雅晴(国立大学法人 東北大学 大学院医学系研究科)
  • 中島 直樹(国立大学法人九州大学 大学病院)
  • 鈴木 隆弘(千葉大学医学部附属病院企画情報部)
  • 横井 英人(香川大学 医学部附属病院医療情報部)
  • 安西 慶三(国立大学法人佐賀大学医学部肝臓・糖尿病・内分泌内科)
  • 野村 浩子(一般社団法人徳洲会大阪本部)
  • 木村 通男(国立大学法人浜松医科大学 医学部附属病院医療情報部)
  • 村田 晃一郎(北里大学 医学部)
  • 渡邊 真彰(北里大学 北里大学メディカルセンター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス政策研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究者交替、所属機関変更
・分担研究者の交代(北里大学) R2年度:渡邊 真彰→R3年度:村田 晃一郎 ・分担研究機関の削除(北里大学) R4年度の分担研究機関から北里大学を削除

研究報告書(概要版)

研究目的
製造販売後の医薬品安全性評価は、従来、副作用報告、使用成績調査等の結果に基づくことが主であったが、医療情報データベースの整備等によりリアルワールドでの大規模データに基づく評価が可能となりつつある。MID-NET®は、厚生労働省の医療情報データベース基盤整備事業により構築されたデータベースで、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(以下「PMDA」)による運用管理の下、平成30年度から運用を開始している。MID-NET®は、診療情報明細書(レセプト)、診断群分類(DPC)及び電子カルテの情報が利用可能で、現在では行政による活用の他、臨床研究や製造販売後データベース調査にも活用されており、製造販売後の医薬品安全対策の質の向上が期待されている。医療情報データベースに基づく医薬品の安全性等の評価では、データベースに含まれる情報から対象とする有害事象(アウトカム)を適切に特定する為に、信頼できるアウトカム定義を作成する必要があるが、本邦においてアウトカム定義のバリデーションが実施された例はほとんどない。「MID-NET®データの特性解析及びデータ抽出条件・解析手法等に関する研究」(日本医療研究開発機構 医薬品等規制調和・評価研究事業)(以下「先行研究」)において、MID-NET®を対象にアウトカム定義の作成及びその妥当性の評価を効率的に実施するための検討を実施し、基礎的な検討手法を確立すると共に、バリデーションされた複数のアウトカム定義が作成された。しかしながら、実用化可能なアウトカム定義を増やす為には、更なる検討手法の効率化や具体的なアウトカム定義の作成を継続的に実施する必要がある。本研究は、先行研究の成果を踏まえて、研究の流れを見直しAll possible casesの定義(以下「APC定義」)を決定した上で以降の検討を行う等の検討手法の改善及び実用化可能なアウトカム定義の確立を目指し、医薬品安全性評価における医療情報データベースの活用促進と、より科学的な根拠に基づく安全対策の実現に繋げる事を目的とした。
研究方法
安全対策上の必要性や重要性を考慮し、検討の対象とするアウトカムを複数選定した上で、各アウトカムについて、従来法又は機械学習の手法を取り入れて作成したアウトカム定義について、複数医療機関にて妥当性の評価を行った。研究の流れは以下のとおりである。
1)複数拠点で検討対象とするAll possible casesの定義及びアウトカム定義の検討
2)評価基準の作成
3)対象アウトカムについてカルテレビューにより真の症例を特定
4)機械学習及び従来法によるアウトカム定義の作成
5)各アウトカム定義の陽性的中度(以下「PPV」)及び感度の算出並びに評価
6)複数医療機関のPPVの比較及び医療機関間の差異の要因検討
結果と考察
「動脈解離」、「甲状腺機能低下症」及び「ケトアシドーシス」は、病名、検査、治療等に着目し必要な条件を組み合わせ、PPV及び感度の高い定義を作成できた。拠点間のPPVの差異は、検査実施のために入院したが翌日に退院したような症例数等の拠点間の違い、検査値を基準として真偽判定を行う中で、検査値が正常範囲内で安定している症例や検査頻度の低い症例数等の拠点間の違い、あるいは救急医療体制の違いに伴う紹介や転院症例数の差が要因の一つと考えられた。
「急性膵炎」は、病名条件を限定することで、PPV及び感度の高い定義を作成できた。拠点間のPPVの差異は、病名の除外条件でどの程度除外できたかの違いによると考えられた。
「悪性腫瘍」は、病名条件に初発に該当するという条件を組み合わせ、PPV及び感度の高い定義を作成できた。拠点間のPPVの差異は、いずれの定義も10%未満であった。
「間質性肺炎」、「心不全」は、病名、検体検査、あるいは検体検査値の条件を組み合わせることで、感度を一定程度維持しながらPPVの高い定義を作成できた。拠点間のPPVの差異は、検査頻度や確定病名の付与の運用の違い、真のケースを構成する集団における外来症例数等の違いが影響していると考えられた。
「肝不全」は、病名を付与する際の診断根拠が明確でなく、特異的な治療がないため、現時点ではデータベースで利用可能な項目から適切なAll possible casesを設定することは困難と考えられ、客観的な診断基準が確立されているか否かが重要な要素と考えられた。
結論
選定した8テーマのうち肝不全を除く7テーマについては複数拠点で検討を行い、PPV及び感度が一定程度高く、かつ拠点間の差異も考慮した、一般化可能性が高いアウトカム定義の作成・検討ができた。肝不全については、特異的な治療がない等の理由でAPC定義の作成が困難であったが、そのようなアウトカムの特徴を明らかにすることができた。

公開日・更新日

公開日
2023-06-26
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202225025C

収支報告書

文献番号
202225025Z