成人T細胞白血病(ATL)に対する同種幹細胞移植療法の開発とそのHTLV-1排除機構の解明に関する研究

文献情報

文献番号
200925013A
報告書区分
総括
研究課題名
成人T細胞白血病(ATL)に対する同種幹細胞移植療法の開発とそのHTLV-1排除機構の解明に関する研究
課題番号
H19-がん臨床・一般-013
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
岡村 純(独立行政法人国立病院機構 九州がんセンター 臨床研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 神奈木 真理(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科)
  • 松岡 雅雄(京都大学ウイルス研究所)
  • 谷 憲三朗(九州大学生体防御医学研究所)
  • 豊嶋 崇徳(九州大学医学部 遺伝子・細胞療法部)
  • 宇都宮 與(財団法人 慈愛会 今村病院分院)
  • 谷口 修一(虎の門病院 血液内科)
  • 田野崎 隆二(国立がん研究センター中央病院)
  • 宮崎 泰司(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科)
  • 鵜池 直邦(独立行政法人国立病院機構 九州がんセンター 血液内科)
  • 今村 雅寛(北海道大学大学院医学研究科 血液内科学)
  • 谷脇 雅史(京都府立医科大学 血液腫瘍内科)
  • 山中 竹春(独立行政法人国立病院機構 九州がんセンター 臨床研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん臨床研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
29,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
予後不良のATLに対して、免疫機序を応用した革新的治療法を開発する。ミニ移植療法の臨床試験を行い、HTLV-1排除機構を解明して、新たな免疫療法を開発する。
研究方法
1)血縁者間末梢血幹細胞によるミニ移植療法の安全性と有効性に関する検討
(1-1)第3期試験(第2相)の実施:
(1-2)第1/2期試験(第1相)の長期経過解析:
2)非血縁者間幹細胞によるミニ移植(第4期試験)の実施
3)免疫療法の検討
4)移植療法に伴う基礎的解析
(4-1)HTLV-Iプロウィルス量動態の研究:
(4-2)ミニ移植後の造血細胞動態の研究:
(4-3)宿主抗腫瘍免疫応答解析:
(4-4)分子生物学的解析:
(4-5)同種造血幹細胞移植後の抗白血病効果を促進する試み:
を実施した。
結果と考察
(1-1)20例が登録され、14例の移植が終了した。
(1-2)29例中10例がミニ移植後58?103ケ月間(中央値82ヶ月)生存中で、5年生存率は34 % (95% CI, 18–51%)であった。
2) 13施設の倫理委員会で実施計画書が承認され、17例が仮登録、8例の移植が終了した。
3)臨床試験実施計画書、患者説明および同意書を作成し、九州大学医学部倫理委員会へ申請、2010年1月に承認された。対象は既治療例ATL,主要評価項目はペプチド添加樹状細胞ワクチンの安全性である。
4)移植療法に伴う基礎的解析
(4-1)45例中25例(56%)では、RIST後プロウイルス量が検出限界以下となった。(4-2)混合キメラ解析により、登録52例のドナー・レシピエントの識別が可能であった。(4-3)ATL症例からのDC誘導後、培養中の感染および混入するATL細胞の生存 を阻止するための方策を検討した。(4-4)ATL細胞中のプロウイルス全塩基配列を決定しnonsense変異が多数存在することを明らかにした。(4-5)マウスの形質細胞様樹状細胞は高いIFN-a産生能を保持し、GVHDは誘導能せず,移植前処置後に輸注すると高いT細胞活性化能を獲得しGVHDを誘導した。
結論
ATLへの前方視的試験により、血縁者間末梢血によるRISTの安全性が確立された。生体内でHTLV-1感染ATL細胞を排除する抗HTLV活性が作動し、RISTが有効な免疫療法および抗ウイルス療法としての意義を持つことが判明した。

公開日・更新日

公開日
2010-05-24
更新日
-

文献情報

文献番号
200925013B
報告書区分
総合
研究課題名
成人T細胞白血病(ATL)に対する同種幹細胞移植療法の開発とそのHTLV-1排除機構の解明に関する研究
課題番号
H19-がん臨床・一般-013
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
岡村 純(独立行政法人国立病院機構 九州がんセンター 臨床研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 神奈木 真理(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科)
  • 松岡 雅雄(京都大学ウイルス研究所)
  • 豊嶋 崇徳(九州大学医学部 遺伝子・細胞療法部)
  • 朝長 万左男(長崎大学医学部)
  • 宮崎 泰司(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科)
  • 谷 憲三朗(九州大学生体防御医学研究所)
  • 宇都宮 與(財団法人 慈愛会 今村病院分院)
  • 谷口 修一(虎の門病院 血液内科)
  • 田野崎 隆二(国立がん研究センター中央病院)
  • 増田 昌人(琉球大学医学部附属病院がんセンター)
  • 鵜池 直邦(独立行政法人国立病院機構 九州がんセンター 血液内科)
  • 今村 雅寛(北海道大学大学院医学研究科 血液内科学)
  • 谷脇 雅史(京都府立医科大学 血液腫瘍内科)
  • 山中 竹春(独立行政法人国立病院機構 九州がんセンター 臨床研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん臨床研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
予後不良のATLに対して、免疫機序を応用した革新的治療法を開発する。
研究方法
1)血縁者間末梢血幹細胞によるミニ移植療法の安全性と有効性を検討
(1-1)第1期/2期試験結果の解析と長期追跡
(1-2)血縁者間末梢血による第3期試験の実施
2)非血縁者間幹細胞を利用した移植法の検討
(2-1)非血縁者間骨髄移植81例の後ろ向き解析
(2-2)非血縁者間骨髄によるミニ移植(第4期試験)の実施
3)免疫療法の検討 
4)基礎的検討課題
(4-1)HTLV-1プロウィルス量動態の解析
(4-2)ミニ移植後のキメラ解析
(4-3)宿主抗腫瘍免疫応答の検討
(4-4)HTLV-1の分子生物学的の検討
(4-5)同種造血幹細胞移植後の抗白血病効果を促進する試み
を実施した。
結果と考察
(1-1)軽度の急性GVHD発症は予後良好因子で移植片対ATL効果の存在が示唆され、5年生存率は34 %であった。
(1-2)20例が登録され、14例の移植が終了した。
(2-1)6ヶ月全生存率は、骨髄破壊的前処置例64%、ミニ移植例52%であった。
(2-2)17例が仮登録、8例の移植が終了した。
3)樹状細胞による免疫療法実施計画書が九州大学医学部倫理委員会で承認された。
4)移植療法に伴う基礎的解析
(4-1)56%の症例でプロウイルス量が検出限界以下となった。
(4-2)ミニ移植を受けた52例全例でドナー・レシピエントの識別が可能であった。
(4-3)慢性ATL患者末梢血から樹状細胞が誘導可能で、成熟樹状細胞の表面抗原や機能は健常者由来樹状細胞と遜色なく、細胞治療への使用は可能と考えられた。
(4-4)ミニ移植後の長期寛解例で、tax遺伝子に変異がありTaxタンパク質を産生できない例があり、Taxに対する免疫反応に依存しない抗ATL作用が示唆される。
(4-5)マウスの形質細胞様樹状細胞は、高いIFN-a産生能を保持し、GVHDは誘導能せず,移植後の輸注で高いT細胞活性化能を獲得しGVHDを誘導した。
結論
臨床試験により、ATLに対するミニ移植が有効な免疫療法および抗ウイルス療法としての意義を持つことが示唆されつつある。ATLに対する同種移植の臨床試験および免疫療法の試みは、他では実施されているため、日本および世界中に多数存在するHTLV感染者にとって、成果の発信は極めて貴重なものとなると考えられる。

公開日・更新日

公開日
2010-05-24
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200925013C

成果

専門的・学術的観点からの成果
HTLV-1感染約60年を経て発症するATLの5年生存率は約10%と極めて予後不良である。本研究班では、50才以上の患者を対象として、血縁者末梢血を用いた骨髄非破壊的前処置による移植(RIC)の臨床試験によって、RICの安全性と有効性を示し、5年生存率が34%であること、さらにHTLV-1プロウイルス量の長期観察結果の結果、その動態には多様性が存在することを報告した。これらの結果から、RICが有効な免疫療法および抗ウイルス療法としての意義を持つことを示唆した。
臨床的観点からの成果
本研究班は、ATLに対する革新的治療法の開発を目的としている。2試験(第1相試験)への登録症例の約1/3が長期生存していることから「RIC によるATLの治癒」の可能性が示唆されており大きな成果であると考えられる。臨床試験の結果は、3つの英文論文として公表されており、国際的にみても、移植に関する唯一の前向き試験として意義が高いと思われる。
ガイドライン等の開発
現在、研究班では第1相試験結果を検証するための第2相試験を実施中であるが、まだ標準的治療としては確立されていないため、ガイドラインを検討する段階には至っていない。
その他行政的観点からの成果
最近、著名人がATLを発症したことやウイルスキャリアに関する日赤データが発表されたことなどから、HTLV-1感染に対する社会の関心が高まり、マスコミなどに取り上げられる機会が増えている。RIC によるATLの治癒の可能性や抗ウイルス効果が示されたことにより、本研究班の結果が厚生労働行政に与える影響は少なからずあると考えられる。
その他のインパクト
上記の著名人は、「ATLと闘う」と題する新聞記事の中で、非血縁のボランティアドナーからの骨髄提供により、自らがRICを受け、元気に退院できた経験を写真入りで発表されている(西日本新聞2010年3月24日)。詳細は不明であるが、現在研究班で実施中の非血縁ドナー骨髄によるRICと類似していると予想される。研究班の成果やこれらの記事は、今まで悲観的であったATLの診療現場や患者家族にとって希望を与えるものであり、社会的なインパクトも大であると思われる。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
39件
その他論文(和文)
5件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
18件
学会発表(国際学会等)
18件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Okamura J, Uike N, Utsunomiya A et al.
Allogeneic stem cell transplantation for adult T-cell leukemia/lymphoma.
Int J Hematol , 86 , 118-125  (2007)
原著論文2
Tanosaki R, Uike N, Utsunomiya A et al.
Allogeneic hematopoietic stem cell transplantation using reduced-intensity conditioning for adult T-Cell leukemia/lymphoma: impact of antithymocyte globulin on clinical outcome.
Biol BMT , 14 , 702-708  (2008)
原著論文3
Shimizu Y, Takamori A, Utsunomiya A et al.
Impaired Tax-specific T-cell responses with insufficient control of HTLV-1 in a subgroup of individuals at asymptomatic and smoldering stages.
Cancer Sci , 100 , 481-489  (2009)
原著論文4
Choi I , Tanosaki R, Uike N et al.
Long-term outcomes after hematopoietic SCT for adult T-cell leukemia/lymphoma: results of prospective trials.
Bone Marrow Transplantation (EPUB)  (2010)

公開日・更新日

公開日
2015-10-01
更新日
-