再生医療等製品(安全性等の評価方法)に関する国際標準化

文献情報

文献番号
202225021A
報告書区分
総括
研究課題名
再生医療等製品(安全性等の評価方法)に関する国際標準化
課題番号
22KC5002
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
佐藤 陽治(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス政策研究
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
150,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
細胞加工製品の臨床応用における品質・安全性上の課題として造腫瘍性が挙げられ、特にiPS細胞加工製品において適切に評価される必要があり、試験法の検証が速やかになされることが重要である。細胞加工製品の実用化促進が期待される国際展開においては、検証された造腫瘍性評価法の標準プロトコールの国際的な共有が強く望まれるが、造腫瘍性評価の国際標準化や国際規制調和は未だなく、国際ガイドラインも未発出である。本研究は、臨床応用が進むiPS細胞加工製品について、品質・安全性確保上の大きな課題である造腫瘍性とゲノム不安定性の評価法の開発・検証を促進し、先行主導的に国際標準を獲得することで、再生医療等製品分野での薬事規制における国際調和を促し、日本企業が開発するiPS細胞加工製品の国際競争優位を獲得することを目的とする。
研究方法
iPS細胞加工製品の造腫瘍性試験法の国際標準化の実現には、国際プラットホームで、試験法のテーマ化を日本として提案し、国際合意を得ることが鍵になる。国際的認知を得るには、議論の深化に必要な科学的なエビデンスが不可欠であるため、①標準プロトコールに沿ってin vitro造腫瘍性試験法の多施設検証を実施し、評価方法の能力と限界を示した。同時に、造腫瘍性との関連が深いゲノム不安定性試験法について、②試験法としての妥当性を判断する陽性対照細胞の作製を開始した。また、③造腫瘍性およびゲノム不安定性評価についての国際標準化戦略に向けた調査研究を実施した。
結果と考察
in vitro造腫瘍性細胞検出試験法の国際標準プロトコールの確立および多施設検証では、浮遊培養細胞のインターロイキン2(IL-2)非依存的細胞増殖特性解析試験法の性能評価を4施設で実施した。T細胞のIL-2非依存的な増殖特性は、形質転換細胞を検出する一つの指標になると考えられている。ヒト末梢血単核細胞からT細胞を単離・活性化を行い、形質転換細胞であるMOLT-4細胞をスパイクし、IL-2非存在下で培養して生細胞数をモニターした。28日間の培養で、正常T細胞に0.01%の割合で混在するMOLT-4細胞の増殖が全施設で確認できたことから、試験法の頑健性と再現性が確認された。国際標準に資するT細胞に混在する形質転換細胞を高感度で検出する標準プロトコールを確立した。②標準陽性対照細胞に資するゲノム不安定性誘導iPS細胞株作製では、コンディショナルにゲノム編集を起こして、がん抑制遺伝子TP53に変異が導入されるiPS細胞株を作製した。Tet-onシステムを利用して、薬剤に応答してCas9が発現するプラスミドベクターをデザインし、TP53を標的とするgRNAベクターと共にiPS細胞に導入した。ゲノムにベクターが挿入されたiPS細胞クローンを確認した。薬剤等でがん関連遺伝子に適時に変異を誘導するため、長期の培養・継代による変異蓄積の影響を除外でき、培養期間や継代数が異なっていても、施設間で品質の揃った標準陽性対照細胞としての使用が可能になる。③官民での国際競争戦略と知財・標準化戦略の検討に資する研究として、iPS細胞加工製品の日米EUの規制と海外での標準化の動向に関する調査研究を行った。1) 細胞加工製品の分類と規制は各国や地域で異なり、独自の迅速承認システムを有しており、そのいくつかは有効性の推定をもって患者の早期アクセスを認めていること、および2) 細胞加工製品においては未だ規制調和は達成されていないが、製品の原材料であるiPS細胞の標準化や製品の開発や審査をサポートする技術標準化について、グローバルなプラットホームで議論されていること、について解説した。総説論文は、国際科学雑誌Stem Cell Reportsに受理された。
結論
iPS細胞加工製品の造腫瘍性試験法が国際的認知を得るには、議論の深化に必要な科学的なエビデンスが不可欠である。本研究では、in vitro造腫瘍性細胞検出試験法の標準プロトコールに沿った多施設検証データを取得して、試験法の頑健性を確認した。造腫瘍性のハザードであるゲノム不安定性を評価する試験法については、その妥当性判断に用いる標準陽性対照細胞の作製に取り組み、薬剤誘導ゲノム不安定性iPS細胞株のクローンを得た。iPS細胞加工製品の各国の規制と標準化の動向に関しては、調査研究を行って総説論文を発表した。本研究成果は、細胞加工製品の造腫瘍性評価およびゲノム不安定性評価の国際コンセンサスの熟成に資するものであり、国際標準化の促進が強く期待される。

公開日・更新日

公開日
2023-06-06
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202225021C

成果

専門的・学術的観点からの成果
浮遊培養細胞に混在する形質転換細胞を検出するIL-2非依存的細胞増殖特性解析の多施設検証を実施し、試験法の検出感度における頑健性と再現性を確認した。T細胞製品のin vitro造腫瘍性細胞検出試験法の国際標準化に資する成果である。造腫瘍性のハザードであるゲノム不安性性評価試験については、試験法の妥当性判断に用いる標準陽性対照細胞の作製を行った。iPS細胞加工製品の日米EUの規制と海外での標準化の動向に関する調査研究を行い、その成果は総説論文としてStem Cell Reportsに受理された。
臨床的観点からの成果
本研究で多施設検証を行った細胞増殖特性解析試験法は、標準プロトコールとしてT細胞製品といった浮遊培養細胞製品の非臨床安全性試験としての活用が期待される。品質が担保された細胞加工製品の臨床適用に繋がる成果である。
ガイドライン等の開発
調査研究では、日米EUから発出されている細胞加工製品の規制に関する全てのガイドラインおよび関連法規の調査を行い、各国の審査制度の違いを明確化した。
その他行政的観点からの成果
本研究成果は、医療機器・再生医療等製品国際標準獲得推進検討会の資料として活用され、国際標準化における今後の戦略の検討材料とされた。
その他のインパクト
本研究での官民が協働したiPS細胞加工製品の造腫瘍性およびゲノム不安定性評価法の国際標準化に向けた活動は、科学的エビデンスを提供することにより海外ステークホルダーのコンセンサス熟成を促し、規制当局の評価・意思決定の効率化・迅速化に有効である。

発表件数

原著論文(和文)
5件
原著論文(英文等)
7件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
22件
学会発表(国際学会等)
4件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Hirai T, Yasuda S, Umezawa A, Sato Y.
Country-specific regulation and international standardization of cell-based therapeutic products derived from pluripotent stem cells.
Stem Cell Rep.  (2023)
原著論文2
Hirai T, Kono K, Sato Y, et al
Evaluation of the reproducibility and positive controls of cellular immortality test for the detection of immortalized cellular impurities in human cell-processed therapeutic products.
Regen Ther. , 21 , 540-546  (2022)
10.1016/j.reth.2022.10.009.
原著論文3
Hirasawa R, Takakura M, Sato Y, et al
Attitude and perception survey for the Japanese pharmaceutical industry to utilize next-generation sequencing for virus safety assessment of biologics.
Translat Regulat Sci. , 4 , 61-67  (2022)
10.33611/trs.2022-004.
原著論文4
Watanabe T, Yasuda S, Sato Y, et al
International evaluation study of a highly efficient culture assay for detection of residual human pluripotent stem cells in cell therapies.
Regen Med. , 18 , 219-227  (2022)
10.2217/rme-2022-0207.
原著論文5
Oda S, Nishiyama K, Sato Y, et al
Myocardial TRPC6-mediated Zn2+ influx induces beneficial positive inotropy through β-adrenoceptors.
Nat Commun. , 13 , 6374-6374  (2022)
10.1038/s41467-022-34194-9.
原著論文6
Shirasago Y, Fukazawa H, Sato Y, et al
A single mutation in the E2 glycoprotein of hepatitis C virus broadens the claudin specificity for its infection.
Sci Rep. , 24 , 20243-20243  (2022)
10.1038/s41598-022-23824-3.
原著論文7
Andrews PW, Barbaric I, Sato Y, et al
The consequences of recurrent genetic and epigenetic variants in human pluripotent stem cells.
Cell Stem Cell. , 29 , 1624-1636  (2022)
10.1016/j.stem.2022.11.006.
原著論文8
髙田のぞみ,佐藤陽治
再生医療におけるわが国の法令および規制
日本医師会雑誌. , 151 , 556-556  (2022)
原著論文9
佐藤陽治
ヒト細胞加工製品の製造におけるin vitro細胞特性評価の重要性
PHARM STAGE , 22 , 1-3  (2022)
原著論文10
平井孝昌,佐藤陽治
遺伝子改変されたブタ心臓のヒトへの移植について
医薬品医療機器レギュラトリーサイエンス , 53 , 424-426  (2022)
原著論文11
田中直子,阿部浩幸,佐藤陽治 他
細胞加工製品の腫瘍形成リスクの合理的評価を目指して(1)
再生医療 , 1 , 30-35  (2023)
原著論文12
樋口ゆり子, 草森浩輔, 佐藤陽治 他
薬剤学で切り拓く創薬モダリティの未来(3)細胞医薬・細胞製剤の現状と薬剤学で切り拓く未来
薬剤学 , 83 , 19-24  (2023)
https://doi.org/10.14843/jpstj.83.19.

公開日・更新日

公開日
2023-06-06
更新日
-

収支報告書

文献番号
202225021Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
150,000,000円
(2)補助金確定額
150,000,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 89,811,457円
人件費・謝金 0円
旅費 0円
その他 60,195,696円
間接経費 0円
合計 150,007,153円

備考

備考
収入は、補助金150,000,000円に加え自己資金7,153円を含む。

公開日・更新日

公開日
2023-06-06
更新日
-